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26話 社交界復帰
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ティアルーナが社交界へ復帰する夜、ルードルフはエスコート役として公爵邸まで足を運んでいた。応接室でかちこちに緊張しながらも待っていたティアルーナと会うなり、ルードルフは挨拶もしないままに王家の紋章が彫られた長方形の滑らかな木箱をティアルーナに手渡した。
「る、ルードルフ様。お久しぶりです、あの…これは」
ティアルーナは挨拶をしなければと立ち上がったばかりのところに、両手で持ち上げても少しばかり大きい木箱を手渡されたものだから困惑と言った表情でルードルフの顔と木箱を交互に見る。しかし礼を欠く訳にもいかずに短く挨拶を済ませ、無言で寄越された代物について尋ねた。
「贈り物だ、受け取ってくれるだろうか」
王家の紋が刻まれるだけの品だけあって極上のそれと分かる木箱をティアルーナの手の上で静かに開きながらルードルフがそう言う。薄い箱の中には滑らかな絹の上に先端に瑠璃色の宝石の嵌め込まれ、薔薇の透かし彫りが施された金の長細い形状の棒がある。見事な逸品ながらも見覚えのない品に興味を覚えたティアルーナが箱を見つめるとルードルフがその様子を見て微かな笑いを零した。
「これは、栞という名前で読書をする際に読んだページに挟み込むと次からもそのページを開けるというものなんだ。便利だろう?」
「はい、とっても。これを…頂いてもよろしいのですか?」
自室に置いてある読みかけの本を思い浮かべながらティアルーナが頷くとルードルフは破顔して笑顔を浮かべた。ああでもない、こうでもないと自ら設計し、デザインを考えた品でティアルーナが気に入るかと反応が気になって仕方がなかったのだ。
「ああ…ティアルーナの為に作らせたんだ。本を好むから、役に立つかと思って」
「まあ…ありがとうございます、ルードルフ様。とっても嬉しいです、大切に致しますわ」
ティアルーナが柔い手でするりと栞を一撫でしながら喜びに口元を綻ばせる。瑠璃色の宝石が、シャンデリアに照らされてきらきらと輝いていた。
「そう言ってくれると、僕も嬉しいよ。さて、時間もあまりないから行こうか」
和やかな空気にそのまま身を任せてのんびりとしてしまいそうになる己を内心で叱咤してルードルフはティアルーナの手を取り、馬車までのエスコートを申し込んだ。
───────
最先端の技術で車内を極力揺らさず、乗る者を疲れさせない王家の特別性の馬車がカラカラと軽快な音を立てながら貴族街を通り抜ける。各家門のタウンハウスが夜の輝きを灯らせる情景は中々の景趣である。
しかし、そんな景色には目もくれずルードルフは暫くの沈黙を破る決意をすると口火を切った。
「先日は、本当にすまなかった。自分の気持ちをぶつけて…愚かな行為だった、謝罪を受け取って欲しい」
ルードルフとは異なって、情景を楽しんでいたティアルーナが婚約者のその言葉が薔薇園での1件のことであると思い至ったのは一瞬の事だった。窓の外から車内に視線を戻すと神妙な面持ちのルードルフがじっとティアルーナを見つめていた。先程まで不自然なほどその話題に触れず、何事も無かったかのように振舞っていたのは使用人の目があったからだと納得しながらティアルーナは首を横に振る。
「とんでもございません、ルードルフ様が謝罪されるようなことなど何も」
「いや、困惑させただろう? …記憶を取り戻したと聞いた、今更都合が良いと思われてしまうのも承知の上だ。だが、あの日伝えた気持ちは全て本当だ…想う事を、許してくれないだろうか」
ルードルフの言葉にティアルーナは動揺したように一瞬、視線を彷徨わせる。しかし、ルードルフの真剣そのものの声音に意を決した。
「はい…でも、私はお気持ちにお応えできませんのに」
ティアルーナは申し訳なさげに両手を膝の上で絡ませるがそれにルードルフは俯きながらも首を振ってみせた。
「ありがとう、僕にはそれで十分なんだ。だが許してもらえるのなら…我儘を、一つ言ってもいいか?」
「私にできることでしたら何なりと、仰ってください」
「…婚約が、解消されるまで。それまでにティアルーナの気持ちが変わらなければ諦める、だからそれまでアプローチをしても、構わないだろうか。無論、迷惑にならないように努力する」
不意に、手袋越しではあるものの手を握られ、熱烈としか言いようのない告白を受ければ流石のティアルーナもじわりと頬に熱が集まった。しかし、ルードルフはティアルーナのそんな微かな変化に気が付かないほど震え、熟れた林檎のように赤くなっていた。勿論、照れと緊張の感情からくる影響もあったが、それと同等かそれ以上に憂いの感情もルードルフにそうさせていた。もしも断られればルードルフに残される道はない、そんな考えが頭をよぎって仕方がなかったのだ。
「…はい」
