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<第三十八話>
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ミリーが倒した敵が所持していたS&W M686は、シェルに預けることにした。自分は激しく動いて戦闘を行っても問題はないが、シェルは衰弱している。万が一の自衛は必要といえど、それならば動きが少なくてすむほうがいいだろうという判断だった。
「遅いっ!!」
人間とホープ・コードでは、根本的に身体能力の差が大きすぎる。人間でも鍛え上げれば人外に勝るようになる、なんて物語の中なら存在することだけども。少くともミリーが知るこの現実世界ではまず有り得ない話だった。身体能力以前に、人間たちの目で自分の動きを追うことなどまず不可能なのだろう。彼等がミリーの姿を視認してから脳内で情報を処理して銃を撃つ前に、いくらでも無効化することが可能なのだった。
ほら、今でもそう。
「な、な……な……」
目の前に崩れ落ちた仲間の姿に、挙動不審になっているヤクザらしき男。鍛え上げられた体つきの中年の男だ。この業界でもそれなりにベテランなのだろう。だが、その男でさえ、この事態を想定するには不十分だったらしい。あるいは、いざとなれば人間でもホープ・コードを制圧することができるとでも思っていたのだろうか。だとしたら――同情を禁じえない。本多政紀が、あんな無能な男が雇い主であったばかりに、正しい情報が伝わらなかったということなのだろうから。
もちろん、ホープ・コードにも弱点がないわけではない。しかし今のように、少数の人間に銃を持たせて突撃させただけでは、ミリーを制圧することなど夢のまた夢なのだ。
「ごめんね?」
実は、拳銃くらいの弾のスピードなら、人間であっても避けることが不可能ではない。もちろん、相手の銃口と引き金をしっかりと見てタイミングを合わせ、かつ高い身体能力が求められることは確かだが。
ホープ・コードのミリーなら、相手を視認できている状態で回避することなどあまりにも容易いことだ。ましてや、相手が一人なら尚更に。もっと言ってしまえば、撃たせる前に動くことももちろん可能である。だいぶ自分達の位置はバレてしまったし、数人に悲鳴はあげられてしまったものの、銃声が鳴り響くこと自体やはり避けたいのが本心なのだ。
男が最後の意識で見たのはきっと、ミリーの少し困ったような顔であったことだろう。男の手首を切り裂き、痛みに銃を離したところを掠め取り、足首と喉を潰して動きと声を完全に封じる。――殺さないのは慈悲というより、殺さない方が敵の手間と混乱を招くからだ。死んだ人間ならば、酷い言い方のようだが捨て置けないこともない。だが、死にかけの人間ならば救護が必要だ。呻いている彼等を死体と同じように放置できるほど非情な人間は、そう多くはないものである。
ましてや、暴廉組の連中はヤクザの中でも横の繋がりを重要視し、身内贔屓することで有名だったはずだ。そうそう仲間を見捨てることもしないだろう。
「銃はあと一丁だけ貰ってて、他は壊しておこうかな。あ、予備の弾薬ももらっとこう。シェルと私で二丁ずつ確保しておけばいいよね。万が一の護身用ってくらいのもんだし。はい、持ってて」
「あ、ああ。……手際がいいな、ミリー。しかも冷静だ」
「褒めても何も出ないよ?シェル」
驚いているのか、困惑しているのか、それとも純粋な感想なのか。シェルの言葉に、過ごしだけ照れて返すミリー。
自分は冷静などではない。本当は沸騰しそうなほど頭に血が上っている。それを無理矢理理性で押し殺しているだけだ。
本当は脱出する前に、政紀を殺してしまいたい。しかも、ただ殺すだけでは飽き足らない。生きてきたことを後悔するほど。絶望的な苦痛を与えて与えて、それから殺してやりたいのが本音だ。
だから、奴にはできれば目の前に出てこないで欲しいのである。
