最弱の無能力者は、最強チームの指揮官でした

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<11・Simulation>

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 おさらいしよう。
 現在この惑星は、異星人に侵略されている。異星人については、その名前もわからないし、なんならまともにコミュニケーションを取れた記録も少ないので(一部の基地は少しだけ会話ができたこともあったらしいが)相手の星の名前もわからない。
 ただある日空から、つまり宇宙から襲来して地球を侵略した。
 そして制圧した町々に自分達の基地を建てて、今もわがもの顔で占拠し続けている――ということがわかるのみ。宇宙からやってきたので異星人だろうと踏んではいるが、実際のところ本当に異星人だと確定したわけでもないのが実情である。彼らの圧倒的科学力、軍事力を前に人類はあまりにも無力。彼らに抵抗するどころか、彼らのことをまともに知ることさえできていないというのが実情である。
 そんな異星人を相手に、惑星の民は彼らから寝返った一部の者達と、彼らから奪ったバリアを使って狭いエリアに立てこもり、なんとか防衛を続けているというのが実情だ。
 なお、寝返った者達からはバリア塔の技術を伝授されたものの、彼らの星に関する情報はほとんど聞き出せなかったとしている。――これに関しては、トーリスも詳しいことを殆ど知らない。なんせ百年近く前の話だ。本当は話を聞き出せたのに時の政府に都合が悪く、その情報を秘匿として誰にも漏れないようにしているのではないか?という説。あるいは寝返った者達があっという間に殺されてしまったので、情報を漏らす隙間さえなかったという説など様々ある。

「現在我々の生活圏は、十個の塔とその塔が発生させるバリアによって守られています」

 薄闇の中、プロジェクターの光が白い壁に画像を映し出す。クリスは小柄な体に不似合いな長い棒で、その画像を示した。
 現在表示されているのはこのセントラル大陸の地図。
 色分けされた真ん中のピンク色の歪な円型のエリアが、人類の生活圏。てん、てん、てん、と赤く表示されてるのが第一から第十の塔だろう。人類を守る要とも言える十個の塔。その塔のすぐ傍に、それぞれ十個の陸軍基地があるわけだ。
 なお、それぞれ十個の陸軍基地からほど近い場所に空軍基地もある。五年前ロボットが大量に攻めて来た時は、この基地からもたくさんの戦闘機を飛ばして応戦したわけである。――ロボットの機銃に次々撃ち落されて、多数の将来有望なパイロットと貴重な戦闘機を失ったわけだが。
 ちなみに、この国には海軍も存在してはいたのだが――今の人類は、海の存在こそ知っていても、海水浴なんてできるはずもない。なんせ生活圏が完全に陸地に限定されてしまっていて、海に近いエリアはあれど海に面した町など一つもないのだから。つまり、海軍が巡洋艦や駆逐艦を出せるような港ももはや残っていない(百年前は彼らもそこそこ戦ってくれたようだが)。
 ゆえに、海軍は名前だけ残っているものの、その実態は陸軍や空軍と兼業している兵士が名前だけ在籍しているという、実に寂しい状態であったりする。

「この十個の塔の周辺をドーナツ状態に囲んでいるのが、今黄色に塗り分けされている中立地帯。我々人類のものでもなければ、異星人のものにもなっていないエリアですね」

 ぐるん、とクリスが棒を回してみせる。

「そしてこの中立地帯をさらにドーナツのように囲っているのが……敵の支配域。そして、この青く表示されている点が、敵のバリア塔というわけです」
「はい。バリアの強度は、人類がその恩恵を受けている通り。バリアが機能している限りは、異星人の高い科学力を持つミサイルや砲弾であっても守られます。裏を返せば、今の人類にバリアを破壊して、敵の支配域に攻め入る力はないということです」
「その通り。ですので、人類が支配域から土地を取り戻すためには、まずこの塔を壊さなければいけません」