だが、ティアルーナの肯定の言葉を聞くとルードルフの憂い気な表情は曇天が晴れ渡ったかのように明るく変化した。例えどんなに可能性が低くとも、一縷の希望が見えたのだ。その希望に縋り付くような気持ちでルードルフは心からの礼を述べた。
「! ありがとう」
「る、ルードルフ様。お久しぶりです、あの…これは」
ティアルーナは挨拶をしなければと立ち上がったばかりのところに、両手で持ち上げても少しばかり大きい木箱を手渡されたものだから困惑と言った表情でルードルフの顔と木箱を交互に見る。しかし礼を欠く訳にもいかずに短く挨拶を済ませ、無言で寄越された代物について尋ねた。
「贈り物だ、受け取ってくれるだろうか」
王家の紋が刻まれるだけの品だけあって極上のそれと分かる木箱をティアルーナの手の上で静かに開きながらルードルフがそう言う。薄い箱の中には滑らかな絹の上に先端に瑠璃色の宝石の嵌め込まれ、薔薇の透かし彫りが施された金の長細い形状の棒がある。見事な逸品ながらも見覚えのない品に興味を覚えたティアルーナが箱を見つめるとルードルフがその様子を見て微かな笑いを零した。
「これは、栞という名前で読書をする際に読んだページに挟み込むと次からもそのページを開けるというものなんだ。便利だろう?」
「はい、とっても。これを…頂いてもよろしいのですか?」
自室に置いてある読みかけの本を思い浮かべながらティアルーナが頷くとルードルフは破顔して笑顔を浮かべた。ああでもない、こうでもないと自ら設計し、デザインを考えた品でティアルーナが気に入るかと反応が気になって仕方がなかったのだ。
「ああ…ティアルーナの為に作らせたんだ。本を好むから、役に立つかと思って」
「まあ…ありがとうございます、ルードルフ様。とっても嬉しいです、大切に致しますわ」
ティアルーナが柔い手でするりと栞を一撫でしながら喜びに口元を綻ばせる。瑠璃色の宝石が、シャンデリアに照らされてきらきらと輝いていた。
「そう言ってくれると、僕も嬉しいよ。さて、時間もあまりないから行こうか」
和やかな空気にそのまま身を任せてのんびりとしてしまいそうになる己を内心で叱咤してルードルフはティアルーナの手を取り、馬車までのエスコートを申し込んだ。
───────
最先端の技術で車内を極力揺らさず、乗る者を疲れさせない王家の特別性の馬車がカラカラと軽快な音を立てながら貴族街を通り抜ける。各家門のタウンハウスが夜の輝きを灯らせる情景は中々の景趣である。
しかし、そんな景色には目もくれずルードルフは暫くの沈黙を破る決意をすると口火を切った。
「先日は、本当にすまなかった。自分の気持ちをぶつけて…愚かな行為だった、謝罪を受け取って欲しい」
ルードルフとは異なって、情景を楽しんでいたティアルーナが婚約者のその言葉が薔薇園での1件のことであると思い至ったのは一瞬の事だった。窓の外から車内に視線を戻すと神妙な面持ちのルードルフがじっとティアルーナを見つめていた。先程まで不自然なほどその話題に触れず、何事も無かったかのように振舞っていたのは使用人の目があったからだと納得しながらティアルーナは首を横に振る。
「とんでもございません、ルードルフ様が謝罪されるようなことなど何も」
「いや、困惑させただろう? …記憶を取り戻したと聞いた、今更都合が良いと思われてしまうのも承知の上だ。だが、あの日伝えた気持ちは全て本当だ…想う事を、許してくれないだろうか」
ルードルフの言葉にティアルーナは動揺したように一瞬、視線を彷徨わせる。しかし、ルードルフの真剣そのものの声音に意を決した。
「はい…でも、私はお気持ちにお応えできませんのに」
ティアルーナは申し訳なさげに両手を膝の上で絡ませるがそれにルードルフは俯きながらも首を振ってみせた。
「ありがとう、僕にはそれで十分なんだ。だが許してもらえるのなら…我儘を、一つ言ってもいいか?」
「私にできることでしたら何なりと、仰ってください」
「…婚約が、解消されるまで。それまでにティアルーナの気持ちが変わらなければ諦める、だからそれまでアプローチをしても、構わないだろうか。無論、迷惑にならないように努力する」
不意に、手袋越しではあるものの手を握られ、熱烈としか言いようのない告白を受ければ流石のティアルーナもじわりと頬に熱が集まった。しかし、ルードルフはティアルーナのそんな微かな変化に気が付かないほど震え、熟れた林檎のように赤くなっていた。勿論、照れと緊張の感情からくる影響もあったが、それと同等かそれ以上に憂いの感情もルードルフにそうさせていた。もしも断られればルードルフに残される道はない、そんな考えが頭をよぎって仕方がなかったのだ。
「…はい」
だが、ティアルーナの肯定の言葉を聞くとルードルフの憂い気な表情は曇天が晴れ渡ったかのように明るく変化した。例えどんなに可能性が低くとも、一縷の希望が見えたのだ。その希望に縋り付くような気持ちでルードルフは心からの礼を述べた。
「! ありがとう」
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