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<14・神様の正体>
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「なるほど、先生もよく考えたもんだな」
SDカードのチップをお手玉しながら、楓が言う。その白い手首に思わず眼が行ってしまって、慌ててステイは視線を逸らした。日焼けしてなくて綺麗だな、なんて別に今更の感想でもなんでもないというのに。一度体を繋げてしまってからは、彼のちょっとした所作が全部眼についてしまって本当に困るのである。
昨夜のことを、楓は一体どういう風に思っているのか。彼から誘ったとはいえ、想像以上にがっついて、3Rもこなしてしまったステイである。正直負担になっていないか心配ではあったし、今朝も実際疲れていた様子ではあった。下手にトラウマを増やしただけであったならどうしようと危惧していたのだが――幸い、そこは杞憂であったらしい。本当に何もなかったように普通に接してくるので、かえってこちらが戸惑うほどである。
津築先輩が持っていた文庫本。そこに挟まれていた一枚のしおりには、非常に小さく意味深な数字が書かれていた。ステイはなんのこっちゃ、と首を傾げたが(津築もそれまでこの文字に気づいていなかったらしい)、本を良く読むのであろう津築と楓はすぐに思い至ったという。つまり、図書室の書架、蔵書番号であると。
ぞろぞろ行っては怪しまれるため、津築にはそこで別れた上で楓が図書室に向かった。そして、対象となる書架の分厚い辞書――そのカバーに挟まっていた小さなマイクロSDカードを見つけてきたのである。
宗像誠心学園の図書室は非常に広く、蔵書量は膨大だ。そして、さほど読まれることのない本であってもそう簡単に処分されていかないこと先生はよく知っていたらしい(多すぎて、貸出が少ない本であっても処分が間に合わないとも言う)。辞書というものは、一定期間ごとに新しいキーワードを加えて書き換えられていくものである。当然、新版が出れば旧版はほぼほぼ用がなくなる。ましてや、スペイン語の辞書なんてそうそう使う生徒もいない。SDカードを隠しておいても他の生徒や先生が借りる可能性は低く、発覚しづらいと考えていたのだろう。事実自分達もしおりのヒントがなければ、そんな場所にカードが隠れているなんて思いもしなかったはずだ。
大切な情報を隠すなら、自分のプライベートな場所か、あるいはよく立ち寄る場所に隠すもの。
その人の思い込みを逆手にとった、見事な隠し場所だったと言っていい。一冊だけ津築に渡った文庫も、それこそ津築が思い出して先生に申告しなければそうそう回収されることはない。もっと言えば、文庫そのものが回収されてもしおり、ないししおりの番号さえ津築が知って覚えていればなんら問題ないのである。
――SDカードの中身は丸ごと複数コピーして、俺らが知っている情報を加えた上で一枚は津築先輩に渡してきた。それから……万が一の時にはってことで、バスケ部の先輩と信用できるクラスメートにも。これでなんとか、最悪俺らがダメでも……誰かがあとを継いでなんとかしてくれる、はずだ。
マイクロSDを複数人にひっそりと渡す過程で、ステイは聞いてしまったのである。――ハンド部の上級生、角松と内田の二人が昨夜部屋を抜け出したまま、行方不明になっているらしいということを。先生達は“外に出たかもしれないから探しておく”と言っていたらしい。が、今の状況ではとても先生達の言葉を信用することなどできないのである。
彼らは、村松英太を助けに行って捕まってしまった。そう考えるのが、自然だ。
――急がないと、俺らも同じことになるかもしれない。……少なくとも、神子として楓は……!
