猫とバットと影退治

澤田慎梧

文字の大きさ
13 / 16
第三話「悪魔の正体は誰だ!」

3.とにかく数が多すぎる!

しおりを挟む
「てーい!」
 カエデが輝く金属バットを振るうと、その軌跡の先に「浄化の光」が放たれた。
 狙い済ました訳ではない、適当なスイングだ。
 だが、シャドウたちは丁度、カエデたちを襲おうと密集していたところだった。
 お互いが邪魔になり身動きが取れず、何体かがまともに「浄化の光」を浴びて消え去った。
「よーし! 次々行くわよー!」
『カエデ。いくら変身中だとは言っても、体力には限界がある。あまり飛ばし過ぎないようにね』
「分かってるわよ! ったく、ガトーは過保護なんだか……ら!」

 ガトーに答えながら、バットをフルスイングする。
 カエデに襲い掛かってきていたシャドウが、また数体、姿を消した。非常に調子がいい。
 ――とはいえ、ガトーが言ったことも間違ってはいない。
 フルスイングを続けていては、カエデの体力はあっと言う間に尽きてしまうだろう。
 そこでカエデは、バットを短く持ち直した。
 これならばスイングがコンパクトになり、大振りよりも力を使わなくて済むはずだ。

 そのまま、カエデは廊下でシャドウの群れを迎え撃った。
 廊下の幅は、精々シャドウ四体分くらいしかない。
 つまり、廊下で戦う限り、カエデに一度に襲い掛かれるシャドウの数も四体ほどになる、という訳だ。
 もし開けた場所――例えば、校庭などでシャドウに襲われていたら、こうは行かなかっただろう。
 たちまちシャドウの群れに囲まれて、カエデはやられていたかもしれない。
 「地の利」に恵まれた、という訳だ。
 しかし――。

『カエデ! 後ろからもシャドウが!』
「クッソ! 回り込んでたやつがいたのか! それとも、外にいた四体が校舎の中まで入って来た?」
 どうやら、シャドウたちも数に任せた力押しばかりではないらしい。
 二手に分かれて、カエデを挟み撃ちにする程度の作戦は立てられるようだ。
「仕方ない。数が少ない方を強行突破して、ここを切り抜けるわよ!」
 見たところ、新手のシャドウの方が圧倒的に数が少ないようだ。今のところ、四体しかない。
 ならばと、カエデはバットを構え直して、新手側のシャドウをやっつけようとしたのだが――。

『待ったカエデ! 新手の後ろ側にも、沢山のシャドウの気配を感じる!』
「は、はい~? まだ、全然姿は見えないけど?」
『多分、どこかに隠れているんだ。カエデが少数の方を突破して、油断したところを襲うつもりなんだよ』
「くっそ~、シャドウのくせに頭がいいじゃないの! だったら、階段を上がって、上の階に逃げるわ!」
 挟み撃ちされるのを避ける為、カエデが階段に足をかける。だが――。
『カエデ! 階段の上からもシャドウが近付いてくる気配がある!』
「げげげっ!? いつの間に上の階にシャドウが……」
『もしかしたら、他の階の人たちはもう襲われた後なのかもしれない』
「ちょ、ちょっとやめてよ、縁起でもない。職員室の方から湧いた連中だけでも、手一杯なのに」

 挟み撃ちどころか、これで三方向から攻められていることになってしまった。
 最早、逃げ道は一つしかない。両側の廊下でもなく、階段でもなく……残るは、近くにある昇降口だけだ。
「あーヤバい。これ、絶対にシャドウに誘導されてるわね」
『まさか、こいつらにこんな知能があるとはね』
「案外、先生から発生したシャドウだから、頭が良かったりしてね。アハハハハ……って、全然面白くないわ!」
 セルフツッコミをしながら、カエデは仕方なく昇降口の方へと逃げ出した。
 シャドウたちが、それを追うように迫りくる。その数は、いつの間にか数えるのも嫌になるくらいに、増えていた。

「げげっ、なによあれ! 明らかに先生の数より多いわよ!」
『やっぱり、他の学年の子たちが、既に襲われた後だったみたいだね』
「もう! ガトーがのんびりしてるから!」
『僕ものんびりしてた訳じゃないよ。むしろ、なるべく早く駆けつけようとしたんだけど……』
「したんだけど? 何かあったの?」
『ああ。いつもなら、「跳躍」――テレポートみたいな能力で、この学校まで一瞬で飛んでこれるんだけど、それができなかったんだ。どうも、誰かに邪魔されている』
「誰かって、誰よ?」
『……多分、「悪魔」だよ。僕の能力は、神様からもらったものだ。それを妨害できるのなんて、「悪魔」くらいしか思い付かない』
「悪魔、ねぇ……」