 とんとん、とクリスが棒で指したのは、敵の塔のうちの一つ。ちなみに、人類のバリア塔は第一~第十と数字で示されるのに対して、異星人の塔はすべてAからJのアルファベットで表記されることになる。
 彼が今見ているのは、トーリスにとってはあまりにも苦い記憶がある塔――C塔だった。
 あの塔を攻略する糸口を掴むべく、第三突撃部隊が接近を試みたところ、宇宙戦艦グランノースが現れ――上空からなすすべもなくハチの巣にされたというわけである。
 正直、あの戦艦には二度と遭遇したくない。
 仲間があんな風にゴミのように千切れ飛んで死んでいくのも、二度とごめんだった。

「……バリアを壊すためには、塔のどれか一つを破壊、もしくは制御不能にしなければいけない。そうですよね」

 その記憶を振り払うように、トーリスは声を絞り出す。

「十個の塔はそれぞれ、一定範囲のバリアを受け持っている。これは、同じシステムを使っている人類にはわかっていること。A塔を破壊すれば、A塔が守っていた範囲のバリアが解除され、そこから攻め込むことが可能となる……でしたね」
「その通りです」

 クリスは頷いた。

「そしてバリアが解除できれば、こちらの超遠距離砲が、支配域まで届きます。安全圏から、バリアを解除した中に大量の砲弾を撃ち込むことが可能というわけですね。もちろんそこから侵入して空爆することもできるでしょう。そして、塔が破壊されれば向こうも混乱するし、現在あちらも休戦状態になっていので……こちらの攻撃に即座に対応することはできないだろう、と言われています」

 ちなみに、人類・異星人が双方で使っているバリアシステムの優秀なところは、内側からはいくらでも通過が可能ということ。
 つまりこちらの生活圏にある砲台からミサイルをぶっぱなしても、バリアに一切傷をつけず向こうに砲撃することができ、逆に向こうの攻撃はこちらのバリアに阻まれて一切届かない――なんて都合の良い状況が発生するわけだ。
 無論これは、あちらの塔を壊して一部分でもバリアを壊すことができていたら、の話ではあるが。
 同時に、人類や戦車が中立地帯に出て作戦から戻ってくる時は、特殊な鍵を使用する。その鍵を持ってさえいれば、バリアの外にでても、再び戻ってきてバリアを潜ることが可能というわけだ。つまり戦場で鍵を落としてしまった場合は、鍵を持っている兵士と手を繋いで通らなければ帰投することができいないという事態になるわけだが。

「人類がこの生活圏に立てこもって百年。……防衛を続け、人々はゆっくりとですが着実に数を増やしつつあります。政府の見立てでは、あと数十年で、人口過密状態になることが予想されているのです」

 それは深刻な食糧不足、土地不足を意味します――とクリスはため息をついた。

「つまり一刻も早く、敵から土地を奪い返して、人類の生活圏を広げなければいけないということ。それゆえ、ここ数年の間に随分と無茶な作戦が繰り返されてきました。マイン中尉。貴方が参加した、第三突撃部隊の無茶な偵察作戦もその一つ。言うまでもなく、わかっているでしょうが」
「……はい」
「あの作戦は、調査・隠蔽が得意な部隊ではなく、最初から戦闘部隊である貴方がたを送り込んだ時点で間違ってるんですよね。しかも、宇宙戦艦グランノースに関する情報も不足していましたし、向こうの基地や持っている兵器の種類に関してもなんら考慮されていませんでした。失敗は必然だったと思っています。ですが、私はそのような愚行はけして繰り返しません……絶対に」

 彼は真っすぐな目で、トーリスを見つめた。

「トーリスさん。お尋ねします。上層部は一刻も早くこの基地の部隊に、AからJの塔のいずれかを攻略するように求めています。そのために、問題となることはなんだと思いますか?」

 本当に嘘でも冗談でもなく、この基地の者達だけで塔を破壊しなければならないらしい。そしてクリスは、それが可能だと思っているのか。
 上の命令ならばどうしようもない。そして、人類がそこまで切羽詰まっているのも事実ではあるのだろう。じっと大陸の地図を睨みつけ、トーリスは答えた。