拷問していたら、それだけ脱出するのが遅くなってしまうし、シェルの安全を確保できなくなってしまうのだから。
「……こっちも駄目か」
緊急防犯システムが作動したのだろう。廊下を抜けた先には、シャッターが降りていた。迂回するか、このシャッターをこじ開けて先に進むべきか。まだ迂回するルートはあるし、シャッターをこじ開けるには時間がかかる。その間に人が来てしまっては事だ。
「一旦戻って、さっきの角を曲がろう。うまくいけば食堂に抜けられるはずだから……」
言いながら、シェルを振り返るミリー。そこで気がついた。シェルの顔色が悪い。壁に手をついて、腹を抑えてうずくまっている。かなり苦しそうだ。
「シェル!?どうしたの!?」
「な、何でもない。少し腹が痛いだけだ……」
「少しって……」
明らかに、“少し”なんてものではない。こんな時、痛覚のある自分たちの身体が忌々しいと思う。そういえば確か、シェルは前にあの男に無理矢理堕胎させられていたのではなかったか。とすると、体の中に相当なダメージを負っているはずである。本当は安静にして、きちんと修理しなければいけなかったのかもしれない。
失敗した、と思った。停電させる前に、雄大にきちんとシェルの身体を見てもらった方が良かったかもしれない、と。
「……長く走るのは良くないね。ごめん、気が利かなくて。食堂の方の廊下も封鎖されてたら、なるべく最短距離を検討するよ。壁を壊しちゃった方が早いかもしれないし」
話している途中で、また足音が聞こえてきた。残念ながら、警備のヤクザさん達は空気を読んでくれるつもりがないらしい。そんなに痛い思いをしたいのか、それとも任務失敗で罰せられるのが怖いのか。
仕方ないな、と思いつつミリーはナイフを構えた。思っていた以上に、急いだ方がよさそうだ、と思いつつ。
「まだあいつらは捕まらないのか!!」
政紀はイライラと怒鳴り散らした。防犯カメラを設置したモニタールーム。自分に逆らった愚か者どもが捕まる瞬間をこの目で見たくて、自らこの場所まで出向いて来たというのに――映るのは、やくたたずどもがあっさり返り討ちに遭う姿ばかりである。
なんてザマなのか。それとも天下の暴廉組か!
「何の為に高い金払って雇ってやったと思ってんだ!給料分の仕事くらいしたらどうなんだ!!」
「無茶言うな御曹司。うちの部下はきちんと仕事してるぜ」
暴廉組若頭にして、警護の現場指揮を任されている海野誠一は、政紀の言葉に苦い口調で返してきた。
「むしろ、こっちこそどうなってんだと言いたいぜ。ホープ・コードの機動力があのレベルだなんて全く聞いてねーよ。やられた連中の大半が格闘技経験者、中には元プロも混じってんだぞ?普通のゴロツキなら瞬殺できるような連中が軒並み一撃でやられるってどういうことだ。あんた言ったよな?所詮鉄屑の人形だから、鍛えた人間が銃持ってりゃ充分制圧できるし、むしろお釣りが来るレベルってよ」
そう言われてしまえば、政紀も言葉に詰まらざるをえない。確かに、自分にとってもホープ・コードの――ミリーの戦闘能力の高さは予想外だった。ホープ・コードは戦闘訓練をひとしきり修了しており、人間より素早く武器や動きの軌道を目で追うことができることから、護衛としては優秀という話は研修で聞いている。聞いてはいたのだが、話の中身をしっかり覚えているかどうかは別の問題だ。優秀といっても所詮鉄屑だ、人間様より優秀だなんてことあるもんか――と思って、詳しい内容は右から左だったのである。
今回その情報がなかったがゆえに、護衛達に被害が及んだとしたら――それが誰のミスかなど明白なことだろう。だが、政紀のエベレストより高いプライドが、己の誤りを認めることを拒んでいた。曲りなりにも彼等とて百戦錬磨の暴力団員だ。多少情報が欠けていても、対応できるくらいの能力があると見込んで雇ったのだから、それが出来なかったとすれば自分のせいではなく、彼らの能力不足に他ならないではないか。
そうとも、自分は悪くない。ミスなどけして、していない。悪いのは――自分の正しさを認めずに逃げ出すような真似をしたクズ鉄どもと。
