いじめられっ子異世界にて、最強の仲間を引き寄せて勝利する!

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<5・救出>

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 先述した通り。
 異世界転生系の漫画やラノベは、優理もそこそこ読むし楽しんでいる。非現実だと思っているからこそ、楽しめてきたというべきか。
 しかしこう実際に自分が体験すると思うことは多々あるのである。例えばそう――スタート地点が森の中ってシチュエーションは流石にやめてほしい、など。

――……あいつ、一発殴っておいた方が良かったかな。

 命を助けてくれたとか言っていたが、やっぱり信用ならない。鬱蒼と茂る森の中にぽつーんと残された優理は、深く深くため息をついたのだった。荷物はポッケに入っていたスマホと財布のみ。見事に貴重品以外何もない状態、事故時に所持していたはずの通学かばんさえない。これでどうやって冒険を開始しろと言うのか。
 というか、森といえば、モンスターがうようよしているお約束のダンジョンではないか。この状態で何かに遭遇したら、その時点で詰みゲーになるのだけれどそれは。

――あ、一応地図はインストールされてんのか。……異世界で、ゴーグルマップっぽい地図見ながら冒険するってほんと夢も希望もないな!

 というか、異世界なのにスマホが使えるというのもご都合展開すぎやしないだろうか。流石に現代日本の誰かと電話やメールができるということはなさそうだが、地図と便利ツール、メモ帳やカメラだけでも相当役に立つのは間違いない。しかも、スマホに届いていたメールには、“俺の魔法でスマホの充電は切れないようにしておいてやったぞ、喜べ!”というサトヤの押しつけがましいメッセージが。

――だから魔法か科学か、どっちかにしろってば。

 とりあえず、地図通り、まずは森を抜けなければ始まらないだろう。ひとしきりメールに届いていたこの世界の情報と、標的となる“転生の魔女・ジェシカ”の情報を頭に入れると、優理はさっさと歩きだしたのだった。いつまでも同じところにいたところで、ロクな目に遭わないのは目に見えている。というか、丸腰の状態で獣やらモンスターやら盗賊やらと遭遇したらその時点で終わるかもしれないなら尚更だ。
 幸い、地図上で森の出口はさほど遠くないらしかった。地面も比較的乾いているし、背の高い広葉樹の隙間を吹き抜ける風は気持ちがいい。空は、優しい水色をしている。暑くもなく寒くもなく、実にいい気候と言えた。

――ここ、なんか山の麓近くっぽい?少し西の方に行くと登山道に出るな。そこから町のある方に降りて行けばいいのか。

 小枝を踏みながらさくさくと歩いていく。学校帰り、制服はともかくスニーカーだったのが幸いだった。歩きづらい靴で異世界転移させられた奴は大変だっただろうな、なんてことを他人事のように思う。
 そう、なんだかまだ現実感がないのだ。いきなり車に轢かれて、本体の体は瀕死になってます、助かるためには異世界でミッションをこなしてください――なんて言われても。なんか頭を打って変な幻でも見てるか、夢を見せられているだけなのではという気にしかならない。頬を撫でる風は気持ちいいし、靴が踏む地面と小枝の感触もリアルだけれど、それだけでこれが現実だと断言することはできないのだから。
 ただ、仮に夢であっても、ミッションをこなさなければ目を覚ますことができないなら、それは現実とさほど変わらないものである。やれることはやるしかない。せっかくもらったチート能力とやらが、どれほど頼りないものだとしても。
 そう、既に貰った資料には、この世界の情勢と魔女の情報と一緒に、優理に与えたスキルについても書かれていたのだった。――誰にも遭遇していないこの状況では、全く役に立つとも思えないスキルであったが。

――えっと。いわゆる中世ヨーロッパ風の異世界、であるのは確かなのか。

 資料に書かれてあった内容を反芻する優理。

――一つの大陸に四つの国があって、特に戦争をしてるってわけでもなく平和に暮らしていましたとさ。ただ、どの国の領地にも未開の土地はあって、一部も森や砂漠にはモンスターがうようよしている状態。ダンジョンの資源を求めて、多くの訓練された冒険者がそれぞれの国に雇われて未開の土地を探索している、と。

 魔王だとか勇者とか、そういう概念はないらしい。正確には、“無かった”というべきか。
 魔王の代わりに近年降臨したのは、あまりにもはた迷惑な“魔女”であったのだから。

――魔女がどこからともなく現れたことで、勢力図が一辺してしまった。四つの国の一つを乗っ取り、好き勝手な戦争……というよりも略奪を始めてしまった。しかも、最近は強力な護衛軍を手に入れてさらにその横暴を強めている、と。……ってことは、まったく同じ時間軸で飛ばされたわけじゃないんだな。

 その護衛軍と言うのが、るりは達のことであるのは想像に難くない。ただの中学生なら脅威になるはずもないので、恐らくよっぽど与えられたチート能力とやらが凶悪だということなのだろう。現時点では、彼等がどのように暴虐を成し遂げているのかまではわからない。というか、資料に書いてない。それくらい調べてよこせ、とサトヤに文句を言いたいが、果たしてこのメールアドレスに返信してあっちに無事届くのだろうか。一方通行だったら非常に腹が立つのだが。
 このへんは一般的なRPGよろしく自分の足で調べろということなのかもしれない。早く元の世界に帰りたいし、空一の無事も確かめたいし、子猫たちも心配だし友達や家族に心配かけたくないというのに――なんとも理不尽な話である。