 そのままカエデは、昇降口を抜けて校舎の外へと逃げ出した。
 靴に履き替えている余裕はないので、上履きのままだ。

『カエデ、どっちに逃げるんだい?』
「校門から街中へ逃げる、というのはどうかな」
『学校の中よりも死角が多い。あまりおススメはできない』
「ですよね~。となると、やっぱり校庭か。……でもこれ、やっぱり誘導されてるよね?」
『多分、ね。見てごらんカエデ。不自然なくらいに、校庭にはシャドウの姿がないよ』
 ガトーに言われて、カエデは校庭の方へと目を向けた。
 最初、シャドウは校庭に姿を現していた。だというのに、今は一体もいない。
 なんだか不自然な感じがした。

『校庭の方にはシャドウの気配はない。わざとらしいくらいにね。……どうする?』
「……気に食わないわね」
『えっ?』
「あれだけのシャドウがいるんなら、数に任せてアタシを一気に倒すこともできたはずよね? でも、それをしなかったのは、何故?」
『カエデを強敵だと考えてるんじゃないのかな? だから、策を練って、工夫して襲い掛かって来たんじゃ』
「まっ、アタシが強いのは事実だけどね! ……でも、本当にそれだけかしら」
『どういう意味だい?』
「最初にシャドウが現れたのが目立つ校庭だったり、あからさま過ぎる罠を仕掛けてきたり、全体的になんか、わざとらしいのよね」

 ――そう。そのことはカエデが最初から感じていたことだ。
 そもそも、カエデにはシャドウの気配を察知する能力はない。昨日だって、ガトーに気配を探ってもらっていた。
 それが今日は、校門を潜るなりシャドウの気配を感じたのだ。わざとらしいくらいに。
 あれは、「あえて」カエデにシャドウの気配を伝えていたのではないのか?

 シャドウが校庭に現れた時だって、そうだ。
 学校の中に現れて、カエデが気付かぬうちに動き出していれば、被害はもっと大きくなっていただろう。
 けれども、シャドウはそれをせず、わざわざ目立つ校庭に姿を現した。
 まるで、カエデに気付かれることが目的だったかのように思える。
 
 カエデは、それらの考えをガトーに伝えた。
『なるほどね……確かに一理ある』
「うん。だからね、シャドウの――悪魔の目的は、アタシたちを校庭におびき出すことだったんじゃないかって」
『おびき出すって、なんのためにさ?』
「そんなのアタシに分かる訳ないでしょ! ともかく! アタシをいいように誘導しようとしてるのが、気に食わないって話! ――だから、逆に行ってやろうじゃないの、校庭に!」
 言うや否や、カエデは勢いよく校庭へと駆け出した。ガトーが止める間もない。

『ちょ、カエデ! 君の予想通り、悪魔の目的が僕らを校庭におびき出すことだったら、どうするんだい?』
「それはその時考える! ほら、言うでしょ? 『虎穴に入らずんば虎子を得ず』って」
『そ、そんな行き当たりばったりな~!?』
 叫ぶガトーだったが、「変身」中の彼はカエデの衣服やバットになっているので、どうすることもできない。
 カエデはそのまま、ギリギリのランニングホームランを狙う走者の如く、全力疾走で校庭へと向かった――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

オバケの謎解きスタンプラリー

綾森れん
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞をいただきました! ありがとうございます! ――七不思議を順番にめぐると、最後の不思議「大階段踊り場の鏡」に知らない自分の姿が映るんだって。 小学六年生の結菜(ユイナ)が通う三日月(みかづき)小学校では、そんな噂がささやかれていた。 結菜は難関中学に合格するため、塾の夏期講習に通って勉強に励んでいる。 だが一方で、自分の将来にひそかな期待と不安をいだいてもいた。 知らない自分を知りたい結菜は、家族が留守にする夏休みのある夜、幼なじみの夏希(ナツキ)とともに七不思議めぐりを決意する。 苦労して夜の学校に忍び込んだ二人だが、出会うのは個性豊かなオバケたちばかり。 いまいち不真面目な二宮金次郎のブロンズ像から、二人はスタンプラリーの台紙を渡され、ルールを説明される。 「七不思議の謎を解けばスタンプがもらえる。順番に六つスタンプを集めて大階段の鏡のところへ持って行くと、君の知らない君自身が映し出されるんだ」 結菜と夏希はオバケたちの謎を解いて、スタンプを集められるのか? そして大階段の鏡は二人に何を教えてくれるのか? 思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、心の奥底に秘めた想いに気付いてゆく物語です。

処理中です...