それだけは避けなければいけない。親友に縋らなければいけないほど苦しんでいる彼を――これ以上傷つけるなど冗談ではないのだから。
そう、親友だ。親友だからこそ、自分は。
「急いで、俺らも中身を確認しよう。さっき立ち上げた時なんともなかったから、変なウイルスが入っているってことはないと思うけど」
「だな」
自分達はそれぞれ、作業用に学校の援助の上でパソコンを購入し一台ずつ持っている。インターネットに大幅ま制限がかかっているため、実質作業用+授業用としてしか機能していないが。既に作成されているファイルを確認するだけならば、十分であるはずだ。
ファイルそのものにパスワードはかかっていなかった。これを見つけた人間が、万が一パスワードを入手できなくて開けない、という事態を避けるためであったのだろうか。いずれにせよそれらしいものは自分達も持ち合わせていないので心底安堵させられた。フォルダに入っていたものは、メモ帳形式のファイルのみ。どのような環境下でも簡単に開くことができるようにするためだろうか。
「メモ帳形式でずらずら入ってるね。……知りたいこと、全部分かるといいけど」
「開くぞ」
「うん」
享のやや不安げな言葉と、相変わらず淡々とした楓の一言と共に。メモ帳の、1、と書かれたファイルがクリックされた。
そして自分達は――この学園の、恐るべき秘密を知ることになるのである。
***
今、これを読んでいる者へ。
君がこの学校に疑問を持っている者か、あるいは学校側の者なのかはわからない。
だが、この学校の制度に疑問を持ち、神様の正体と神子の意義について知りたいと願う者であることを願って、これを残そうと思う。
私は、この学校の教師。
何も知らずにこの学校に就職し、恐ろしい罪に手を貸してしまった哀れな人間の一人だ。
この学校の地下には、神様が存在している。
正確には、“神様と先生達が呼ぶ何か”だ。実際のところ、それがどういった存在であるのか生徒達は誰も知らないだろう。見ることができのは教師らと、それから神子として実際に選ばれた者のみ。だが、神様と呼ぶにも関わらず、宗教ならばほぼ必ずついているはずの“神の名前”が何処にもない。先生は皆神を“神様”と呼び、生徒達にも同じ呼び方をする。何故か?神様であるのに名前がないのか?では宗教上の存在なのか?そもそも神様と呼ばれる存在は“生き物”なのか?
そのどれも不正解だ。
神様と呼ばれるものにも、本当は名前がついている。
そして、宗教上の神様とは全く異なるモノであり――それは既に“イキモノ”ではない。
彼はかつて人間だった。それが、恐ろしい欲に悪意に取り憑かれて魔術に触れ、悪魔を呼び出してしまったがゆえに――悪魔と融合し、悪霊として棲みつくことになってしまったおぞましい存在なのだ。
君達も聞いたことがあるだろう、この宗像誠心学園の創設者――宗像藤之助のことを。
そう、彼こそ、この学園の地下に住み着いた“神様”の正体なのだ。
これらは全て、この学園の教員として就職することになった者だけが、聞くことが許される物語である。
宗像藤之助は、元々は貧しい農民の出であった。それが、ある時どういうマジックを使ってか実業家として才覚を伸ばして成功し、莫大な富を築いた上でこの学校を創設したと書物には記されている。このあたりは、図書室に普通に置いてある本にも書かれていることだろう。
だが、疑問に思った者も少なくないはずだ。
ただの農民が、お金も知識もなく実業家なんてものになれるだろうか?大都会で成功できるだけの知識、手腕、コネクション、元手となるお金。それらを手にした経緯が、書籍には一切書かれていない。すっぱりと切り落とされたかのようにショートカットされてしまっている。
当然だ、その詳細など書ける筈もない。彼はなんの努力もしていないのだから。
彼は悪魔を召喚することによって、その力を得ただけの人間に過ぎないのだから。
彼が住んでいた綿抜村は、かつてさる有名なお殿様が謀反を起こした配下達から逃れ、ひっそりと隠れ住んでいた場所であったらしい。お殿様は自分をかくまってくれた村人たちに感謝して、いくつもの貴重な書物や宝物を村に残していったのだそうだ。
