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12 あやふやな気持ちに名前がついた
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気がついたらいつもより世界が輝いている気がした。所詮私なんて、とシンプルな装いで最低限のメイクしかしていなかった。それがSNSのメッセージアプリでやり取りしているうちに、久しぶりに楽しんでいる自分に気がついた。
いつもなら休日は家でゴロゴロしていたのに、何となく出かけて目に映る可愛らしい商品を購入した。
――地味な格好の私が急にオシャレしたら、おかしいかな?笑われるかな
そんな事を思っていたが、いざロングスカートで出社すると、呆気ないほど何にもない。
――周りの目を気にしていたのに、周りの人は私に興味などない
それに気がつくと、今まで興味がないと思っていたオシャレが楽しくなった。
――ふつーにテンション上がる
るんるんとしていると、通路の向こうから顔見知りの男が歩いていた。
「よっ、柳瀬」
「相田くん、久しぶり」
片手を上げて挨拶する彼は私と同期の男性社員で、今は総務課で働いている。たまに会えば話をする仲だ。
「最近調子いいな、なんか秘訣あるのか?」
「そう見える?」
「うん、なんか彼氏いた時よりも可愛いじゃん」
「またまたー、相田くんは本当に…揶揄われたよって希美さんに言うからね」
希美さんていうのは相田くんの年上の奥さんで、2人が付き合っている時に会社の忘年会によく相田くんに付き添って来ていた。女子同士話す事があって、よく恋愛相談をしてもらっていたので頼れる姉さん的な存在だ。
「げっ、やめてやめて…最近のアイツは妊娠中だから神経質なんだよ」
「あっ、2人目だっけ?おめでとう」
「さんきゅー、いやー今回はどっちなのか楽しみだな」
相田くんは物凄くお調子者なんだけど、希美さんや娘を溺愛しているのだ。俺は姉さん女房に尻に敷かれてる旦那なんだ、と言いつつその顔は嬉しそうで羨ましい。
「…いーな…私も結婚したいな」
ふと口から漏れた言葉で、頭に浮かんだのは秋人の顔だ。
「いるんじゃないの?そんな相手」
「…ううん…いないよ」
不思議そうな顔をした相田くんへの返事が遅れてしまう。誰にも言えないこの関係が酷くもどかしい。前の彼氏と付き合っていた頃には考えられなかったことが、当たり前に起きている。
――身体だけの、関係…だったのに最近では他愛のないメッセージもやり取りするようになったし…帰る時間が合えば一緒に帰ってる
そのまま自分の家へと帰る日もあるし、少しだけエッチして帰る時もある。けどやっぱり金曜日だけは、タガが外れたようにお互い求めあってしまうのだ。
「ふーん、そうなんだ…内藤も彼女居ないみたいだし、お前ら失恋した者同士付き合えば?」
「えっ?なんで?」
突然相田くんの口から出てきた秋人の名前に、どきっとする。
「アイツも仕事ばっかりでさー、もう吹っ切れたのか?」
「…吹っ切れたって?」
秋人の過去好きだった人も付き合っていた人も聞いたことがなかった私は、相田くんの言葉に思わず聞き返してしまった。
「アイツ入社した時から好きな人いたんだよなぁ、一度だけ酔い潰れた時そう言ってたから本当だと思う」
「…そう…なんだ」
――そんなの知らない
私とは身体の関係だけだと、言われればそれまでだけど…少し距離が近づいたと思ったのは気のせいだったのかもしれない。
「まっ、今度飲み会やろうぜ」
「うん…わかった」
そう言って相田くんは片手を上げて歩き始め、私はぽつんと取り残された。
***************
――別に、この関係に名前は無くてもいいじゃん
――でもあやふやな関係はいや
――付き合って欲しいって今更言うの?
――そもそも秋人は私の事好きなの?
――私は…彼の事好きなの?