「……テメェの無能ぶりを、雇主のせいにするとはいい度胸だなおい」
自分達の失敗を、あまつさえ政紀のせいであるかのように責め立てる、役立たずどもではないか。
そうとも、自分はいつでも正しい。間違えることなど万に一つもない。自分は神に選ばれた、神になるべき、この世の至宝ともいえる天才なのだから。うまくいかないとすればそれは自分のせいではなく、自分の足を引っ張り自分の正しさを認める勇気もない馬鹿な奴らのせい、もしくは社会のせいに決まっているのである。
「テメェらは黙ってさっさとクズどもとっ捕まえりゃいいんだよ!あのチビはシェルっていう荷物を引きずってんだぞ。コブつきの、たかが一匹の鉄屑相手にどこまで時間かける気だ、あぁ!?そんなに援助を打ち切られてえのか、役立たずが!」
「簡単に言ってくれるよな、あんたは。防犯カメラもあちこち壊されるわ、妨害されて映像が途切れがちだわで場所を掴むのも面倒なことになってるってのに」
誠一はあきれ果てたような声で言う。
「……まあ、このまま黙って逃したら、俺ら暴廉組のメンツにも関わるんでな。このまま好き勝手やらせるつもりもありませんよっと」
彼はセキュリティの担当者にいくつか指示を出すと、くるりと政紀を振り返った。
「一応手はありますよ、御曹司。……あんた、できれば奴らの処刑に立会いたいってことでいいんだよな?それが希望なんだよな?」
「だったら何だってんだよ」
「なら話は早い。あんた自身に働いて貰うのが一番手っ取り早ぇーわ」
どういう意味だ、と政紀が尋ねる前に。誠一はニヤリと笑って言った。
「袋の鼠からの、フレンドリーファイアといきましょうかね」
彼が説明してきた作戦はシンプルだった。だが、なるほど最も有効な手なのは間違いないだろう。確かにその作戦なら、自分も働く必要があるのもうなずける。
役立たずのヤクザどもの尻拭いをすると思えば忌々しいが。この手で、あのクズの機械人形どもに正義の鉄槌を下してやれると思えば。そして、奴らが最も悲しみ、苦しみながら死んでいく手段を取れると思えば――まあ、悪くはないやり方だろう。
――可愛い可愛いシェル。最期まで、ゴミカスになるまで可愛がってやるよ。テメェが泣き叫んで命乞いする姿を見るのが楽しみだぜ。
夜はまだ、終わらない。
愚者達の宴も、また。
「遅いっ!!」
人間とホープ・コードでは、根本的に身体能力の差が大きすぎる。人間でも鍛え上げれば人外に勝るようになる、なんて物語の中なら存在することだけども。少くともミリーが知るこの現実世界ではまず有り得ない話だった。身体能力以前に、人間たちの目で自分の動きを追うことなどまず不可能なのだろう。彼等がミリーの姿を視認してから脳内で情報を処理して銃を撃つ前に、いくらでも無効化することが可能なのだった。
ほら、今でもそう。
「な、な……な……」
目の前に崩れ落ちた仲間の姿に、挙動不審になっているヤクザらしき男。鍛え上げられた体つきの中年の男だ。この業界でもそれなりにベテランなのだろう。だが、その男でさえ、この事態を想定するには不十分だったらしい。あるいは、いざとなれば人間でもホープ・コードを制圧することができるとでも思っていたのだろうか。だとしたら――同情を禁じえない。本多政紀が、あんな無能な男が雇い主であったばかりに、正しい情報が伝わらなかったということなのだろうから。
もちろん、ホープ・コードにも弱点がないわけではない。しかし今のように、少数の人間に銃を持たせて突撃させただけでは、ミリーを制圧することなど夢のまた夢なのだ。
「ごめんね?」
実は、拳銃くらいの弾のスピードなら、人間であっても避けることが不可能ではない。もちろん、相手の銃口と引き金をしっかりと見てタイミングを合わせ、かつ高い身体能力が求められることは確かだが。
