29 / 40
<29・感情>
しおりを挟む
「正直勘弁してほしいんですよね」
出発してから、どうにもサミュエルは機嫌が悪いらしい。ぶつくさと似たようなことばかりぼやいている。
「クーイチさん、一人称僕でしょ。小さいでしょ。微妙に僕とキャラ被ってるんですよ、四人パーティでキャラ被りとか致命的でしょーが」
「僕に言われても困るよそんなの!」
そんなサミュエルに、空一も抗議の声を上げる。
「そこに文句があるならショタコンな作者に言ってくれる!?僕は何も悪くないから!」
「そこでメタに走らないでください!キャラ被りしそうな自覚があるならキャラ変する努力をしてみたらどーなんですか。ほら眼鏡かけてみるとか、一人称オレのオラオラ系にしてみるとか!」
「無茶言うなよお!」
「……どうでもいいがお前らどっちも五月蝿え」
あまりにもやり取りの内容がくだらなすぎる。そして不毛すぎる。光はついにツッコミを入れた。本来それをやってほしい優理が、ポーラの横でぐっすり眠っていて全く役に立たないからだが。
「俺が言うのもなんだけどな。お前らそうやって騒いで園部を叩き起こす気か?それならそれで俺は止めないけどな」
「うぐっ」
流石にそれを言われると、ふたりとも押し黙るしかないのだろう。口にチャックをしたようにだんまりを始める少年たち。なんとも極端と言うか、わかりやすいというか。まあ、サミュエルが不機嫌なのは、優理がポーラに寄りかかってぐっすりしているのが羨ましいというのもあるのだろうが。
多分、恋愛感情ではないのだろう。自分自身が、同性にその手のものを向けられたこともあるからこそなんとなく想像がつく。所謂あれだ、大好きなお兄ちゃんを取られて悔しいというやつだ。出発前のホテルでちょっといい空気になっていたという話だし、除け者にされたようでどうしても悔しさが抜けないのだろう。
なんとも微笑ましい限りである――そんな感想を抱いて、光はそんな自分に驚いていた。まだ己に、何かを微笑ましいだなんて思う心が残っていたということに。
「……なあ、キジモト・ヒカル」
いつもよりも数倍小声になってポーラが言う。
「アタシが言うのもなんだけど、本当にいいのかよ」
「何が」
「何が?じゃねーよ。……お前、ヘキの町の牢屋に捕まって捕虜になってた方が、体面的にも良かったんじゃないのか。アタシらを裏ルートでノース・ブルーの王都にまで案内するって……それ、魔女ジェシカとサメジマ・ルリハへの裏切りにならねーのかって言ってんだよ。お前は、その……サメジマのことが好きなんだろう?」
「…………」
自分をとっ捕まえた功労者にそう言われるのは、なんとも皮肉な話である。
まあそう言われるのも仕方ないと言えばそうなのだが。なんせ現在、自分達は大型の馬車で、ノース・ブルーの王都に向かっている真っ最中である。正確には馬車で行くのは、イースト・グリーンとノース・ブルーの国境ギリギリまでだ。そこで御者とは別れて、光が知っている秘密の地下通路で直接王都の城の地下に侵入しようという流れだった。そう、本来なら湖を渡るか陸路で遠回りしなければ行けない場所。魔女ジェシカに与したメンバーだけが、特別な地下通路を教えてもらっているのである。
地下通路には恐らく転移魔法がかかっているのだろう。何度かそこを通って王都に足を運んだが、実際の直線距離と比較しても明らかに早く王都に到着したからである。どういう仕組みかは自分もよく知らない。自分が扱えるのは結局、回復や補助の白魔法オンリーのみだったからだ。多分相性の問題もあるのだろう。
ちなみに、そこに向かう馬車の中で、前の席に優理とポーラが座り、向かい側に光とサミュエルと空一が座っているという構図である。本来四人乗りの座席に五人も乗れているのは、単純にポーラと光以外のメンバーが子供体型で小さいからに他ならなかった。光も光で、上背はあれど体格としては細身の方というのもある。前に坂田に身長と体重を教えたら、“お前マジで大丈夫か?流石にもっと太らないとヤバくね?”と真顔で心配されてしまったほどだ。
そして、優理は優理でその実拷問の精神ダメージが残っていたのか、馬車に乗った途端ぐっすりというわけである。――そんなに疲れているならもっと休んでから出発すれば良かったものを。まあ確かに、光が敗北したのがるりはと魔女に知られたら、向こうが次の手を打ってくるのは避けられないし、それまでに動きたかったのもわからないではないのだが。
