猫とバットと影退治

澤田慎梧

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第三話「悪魔の正体は誰だ!」

4.デカけりゃいいってものじゃない!

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 校庭には、シャドウの一体もいなかった。
 時間が停止しているせいで、風の一つも吹いていない。
 カエデの足音以外には何も聞こえない、無音の世界だ。
 その静けさが、カエデにはとても不気味に思えた。

「そう言えばさ、ガトー。こんな時になんだけど、気になってことあるんだよね」
『なんだい』
「時間が停止してるんなら、空気とか音も止まるんじゃないの? でも、足音はするし、アタシ息できてるよね。なんで?」
『時間停止は神様の力だからね。その辺りは、柔軟にできているのさ』
「……ガトー、もしかしてアンタもよく分かってないんじゃないの?」
『ハハハ、ソンナコトハ、ナイヨ?』

 ――等と、非常時にもかかわらず、カエデとガトーがコントを繰り広げた、その時。
 彼らの目の前に、突如として人影が現れた。
「えっ!? あ、あいつどこから湧いて出たの? さっきまで、いなかったよね?」
『ああ。まるで、その場にポッと湧いて出たように現れた……僕の「跳躍」の能力に似ている――まさか!』
 ガトーが何を言いたいのか、カエデはすぐに察した。
 「跳躍」は神様からガトーに与えられた力だ。
 ならば、それに似た能力を操るあの人影は、同じく神様に能力を与えられた存在か、あるいは――。

『――浅利山カエデ。黒猫のガトー。大量のシャドウ相手に、よく戦った。褒めてやろう』
 その時、人影が喋り始めた。男か女かも分からない、不思議な声だった。
 「壊れたマイクを通した音」が、一番近いだろうか。
 そして、声だけでなくその姿も異様だった。
 背は高い。大人の女性か、あるいは男性かと言った高さだ。
 全身はフード付きの黒いマントで覆われており、その体型は分からない。
 顔には白い、目も鼻も口もない、のっぺりとした仮面をかぶっている。当然、顔は分からない。

「……褒めてやろう、なんて偉そうな言い方。アンタ、誰よ?」
『君たちが「悪魔」と呼ぶ存在だ。お初にお目にかかる』
「へぇ、アンタが」
 余裕ぶりながら話すカエデだったが、彼女の背中には大量の冷たい汗が流れていた。
 「悪魔」を自称する目の前の人物から感じる不気味さは、シャドウの比ではない。
 姿形こそ人間にも見えるが、その中身はシャドウとは比べ物にならない化け物に違いなかった。

『悪魔! 何故、小学校を襲うんだ! やはり、カエデが狙いなのか?』
『その通りだ、黒猫ガトーよ。ここ二日間で、われの可愛いシャドウが二体もやられてしまった。その犯人の顔を、是非とも見ておきたくてな』
「は、犯人!? 人を犯罪者みたいに言わないでくれる?」
『我からすれば、折角育て上げたシャドウを消してくれているのだから、犯人以外の何者でもあるまい?』
「ふっざけんな! 人に勝手に悪い心を植え付けておいて! マミルがどんな思いをしたと思ってんのよ!」
『勝手に? いいや、違うぞ浅利山カエデ。我は、我を求める人間のもとにしか現れない』
「は、はぁ? マミルや、今日シャドウに襲われた人たちが、アンタを求めたって言うの?」
『その通りだ』

 そう言いながら、悪魔が一歩踏み出す。
 足元まですっぽりマントに覆われているのではっきりとは見えないが、どうやら足はあるらしい。

『シャドウは、ただ悪い心を植え付けただけでは生まれない。植え付けられた人間の心に、元々悪い心がなければ、シャドウは育たない。それも、ただの悪い心ではない。隠された悪い心だ――覚えがあるのではないか?』
「あっ――」
 悪魔の言葉に、カエデはマミルの時のことを思い出した。
 マミルには、普段は押し隠してきた悪い心が、確かにあった。
『思い当たったようだな? 我が悪い心を植え付ける人間は、君の友人の様に、悪い心を内に秘めた者だけだ――彼らを抑圧から解放するのが、我の使命なのだ』
「そんなことして、なんになるのよ!」
『……こうなるのさ!』