ホープ・コードのミリーなら、相手を視認できている状態で回避することなどあまりにも容易いことだ。ましてや、相手が一人なら尚更に。もっと言ってしまえば、撃たせる前に動くことももちろん可能である。だいぶ自分達の位置はバレてしまったし、数人に悲鳴はあげられてしまったものの、銃声が鳴り響くこと自体やはり避けたいのが本心なのだ。
男が最後の意識で見たのはきっと、ミリーの少し困ったような顔であったことだろう。男の手首を切り裂き、痛みに銃を離したところを掠め取り、足首と喉を潰して動きと声を完全に封じる。――殺さないのは慈悲というより、殺さない方が敵の手間と混乱を招くからだ。死んだ人間ならば、酷い言い方のようだが捨て置けないこともない。だが、死にかけの人間ならば救護が必要だ。呻いている彼等を死体と同じように放置できるほど非情な人間は、そう多くはないものである。
ましてや、暴廉組の連中はヤクザの中でも横の繋がりを重要視し、身内贔屓することで有名だったはずだ。そうそう仲間を見捨てることもしないだろう。
「銃はあと一丁だけ貰ってて、他は壊しておこうかな。あ、予備の弾薬ももらっとこう。シェルと私で二丁ずつ確保しておけばいいよね。万が一の護身用ってくらいのもんだし。はい、持ってて」
「あ、ああ。……手際がいいな、ミリー。しかも冷静だ」
「褒めても何も出ないよ?シェル」
驚いているのか、困惑しているのか、それとも純粋な感想なのか。シェルの言葉に、過ごしだけ照れて返すミリー。
自分は冷静などではない。本当は沸騰しそうなほど頭に血が上っている。それを無理矢理理性で押し殺しているだけだ。
本当は脱出する前に、政紀を殺してしまいたい。しかも、ただ殺すだけでは飽き足らない。生きてきたことを後悔するほど。絶望的な苦痛を与えて与えて、それから殺してやりたいのが本音だ。
だから、奴にはできれば目の前に出てこないで欲しいのである。
拷問していたら、それだけ脱出するのが遅くなってしまうし、シェルの安全を確保できなくなってしまうのだから。
「……こっちも駄目か」
緊急防犯システムが作動したのだろう。廊下を抜けた先には、シャッターが降りていた。迂回するか、このシャッターをこじ開けて先に進むべきか。まだ迂回するルートはあるし、シャッターをこじ開けるには時間がかかる。その間に人が来てしまっては事だ。
「一旦戻って、さっきの角を曲がろう。うまくいけば食堂に抜けられるはずだから……」
言いながら、シェルを振り返るミリー。そこで気がついた。シェルの顔色が悪い。壁に手をついて、腹を抑えてうずくまっている。かなり苦しそうだ。
「シェル!?どうしたの!?」
「な、何でもない。少し腹が痛いだけだ……」
「少しって……」
明らかに、“少し”なんてものではない。こんな時、痛覚のある自分たちの身体が忌々しいと思う。そういえば確か、シェルは前にあの男に無理矢理堕胎させられていたのではなかったか。とすると、体の中に相当なダメージを負っているはずである。本当は安静にして、きちんと修理しなければいけなかったのかもしれない。
失敗した、と思った。停電させる前に、雄大にきちんとシェルの身体を見てもらった方が良かったかもしれない、と。
「……長く走るのは良くないね。ごめん、気が利かなくて。食堂の方の廊下も封鎖されてたら、なるべく最短距離を検討するよ。壁を壊しちゃった方が早いかもしれないし」
話している途中で、また足音が聞こえてきた。残念ながら、警備のヤクザさん達は空気を読んでくれるつもりがないらしい。そんなに痛い思いをしたいのか、それとも任務失敗で罰せられるのが怖いのか。
仕方ないな、と思いつつミリーはナイフを構えた。思っていた以上に、急いだ方がよさそうだ、と思いつつ。
「まだあいつらは捕まらないのか!!」
政紀はイライラと怒鳴り散らした。防犯カメラを設置したモニタールーム。自分に逆らった愚か者どもが捕まる瞬間をこの目で見たくて、自らこの場所まで出向いて来たというのに――映るのは、やくたたずどもがあっさり返り討ちに遭う姿ばかりである。
なんてザマなのか。それとも天下の暴廉組か!