「俺は、るりはに忠誠を誓っているが、魔女を信じてるわけじゃない。その姿勢は最初から変わってない」
光はきっぱりと言った。
「というか、そもそも最初から疑ってはいる。何故なら俺達全員、魔女の姿を見てもいないからな。魔女と言われているしジェシカなんて女の名前ではあるが、声は反響していて男か女かもわからなかった。それでただ、自分が力を手に入れるために魔石を集めろ、それで伝説のドラゴンの力が手に入ったらお前らの願いも叶えてやると言われただけだ。俺としてはるりは以外に生殺与奪の権利を握られるなんて冗談じゃなかったんだがな……実際逆らう選択肢はなかったし、何よりるりはがノリノリで言うことを聞いていたから従うことにしただけだ」
「伝説のドラゴンか。魔石を集めると手に入るなんて完全に眉唾何だけどな」
「詳しいやり方を俺に訊くなよ、俺もそんな話は聞かされてないし、多分るりはも知らないだろう。……ただ理由は訊いている。ラストエデン……とかいう組織に追われていて、その追手を躱すのに力がいるんだそうだ。そのリーダーが、園部たちを送り込んだ魔女サトヤらしい。魔女ジェシカはかつて別の世界で罪を犯したせいで、サトヤに追われて捕まえられそうになってるんだと」
「なるほど、そういう理由か」
魔女サトヤは、巫山戯たノリをした、見た目は少年に見える姿をした魔女である。その本性は人間とはかけ離れているが、近年は人間の少年の姿で人前に現れることが多いらしい。彼も元は異世界犯罪を犯しまくった大罪人であるが、何がきっかけになったのか異世界犯罪者を捕まえる組織を立ち上げ、治安維持を図る側になったのだとかなんとか。
多くの世界のルールを守り、世界の崩壊を防ぐ組織。それだけ聞くとまるで警察か何かのようだが、やり方は相当にえげつないのだと魔女ジェシカはぼやいていた。当時にリーダーを始め強力な手駒が組織には揃っており、追手を撒くのにはかなり苦慮しているらしいとも。
唯一の幸いは、向こうが世界の規則を守る側ということだ。間違っても、魔法のない世界にチート魔法使いを送り込んで破茶滅茶に無双するなんて真似はしないし出来ない。大抵、別の人間を自らの代理人として世界に送り込んでくるのが常なのだという。空一と優理は、まさにそれで選ばれた存在だったというわけだ。まあ、本来死ぬはずがない人間たちが魔女ジェシカの操作によって死ぬところだったので、慌てて掬い上げたというのもあるようだったが。
「姿も現さないヤツのことを盲信していいのかとは思っていた。……それが本当に、るりはの為になるのかもわからないからな。でも、俺はあくまでるりはに使われるだけの道具だ。余計な意思など持つべきでもないし、迷うべきでもない。だから、気にしないようにしていた……ずっと」
それが、引っかかるようになり始めたのは。実のところ、この異世界にやってくるよりさらに前の段階からであったりする。
園部優理。彼のことが気になって仕方なかったのは、単に喧嘩をする腕も度胸もないのに自分たちを出し抜いたからというだけじゃない。何より彼が――似ていたからだ。小さな頃、馬鹿げた理想を抱いていた自分に。
『じぶんがやったことは、ぜったい返ってくるんだぞ。だから、イヤなら、ひとにはぜったいするな。おまえらがまた、だれかをイジめてたら、こんどはおれがおまえらをいじめてやるからな』
幼稚園の、本当に小さな頃までは、自分を使っていた男と女はちゃんと“親”をしていた気がするのだ。何がきっかけであんな風になってしまったのかはわからない。ただそのせいか、幼少時に限り光も“まともな”人間でいられた気はするのだ。それが本当に、幸福なことであるかは別として。
戦隊ヒーローに憧れていた。
体が他の子よりも大きくて喧嘩が強い自分はきむと、将来みんなを助けられるヒーローになれると信じていたのだ。だから、馬鹿みたいに人のいじめやら喧嘩やらに首を突っ込んで誰かを助けて、それで悦に浸るなんてことを繰り返していた。そんなことをしても、ちっぽけな自分は、自分の世界さえ変えられない――そんなことさえ知らなかったがゆえに。
現実を知るまではそう遠くはなかった。
両親らしき二人が豹変し、光を都合の良い道具として扱うようになったからだ。
ヒーローなんかいない。自分はけしてなれない。そして己を助けてくれる存在なんて誰もいない。人はみんな自分のことだけが大切で、この世の中には支配する奴とされる奴がいるだけで。自分はどう足掻いても支配する側にはなれないのだと実感することになった日。せめて望むのは、よりマシな飼い主を見つけることだけ。そしてどうにか巡り合ったのがるりはだったというわけである。
