【完結】我が侭公爵は自分を知る事にした。

目覚めの日(1)

「……暇だ」

なかば拉致されるように連れてこられた場所は豪華な調度品が並んだ綺麗な部屋だった。

どうやら、ここが今日から愁玲の部屋になるらしい。

気が済むまで暴れ終えた後、する事がなくてベッドの上で横になる。遠くからは今だ続いてるらしいパーティーの音が漏れ聞こえていた。

この部屋には物があるように見えて、他には何もない。

ちやほやしてくれる女も、酒も、何かする事を教えてくれる母親だって今この場にはいなかった。


目を閉じてその上に右腕を乗せる。

明かりは消えて、暗闇だけが広がった。

思えば物心がついた頃から、一人でいた事が殆どなかった。いつも周りには誰かがいて愁玲にとって耳障りの良い言葉を投げかけてきた。

この部屋には何もない。褒め称えてくれる声も、やるべき事を教えてくれる声も、小さく毒を吐く声だって。なに、一つない。

何もないという生活はこんなにも面白みがなく、退屈で、心穏やかに過ごせるものなのか。

微睡むようにいつの間にか意識を手放していた。