【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ

文字の大きさ
24 / 35

24話 目覚めと記憶

しおりを挟む
2日間、深い眠りに落ちていたとは思えないほどすっきりと晴れ渡った頭でティアルーナは目覚めた。ふと右手に何か違和感を感じて起き上がらずに視線だけそちらに向ければロイスが俯いて、手を握っていた。

「兄様…?」

握られていない方の手で身体を支えて、起き上がりながら寝ているだろうかと思い小声で声をかけるとぱっと弾かれるようにロイスが顔を上げた。ティアルーナからすれば先程ぶりのロイスはなんだか顔色が悪く、少しやつれているような気がした。

「ルーナッ! 目が、覚めた?!」

ベッドの近くに移動された椅子に座っていたロイスは飛び上がるように立ち上がると素っ頓狂な声を上げてティアルーナに抱きついた。

「え? あ…ふふ、兄様。くすぐったいです」

まるで死者が舞い戻ったかのような反応をするロイスに抱きすくめられて、そのくすぐったさからくすくすと笑いを零すとロイスはほんのりと赤くなった目元を抑えながら、からりと笑った。

「ルーナの意識がなくなってから、3日経っているんだ。父上も母上もずっと傍にいたけど、昨日の夜中に執事と侍女に無理やり連れていかれたよ」

「まあ! …3日? 私、何かしました?」

記憶を失う際のことは、なにせあんまりにもぼんやりとしていたものだから薄らとしか分からなかったが、まさか3日も眠り続けていたとは思わずティアルーナは驚きの声を上げる。

「いや、急に意識を失って…酷い熱もあってね。原因は分からないが疲れではないかと医者が言っていたが…」

ロイスはそう話しながらも決してティアルーナの手を離そうとはせず、ティアルーナの顔を心底嬉しそうに眺めている。それに少し気恥ずかしくなりながらも笑い返すとふと夢で思い出した記憶のことに思い至った。

「…あ、そうです。兄様、私記憶が戻った…というと少し違うんですが、記憶を失う前のことを夢で見たんです。私の記憶のはずなのに、なんだか他の人の記憶を見ているような感じだったんですが全て、分かります」

「記憶が…? ちょっと待ってね、医者を呼ぶから」

あまりに不安で、少しの間で良いから2人きりにしてくれと医者も侍女も下げていたロイスは控え室に下がった医者を呼ぶべく、とても名残惜しそうにしながらも手を離すと駆け足で部屋を出ていった。

──────

すぐさま医者と侍女を引き連れて戻ってきたロイスの指示で、昨夜強制的に寝室に連行されたドーラとアルフを呼びに行く為に侍女の1人が走り、ティアルーナはその間に医者に問診と検査を受けていた。

「では、記憶が戻ったということか!」

「お嬢様のお言葉をお借りするならば、記憶を見たというのが正しいようですが、間違いなく失われた記憶はお戻りになっております」

僅かな時間で駆け付けてきたアルフとドーラが医師の報告を聞くとドーラは喜色の笑みを浮かべ、アルフも隠しきれないとでも言うように口の端が持ち上がっていた。

「お身体の方もなんら異常はみられません。ですが、3日間眠ってらしたのでゆっくりと庭園の方をお散歩でもされるのがよろしいかと思います」

朗らかに医師がそう伝えると、それを聞いたロイスがすぐさま立ち上がる。

「なら、僕と一緒に行こう?」

その姿はまるで元気で、3日間寝ていないことなど欠片も感じさせぬものだった。だが、その行動をティアルーナは許さなかった。

「駄目です! ほら、兄様はお早くお休みになってください。3日もお休みになっていないなんて…!」

専属侍女のメアリからロイスが一睡もせず付きっきりであったことを聞かされるとティアルーナは眦を釣りあげて、ネグリジェの上にストールを羽織るとロイスの腕を引いて部屋へ連れていく。大人しく隣にある自室に連れていかれるその顔には満面の笑みが浮かんでおり、余程安心したのかティアルーナの手ずから毛布をかけられた瞬間に眠りに入ったという。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので頑張るのをやめました 〜昼寝と紅茶だけの公爵令嬢なのに、なぜか全部うまくいきます〜あ

鍛高譚
恋愛
王太子から婚約破棄された衝撃で階段から落ちた公爵令嬢シャル・ド・ネ・アルベール。 目覚めた彼女は、なんと前世の記憶——ブラック企業で働き詰めだったOL・佐伯ゆかりとしての人生を思い出してしまう。 無理して働いた末に過労死した前世の反省から、シャルは決意する。 「もう頑張らない。今度の人生は“好き”と“昼寝”だけで満たしますわ!」 貴族としての特権をフル活用し、ワイン造りやスイーツ作りなど“趣味”の延長でゆるゆる領地改革。 気づけば国王にも称賛され、周囲の評価はうなぎのぼり!? 一方、彼女を見下していた王太子と“真実の愛()”の令嬢は社交界で大炎上。 誰もざまぁされろなんて言ってないのに……勝手に転がり落ちていく元関係者たち。 本人はただ紅茶とスコーンを楽しんでいるだけなのに―― そんな“努力しない系”令嬢が、理想の白い結婚相手と出会い、 甘くてふわふわ、そしてちょっぴり痛快な自由ライフを満喫する ざまぁ(他力本願)×スローライフ×ちょっと恋愛な物語です♪

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました

鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」 そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。 王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。 私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。 けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。 華やかな王宮。 厳しい王妃許育。 揺らぐ王家の威信。 そして――王子の重大な過ち。 王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。 離縁を望んでも叶わない義妹。 肩書きを失ってなお歩き直す王子。 そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。 ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。 婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。

白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。 だが彼女は泣かなかった。 なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。 教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。 それは逃避ではない。 男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。 やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。 王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。 一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。 これは、愛を巡る物語ではない。 「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。 白は弱さではない。 白は、均衡を保つ力。 白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。

選ばれなくてよかったと、今は思います

たくわん
恋愛
五年間の婚約を、一夜で破棄された。 理由は「家格の不一致」。 傷ついた翌朝、私は泣くのをやめて仕事着を着た。 王立文書院の渉外部職員として、今日も書類と向き合う。それだけでいいと思っていた。 出勤すると、一枚の張り紙があった。 新長官着任。エドワード・ヴァルツ・シュタイン侯爵。 昨夜の晩餐会で、遠くに座っていた「氷の侯爵」がそのまま上司になった。 彼は口数が少なく、笑わず、感情を見せない。 でも仕事の評価だけは正確だった。 「君の報告書は読みやすい」「渉外部はあの職員が要になっている」——誰かに選ばれたくて生きてきたわけではないのに、仕事を通じて初めて、自分の輪郭がはっきりしてくる気がした。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

処理中です...