「……例えば、この間の……C塔で考えますけど」

 クリスが指し示すC塔付近を見つめる。

「確か、司令官は俺に……あの作戦の失敗理由を以下のように語っていましたよね」



『あれは貴方も思っている通り、完全に情報収集段階でのミス。ついでに作戦立案のミスです。まず、グランノースが別の惑星に遠征に出ているというのは事実でしたが、そもそもグランノースと呼ばれる戦艦が二隻以上あることは……過去の出現事例を鑑みればすぐに気づけたはずなんですよね。また、彼らの宇宙戦艦には超高速ワープ機能がついています。遠征に行ったばかりの船が、数分で戻ってきたなんて目撃例もありました』



『遠征に出てるから安全、なんて判断を下したのがまずおかしい。また、グランノースの件がなかったとしても、多分第三突撃部隊の作戦は失敗していたと思いますよ?私から言わせれば、不十分な装備しかない歩兵だけでC塔を狙うのが間違っています。過去の戦闘記録を見れば、C塔付近には大型の対戦車ミサイルが常備されている。近づいたことがバレた時点で、今度はそっちから一斉に狙い撃ちされるのが関の山でしたね。つまり、グランノースが出てこなくても、貴方がたの運命は変わらなかったということです』



「まず、どれほど強固な兵器を持ち込んだところで……今の人類に、宇宙戦艦グランノースを超える兵器はありません。あの戦艦は、こちらのどんな戦闘機より高いところから、超高速ミサイル、レーザー、爆薬で全てを吹き飛ばすことができます。大気中での移動速度に関してはこっちの戦闘機に劣りますけど、こっちが向こうの爆撃を回避して……それこそ爆弾詰んで特攻したところで、あの巨大な装甲には傷一つつけられないでしょう」
「ということは?」
「グランノースが出て来た時点で詰み、です。そして遠征に出ているから安全でないのなら……グランノースを敵が持ち出してこないタイミングや、使えないタイミングでどうにか攻め込むしかありません。しかし、俺にはそんなタイミングが本当にあるのかどうか、あの巨大な鉄の化け物を封じる方法が本当にあるのかもわかりません……」

 どのような戦車も、戦闘機も、グランノースを前にしてはあまりにも無力。つまり、あれを引っ張り出されたら全ての作戦は灰燼に帰すということだ。

「同時にグランノースが出てこなかったとしても、C塔付近には大型の対戦車ミサイルが常備されているとかなんとか言ってましたよね。そして、バリアの内側から砲撃できる環境は向こうも同じ。向こうのバリアの内側からバカスカ中立地帯に打ち込まれたら、こっちは反撃の手立てがありません。向こうに接近を悟られないようにするしかないのですけど、向こうが塔の付近にどんなトラップを仕掛けているのかもはっきりわかってない。そんな手段、あるのかどうか」

 人類が反撃できていない理由はそこにある。いつグランノースが出てきて空から撃たれるか分からない恐怖と、向こうの強力な地上兵器。戦車なんて持ち出して進軍させようものなら、即座に向こうに察知されてバリアの内側から撃たれてしまう。
 五年前の戦いだって、地雷で全部吹っ飛ばすなんて無茶な作戦が通ったのは、向こうが安全なバリアから大量のロボットを出してきて攻め込んできたからに他ならないのだ。

「わかっているじゃないですか、トーリスさん」

 そしてそんなトーリスを見て、クリスは目をぱちくりさせるのだった。

「貴方の言う通り。今の話はC塔に限ったことではありません。どの塔を攻略するにせよ、接近すれば地上の兵器に撃たれるか、グランノースに爆撃されるか。塔を破壊するどころか、近づくことさえままならないというのが実情なのです。塔本体は仕組みの関係上バリアの外にはみ出していますから、近づきさえすれば傷つけることもできるのでしょうがね」
「でも、それじゃあ結局撃つ手なんて……」
「本当にそう思いますか?」

 え、とトーリスは目を見開く。今の絶望的な話を聞いて、まだ対抗策があるとこの人は思っているのだろうか。
 本当に、そんなことが?

「空からも地上からも駄目ならば、地面の下から攻略すればいい」

 そして彼は、とんでもないことを言い出すのだ。

「中立地帯……その地面の下から長い長いトンネルを掘るのです。そして、下から塔を破壊してしまえばいいのですよ」
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