その書物の一つが。海外との貿易で手に入れた、謎の“魔導書”の類であったのだという。ポルトガル語の書物であったため、村人の多くは読むことができなかった。読めた者は、この閉鎖的な村をいつか飛び出してやろうと画策し、密かに外国の書物を集めて勉強していた宗像藤之助ただ一人であったという。
その魔導書には悪魔を呼び出し、対価と引き換えに望むものを手にする魔法が書かれていたのだそうだ。
そう、悪魔。あるいは邪神としか呼べないものであろう。人の願いを叶えるために、生きた人間の生贄を要求するようなものが善き神であるはずがないのだから。
富を、村の外の都会でやっていくための知識を、権力を、コネクションを。宗像藤之助は手に入れるため、悪魔に次から次へと貢物をした。それは、自分を嫌っていたり、いじめていた村の人間達である。宗像は男色であるだけではなく、時折性欲に負けて見目麗しい村の男を襲うなどしたせいで周囲から忌み嫌われていたのだ。宗像は、自分を嫌う若い男たちを攫っては強姦し、最後は悪魔に食わせて跡形もなく始末するということを繰り返したのである。
悪魔と鉄壁の協力関係を築いた宗像は、富を手に入れ成功すればするほどに膨れ上がっていく己の欲望を押さえ込むことができなくなった。もっともっともっと、この性欲を発散させられる場所が欲しい。見目麗しい若い男子達を観察し、好きなように食い散らかせる場所が欲しい。最高の贅沢をしながら、このくだらない肉の器を解き放ち、未来永劫自分が神として君臨できる箱庭があったのならば――。
もう、わかるだろう。
この学校こそが、その箱庭。否、宗像藤之助のために作られた監獄なのだと。
彼はこの学校を作り、自らが望む存在だけを集め、己は悪魔と融合して地下に巣食った。
孤児ならば、いなくなっても親が騒ぎ出すことがない。
その中から見目麗しい少年達を選りすぐり、山奥の閉鎖的な学校に閉じ込める。
莫大な金という甘い蜜と、天罰という鞭。その両方をちらつかせれば、傀儡としている校長と教頭、教師達を思いのまま操ることは不可能ではない。
そう、この学校の教師達の給料はとんでもない額だ。それこそ、ここで働いている限りは、家族を養うどころか最高の贅沢をするのにも困らないほどに。同時に、自分の秘密を漏らそうとしたり、逆らおうとした教師は“天罰”によって虐め抜かれ苦しみ悶えた後に死ぬことになる。誰も逆らわなくなるのは道理だろう?
宗像の作った最も狡賢いルールこそ、“神子”の存在だ。
二ヶ月ごとに、学校の中から一人の少年を選んで生贄に差し出させる。二ヶ月もの間、神子は化け物となった宗像の性欲のはけ口にされ、心身がボロボロになるまで虐め抜かれるという仕組みだ。助けようとした者、密告しようとした者、逃げ出そうとした者も全て同じ運命を辿ることになる。
神子として選ばれてしまった者は、逃げ出せない。
神の力が膨大であり、捕まったら逆らえないのもそう。自分が秘密を漏らすことで親しい友に危険が及ぶこともそう。さらに最悪なのは――彼自身にも負い目が発生し、親しい友や先輩に何も相談できなくなってしまう状況が一番最初に作られるということである。
二ヶ月もすぎれば、神子の心身は殆ど使い物にならなくなっている。
だから次に選ばれた神子に、先代の神子を殺させるのだ。拷問されつくし、地獄の中にいる神子は容易く次の神子に“殺してくれ”と懇願する。次の神子はけして逆らえない。罪もない人間を殺してしまった意識が、神子の心を追い詰めさらに逃げ道を塞ぐのだ。
私の教え子も、そうやって壊されていった。
子供達が苦しみ、助けを求める様を見ても教師達はけして手を差し伸べない。差し伸べることなど不可能なのだ。何故なら、教師達は皆、自分達も共犯だと理解しているのだから。
教師にも、試練がある。私もそれを、就職してすぐ受けさせられた一人。
先代神子の始末をつけるのが次代神子ならば、裏切り者の始末は誰がつける?