自分は間違ってなどいない。むしろ世界の、本当の姿が見えるようになっただけだと思っていた。――だからこそ。
『簡単に人を見捨てるような奴が、いざって時に誰かに助けて貰えるわけないじゃないか。誰かを傷つけたら、その分誰かに傷つけられる。誰かを見捨てたら、その分肝心な時に見捨てられる。俺は怖がりだから、そんなのごめんだ。自分なら助けられたかも、って思って一生後悔するのも嫌だ』
中学生なんて年になってなお、バカみたいな幻想を捨てていない優理にたまらなくイラつかされたのだ。
幼い頃に封印した、なりたかった自分のもう一つの姿を見せつけられたようで。
「あいつは、俺に勝った。悔しいが、俺はあいつを屈服させることが出来なかったからな」
優理は拷問でいくら苦しめられても折れなかったし、我が身可愛さに誰かを見捨てることもしなかった。腹立たしいが、これが自分の負けでなくてなんだというのか。
そうまでして彼は意地を通したのに自分はなんて情けない体たらくを晒しているのやら。
「義理は通すべきだ。それが出来なければ男じゃないと思った、それだけだ。少しだけでも、あいつの話を聞いてやるしかないとな」
「物凄く説明を端折った?」
「……感情の言語化は得意じゃないんだ、ほっとけ」
「ふーん」
ポーラはそんな光を見て、小さく笑った。
「あんた、色んな意味でアタシに似てるな。言葉に不器用なとこも、ユーリに絆されちゃってるところも。ちょっとだけ親近感湧いたよ」
「……一緒にするな、馬鹿め」
そんなんじゃない。光は視線を窓の向こうに向けて、ため息をついた。
――まあ、完全に否定はできないか。
根負けしたのは、事実だ。正義の味方なんてものに自分がなれるとは思っていない。そして彼の言う通り、るりはに本当の気持ちを伝えるなんて――そんなことをする権利が自分にあるのかどうかも。
ただ、自分の目できちんと確かめなければ、前に進めないと思っただけだ。
るりはの幸せを考えるためにも――自分の在り方を決めるためにも。
例えそれがるりはに、一時裏切りと思われるような行為であったとしても。
出発してから、どうにもサミュエルは機嫌が悪いらしい。ぶつくさと似たようなことばかりぼやいている。
「クーイチさん、一人称僕でしょ。小さいでしょ。微妙に僕とキャラ被ってるんですよ、四人パーティでキャラ被りとか致命的でしょーが」
「僕に言われても困るよそんなの!」
そんなサミュエルに、空一も抗議の声を上げる。
「そこに文句があるならショタコンな作者に言ってくれる!?僕は何も悪くないから!」
「そこでメタに走らないでください!キャラ被りしそうな自覚があるならキャラ変する努力をしてみたらどーなんですか。ほら眼鏡かけてみるとか、一人称オレのオラオラ系にしてみるとか!」
「無茶言うなよお!」
「……どうでもいいがお前らどっちも五月蝿え」
あまりにもやり取りの内容がくだらなすぎる。そして不毛すぎる。光はついにツッコミを入れた。本来それをやってほしい優理が、ポーラの横でぐっすり眠っていて全く役に立たないからだが。
「俺が言うのもなんだけどな。お前らそうやって騒いで園部を叩き起こす気か?それならそれで俺は止めないけどな」
「うぐっ」
流石にそれを言われると、ふたりとも押し黙るしかないのだろう。口にチャックをしたようにだんまりを始める少年たち。なんとも極端と言うか、わかりやすいというか。まあ、サミュエルが不機嫌なのは、優理がポーラに寄りかかってぐっすりしているのが羨ましいというのもあるのだろうが。
多分、恋愛感情ではないのだろう。自分自身が、同性にその手のものを向けられたこともあるからこそなんとなく想像がつく。所謂あれだ、大好きなお兄ちゃんを取られて悔しいというやつだ。出発前のホテルでちょっといい空気になっていたという話だし、除け者にされたようでどうしても悔しさが抜けないのだろう。
なんとも微笑ましい限りである――そんな感想を抱いて、光はそんな自分に驚いていた。まだ己に、何かを微笑ましいだなんて思う心が残っていたということに。
「……なあ、キジモト・ヒカル」
いつもよりも数倍小声になってポーラが言う。
「アタシが言うのもなんだけど、本当にいいのかよ」
「何が」
