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19話 茶会
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麗らかな日が差す良日、ヴェルガム公爵邸で小規模な茶会がドーラ・ヴェルガム公爵夫人主催で開かれた。目的は勿論、娘のティアルーナの社交界復帰に向けての下準備と本人の慣れの為だ。
「皆様、お久しぶりです。ティアルーナ・ヴェルガムで御座います」
教わった通りの滑らかで美しくありながら、まるで花が舞うような可憐なカーテシーを行なうとそれを見てとった令嬢、夫人らが示し合わせたように一斉に頭を垂れ、挨拶を返す。
「「「お久しぶりでございます、ヴェルガム嬢」」」
「では、お茶会を始めましょうか。ご夫人たちはあちらへ私と共に、ご令嬢たちはお好きにお話をなさって」
ぱちん、と手に持った深紅の扇子を閉じると集まった夫人を連れドーラが庭園の方へ足を向ける。今回はティアルーナの復帰を目的としているのだから夫人は夫人と、令嬢は令嬢と、と別れるようにしたのだ。
日除けの特大のパラソルに覆われた椅子にティアルーナが座るとそれに倣って令嬢らが次々と着席する。皆一様にティアルーナを失礼にならない程度に見つめていて、やがて柑橘を思わせる1番明るい髪色の令嬢が口を開いた。
「ヴェルガム嬢、お久しゅうございます。毒にお倒れになったとの報せを聞いた時には心が凍ってしまうかと」
「ええ、ヴェルガム嬢に魔の手が及んだと思うと恐ろしく恐ろしくて。でも、首謀者も公爵閣下がお裁きになって、ヴェルガム嬢の御顔色も宜しい御様子で安心致しました」
「ほんとうに、その通りです。もうずっと───」
するとそれを合図かのように令嬢らは口々に心配していた旨と安堵の思いを口にする。しかし、ティアルーナが慌てることなくゆっくりと口を開くと、ぴたりと令嬢らが口を閉じた。貴族のルールは例え歳若い令嬢らのみが集まる茶会でも関係なく適用される。自身より貴い身分の者の言葉を遮ることは決して許されないのだ。最も、多少その禁を犯したところでティアルーナに罰する気持ちなどは欠片もないのだが。
「ご心配をおかけしてしまって申し訳ありませんでした。けれど、もうこうしてすっかり体調も回復致しました。……実は今日、皆様とお会いするのがほんとうにお久しぶりなので、少し不安に感じていたのですが皆様温かくていらっしゃって…そんな気持ちも、消えてしまいましたわ」
胸に手を当てて、緊張がほぐれたと言うティアルーナの顔には確かに安堵からくる柔らかな笑顔が浮かんでいた。使用人には最近は見慣れた──けれど、とびきり愛らしい──笑顔だが令嬢らは初めてティアルーナの表情が動く様を目にしたのだ。
「ま…っあ」
「なんて…」
声が出れば良い方で、中には絶句し、目を見張って固まっている令嬢も多くいた。ドーラが愛娘の社交界復帰に向けた最初の1歩の茶会に招待した令嬢、夫人は皆が皆、心優しく慎ましやかで礼儀を遵守するもの達ばかりをふるいにかけて集めた。そんな淑女でこの驚きようと反応、もし礼節に浅い者であればどうだったか。
(椅子から崩れ落ちる令嬢がいらっしゃらないだけ、奥様の人を見られる目はやはり確かでいらっしゃる)
使用人が一斉に並ぶ列の中に控えていたメアリは頭の中で令嬢が椅子から崩れ落ちたり、茶菓子をひっくり返した際の対応を考えていただけに軽い衝撃が走っただけで済んだことに内心安堵と、この令嬢らを集めたドーラに感嘆の念を抱いていた。
「皆様、お久しぶりです。ティアルーナ・ヴェルガムで御座います」
教わった通りの滑らかで美しくありながら、まるで花が舞うような可憐なカーテシーを行なうとそれを見てとった令嬢、夫人らが示し合わせたように一斉に頭を垂れ、挨拶を返す。
「「「お久しぶりでございます、ヴェルガム嬢」」」
「では、お茶会を始めましょうか。ご夫人たちはあちらへ私と共に、ご令嬢たちはお好きにお話をなさって」
ぱちん、と手に持った深紅の扇子を閉じると集まった夫人を連れドーラが庭園の方へ足を向ける。今回はティアルーナの復帰を目的としているのだから夫人は夫人と、令嬢は令嬢と、と別れるようにしたのだ。
日除けの特大のパラソルに覆われた椅子にティアルーナが座るとそれに倣って令嬢らが次々と着席する。皆一様にティアルーナを失礼にならない程度に見つめていて、やがて柑橘を思わせる1番明るい髪色の令嬢が口を開いた。
「ヴェルガム嬢、お久しゅうございます。毒にお倒れになったとの報せを聞いた時には心が凍ってしまうかと」
「ええ、ヴェルガム嬢に魔の手が及んだと思うと恐ろしく恐ろしくて。でも、首謀者も公爵閣下がお裁きになって、ヴェルガム嬢の御顔色も宜しい御様子で安心致しました」
「ほんとうに、その通りです。もうずっと───」
するとそれを合図かのように令嬢らは口々に心配していた旨と安堵の思いを口にする。しかし、ティアルーナが慌てることなくゆっくりと口を開くと、ぴたりと令嬢らが口を閉じた。貴族のルールは例え歳若い令嬢らのみが集まる茶会でも関係なく適用される。自身より貴い身分の者の言葉を遮ることは決して許されないのだ。最も、多少その禁を犯したところでティアルーナに罰する気持ちなどは欠片もないのだが。
「ご心配をおかけしてしまって申し訳ありませんでした。けれど、もうこうしてすっかり体調も回復致しました。……実は今日、皆様とお会いするのがほんとうにお久しぶりなので、少し不安に感じていたのですが皆様温かくていらっしゃって…そんな気持ちも、消えてしまいましたわ」
胸に手を当てて、緊張がほぐれたと言うティアルーナの顔には確かに安堵からくる柔らかな笑顔が浮かんでいた。使用人には最近は見慣れた──けれど、とびきり愛らしい──笑顔だが令嬢らは初めてティアルーナの表情が動く様を目にしたのだ。
「ま…っあ」
「なんて…」
声が出れば良い方で、中には絶句し、目を見張って固まっている令嬢も多くいた。ドーラが愛娘の社交界復帰に向けた最初の1歩の茶会に招待した令嬢、夫人は皆が皆、心優しく慎ましやかで礼儀を遵守するもの達ばかりをふるいにかけて集めた。そんな淑女でこの驚きようと反応、もし礼節に浅い者であればどうだったか。
(椅子から崩れ落ちる令嬢がいらっしゃらないだけ、奥様の人を見られる目はやはり確かでいらっしゃる)
使用人が一斉に並ぶ列の中に控えていたメアリは頭の中で令嬢が椅子から崩れ落ちたり、茶菓子をひっくり返した際の対応を考えていただけに軽い衝撃が走っただけで済んだことに内心安堵と、この令嬢らを集めたドーラに感嘆の念を抱いていた。
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