チート勇者が転生してきたので、魔王と共に知恵と努力で撃退します。

はじめアキラ@テンセイゲーム発売中

文字の大きさ
12 / 42

<12・弱者の意地>

しおりを挟む
 本当に、勇者というものがこんなに扱いづらいとは思ってもみなかった。これだから異世界人は野蛮なのよ、とメリッサからすれば言わざるを得ない。それは自らが呼び出した勇者であるアヤナもそうだし、他のリオウとマサユキについても同様である。
 確かに、“他の女神の暴走”や“四つの地域での紛争の勃発(正確には勃発しそう、だが)”は、世界の危機として十分に判断可能なことである。ならば三人の女神が全員揃って勇者を呼び出すことは、十分に予想の範疇ではあったのだ。――まさか自分を含めた全員が全員、呼び出す勇者の“性格”を完全に度外視してしまうとは思っていなかったというだけで。

――まあ、素質と……すぐに元の世界に帰りたいと騒ぎ出さないっていうのを優先に選んだら。性格や性癖なんてものが二の次になるのは簡単に想像がついたことではあったわね……。

 はぁ、と深くため息をつくメリッサ。自らの聖域たる泉は、一番人々の信仰心が集まる場所でもある。疲れたらそこで一息ついて英気を養うのは、自分に限らずすべての女神がそうであったことだろう。それぞれの地に与えられた聖域は、いわば唯一と言っていい女神のプライベート空間と言っていい。信者に呼び出されたとて、召喚に必ずしも応じなければならない義務はないのだから。――まあ最近は女神全員の評判が落ちている手前、ある程度サービスでもしないとその土台たる信仰心にさえヒビが入りかねない状況であったが。
 確かに、勇者を呼び出したのは自分だ。アヤナを選んでしまった責任が全くない、とまで言うつもりはないのである(あのガキくさい西の女神のマーテルなんぞは、戦争のきっかけを作ったくせに自分は悪くないの一点張りであろうが)。スキルとの親和性、そして元の世界への未練の薄さ。それだけを重視して呼んでしまった結果、メリッサの手にも負えない面倒な女が来てしまったのは紛れもない事実なのだ。

――呼び出した勇者には、女神の裁量で最も“平和を導くため”に適したチートスキルを与えることができる。……私がアヤナに与えた能力は、南のラフテルに比べたらわりと平和なものの部類かと思ったんだけど。ちょっと認識が甘かったわね。

 人を圧倒できる戦闘能力はなんぞよりは、人を虜に出来る力の方が安全に支配圏を拡大できると思ったのである。想像以上に女神達の力が拮抗しており、北の地においても魔王の結界が強固であったせいでスキルの効果範囲が限定されてしまっているのが難点だが。それでも、争いを積極的に招くどころか、無血で収めることができる力であるはずと本気でメリッサは信じていたのである。まあ、その力を選んだ理由が、アヤナの前世の境遇に同情してしまったからというのもあるのだが。
 基本的には勇者達の転生後の姿は、全て女神の一存で決めることができるものである。勇者マサユキは平凡な見た目だが、多分それはマサユキ自身があまり外見に頓着しないタイプであり、マーテルをそれを理解していたからというのが大きいのだろう。対してアヤナ、リオウの二人はどちらも人間の中ではなかなかの美貌を持つ存在として生まれ変わっている。リオウの事情はわからないが、アヤナの方がそうなったのは――ひとえにメリッサの慈悲によるところが大きいのだ。
 アヤナは、前世では可哀想なくらい容貌に恵まれぬ少女であった。妄想の中でお姫様になり、美しい男子たちに愛されて過ごす時間だけが彼女の幸福であったのである。それを、美というものに少なからず執着心を持つメリッサは大変不憫に思ったのだ。美しくありたい、同じく美しく価値の高い男に愛されたい――それは女性であるならば、至極全うな願望にして欲求である。
 故に、チート能力を一つ得られると聞いた時、アヤナが“どんな異性からも愛される力がほしい”と望んだときは快諾したのだ。彼女に同情したのもあるし、血を流すことなく争いを終わらせられるかもしれないと踏んだが故に。
 それがまさか、ここまで度が過ぎるなどとは思ってもみなかったわけだが。