「何が?じゃねーよ。……お前、ヘキの町の牢屋に捕まって捕虜になってた方が、体面的にも良かったんじゃないのか。アタシらを裏ルートでノース・ブルーの王都にまで案内するって……それ、魔女ジェシカとサメジマ・ルリハへの裏切りにならねーのかって言ってんだよ。お前は、その……サメジマのことが好きなんだろう?」
「…………」
自分をとっ捕まえた功労者にそう言われるのは、なんとも皮肉な話である。
まあそう言われるのも仕方ないと言えばそうなのだが。なんせ現在、自分達は大型の馬車で、ノース・ブルーの王都に向かっている真っ最中である。正確には馬車で行くのは、イースト・グリーンとノース・ブルーの国境ギリギリまでだ。そこで御者とは別れて、光が知っている秘密の地下通路で直接王都の城の地下に侵入しようという流れだった。そう、本来なら湖を渡るか陸路で遠回りしなければ行けない場所。魔女ジェシカに与したメンバーだけが、特別な地下通路を教えてもらっているのである。
地下通路には恐らく転移魔法がかかっているのだろう。何度かそこを通って王都に足を運んだが、実際の直線距離と比較しても明らかに早く王都に到着したからである。どういう仕組みかは自分もよく知らない。自分が扱えるのは結局、回復や補助の白魔法オンリーのみだったからだ。多分相性の問題もあるのだろう。
ちなみに、そこに向かう馬車の中で、前の席に優理とポーラが座り、向かい側に光とサミュエルと空一が座っているという構図である。本来四人乗りの座席に五人も乗れているのは、単純にポーラと光以外のメンバーが子供体型で小さいからに他ならなかった。光も光で、上背はあれど体格としては細身の方というのもある。前に坂田に身長と体重を教えたら、“お前マジで大丈夫か?流石にもっと太らないとヤバくね?”と真顔で心配されてしまったほどだ。
そして、優理は優理でその実拷問の精神ダメージが残っていたのか、馬車に乗った途端ぐっすりというわけである。――そんなに疲れているならもっと休んでから出発すれば良かったものを。まあ確かに、光が敗北したのがるりはと魔女に知られたら、向こうが次の手を打ってくるのは避けられないし、それまでに動きたかったのもわからないではないのだが。
「俺は、るりはに忠誠を誓っているが、魔女を信じてるわけじゃない。その姿勢は最初から変わってない」
光はきっぱりと言った。
「というか、そもそも最初から疑ってはいる。何故なら俺達全員、魔女の姿を見てもいないからな。魔女と言われているしジェシカなんて女の名前ではあるが、声は反響していて男か女かもわからなかった。それでただ、自分が力を手に入れるために魔石を集めろ、それで伝説のドラゴンの力が手に入ったらお前らの願いも叶えてやると言われただけだ。俺としてはるりは以外に生殺与奪の権利を握られるなんて冗談じゃなかったんだがな……実際逆らう選択肢はなかったし、何よりるりはがノリノリで言うことを聞いていたから従うことにしただけだ」
「伝説のドラゴンか。魔石を集めると手に入るなんて完全に眉唾何だけどな」
「詳しいやり方を俺に訊くなよ、俺もそんな話は聞かされてないし、多分るりはも知らないだろう。……ただ理由は訊いている。ラストエデン……とかいう組織に追われていて、その追手を躱すのに力がいるんだそうだ。そのリーダーが、園部たちを送り込んだ魔女サトヤらしい。魔女ジェシカはかつて別の世界で罪を犯したせいで、サトヤに追われて捕まえられそうになってるんだと」
「なるほど、そういう理由か」
魔女サトヤは、巫山戯たノリをした、見た目は少年に見える姿をした魔女である。その本性は人間とはかけ離れているが、近年は人間の少年の姿で人前に現れることが多いらしい。彼も元は異世界犯罪を犯しまくった大罪人であるが、何がきっかけになったのか異世界犯罪者を捕まえる組織を立ち上げ、治安維持を図る側になったのだとかなんとか。
多くの世界のルールを守り、世界の崩壊を防ぐ組織。それだけ聞くとまるで警察か何かのようだが、やり方は相当にえげつないのだと魔女ジェシカはぼやいていた。当時にリーダーを始め強力な手駒が組織には揃っており、追手を撒くのにはかなり苦慮しているらしいとも。
唯一の幸いは、向こうが世界の規則を守る側ということだ。間違っても、魔法のない世界にチート魔法使いを送り込んで破茶滅茶に無双するなんて真似はしないし出来ない。大抵、別の人間を自らの代理人として世界に送り込んでくるのが常なのだという。空一と優理は、まさにそれで選ばれた存在だったというわけだ。まあ、本来死ぬはずがない人間たちが魔女ジェシカの操作によって死ぬところだったので、慌てて掬い上げたというのもあるようだったが。