ぐるぐると頭の中を回る私の想いが、会議を開いているように意見交換をしている。
「先輩?どうしたんですか?」
自分のデスクに戻り、パソコンの前から動かない私を後輩が心配する。
「あ…ううん、何でも」
横にいた後輩の方に振り向いた時に、今そこに座る後輩くんの席で秋人が座っていた事を思い出した。
――っ…やだっ
急に湧き上がったのは、彼との関係が終わる事を一瞬想像して否定する自分の気持ち。いつか誰かのモノになるの嫌だし、ああいう事、私以外として欲しくない。そう思った直後、自分が秋人を好きなのだと理解した。前の彼氏や今まで好きだと思って付き合ってきた人達とは違う、猛烈な独占欲とまだ見ぬ未来の彼女達に嫉妬をしてしまう。
「先輩?本当に大丈夫ですか?」
なおも心配する後輩くんに何とか笑顔を見せて、席を立った。
【大事な話があるの】
それをSNSのメッセージアプリで送ると、数分後に既読になり、彼から了承の返信された。
返事をくれるまで、じっと携帯画面を見つめていた事に気がついた時には、この関係を終わらせたくない別れたくないと涙が出てしまった。
いつもなら休日は家でゴロゴロしていたのに、何となく出かけて目に映る可愛らしい商品を購入した。
――地味な格好の私が急にオシャレしたら、おかしいかな?笑われるかな
そんな事を思っていたが、いざロングスカートで出社すると、呆気ないほど何にもない。
――周りの目を気にしていたのに、周りの人は私に興味などない
それに気がつくと、今まで興味がないと思っていたオシャレが楽しくなった。
――ふつーにテンション上がる
るんるんとしていると、通路の向こうから顔見知りの男が歩いていた。
「よっ、柳瀬」
「相田くん、久しぶり」
片手を上げて挨拶する彼は私と同期の男性社員で、今は総務課で働いている。たまに会えば話をする仲だ。
「最近調子いいな、なんか秘訣あるのか?」
「そう見える?」
「うん、なんか彼氏いた時よりも可愛いじゃん」
「またまたー、相田くんは本当に…揶揄われたよって希美さんに言うからね」
希美さんていうのは相田くんの年上の奥さんで、2人が付き合っている時に会社の忘年会によく相田くんに付き添って来ていた。女子同士話す事があって、よく恋愛相談をしてもらっていたので頼れる姉さん的な存在だ。
「げっ、やめてやめて…最近のアイツは妊娠中だから神経質なんだよ」
「あっ、2人目だっけ?おめでとう」
「さんきゅー、いやー今回はどっちなのか楽しみだな」
相田くんは物凄くお調子者なんだけど、希美さんや娘を溺愛しているのだ。俺は姉さん女房に尻に敷かれてる旦那なんだ、と言いつつその顔は嬉しそうで羨ましい。
「…いーな…私も結婚したいな」
ふと口から漏れた言葉で、頭に浮かんだのは秋人の顔だ。
「いるんじゃないの?そんな相手」
「…ううん…いないよ」
不思議そうな顔をした相田くんへの返事が遅れてしまう。誰にも言えないこの関係が酷くもどかしい。前の彼氏と付き合っていた頃には考えられなかったことが、当たり前に起きている。
――身体だけの、関係…だったのに最近では他愛のないメッセージもやり取りするようになったし…帰る時間が合えば一緒に帰ってる
そのまま自分の家へと帰る日もあるし、少しだけエッチして帰る時もある。けどやっぱり金曜日だけは、タガが外れたようにお互い求めあってしまうのだ。
「ふーん、そうなんだ…内藤も彼女居ないみたいだし、お前ら失恋した者同士付き合えば?」
「えっ?なんで?」
突然相田くんの口から出てきた秋人の名前に、どきっとする。
「アイツも仕事ばっかりでさー、もう吹っ切れたのか?」
「…吹っ切れたって?」
秋人の過去好きだった人も付き合っていた人も聞いたことがなかった私は、相田くんの言葉に思わず聞き返してしまった。
「アイツ入社した時から好きな人いたんだよなぁ、一度だけ酔い潰れた時そう言ってたから本当だと思う」
「…そう…なんだ」
――そんなの知らない
私とは身体の関係だけだと、言われればそれまでだけど…少し距離が近づいたと思ったのは気のせいだったのかもしれない。
「まっ、今度飲み会やろうぜ」
「うん…わかった」
そう言って相田くんは片手を上げて歩き始め、私はぽつんと取り残された。
***************
――別に、この関係に名前は無くてもいいじゃん
――でもあやふやな関係はいや
――付き合って欲しいって今更言うの?
――そもそも秋人は私の事好きなの?
――私は…彼の事好きなの?
ぐるぐると頭の中を回る私の想いが、会議を開いているように意見交換をしている。
「先輩?どうしたんですか?」
自分のデスクに戻り、パソコンの前から動かない私を後輩が心配する。
「あ…ううん、何でも」
横にいた後輩の方に振り向いた時に、今そこに座る後輩くんの席で秋人が座っていた事を思い出した。
――っ…やだっ
急に湧き上がったのは、彼との関係が終わる事を一瞬想像して否定する自分の気持ち。いつか誰かのモノになるの嫌だし、ああいう事、私以外として欲しくない。そう思った直後、自分が秋人を好きなのだと理解した。前の彼氏や今まで好きだと思って付き合ってきた人達とは違う、猛烈な独占欲とまだ見ぬ未来の彼女達に嫉妬をしてしまう。
「先輩?本当に大丈夫ですか?」
なおも心配する後輩くんに何とか笑顔を見せて、席を立った。
【大事な話があるの】
それをSNSのメッセージアプリで送ると、数分後に既読になり、彼から了承の返信された。
返事をくれるまで、じっと携帯画面を見つめていた事に気がついた時には、この関係を終わらせたくない別れたくないと涙が出てしまった。
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