――ライトノベルとか、そのへんを参考にしてたとしたら……人が欲しがるチートスキルって結構限られてくると思うんだけどな。あいつらの性格から考察できないかな。

 そうは思うが、いかんせんちょっと前までるりはの名前も認識していなかった優理だ。気が強くて女王様で悪逆非道っぽい性格ってことくらいしか知らない。精々ヒントになりそうなものは、直前の彼女の言動くらい。彼女の仲間の男三人に関してはもっと情報が足らないと言えるだろう。
 ちなみに情報がないのは、転生の魔女・ジェシカに関しても同じである。異世界からやってきたこと、強大な魔力を持つこと、その力で異世界からるりは達の魂を引っ張ってきたこと、くらいしかわからない。あのるりは達が従っているとしたら、よほど良い条件で契約しているということなのだろうが。

――まあ、町に行って話でも聞けってことかな。……あーあ、この異世界でのなんとやらをしている間、現実の時間があんまり進んでないといいんだけど。

 非常に気が進まないが、やるしかない。そう思っていたまさにそのタイミングで、目の前の視界が開けた。タイルで舗装された道路のようなものが見える。どうやら地図に表示されている、登山道とやらに出たらしい。思っていたよりちゃんとした道だたったと安堵する。道幅を見るに、二頭立ての馬車くらいでも通ることができそうだ。
 この道をまっすぐ北に下って行けば、そのまま麓の町に出るはずである。スマホの地図様様だ、そう思いながら道に降り立った、まさにその時だった。

「た、た、助けてええええ!」
「へっ!?」

 甲高い悲鳴。それから、獣が唸るような声とどすどすと踏み鳴らすような足音が。どうやら、近くでトラブルが起きているらしい。しかも、自分の耳が間違っていなければ、悲鳴は子供のそれのように思われた。

――どこだ!?

 考えるより先に足が動いていた。声は町と反対、南の方からである。舗装された道は走りやすい。一気に駆け上がったところで、優理は不自然にぐらぐら揺れている一本の木を発見した。
 深緑色の、広い葉をつけた木が、何かによってゆさゆさと揺らされている。根元には茶色い毛玉がもぞもぞと動いており、どうやらそいつがひたすらその木に体当たりしているようだった。
 なんで、と思ってすぐに理由に気づく。樹上の、折り重なった葉の隙間から、ちらりと紫色の布が覗いていたからである。どうやら誰かが獣に襲われ、木の上に避難しているらしい。獣は木の上に登れないのか、その誰かを振り落とそうと木を揺らし続けているということらしかった。揺れは大きくなっているし、樹上からはみしみしと枝の軋む音がしている。このままでは枝が折れるか、あるいは上った子供(だと思われる)が落とされて獣の餌食となってしまうだろう。

――た、助けないと……!

 反射的にそう思って、そう思うことができた自分に安堵していた。こんなよくわからない世界でも、自分は自分を捨てていない。ちゃんとやるべきことがわかっている、ならきっと何とかなるはずだと思えたからである。
 幸いにして、子供も獣もこちらに気づいていないようだった。残念ながら優理が貰ったというスキルは、この状況で一発逆転を狙える代物ではなさそうである。ならば今、この状況で、優理の独力でできることを考えて実行するしかあるまい。
 一番確実なのは町まで走って助けを呼ぶことかもしれないが、いくら優理の足が早くても、町まではまだ1キロほどある見込みである。行って帰って2キロ。それまで子供が無事でいてくれる保証はどこにもない。

――モンスターなのかただの動物なのか?……クマじゃないな、見た目もそこまで大きくないし、クマなら頭上の動物を落とすのに四足のままってことはないだろ。

 動物は二本脚で立つ様子がない。後ろからなのではっきりと顔が見えないが、耳と鼻先がやや尖っているようだ。そして、ちらり、と口元から歪曲した牙のようなものが覗いている。一番自分が知っているもので近いのはイノシシ、だろう。ならば本来は高いところに逃げる、という子供の対処は間違っていなかったはずなのだが。どうにもそのイノシシらしき動物は興奮し、執拗に彼ないし彼女を追いまわしているようだった。
 イノシシ相手に、走って逃げるのは厳禁。なんせ直線の突進スピードは人間の足で逃げ切れるものではないからだ。なら、とにかく攪乱して、的確な場所に隠れてやり過ごすしかあるまい。何かいいものはないか――周辺をうろうろと探した優理は、数本のオレンジ色の花が群生しているのを発見した。嫌な臭いではないが、かなり香りが強い花である。これは使えるかもしれない。

――よし!

「うわああっ」

 子供の悲鳴が木霊する。ぎしぎしと音がして、葉の間から紫の布が揺れていた。どうやら枝が折れそうになっているらしい。時間がない。オレンジの花が咲いているエリアと、自分の立ち位置を確認。一か八か、優理は足元の小石を拾い上げる。
 少し離れているが、この距離なら届く。

「こっちだ、イノシシ野郎っ!」

 自分に助けられるかもしれない命があるのに、守れるかもしれない存在がいるのに、見捨てるなんて言葉は優理の辞書にはないのだ。叫ぶと同時に、思いきり石を数個、イノシシの尻めがけて投げつけた。

「ぶふっ!?」

 興奮しきっていたらしい獣が、鼻息も荒くゆっくり振り返る。思った通り、イノシシに近い見た目の動物だった。ただし目か血のように真っ赤で顔は黒く、自分が知るイノシシよりだいぶ凶悪そうな顔立ちをしていたが。

「おい、木の上にいる奴!」

 うまくいきますように。そう祈りながら、優理は叫んだのである。

「この動物がこっちに突っ込んできたら、その隙に木の上から降りて逃げろ!」
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