私達教師は、この学校に入ってすぐ強要されるのだ。
仲間を助けようとした者、この学校から逃げ出そうとした者――そういった裏切り者たちを、この手で殺害する行為を。
私は人殺しだ。
命懸けで友人を救おうとした、強い少年を。罪などなにもない少年を、この手で殺した。他の新人教員達と協力して、嬲り殺しにしたのだ。
私には責任がある。
この事実を明らかにし――神を名乗る愚か者を討つ。
例えそんなことをしても、全ての罪の償いにならないのだとしても。
SDカードのチップをお手玉しながら、楓が言う。その白い手首に思わず眼が行ってしまって、慌ててステイは視線を逸らした。日焼けしてなくて綺麗だな、なんて別に今更の感想でもなんでもないというのに。一度体を繋げてしまってからは、彼のちょっとした所作が全部眼についてしまって本当に困るのである。
昨夜のことを、楓は一体どういう風に思っているのか。彼から誘ったとはいえ、想像以上にがっついて、3Rもこなしてしまったステイである。正直負担になっていないか心配ではあったし、今朝も実際疲れていた様子ではあった。下手にトラウマを増やしただけであったならどうしようと危惧していたのだが――幸い、そこは杞憂であったらしい。本当に何もなかったように普通に接してくるので、かえってこちらが戸惑うほどである。
津築先輩が持っていた文庫本。そこに挟まれていた一枚のしおりには、非常に小さく意味深な数字が書かれていた。ステイはなんのこっちゃ、と首を傾げたが(津築もそれまでこの文字に気づいていなかったらしい)、本を良く読むのであろう津築と楓はすぐに思い至ったという。つまり、図書室の書架、蔵書番号であると。
ぞろぞろ行っては怪しまれるため、津築にはそこで別れた上で楓が図書室に向かった。そして、対象となる書架の分厚い辞書――そのカバーに挟まっていた小さなマイクロSDカードを見つけてきたのである。
宗像誠心学園の図書室は非常に広く、蔵書量は膨大だ。そして、さほど読まれることのない本であってもそう簡単に処分されていかないこと先生はよく知っていたらしい(多すぎて、貸出が少ない本であっても処分が間に合わないとも言う)。辞書というものは、一定期間ごとに新しいキーワードを加えて書き換えられていくものである。当然、新版が出れば旧版はほぼほぼ用がなくなる。ましてや、スペイン語の辞書なんてそうそう使う生徒もいない。SDカードを隠しておいても他の生徒や先生が借りる可能性は低く、発覚しづらいと考えていたのだろう。事実自分達もしおりのヒントがなければ、そんな場所にカードが隠れているなんて思いもしなかったはずだ。
大切な情報を隠すなら、自分のプライベートな場所か、あるいはよく立ち寄る場所に隠すもの。
その人の思い込みを逆手にとった、見事な隠し場所だったと言っていい。一冊だけ津築に渡った文庫も、それこそ津築が思い出して先生に申告しなければそうそう回収されることはない。もっと言えば、文庫そのものが回収されてもしおり、ないししおりの番号さえ津築が知って覚えていればなんら問題ないのである。
――SDカードの中身は丸ごと複数コピーして、俺らが知っている情報を加えた上で一枚は津築先輩に渡してきた。それから……万が一の時にはってことで、バスケ部の先輩と信用できるクラスメートにも。これでなんとか、最悪俺らがダメでも……誰かがあとを継いでなんとかしてくれる、はずだ。
マイクロSDを複数人にひっそりと渡す過程で、ステイは聞いてしまったのである。――ハンド部の上級生、角松と内田の二人が昨夜部屋を抜け出したまま、行方不明になっているらしいということを。先生達は“外に出たかもしれないから探しておく”と言っていたらしい。が、今の状況ではとても先生達の言葉を信用することなどできないのである。
彼らは、村松英太を助けに行って捕まってしまった。そう考えるのが、自然だ。
――急がないと、俺らも同じことになるかもしれない。……少なくとも、神子として楓は……!