「何の為に高い金払って雇ってやったと思ってんだ!給料分の仕事くらいしたらどうなんだ!!」
「無茶言うな御曹司。うちの部下はきちんと仕事してるぜ」
暴廉組若頭にして、警護の現場指揮を任されている海野誠一は、政紀の言葉に苦い口調で返してきた。
「むしろ、こっちこそどうなってんだと言いたいぜ。ホープ・コードの機動力があのレベルだなんて全く聞いてねーよ。やられた連中の大半が格闘技経験者、中には元プロも混じってんだぞ?普通のゴロツキなら瞬殺できるような連中が軒並み一撃でやられるってどういうことだ。あんた言ったよな?所詮鉄屑の人形だから、鍛えた人間が銃持ってりゃ充分制圧できるし、むしろお釣りが来るレベルってよ」
そう言われてしまえば、政紀も言葉に詰まらざるをえない。確かに、自分にとってもホープ・コードの――ミリーの戦闘能力の高さは予想外だった。ホープ・コードは戦闘訓練をひとしきり修了しており、人間より素早く武器や動きの軌道を目で追うことができることから、護衛としては優秀という話は研修で聞いている。聞いてはいたのだが、話の中身をしっかり覚えているかどうかは別の問題だ。優秀といっても所詮鉄屑だ、人間様より優秀だなんてことあるもんか――と思って、詳しい内容は右から左だったのである。
今回その情報がなかったがゆえに、護衛達に被害が及んだとしたら――それが誰のミスかなど明白なことだろう。だが、政紀のエベレストより高いプライドが、己の誤りを認めることを拒んでいた。曲りなりにも彼等とて百戦錬磨の暴力団員だ。多少情報が欠けていても、対応できるくらいの能力があると見込んで雇ったのだから、それが出来なかったとすれば自分のせいではなく、彼らの能力不足に他ならないではないか。
そうとも、自分は悪くない。ミスなどけして、していない。悪いのは――自分の正しさを認めずに逃げ出すような真似をしたクズ鉄どもと。
「……テメェの無能ぶりを、雇主のせいにするとはいい度胸だなおい」
自分達の失敗を、あまつさえ政紀のせいであるかのように責め立てる、役立たずどもではないか。
そうとも、自分はいつでも正しい。間違えることなど万に一つもない。自分は神に選ばれた、神になるべき、この世の至宝ともいえる天才なのだから。うまくいかないとすればそれは自分のせいではなく、自分の足を引っ張り自分の正しさを認める勇気もない馬鹿な奴らのせい、もしくは社会のせいに決まっているのである。
「テメェらは黙ってさっさとクズどもとっ捕まえりゃいいんだよ!あのチビはシェルっていう荷物を引きずってんだぞ。コブつきの、たかが一匹の鉄屑相手にどこまで時間かける気だ、あぁ!?そんなに援助を打ち切られてえのか、役立たずが!」
「簡単に言ってくれるよな、あんたは。防犯カメラもあちこち壊されるわ、妨害されて映像が途切れがちだわで場所を掴むのも面倒なことになってるってのに」
誠一はあきれ果てたような声で言う。
「……まあ、このまま黙って逃したら、俺ら暴廉組のメンツにも関わるんでな。このまま好き勝手やらせるつもりもありませんよっと」
彼はセキュリティの担当者にいくつか指示を出すと、くるりと政紀を振り返った。
「一応手はありますよ、御曹司。……あんた、できれば奴らの処刑に立会いたいってことでいいんだよな?それが希望なんだよな?」
「だったら何だってんだよ」
「なら話は早い。あんた自身に働いて貰うのが一番手っ取り早ぇーわ」
どういう意味だ、と政紀が尋ねる前に。誠一はニヤリと笑って言った。
「袋の鼠からの、フレンドリーファイアといきましょうかね」
彼が説明してきた作戦はシンプルだった。だが、なるほど最も有効な手なのは間違いないだろう。確かにその作戦なら、自分も働く必要があるのもうなずける。
役立たずのヤクザどもの尻拭いをすると思えば忌々しいが。この手で、あのクズの機械人形どもに正義の鉄槌を下してやれると思えば。そして、奴らが最も悲しみ、苦しみながら死んでいく手段を取れると思えば――まあ、悪くはないやり方だろう。
――可愛い可愛いシェル。最期まで、ゴミカスになるまで可愛がってやるよ。テメェが泣き叫んで命乞いする姿を見るのが楽しみだぜ。
夜はまだ、終わらない。
愚者達の宴も、また。
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