――はあ。彼女の希望を聞いた時点で、どうして予想できなかったのかしらね……私。

 アヤナは妻子のある男だろうとまだ年端もいかぬ少年であろうと、好みだと思った男は次々その力で洗脳し、自らの奴隷に変えていったのである。性的な奉仕から気紛れな遊び、敵陣への偵察まで。彼女は望めば望むだけ手にいれることのできる男たちを湯水のように使い、東の地域の支配と他の地方への侵攻準備を始めたのだ。
 そうなれば、夫や息子を奪われた家族から非難がアヤナとメリッサに集中するのは当然の流れである。しかし、アヤナには残念ながら、“他人を思いやる倫理観や常識”というものは悉く欠落していたらしかった。そうやって自分のところにクレームをつけてきた連中は全て、操った男たちを使って強引に排除するようになったのである。
 アヤナの恋奴隷となった男たちは、文字通りアヤナに愛されるためなら何でもする存在へと成り果てる。それこそ、アヤナにとって邪魔でしかない“かつて愛した妻や家族”の記憶など無用の長物であるため、真っ先に記憶も感情も消去されてしまうのだ。愛着もなにもなくなった家族を、その家族が取り戻したい夫や息子の手で傷つけさせ、場合よっては殺させるのである。それをアヤナはいい気味だと高みの見物を決め込むのだ。
 おまけに、その男たちはアヤナの手足となってどんな危険な地にも命を省みず踏み込み、任務をこなすようになるのである。アヤナには倫理観もないが、残念ながらまともな戦争戦略を立てる知識もなければ頭脳もないわけで。そうなれば当然、危ない任務を押し付けられた者たちは次々命を落としていくことになるのだ。――いずれにせよ、東の地から若くて健康な男性がどんどんいなくなり、暴走していくわけなのだから治安が乱れるのは当然言えば当然である。
 住人の一部は既に他の地域に逃げ出しているし、時には何をトチ狂ってかメリッサ教では絶対の禁忌であるはずの同性愛に走る輩まで出る始末である。このままでは、西の地域の凋落を待たずして東の地が不毛地帯に変わってしまうのも時間の問題ではあるだろう。

――本当に、どうしたものかしら。……他の女神はムカつくし殴りたい気持ちは変わってない、全てを私の支配地域にしたい気持ちは変わってないけど。何よりもまず、アヤナの方からなんとかしないとまずいわよね、これ。

 彼女がまだ、他の勇者と比べればメリッサの意思を汲む気があるというのが救いだろうか。まだ、頼めばまったくメリッサの言うことをきかないというわけではない。それも、いまでもつかはわからないけれど。
 アヤナは一応、勇者の務めを果たす気はある。メリッサに対して感謝していないわけでもないようだ。ただ、己がやっていることがどれほど周囲に迷惑をかけているか自覚がない――というより、自覚したところで罪悪感が明確に欠如しているのは明白である。流石のメリッサも、あくまで作りたいのは“メリッサを唯一神”として崇める世界であって、“アヤナの逆ハーレム天国”ではないのである。
 どうにかして止めなければいけない、が。一度与えてしまったチートスキルは、与えた女神本人でさえもはや取り消せないものなのだ。取り消す方法があるとすれば、それは彼女を再び転生させ直して現世に送り返すことだけなのだが――二度目のそれは、本人が望んでくれなければ不可能と言う縛りがあるわけで。今のアヤナが、元のブサイクで不遇な己に戻ることを承諾するとは到底思えないのである。
 自分一人の力では、もはやどうしようもないのかもしれない。
 かといって、他の女神と協力するなど論外だ。ただでさえ仲が悪いというのに、原因を作ったマーテルは完全に責任転嫁で被害者面をかましてくるし、もう少し話がわかるはずのラフテルは勇者のスキルに負けて完全に軍門に下ってしまっている。とてもじゃないが、手を取り合って対策を講じられる状況ではない。

――とすると。やっぱり……北の地の、魔王様……かしらね。唯一の希望は。

 自分がやったことの不始末を、他の者を頼ってなんとかするなど屈辱以外の何物でもないのだが。そして、チートスキルを持たない、勇者でもなんでもない存在に果たしてあの面倒きわまりない三人が倒せるかどうかはかなり怪しいところではあるのだが。

「背に腹は代えられないってことかしらね、これは」

 メリッサは声に出して息を吐き――目の前に立つ少女と魔王を見た。
 プライベートの時間をなくしてでも、話をするしかないと判断した二人。魔王と、その魔王に協力していると噂になっている異世界人らしい。どこまで役に立ってくれるかはわからないが、今の状況だと接触しないわけにもいくまい。

「貴方達、本当にこの状況をなんとかできるっていうの?女神の私達でさえ、手をこまねいているっていうのに」
「何とか出来る、ではなく。何とかするしかないんですよ」

 す、と少女の方が一歩進み出る。青い髪の彼女はセーラー服のスカートを揺らしておじきをし、そして告げるのだ。

「チート勇者に対抗するための力は、知恵と努力で補うしかないのですから」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...