それだけは避けなければいけない。親友に縋らなければいけないほど苦しんでいる彼を――これ以上傷つけるなど冗談ではないのだから。
そう、親友だ。親友だからこそ、自分は。
「急いで、俺らも中身を確認しよう。さっき立ち上げた時なんともなかったから、変なウイルスが入っているってことはないと思うけど」
「だな」
自分達はそれぞれ、作業用に学校の援助の上でパソコンを購入し一台ずつ持っている。インターネットに大幅ま制限がかかっているため、実質作業用+授業用としてしか機能していないが。既に作成されているファイルを確認するだけならば、十分であるはずだ。
ファイルそのものにパスワードはかかっていなかった。これを見つけた人間が、万が一パスワードを入手できなくて開けない、という事態を避けるためであったのだろうか。いずれにせよそれらしいものは自分達も持ち合わせていないので心底安堵させられた。フォルダに入っていたものは、メモ帳形式のファイルのみ。どのような環境下でも簡単に開くことができるようにするためだろうか。
「メモ帳形式でずらずら入ってるね。……知りたいこと、全部分かるといいけど」
「開くぞ」
「うん」
享のやや不安げな言葉と、相変わらず淡々とした楓の一言と共に。メモ帳の、1、と書かれたファイルがクリックされた。
そして自分達は――この学園の、恐るべき秘密を知ることになるのである。
***
今、これを読んでいる者へ。
君がこの学校に疑問を持っている者か、あるいは学校側の者なのかはわからない。
だが、この学校の制度に疑問を持ち、神様の正体と神子の意義について知りたいと願う者であることを願って、これを残そうと思う。
私は、この学校の教師。
何も知らずにこの学校に就職し、恐ろしい罪に手を貸してしまった哀れな人間の一人だ。
この学校の地下には、神様が存在している。
正確には、“神様と先生達が呼ぶ何か”だ。実際のところ、それがどういった存在であるのか生徒達は誰も知らないだろう。見ることができのは教師らと、それから神子として実際に選ばれた者のみ。だが、神様と呼ぶにも関わらず、宗教ならばほぼ必ずついているはずの“神の名前”が何処にもない。先生は皆神を“神様”と呼び、生徒達にも同じ呼び方をする。何故か?神様であるのに名前がないのか?では宗教上の存在なのか?そもそも神様と呼ばれる存在は“生き物”なのか?
そのどれも不正解だ。
神様と呼ばれるものにも、本当は名前がついている。
そして、宗教上の神様とは全く異なるモノであり――それは既に“イキモノ”ではない。
彼はかつて人間だった。それが、恐ろしい欲に悪意に取り憑かれて魔術に触れ、悪魔を呼び出してしまったがゆえに――悪魔と融合し、悪霊として棲みつくことになってしまったおぞましい存在なのだ。
君達も聞いたことがあるだろう、この宗像誠心学園の創設者――宗像藤之助のことを。
そう、彼こそ、この学園の地下に住み着いた“神様”の正体なのだ。
これらは全て、この学園の教員として就職することになった者だけが、聞くことが許される物語である。
宗像藤之助は、元々は貧しい農民の出であった。それが、ある時どういうマジックを使ってか実業家として才覚を伸ばして成功し、莫大な富を築いた上でこの学校を創設したと書物には記されている。このあたりは、図書室に普通に置いてある本にも書かれていることだろう。
だが、疑問に思った者も少なくないはずだ。
ただの農民が、お金も知識もなく実業家なんてものになれるだろうか?大都会で成功できるだけの知識、手腕、コネクション、元手となるお金。それらを手にした経緯が、書籍には一切書かれていない。すっぱりと切り落とされたかのようにショートカットされてしまっている。
当然だ、その詳細など書ける筈もない。彼はなんの努力もしていないのだから。