 悪魔がマントの中から腕を突き出し、天にかざす。
 ――その腕はシャドウのように真っ黒だった。
 すると、それに呼応したかのように、校舎の中からシャドウたちがヌルリと現れ始めた。
「えっ!? シャ、シャドウが壁をすり抜けてきた!?」
『違うよカエデ! あいつら、窓と窓枠の隙間からすり抜けてきてるんだ!』
 ガトーの言う通り、よく見ればシャドウたちは、窓と窓枠の隙間からスルスルと現れているようだった。
『我のシャドウたちには、厚みというものが殆どない。故に、どんな狭い隙間であろうとも、通ることができるのだよ』
「そ、そんな! だってさっきは、窓ガラスに遮られて、校舎に入ってこれなかったのに!」
『あれはブラフ――つまり、嘘だ。君を油断させる為のな』
「えっ……?」
『君は扉や窓をキチンと閉めれば、シャドウは入ってこられないと思い込んだ。だが、実際には、彼らは僅かな隙間から、どこにでも侵入できるのだよ!』

 そうこうしている間にも、学校中の窓という窓からシャドウが溢れだしてきていた。
 四階の窓からもだ。つまり、六年生もシャドウに襲われてしまったらしい。
 当然、カエデのクラスメイトたちも餌食になってしまったことだろう。
「そ、そんな……これじゃ、コハルたちも……それに、こんな数じゃ……」
 シャドウの数は、目算で既に百体を超えていそうだった。とても、カエデ一人で倒しきれる数ではない。
 カエデはあまりの絶望感に、思わず地面に膝をついた。その顔は、怯えの色で染まっている。
『カ、カエデ! 諦めちゃだめだよ! 君が諦めたら、学校の人たちはどうなるんだ!』
「でも、ガトー。だって、あんな数……無理だよ。アタシ一人じゃ、絶対に」

 シャドウたちは、悪魔の背後に付き従うように整列し始めた。
 たちまち校庭が、墨汁のような黒で埋め尽くされていく。
『なんだ、拍子抜けな小娘だ。もう諦めるのかね? ……ふむ、まあいい。ここまでよく戦った。褒美として、面白いものを見せて差し上げよう』
 悪魔が指をパチンと鳴らす。
 すると――。
『な、なんだ? シャドウたちが集まって……?』
 ガトーの言葉通り、整列していたシャドウたちが、一つ所に集まり始めた。
 ぎゅうぎゅうと音がしそうな程に、身を寄せ合っている。
 そのまま、横に、縦に、どんどんとシャドウたちは集まり、一つの塊になっていった。
 ――そして、ソレが姿を現した。

「な……、でっかい、シャドウ?」
 そう。カエデの言葉通り、彼女たちの前に現れたのは超巨大なシャドウだった。
 極端に頭でっかちで、その下から何本もの触手が伸びている。
 クラゲのような外見で、校舎と同じくらいの背の高さのシャドウがそこにいた。
『ま、まさか! シャドウたちが合体したのか!? シャドウにそんな能力が?』
『黒猫ガトーよ、それは違うぞ。普通のシャドウには、こんな力はない』
『えっ?』
『気付かなかったのかね? 今日のシャドウたちは、個性に乏しい大量生産品なのだよ』
「大量生産品? ど、どういうことよ!」

 目の前に現れた巨大シャドウの姿に思わず後ずさりしながら、カエデが尋ねる。
 それに対する悪魔の答えは、実にシンプルなものだった。

『質より量、ということさ。大して悪い心を隠していない人間から生まれたシャドウは、強くもなく、個性もない。形も皆同じものばかりだ』
 そう言えば、今日カエデが戦ったシャドウたちは、どれもこの巨大シャドウと似たような形だったように思える。
『こやつらは、個性がない故に、こうして合体することができるのだ。どうだね? 楽しかろう』
「全然楽しくないわよ! ――でも、そうね。悪くは無いわね」
『……なんだと?』
「なんでわざわざ、バラバラだったものを一個にまとめちゃうのかしらね? これじゃあ、って、言ってるようなものじゃない!」

 カエデが立ち上がり、バッティングの構えをとる。
 その表情には、もう先程までの怯えの色はない。
『小娘、貴様まさか!?』
「あら、ようやく気付いた? そう、さっきまでの弱気はわざとよ? アンタの油断を誘う為だったんだけど、まさか、ここまで調子に乗ってくれるとはね!」
『カ、カエデ! 良かった、心が折れた訳じゃないんだね!』
「あったりまえよ! アタシを誰だと思ってんの!」

 ブンブンと、二回ほど素振りをするカエデ。
 そのスイングは気力に満ちあふれ、理想的な軌跡を描いていた。
「精々、油断してくれればくらいに思ってたけど、まさかこんなサービスまでしてくれるなんてね! 百体以上のシャドウを倒すのは大仕事だけど、いくらデカくても一体だけなら、一発で済むわ! いっけぇぇぇぇ!!」
 気合い一閃。カエデのバットがその日一番の軌跡を描く。
 そこから、今までで一番の強い、とても強い「浄化の光」が放たれ、巨大シャドウを直撃した!
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