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<第十話>
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シェルの様子がおかしい。それはミリーも感じていたことだった。
どこが、と言われるとうまく説明ができない。普段通り、自己紹介もPRも完璧だったし、不機嫌そうな顔も何一つ変わらなかったのだが。思えば、いつも冷静で理知的なシェルが、ミリーにたいしてあのような行動に出たことそのものが予兆であったような気がする。
シェルの告白が、万にひとつ別の誰かに聞かれていたら。そして人間のスタッフに密告されてしまったら。間違いなく廃棄処分になるだろう。シェルがどれだけ優秀なアンドロイドであっても関係ない。人間の“ご主人様”以外に――ましてや同族に恋心を抱くようなホープ・コードは、己の存在意義を否定したも同じこと。雄大ならまだ見逃してくれる可能性があるが、それ以外の職員なら情け容赦なく処分を下すことだろう。それはホープ・コードの存在価値を失ったも当然の行いなのだから。
同時に。キスをされた相手であるミリーも同じ処分を下される可能性が高い。シェルがそれを、わかっていなかったはずがないのだ。なのに、危険を犯してまでも、ミリーに想いを伝えることを選んだ。ミリーが拒絶する可能性も当然あったわけだし、そもそも対面日で自分達が卒業するとも限らず、卒業しなかったところで今生の別れになるとも言い切れないというのにだ。
ミリーは考える――考える。シェルはどうして、あのようなことを?そして自分は――自分は本当にこのままでいいのだろうか?結局、伝えたいことのすべてを伝えられたわけでもないというのに。ろくな覚悟もないままこうして対面日に挑んでいて――もしもこのまま本当に別れてしまうようなことになったとしたら――。
「ねぇ、あんた!」
はっとミリーは顔を上げる。目の前には、赤みがかった長い髪の女性の顔があった。そばかすだらけの頬。眼にはカラーコンタクトを入れているらしく、銀色のグラデーションのような不思議な色彩をしている。
「あんた、名前はなんていうんだっけ?」
いけない、とミリーは思った。自己紹介もアピールタイムも済んで、今は参加者たちと交流できるフリータイムとなっている。自由に参加者たちが気になったアンドロイドに声をかけて、自分のパートナーに相応しいか見極めるのだ。
目の前にいる女性も、その参加者の一人。まだミリーのご主人様ではないが、ご主人様になるかもしれない相手だ。少なくとも現状で“お客様”ではある。機嫌を損ねるようなことがあってはならない。
「え、えっと。ミリー、です。Millyと書いて、ミリーです」
「あ、ごめん名札つけてたね。さっき自己紹介もしてたのに、名前言ってる時聞き逃しちゃってさぁ。あ、アタシは鈴岡つぐみ。よろしくね?」
「は、はい」
差し出された手を慌てて握ると、思いの外強い力で握り返された。手は若い女性であるにも関わらずゴツゴツと骨ばっており、あちこち豆もあるようだった。多分何かスポーツをやっているのだろう。見れば、さほど長身でないにも関わらず、肩幅は広く、首もそれなりにしっかりしている。全体的に鍛えられた体つきをしていることが伺えた。
「あ、あの。どうして私に声を…?さっきのアピールタイムとかも、全然うまくお話出来てなかったし…」
それに、自分は女性受けするような外見と性格ではないと思うのだ。前回の時も、結局選ばれることこそなかったものの、フリータイムで声をかけてきたのは男性ばかりだった。つまり、多くの人間たちにとって、自分は“女性役”に見えるということである。
まあ、中にはその、“ネコ役の男”を自分に求めてきた男性客もいたことはいたのだけれど。
「んー、そぉねぇ。アピールが上手かったとか下手だったとかは、アタシはあんまり気にしてないというか。見てたのはそこじゃないからね」
つぐみはぽりぽり頬を掻きながら言う。
「つっかえてもつっかえても、一生懸命プレゼンやって。笑顔を絶やさなかったあたり、すごく良かったと思うよ?なんていうか、頑張り屋さんって感じの子、アタシは好きだなーって思うし。下手に完璧な奴より、あんたみたいなのの方がアタシゃ魅力的だと思ったけどね」
「そ、そうか、な」
「うんうん。もっと自信持ちなよ、ね?」
ニカッと笑うつぐみ。見た目はゴツめだし、けして美人ではない彼女だったが、その笑顔はとても眩しいものだった。何といえばいいのかそう――いつも友達がたくさんいて、みんなの中心にあって、愛されるような人間は――多分こういう顔で笑うのだろうな、と思わせる笑顔だったのである。思わず、ミリーが見惚れてしまうほどに。
「え、えっと。つぐみさんは何か運動をしてるんですか?私、戦闘訓練はしたけど、スポーツは全然やったことないから……あ、すみません!言いたくなかったら言わなくていいですから!」
ついつい興味が湧いてしまい、余計な口を挟んでしまう。自分達はあくまで、選ばれる側である。ご主人様を選べるような立場にはないし、ご主人様が聞かれたくないかもしれないようなプライベートなことについて根掘り葉掘り聞くなどご法度だ。慌てて最後に謝罪を付け加えると、つぐみは声をあげて笑った。
「もう!気を使いすぎだってーの!……まあ、やっぱ分かるか。アタシってば結構体ガッチリしてるしさぁ。男にモテない原因のひとつそれなのよねー。筋肉質な女は好きじゃないとか言われたことあるわ。男ってさあ、どうしてこう女に自分の理想押し付けるかねぇ?華奢で推しとやかで自己主張しない、黙って後ろをついてくるような良妻賢母がいいとかさぁ。どんだけ女に夢見てんの?馬鹿なの?って思うわ」
「……うわぁ、そうなんだ。自分の理想の相手を求める前に、まずは自分が理想に近づけるように努力しないとダメだと思うんだけどなあ……」
「そうそう!よくわかってんじゃん!そのとーり!」
「あはは」
思い出したのはもちろん、シェルのことだった。いまだにこの気持ちが本当に恋なのか、言い切れる自信はないのだけれど。でも、自覚するより前に、シェルに対して負い目があったのもたしかなことだったのだ。
いつも自分の隣にいて、助けてくれるシェル。自分達が仲良しであることは皆周知の事実だったし、シェルの相棒がミリー、であることはいつのまにか暗黙の了解になっていたのも確かなことだ。それだけに、落ちこぼれのミリーに対する風当たりが強かったのも。――自分が一番よくわかっていたのである。何をしても完璧で美しいシェルの側にいるのに、自分はけして相応しくない。今の自分ではシェルに助けられるばかりで、お荷物になるばかりで――まるで役に立てていないということくらいは。
「……私の一番仲良しの同期の子が、何をやっても完璧で。私は落ちこぼれでダメダメの劣等生で……一緒に仲良くしてるとみんなに陰口を叩かれてたの。お前なんか、あの子の相棒に相応しくない、迷惑かけてるだけ、不釣り合いだ、忌々しい……って。私もそれは、言われるまでもなくわかってた。私が出来損ないのせいで、迷惑かけてるんだって」
こんなこと、初対面のお客様に話すようなことではないだろう。でも、つぐみなら話してもいいかな、と。そう思ってしまうようなところが、彼女にはあったのである。
「でも、私。一緒にいるのをやめなかった。だって、陰口を叩かれて辛いから一緒にいられない……なんて。そんなこと言ったら、私を友達に選んでくれたあの子の気持ちはどうなるの?ってなるでしょ?そうやって離れるのは全部自分のためで、あの子の心を蔑ろにするだけだから。……あの子が私のことを嫌いになるならともかく、私の都合だけで、自分を守るためってだけで……側にいるのをやめるのは、絶対に嫌だったの」
離れてしまえば楽かもしれない。いじめられなくなるかもしれない。そう思ったことがないわけではないけれど。
そうやって、シェルの気持ちを踏みにじってしまったら。きっと自分は一生自分を許せなくなる。ミリーには、それがわかっていたのだ。
「だから。……あの子に、シェルの友達に相応しい存在になれるように。誰にも文句言われたりしないように。もっともっと、いろんな技術を磨いて頑張るんだーって、そう思ったんだ。相手のことを本当に想うなら、まず自分が変わる努力をするべし、って。だから、自分に都合の悪いことや気に入らないことに文句を言うだけで、自分の世界を変える努力をしない人っていうのは……ちょっと違うんじゃないかなって、そう思うよ」
「あんた……」
「あ!え、えっとその!すみませんなんか偉そうで!!わ、私まだまだ失敗だらけだし、みんなより全然出来ないのにこんなこと言っても説得力ないのはわかってるんだけどどど」
思わず力説してしまったことに気付き、ミリーは赤面した。つぐみにまじまじと見つめられてさらに恥ずかしくなってしまう。本当に何を言っているのだか。自分が変わらないとダメだ!なんて。そんなもの、ちゃんと変わってから、優秀なアンドロイドになってから言うべき言葉だというのに。
「……なんでアタシ、あんたがいいって思ったか、わかったわ」
それなのに、つぐみはどこか眼を輝かせてシェルに言う。
「だってさ、あんたは……」
その時だった。
「んだよ!逆らうってのかぁ?俺を誰だと思ってやがる。えぇ?」
男の怒鳴り声が聞こえてきた。なんだなんだ、とミリーはそちらに視線を向けて――ぎょっとする。一人の男に、腕を捕まれて怒鳴られているアンドロイドがいる。――誰か、なんて言うまでもない。シェルだ。
「シェル!」
「ちょ、まさかあんたが言ってた友達って、あの美人さんのこと!?つか、やばくね!?あの男ってたしか、ホンダネットワークスの御曹司じゃん!」
「!!」
そういえば、とミリーは思い出す。今回の対面日では、こちらのアピールと同時に、参加者側も簡単な自己紹介をしたのだが。――ホンダネットワークス社長の息子である本多政紀は、その中でも一際目立っていたのである。主に、悪い方向で。
――あいつ、そういえば自己紹介の時からずっと……シェルのこと、気持ち悪い眼で見てた……!!
痩せぎすで軽薄そうな、銀縁眼鏡の男。容姿だけなら特に目立つものではないだろう。ものすごい美形でもなければものすごいブサイクでもない。むしろ影が薄いほど普通だ。しかし、二十三歳にして、父親とボディーガード同伴で対面日にやって来るのはいかがなものか。まさに、金持ちのボンボンといった印象だ。高そうなスーツも、少々趣味が悪い派手なものである。
それに加えて。ずっと、欲望丸出しのニヤニヤ笑いを浮かべているのが生理的に受け付けなかった。仮にも“お客様”相手に、このようなことを考えてはいけないのだけれど。
「つぐみ、ごめんね。私ちょっと見てくる……!」
「あ、ミリー!!」
つぐみの声を背中に聞きながら、ミリーは走り出していた。どうしようもない、胸騒ぎを覚えながら。
どこが、と言われるとうまく説明ができない。普段通り、自己紹介もPRも完璧だったし、不機嫌そうな顔も何一つ変わらなかったのだが。思えば、いつも冷静で理知的なシェルが、ミリーにたいしてあのような行動に出たことそのものが予兆であったような気がする。
シェルの告白が、万にひとつ別の誰かに聞かれていたら。そして人間のスタッフに密告されてしまったら。間違いなく廃棄処分になるだろう。シェルがどれだけ優秀なアンドロイドであっても関係ない。人間の“ご主人様”以外に――ましてや同族に恋心を抱くようなホープ・コードは、己の存在意義を否定したも同じこと。雄大ならまだ見逃してくれる可能性があるが、それ以外の職員なら情け容赦なく処分を下すことだろう。それはホープ・コードの存在価値を失ったも当然の行いなのだから。
同時に。キスをされた相手であるミリーも同じ処分を下される可能性が高い。シェルがそれを、わかっていなかったはずがないのだ。なのに、危険を犯してまでも、ミリーに想いを伝えることを選んだ。ミリーが拒絶する可能性も当然あったわけだし、そもそも対面日で自分達が卒業するとも限らず、卒業しなかったところで今生の別れになるとも言い切れないというのにだ。
ミリーは考える――考える。シェルはどうして、あのようなことを?そして自分は――自分は本当にこのままでいいのだろうか?結局、伝えたいことのすべてを伝えられたわけでもないというのに。ろくな覚悟もないままこうして対面日に挑んでいて――もしもこのまま本当に別れてしまうようなことになったとしたら――。
「ねぇ、あんた!」
はっとミリーは顔を上げる。目の前には、赤みがかった長い髪の女性の顔があった。そばかすだらけの頬。眼にはカラーコンタクトを入れているらしく、銀色のグラデーションのような不思議な色彩をしている。
「あんた、名前はなんていうんだっけ?」
いけない、とミリーは思った。自己紹介もアピールタイムも済んで、今は参加者たちと交流できるフリータイムとなっている。自由に参加者たちが気になったアンドロイドに声をかけて、自分のパートナーに相応しいか見極めるのだ。
目の前にいる女性も、その参加者の一人。まだミリーのご主人様ではないが、ご主人様になるかもしれない相手だ。少なくとも現状で“お客様”ではある。機嫌を損ねるようなことがあってはならない。
「え、えっと。ミリー、です。Millyと書いて、ミリーです」
「あ、ごめん名札つけてたね。さっき自己紹介もしてたのに、名前言ってる時聞き逃しちゃってさぁ。あ、アタシは鈴岡つぐみ。よろしくね?」
「は、はい」
差し出された手を慌てて握ると、思いの外強い力で握り返された。手は若い女性であるにも関わらずゴツゴツと骨ばっており、あちこち豆もあるようだった。多分何かスポーツをやっているのだろう。見れば、さほど長身でないにも関わらず、肩幅は広く、首もそれなりにしっかりしている。全体的に鍛えられた体つきをしていることが伺えた。
「あ、あの。どうして私に声を…?さっきのアピールタイムとかも、全然うまくお話出来てなかったし…」
それに、自分は女性受けするような外見と性格ではないと思うのだ。前回の時も、結局選ばれることこそなかったものの、フリータイムで声をかけてきたのは男性ばかりだった。つまり、多くの人間たちにとって、自分は“女性役”に見えるということである。
まあ、中にはその、“ネコ役の男”を自分に求めてきた男性客もいたことはいたのだけれど。
「んー、そぉねぇ。アピールが上手かったとか下手だったとかは、アタシはあんまり気にしてないというか。見てたのはそこじゃないからね」
つぐみはぽりぽり頬を掻きながら言う。
「つっかえてもつっかえても、一生懸命プレゼンやって。笑顔を絶やさなかったあたり、すごく良かったと思うよ?なんていうか、頑張り屋さんって感じの子、アタシは好きだなーって思うし。下手に完璧な奴より、あんたみたいなのの方がアタシゃ魅力的だと思ったけどね」
「そ、そうか、な」
「うんうん。もっと自信持ちなよ、ね?」
ニカッと笑うつぐみ。見た目はゴツめだし、けして美人ではない彼女だったが、その笑顔はとても眩しいものだった。何といえばいいのかそう――いつも友達がたくさんいて、みんなの中心にあって、愛されるような人間は――多分こういう顔で笑うのだろうな、と思わせる笑顔だったのである。思わず、ミリーが見惚れてしまうほどに。
「え、えっと。つぐみさんは何か運動をしてるんですか?私、戦闘訓練はしたけど、スポーツは全然やったことないから……あ、すみません!言いたくなかったら言わなくていいですから!」
ついつい興味が湧いてしまい、余計な口を挟んでしまう。自分達はあくまで、選ばれる側である。ご主人様を選べるような立場にはないし、ご主人様が聞かれたくないかもしれないようなプライベートなことについて根掘り葉掘り聞くなどご法度だ。慌てて最後に謝罪を付け加えると、つぐみは声をあげて笑った。
「もう!気を使いすぎだってーの!……まあ、やっぱ分かるか。アタシってば結構体ガッチリしてるしさぁ。男にモテない原因のひとつそれなのよねー。筋肉質な女は好きじゃないとか言われたことあるわ。男ってさあ、どうしてこう女に自分の理想押し付けるかねぇ?華奢で推しとやかで自己主張しない、黙って後ろをついてくるような良妻賢母がいいとかさぁ。どんだけ女に夢見てんの?馬鹿なの?って思うわ」
「……うわぁ、そうなんだ。自分の理想の相手を求める前に、まずは自分が理想に近づけるように努力しないとダメだと思うんだけどなあ……」
「そうそう!よくわかってんじゃん!そのとーり!」
「あはは」
思い出したのはもちろん、シェルのことだった。いまだにこの気持ちが本当に恋なのか、言い切れる自信はないのだけれど。でも、自覚するより前に、シェルに対して負い目があったのもたしかなことだったのだ。
いつも自分の隣にいて、助けてくれるシェル。自分達が仲良しであることは皆周知の事実だったし、シェルの相棒がミリー、であることはいつのまにか暗黙の了解になっていたのも確かなことだ。それだけに、落ちこぼれのミリーに対する風当たりが強かったのも。――自分が一番よくわかっていたのである。何をしても完璧で美しいシェルの側にいるのに、自分はけして相応しくない。今の自分ではシェルに助けられるばかりで、お荷物になるばかりで――まるで役に立てていないということくらいは。
「……私の一番仲良しの同期の子が、何をやっても完璧で。私は落ちこぼれでダメダメの劣等生で……一緒に仲良くしてるとみんなに陰口を叩かれてたの。お前なんか、あの子の相棒に相応しくない、迷惑かけてるだけ、不釣り合いだ、忌々しい……って。私もそれは、言われるまでもなくわかってた。私が出来損ないのせいで、迷惑かけてるんだって」
こんなこと、初対面のお客様に話すようなことではないだろう。でも、つぐみなら話してもいいかな、と。そう思ってしまうようなところが、彼女にはあったのである。
「でも、私。一緒にいるのをやめなかった。だって、陰口を叩かれて辛いから一緒にいられない……なんて。そんなこと言ったら、私を友達に選んでくれたあの子の気持ちはどうなるの?ってなるでしょ?そうやって離れるのは全部自分のためで、あの子の心を蔑ろにするだけだから。……あの子が私のことを嫌いになるならともかく、私の都合だけで、自分を守るためってだけで……側にいるのをやめるのは、絶対に嫌だったの」
離れてしまえば楽かもしれない。いじめられなくなるかもしれない。そう思ったことがないわけではないけれど。
そうやって、シェルの気持ちを踏みにじってしまったら。きっと自分は一生自分を許せなくなる。ミリーには、それがわかっていたのだ。
「だから。……あの子に、シェルの友達に相応しい存在になれるように。誰にも文句言われたりしないように。もっともっと、いろんな技術を磨いて頑張るんだーって、そう思ったんだ。相手のことを本当に想うなら、まず自分が変わる努力をするべし、って。だから、自分に都合の悪いことや気に入らないことに文句を言うだけで、自分の世界を変える努力をしない人っていうのは……ちょっと違うんじゃないかなって、そう思うよ」
「あんた……」
「あ!え、えっとその!すみませんなんか偉そうで!!わ、私まだまだ失敗だらけだし、みんなより全然出来ないのにこんなこと言っても説得力ないのはわかってるんだけどどど」
思わず力説してしまったことに気付き、ミリーは赤面した。つぐみにまじまじと見つめられてさらに恥ずかしくなってしまう。本当に何を言っているのだか。自分が変わらないとダメだ!なんて。そんなもの、ちゃんと変わってから、優秀なアンドロイドになってから言うべき言葉だというのに。
「……なんでアタシ、あんたがいいって思ったか、わかったわ」
それなのに、つぐみはどこか眼を輝かせてシェルに言う。
「だってさ、あんたは……」
その時だった。
「んだよ!逆らうってのかぁ?俺を誰だと思ってやがる。えぇ?」
男の怒鳴り声が聞こえてきた。なんだなんだ、とミリーはそちらに視線を向けて――ぎょっとする。一人の男に、腕を捕まれて怒鳴られているアンドロイドがいる。――誰か、なんて言うまでもない。シェルだ。
「シェル!」
「ちょ、まさかあんたが言ってた友達って、あの美人さんのこと!?つか、やばくね!?あの男ってたしか、ホンダネットワークスの御曹司じゃん!」
「!!」
そういえば、とミリーは思い出す。今回の対面日では、こちらのアピールと同時に、参加者側も簡単な自己紹介をしたのだが。――ホンダネットワークス社長の息子である本多政紀は、その中でも一際目立っていたのである。主に、悪い方向で。
――あいつ、そういえば自己紹介の時からずっと……シェルのこと、気持ち悪い眼で見てた……!!
痩せぎすで軽薄そうな、銀縁眼鏡の男。容姿だけなら特に目立つものではないだろう。ものすごい美形でもなければものすごいブサイクでもない。むしろ影が薄いほど普通だ。しかし、二十三歳にして、父親とボディーガード同伴で対面日にやって来るのはいかがなものか。まさに、金持ちのボンボンといった印象だ。高そうなスーツも、少々趣味が悪い派手なものである。
それに加えて。ずっと、欲望丸出しのニヤニヤ笑いを浮かべているのが生理的に受け付けなかった。仮にも“お客様”相手に、このようなことを考えてはいけないのだけれど。
「つぐみ、ごめんね。私ちょっと見てくる……!」
「あ、ミリー!!」
つぐみの声を背中に聞きながら、ミリーは走り出していた。どうしようもない、胸騒ぎを覚えながら。
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