彼は悪魔を召喚することによって、その力を得ただけの人間に過ぎないのだから。
彼が住んでいた綿抜村は、かつてさる有名なお殿様が謀反を起こした配下達から逃れ、ひっそりと隠れ住んでいた場所であったらしい。お殿様は自分をかくまってくれた村人たちに感謝して、いくつもの貴重な書物や宝物を村に残していったのだそうだ。
その書物の一つが。海外との貿易で手に入れた、謎の“魔導書”の類であったのだという。ポルトガル語の書物であったため、村人の多くは読むことができなかった。読めた者は、この閉鎖的な村をいつか飛び出してやろうと画策し、密かに外国の書物を集めて勉強していた宗像藤之助ただ一人であったという。
その魔導書には悪魔を呼び出し、対価と引き換えに望むものを手にする魔法が書かれていたのだそうだ。
そう、悪魔。あるいは邪神としか呼べないものであろう。人の願いを叶えるために、生きた人間の生贄を要求するようなものが善き神であるはずがないのだから。
富を、村の外の都会でやっていくための知識を、権力を、コネクションを。宗像藤之助は手に入れるため、悪魔に次から次へと貢物をした。それは、自分を嫌っていたり、いじめていた村の人間達である。宗像は男色であるだけではなく、時折性欲に負けて見目麗しい村の男を襲うなどしたせいで周囲から忌み嫌われていたのだ。宗像は、自分を嫌う若い男たちを攫っては強姦し、最後は悪魔に食わせて跡形もなく始末するということを繰り返したのである。
悪魔と鉄壁の協力関係を築いた宗像は、富を手に入れ成功すればするほどに膨れ上がっていく己の欲望を押さえ込むことができなくなった。もっともっともっと、この性欲を発散させられる場所が欲しい。見目麗しい若い男子達を観察し、好きなように食い散らかせる場所が欲しい。最高の贅沢をしながら、このくだらない肉の器を解き放ち、未来永劫自分が神として君臨できる箱庭があったのならば――。
もう、わかるだろう。
この学校こそが、その箱庭。否、宗像藤之助のために作られた監獄なのだと。
彼はこの学校を作り、自らが望む存在だけを集め、己は悪魔と融合して地下に巣食った。
孤児ならば、いなくなっても親が騒ぎ出すことがない。
その中から見目麗しい少年達を選りすぐり、山奥の閉鎖的な学校に閉じ込める。
莫大な金という甘い蜜と、天罰という鞭。その両方をちらつかせれば、傀儡としている校長と教頭、教師達を思いのまま操ることは不可能ではない。
そう、この学校の教師達の給料はとんでもない額だ。それこそ、ここで働いている限りは、家族を養うどころか最高の贅沢をするのにも困らないほどに。同時に、自分の秘密を漏らそうとしたり、逆らおうとした教師は“天罰”によって虐め抜かれ苦しみ悶えた後に死ぬことになる。誰も逆らわなくなるのは道理だろう?
宗像の作った最も狡賢いルールこそ、“神子”の存在だ。
二ヶ月ごとに、学校の中から一人の少年を選んで生贄に差し出させる。二ヶ月もの間、神子は化け物となった宗像の性欲のはけ口にされ、心身がボロボロになるまで虐め抜かれるという仕組みだ。助けようとした者、密告しようとした者、逃げ出そうとした者も全て同じ運命を辿ることになる。
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先代神子の始末をつけるのが次代神子ならば、裏切り者の始末は誰がつける?
私達教師は、この学校に入ってすぐ強要されるのだ。
仲間を助けようとした者、この学校から逃げ出そうとした者――そういった裏切り者たちを、この手で殺害する行為を。
私は人殺しだ。
命懸けで友人を救おうとした、強い少年を。罪などなにもない少年を、この手で殺した。他の新人教員達と協力して、嬲り殺しにしたのだ。
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