「姿も現さないヤツのことを盲信していいのかとは思っていた。……それが本当に、るりはの為になるのかもわからないからな。でも、俺はあくまでるりはに使われるだけの道具だ。余計な意思など持つべきでもないし、迷うべきでもない。だから、気にしないようにしていた……ずっと」
それが、引っかかるようになり始めたのは。実のところ、この異世界にやってくるよりさらに前の段階からであったりする。
園部優理。彼のことが気になって仕方なかったのは、単に喧嘩をする腕も度胸もないのに自分たちを出し抜いたからというだけじゃない。何より彼が――似ていたからだ。小さな頃、馬鹿げた理想を抱いていた自分に。
『じぶんがやったことは、ぜったい返ってくるんだぞ。だから、イヤなら、ひとにはぜったいするな。おまえらがまた、だれかをイジめてたら、こんどはおれがおまえらをいじめてやるからな』
幼稚園の、本当に小さな頃までは、自分を使っていた男と女はちゃんと“親”をしていた気がするのだ。何がきっかけであんな風になってしまったのかはわからない。ただそのせいか、幼少時に限り光も“まともな”人間でいられた気はするのだ。それが本当に、幸福なことであるかは別として。
戦隊ヒーローに憧れていた。
体が他の子よりも大きくて喧嘩が強い自分はきむと、将来みんなを助けられるヒーローになれると信じていたのだ。だから、馬鹿みたいに人のいじめやら喧嘩やらに首を突っ込んで誰かを助けて、それで悦に浸るなんてことを繰り返していた。そんなことをしても、ちっぽけな自分は、自分の世界さえ変えられない――そんなことさえ知らなかったがゆえに。
現実を知るまではそう遠くはなかった。
両親らしき二人が豹変し、光を都合の良い道具として扱うようになったからだ。
ヒーローなんかいない。自分はけしてなれない。そして己を助けてくれる存在なんて誰もいない。人はみんな自分のことだけが大切で、この世の中には支配する奴とされる奴がいるだけで。自分はどう足掻いても支配する側にはなれないのだと実感することになった日。せめて望むのは、よりマシな飼い主を見つけることだけ。そしてどうにか巡り合ったのがるりはだったというわけである。
自分は間違ってなどいない。むしろ世界の、本当の姿が見えるようになっただけだと思っていた。――だからこそ。
『簡単に人を見捨てるような奴が、いざって時に誰かに助けて貰えるわけないじゃないか。誰かを傷つけたら、その分誰かに傷つけられる。誰かを見捨てたら、その分肝心な時に見捨てられる。俺は怖がりだから、そんなのごめんだ。自分なら助けられたかも、って思って一生後悔するのも嫌だ』
中学生なんて年になってなお、バカみたいな幻想を捨てていない優理にたまらなくイラつかされたのだ。
幼い頃に封印した、なりたかった自分のもう一つの姿を見せつけられたようで。
「あいつは、俺に勝った。悔しいが、俺はあいつを屈服させることが出来なかったからな」
優理は拷問でいくら苦しめられても折れなかったし、我が身可愛さに誰かを見捨てることもしなかった。腹立たしいが、これが自分の負けでなくてなんだというのか。
そうまでして彼は意地を通したのに自分はなんて情けない体たらくを晒しているのやら。
「義理は通すべきだ。それが出来なければ男じゃないと思った、それだけだ。少しだけでも、あいつの話を聞いてやるしかないとな」
「物凄く説明を端折った?」
「……感情の言語化は得意じゃないんだ、ほっとけ」
「ふーん」
ポーラはそんな光を見て、小さく笑った。
「あんた、色んな意味でアタシに似てるな。言葉に不器用なとこも、ユーリに絆されちゃってるところも。ちょっとだけ親近感湧いたよ」
「……一緒にするな、馬鹿め」
そんなんじゃない。光は視線を窓の向こうに向けて、ため息をついた。
――まあ、完全に否定はできないか。
根負けしたのは、事実だ。正義の味方なんてものに自分がなれるとは思っていない。そして彼の言う通り、るりはに本当の気持ちを伝えるなんて――そんなことをする権利が自分にあるのかどうかも。
ただ、自分の目できちんと確かめなければ、前に進めないと思っただけだ。
るりはの幸せを考えるためにも――自分の在り方を決めるためにも。
例えそれがるりはに、一時裏切りと思われるような行為であったとしても。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる