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<第十九話>
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鈴岡つぐみには、後悔していることがある。
恐らく一生、一生。自分は同じことを悔やみ続けるのだろう。同時に――ミリーに対しても、罪悪感を背負って生きていくことになるのだろう、と。
つぐみは、自分が可愛くなければおしとやかでもない、女子力もからっきしのダメ人間であることを自覚している。正直、生まれてくる性別を間違えたのではないかと本気で思うレベルだ。男になりたい願望があるではないが――自分の性的趣向がストレートであるかどうかは、イマイチ自信が持てないのも事実なのである。
だって、男の子を見ても女の子を見ても素敵だと思うのだ。カッコいい男の子も好きだし、可愛い女の子も好きだ。恋愛感情を抱くことこそほとんどないものの、有名人の美男美女に向ける感情はさほど変わりがないように思えるのである。
『あーっもう!なんなのあの女優!佐久間様にべったりくっついちゃってマジむかつく!お前なんか佐久間様に相応しくないんだっつーの!映画で共演したからっていつまでも恋人気取りとかほんとありえないっていうか。あざといっていうか。あたしの佐久間様に触るなよシネ!ってほんと思うわー』
中学生の頃に聞いた、そんな同級生たちの話。佐久間様、というのは当時大ブレイク中だったバンドのボーカルの名字だった。その彼が、俳優としてデビューし、初主演を飾った映画の宣伝番組に出てきた日のことである。ヒロイン役の女優が、映画のシュチュエーションを真似て佐久間にデコピンして見せたのだった。その番組はたまたまつぐみも見ていたからよく知っている。佐久間はけして嫌がっていなかったし、楽しそうにデコピン返しをしていた。どこからどう見てもお互いファンサービスの延長のようなじゃれあいであったと思う。だが、佐久間の女性ファンたちはそうは思わなかったらしい。
番組放送の直後にはもう、女優のSNSは大炎上していた。書き込まれたコメントの多くが、佐久間に馴れ馴れしくするな、近づくな、ぶりっ子が気持ち悪い、色仕掛けするな恋人気取りめ!とか――そんな誹謗中傷である。
そして、同じ感想を抱いたのは同級生の少女達も同じだったらしく。悪意のある大きな声で次々に罵倒を口にしては、お互いに肯定しあっていた。隣の席でそんな会話を繰り広げられるのが正直苦痛で、席を離れようと思ったとき。
『ねぇ!つぐみもそう思うよね!?あのブスまじでうざいって!』
なんと、集団の一人がつぐみに同意を求めてきたのである。仲の悪いグループではなかったが、とりたてて親しくしている者達でもなかった。同時に――自分が己の為にするべき最良の選択は、適当に同意してこの場を無難に立ち去ることだともわかっていたのだ。
わかっていたのだけれど。
『ブスじゃないと思うな。彼女ふつーに可愛いじゃん。スタイルいいし、肌も綺麗だし、トークも面白いよ。この間のデコピンなんて、映画ファン向けのファンサービスのつもりだったと思うし。まさかそんな反応されるとは思ってなかったんじゃないかな』
つぐみは、嘘をつくのが嫌いだった。
嘘をつくのが下手なのもある。でも、上手だったところで、自分はやはり正直にしかものを言えなかったと思うのだ。
自分を偽ってへらへら生きて、それのどこが楽しいのだろう。人を傷つけない為の我慢ならわかる。でも――自分が傷付かないために我慢して、仮面を被って――きっとその方が何倍も苦しいだけではないのだろうか。
だから。
『佐久間さんが、彼女のその行動ですごく迷惑して、嫌がってたならさ。彼女はある程度責められても仕方なかったと思うけど。佐久間さん全然嫌がってなかったし、楽しそうにしてたように見えたけどなあ。……そもそも、佐久間さんの幸せは佐久間さんが決めるものじゃん。仮に本当に佐久間さんと彼女が恋人同士になったとしたらさ、佐久間さんの幸せを精一杯応援してやるのが本当のファンじゃないの?』
『い、意味わかんない……あんた何いってんの?あの女がブスじゃないとか目が腐ってるつーか……性格もブスで男に媚売ってるようなやつ、佐久間様にふさわしいわけないじゃん!』
『私の佐久間様なのに!私の方が相応しいんだから!……とか思ってるなら目を覚ました方がいいよ。後で間違いなく黒歴史になるし。テレビの中の人と結婚なんてまず無理なんだから』
思っていた以上に、自分もストレスが貯まっていたらしい。みるみる怒りで赤らんでいく彼女たちの顔。殴られるかもしれないし、明日から苛められるかもしれない。そんな考えがないわけではなかったけれど。
どうでも良いと、そう思った。彼女らの醜い悪意に付き合って、自分まで腐るより百倍マシだ、と。
『自分が絶対手に入らないものを持ってるからって、努力してる人に嫉妬して、不特定多数で叩くなんて弱虫のやることだわ、マジ情けない。すっごく不愉快。自分の胸に手を当ててもっかい鏡見てきなよ。仮に彼女が本当に男に媚売ってたとしても……人の粗捜しして、影でコソコソ他人を傷つけて笑ってるような奴の方が、千倍不細工に決まってんだから』
その後、彼女たちは分かりやすくフギャラフギャラー!と何やら叫んでいたようだが。豚の鳴き声の意味なんて人間にわかるはずがないし、わかりたいとも思えない。おっと、こんなことを言ったら綺麗好きで愛らしい本物の豚さん達に失礼だったか。
とにかくだ。その時はっきり自覚したことだが――つぐみは男にも女にも嫉妬したことがないのだった。男も女も同性のような気がするし、異性のような気がするというか。大好きな俳優や女優が異性とくっついていても、どちらかに嫉妬したこともなれけば“××そこ代われ!”なんてことも思ったことがないのである。だから、彼女らの“同性への嫉妬”がひときわ醜いもののように見えたのかもしれない。
そう、自分達は子供で、未熟で。誰もが己の弱さや汚いところを認める勇気などない、そんな年だった。彼女達もそう。
喧嘩を売った自覚はあったとはいえ。翌日からよくもまあこんなテンプレートな真似ができるものだと呆れたものだった。グループの女子たちはつぐみを苛め始めた。ノートに落書きしたり、持ち物がなくなるなんてこともあったが、それ以上に困ったのは風評被害である。
彼女たちは、つぐみが同性愛者だと噂を流して広めたのだ。レズビアンだから、女優を擁護した。あの女優の色仕掛けにムラムラしてたから可愛いだなんて馬鹿なことか言えたんだ――と。
『あいつレズ?まじできもいんですけど』
『うわぁ、鈴岡の前で着替えたくなーい。あたし達の裸見てコーフンするんでしょ?気持ちわるー』
『せんせー!鈴岡さんは男子と着替えるのがいいと思いまーす!』
『同性愛とかありえないきもちわりー。人類として終わってるわー。世の中で同性愛者に人権なんて持たせたら人類が終わるっつーの!』
クラスの多くの者達から遠巻きにされ、鼻で笑われた。同性の裸でも異性の裸でも興奮したことがない以上否定しきることもできず、自分は本当はどちらなんだろうと本気で悩んだものである。女子の多くはつぐみに罵倒を投げつけ、男子の多くは直接何かをしてくることこそないもののつぐみを腫れ物のように扱って避けた。馬鹿の行動に傷つくだけ損だと知っている。だからつぐみが苦しんだのは他人の反応より、それによって考えさせられた自分で自分が分からないという事実の方だった。
もしも本当にレズビアンだったのだとしたら?それはとても気持ち悪いことなんだろうか。この頃はまだ、同性婚が認められていなかった。ろくに宗教もない国だというのに、国民の多くがまるで神の教えに背いた裏切り者であるかのように一部の人たちに心ない言葉を浴びせ、追い詰めていた、まだそんな非道が許されていた頃である。
つぐみ自身は同性愛に偏見などない。愛する相手が同性であれ異性であれ、愛し合うことに意味があるのであってそんな些細なことは関係ないのだとさえ考えている。だが、自分はそうであっても周りが同じ考えでないことくらいわかっているのだ。
――アタシは、結局。“ナニ”なんだろう。
唯一の支えは、小学校から続けているクラブのサッカーと、趣味の筋トレだった。スポーツを愛する学外の者達は、いつもつぐみの有りのままの姿を見てくれていたからだ。彼らの中にもひょっとしたら、同性愛に苦手意識がある者もいたかもしれないけれど。少なくともそれを表に出して、つぐみを非難する者はいなかった。同性愛者だろうと両性愛者だろうと無性愛者だろうとつぐみはつぐみだよ、と。相談を聞いても笑って支えてくれる者達ばかりだったのだ。
だから、学校で何を言われても大丈夫だった。彼らにはいつも感謝していた。彼らがいるから、自分は学校の醜い連中に屈することも、染まることもなく生きていられるのだ、と。
そんな時だった。
『俺、今日からこのクラブに入った、鳴海涼介っていうんだ!』
他県から転校してきた、サッカー大好きな熱血少年。
『サッカーやろうぜ、鈴岡!お前すっごく上手いんだろっ!?』
馬鹿みたいに明るくて、向日葵のように明るい茶髪がキラキラと光っていて。彼が笑うと、そこに大輪の花が開いたかのように見えたのである。
それが、鳴海涼介との出会いだった。
涼介は、つぐみとは別の中学校に通っていて、本気でプロを目指すサッカー少年だった。サッカーバカと言った方がいいかもしれない。つぐみの悪評も知らなかったし、知ったら知ったで我がことのように怒ってくれたのである。
馬鹿達のイジメなんかで、傷ついてなるものかと思っていたし。苦しんでなどいない、そのつもりだったのだけども。――それでも、涼介のそんな言葉や反応は本当に嬉しくて――それだけに、高校に上がったら一緒のチームで戦えないことが残念でならなかったのである。
高校になってしまえばもう。いくらつぐみの体格が男子並みで力があっても――男女一緒に戦うことはできないのだ。どこもチームは男女別に別れてしまっているのだから。
だけど、涼介は言ってくれた。
『一緒の高校に行こうぜ!おんなじチームにはなれないけど…ダブルでチーム優勝とかかっけーだろっ!?お前くらい上手いやつならきっとやれるって!俺も頑張るし!』
根拠もなにもない自信。けれど、根拠も何もないのに信じて前に進めることが、どれだけの強さであることか。いつしか、涼介は友人というより目標に変わっていたのである。彼と、肩を並べて歩けるような存在になりたい――と。
その感情が恋だと自覚したのは。同じ高校に合格し、高校に入学してからのことだったのである。
恐らく一生、一生。自分は同じことを悔やみ続けるのだろう。同時に――ミリーに対しても、罪悪感を背負って生きていくことになるのだろう、と。
つぐみは、自分が可愛くなければおしとやかでもない、女子力もからっきしのダメ人間であることを自覚している。正直、生まれてくる性別を間違えたのではないかと本気で思うレベルだ。男になりたい願望があるではないが――自分の性的趣向がストレートであるかどうかは、イマイチ自信が持てないのも事実なのである。
だって、男の子を見ても女の子を見ても素敵だと思うのだ。カッコいい男の子も好きだし、可愛い女の子も好きだ。恋愛感情を抱くことこそほとんどないものの、有名人の美男美女に向ける感情はさほど変わりがないように思えるのである。
『あーっもう!なんなのあの女優!佐久間様にべったりくっついちゃってマジむかつく!お前なんか佐久間様に相応しくないんだっつーの!映画で共演したからっていつまでも恋人気取りとかほんとありえないっていうか。あざといっていうか。あたしの佐久間様に触るなよシネ!ってほんと思うわー』
中学生の頃に聞いた、そんな同級生たちの話。佐久間様、というのは当時大ブレイク中だったバンドのボーカルの名字だった。その彼が、俳優としてデビューし、初主演を飾った映画の宣伝番組に出てきた日のことである。ヒロイン役の女優が、映画のシュチュエーションを真似て佐久間にデコピンして見せたのだった。その番組はたまたまつぐみも見ていたからよく知っている。佐久間はけして嫌がっていなかったし、楽しそうにデコピン返しをしていた。どこからどう見てもお互いファンサービスの延長のようなじゃれあいであったと思う。だが、佐久間の女性ファンたちはそうは思わなかったらしい。
番組放送の直後にはもう、女優のSNSは大炎上していた。書き込まれたコメントの多くが、佐久間に馴れ馴れしくするな、近づくな、ぶりっ子が気持ち悪い、色仕掛けするな恋人気取りめ!とか――そんな誹謗中傷である。
そして、同じ感想を抱いたのは同級生の少女達も同じだったらしく。悪意のある大きな声で次々に罵倒を口にしては、お互いに肯定しあっていた。隣の席でそんな会話を繰り広げられるのが正直苦痛で、席を離れようと思ったとき。
『ねぇ!つぐみもそう思うよね!?あのブスまじでうざいって!』
なんと、集団の一人がつぐみに同意を求めてきたのである。仲の悪いグループではなかったが、とりたてて親しくしている者達でもなかった。同時に――自分が己の為にするべき最良の選択は、適当に同意してこの場を無難に立ち去ることだともわかっていたのだ。
わかっていたのだけれど。
『ブスじゃないと思うな。彼女ふつーに可愛いじゃん。スタイルいいし、肌も綺麗だし、トークも面白いよ。この間のデコピンなんて、映画ファン向けのファンサービスのつもりだったと思うし。まさかそんな反応されるとは思ってなかったんじゃないかな』
つぐみは、嘘をつくのが嫌いだった。
嘘をつくのが下手なのもある。でも、上手だったところで、自分はやはり正直にしかものを言えなかったと思うのだ。
自分を偽ってへらへら生きて、それのどこが楽しいのだろう。人を傷つけない為の我慢ならわかる。でも――自分が傷付かないために我慢して、仮面を被って――きっとその方が何倍も苦しいだけではないのだろうか。
だから。
『佐久間さんが、彼女のその行動ですごく迷惑して、嫌がってたならさ。彼女はある程度責められても仕方なかったと思うけど。佐久間さん全然嫌がってなかったし、楽しそうにしてたように見えたけどなあ。……そもそも、佐久間さんの幸せは佐久間さんが決めるものじゃん。仮に本当に佐久間さんと彼女が恋人同士になったとしたらさ、佐久間さんの幸せを精一杯応援してやるのが本当のファンじゃないの?』
『い、意味わかんない……あんた何いってんの?あの女がブスじゃないとか目が腐ってるつーか……性格もブスで男に媚売ってるようなやつ、佐久間様にふさわしいわけないじゃん!』
『私の佐久間様なのに!私の方が相応しいんだから!……とか思ってるなら目を覚ました方がいいよ。後で間違いなく黒歴史になるし。テレビの中の人と結婚なんてまず無理なんだから』
思っていた以上に、自分もストレスが貯まっていたらしい。みるみる怒りで赤らんでいく彼女たちの顔。殴られるかもしれないし、明日から苛められるかもしれない。そんな考えがないわけではなかったけれど。
どうでも良いと、そう思った。彼女らの醜い悪意に付き合って、自分まで腐るより百倍マシだ、と。
『自分が絶対手に入らないものを持ってるからって、努力してる人に嫉妬して、不特定多数で叩くなんて弱虫のやることだわ、マジ情けない。すっごく不愉快。自分の胸に手を当ててもっかい鏡見てきなよ。仮に彼女が本当に男に媚売ってたとしても……人の粗捜しして、影でコソコソ他人を傷つけて笑ってるような奴の方が、千倍不細工に決まってんだから』
その後、彼女たちは分かりやすくフギャラフギャラー!と何やら叫んでいたようだが。豚の鳴き声の意味なんて人間にわかるはずがないし、わかりたいとも思えない。おっと、こんなことを言ったら綺麗好きで愛らしい本物の豚さん達に失礼だったか。
とにかくだ。その時はっきり自覚したことだが――つぐみは男にも女にも嫉妬したことがないのだった。男も女も同性のような気がするし、異性のような気がするというか。大好きな俳優や女優が異性とくっついていても、どちらかに嫉妬したこともなれけば“××そこ代われ!”なんてことも思ったことがないのである。だから、彼女らの“同性への嫉妬”がひときわ醜いもののように見えたのかもしれない。
そう、自分達は子供で、未熟で。誰もが己の弱さや汚いところを認める勇気などない、そんな年だった。彼女達もそう。
喧嘩を売った自覚はあったとはいえ。翌日からよくもまあこんなテンプレートな真似ができるものだと呆れたものだった。グループの女子たちはつぐみを苛め始めた。ノートに落書きしたり、持ち物がなくなるなんてこともあったが、それ以上に困ったのは風評被害である。
彼女たちは、つぐみが同性愛者だと噂を流して広めたのだ。レズビアンだから、女優を擁護した。あの女優の色仕掛けにムラムラしてたから可愛いだなんて馬鹿なことか言えたんだ――と。
『あいつレズ?まじできもいんですけど』
『うわぁ、鈴岡の前で着替えたくなーい。あたし達の裸見てコーフンするんでしょ?気持ちわるー』
『せんせー!鈴岡さんは男子と着替えるのがいいと思いまーす!』
『同性愛とかありえないきもちわりー。人類として終わってるわー。世の中で同性愛者に人権なんて持たせたら人類が終わるっつーの!』
クラスの多くの者達から遠巻きにされ、鼻で笑われた。同性の裸でも異性の裸でも興奮したことがない以上否定しきることもできず、自分は本当はどちらなんだろうと本気で悩んだものである。女子の多くはつぐみに罵倒を投げつけ、男子の多くは直接何かをしてくることこそないもののつぐみを腫れ物のように扱って避けた。馬鹿の行動に傷つくだけ損だと知っている。だからつぐみが苦しんだのは他人の反応より、それによって考えさせられた自分で自分が分からないという事実の方だった。
もしも本当にレズビアンだったのだとしたら?それはとても気持ち悪いことなんだろうか。この頃はまだ、同性婚が認められていなかった。ろくに宗教もない国だというのに、国民の多くがまるで神の教えに背いた裏切り者であるかのように一部の人たちに心ない言葉を浴びせ、追い詰めていた、まだそんな非道が許されていた頃である。
つぐみ自身は同性愛に偏見などない。愛する相手が同性であれ異性であれ、愛し合うことに意味があるのであってそんな些細なことは関係ないのだとさえ考えている。だが、自分はそうであっても周りが同じ考えでないことくらいわかっているのだ。
――アタシは、結局。“ナニ”なんだろう。
唯一の支えは、小学校から続けているクラブのサッカーと、趣味の筋トレだった。スポーツを愛する学外の者達は、いつもつぐみの有りのままの姿を見てくれていたからだ。彼らの中にもひょっとしたら、同性愛に苦手意識がある者もいたかもしれないけれど。少なくともそれを表に出して、つぐみを非難する者はいなかった。同性愛者だろうと両性愛者だろうと無性愛者だろうとつぐみはつぐみだよ、と。相談を聞いても笑って支えてくれる者達ばかりだったのだ。
だから、学校で何を言われても大丈夫だった。彼らにはいつも感謝していた。彼らがいるから、自分は学校の醜い連中に屈することも、染まることもなく生きていられるのだ、と。
そんな時だった。
『俺、今日からこのクラブに入った、鳴海涼介っていうんだ!』
他県から転校してきた、サッカー大好きな熱血少年。
『サッカーやろうぜ、鈴岡!お前すっごく上手いんだろっ!?』
馬鹿みたいに明るくて、向日葵のように明るい茶髪がキラキラと光っていて。彼が笑うと、そこに大輪の花が開いたかのように見えたのである。
それが、鳴海涼介との出会いだった。
涼介は、つぐみとは別の中学校に通っていて、本気でプロを目指すサッカー少年だった。サッカーバカと言った方がいいかもしれない。つぐみの悪評も知らなかったし、知ったら知ったで我がことのように怒ってくれたのである。
馬鹿達のイジメなんかで、傷ついてなるものかと思っていたし。苦しんでなどいない、そのつもりだったのだけども。――それでも、涼介のそんな言葉や反応は本当に嬉しくて――それだけに、高校に上がったら一緒のチームで戦えないことが残念でならなかったのである。
高校になってしまえばもう。いくらつぐみの体格が男子並みで力があっても――男女一緒に戦うことはできないのだ。どこもチームは男女別に別れてしまっているのだから。
だけど、涼介は言ってくれた。
『一緒の高校に行こうぜ!おんなじチームにはなれないけど…ダブルでチーム優勝とかかっけーだろっ!?お前くらい上手いやつならきっとやれるって!俺も頑張るし!』
根拠もなにもない自信。けれど、根拠も何もないのに信じて前に進めることが、どれだけの強さであることか。いつしか、涼介は友人というより目標に変わっていたのである。彼と、肩を並べて歩けるような存在になりたい――と。
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