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9 異変
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あと数日で目的地へ着こうとするある夜、珍しくイルゼ様のテントにイルゼ様の他に3名の軽傷者がいた。一人一人治療をしていると、長旅で疲れた騎士団員はすぐには自分のテントに帰ろうとしないで雑談をしている珍しい日だ。
「しかしよー、早く着いて欲しいわー」
顎髭のイルゼ様よりひと回り小さな団員が話す。
「そうだよなーミズナトス地方にいるのが可愛い子だといいなぁ、そうですよね、団長」
メガネをしたシュッと細長い、軽薄な騎士団が話す。
「ん?…ああ」
最近上の空の団長に話しかけるのは、彼の部下達だ。
「…どうして可愛い子なんです?」
話の内容が見れなくて、聞いてみると、みんながびっくりした目で私を見た。
「…どうしてって…そりゃ、可愛い子の方が楽しいからだよ」
おかっぱ頭の私より少し背の高い団員――サトルが話す。
「楽…しい?」
最近他の団員とも話すようになったので、雑談をする事が増えてきたのだけど、今までしてきた会話の中にも"可愛い子"に関する情報がなかったので、返答を聞いてもさっぱりわからない。
「…まさか…お前」
――えっ?急に正体バレちゃった…?
と焦ったが、
「だははっまさか童貞だったとはなっ!…まあ、魔法省の奴らなんだそこら辺の女とは出来んだろ」
1人が笑いだすと、他の団員も笑い出し、流石にバカにされていると感じ取る。
「酷いですね」
ムッとすると、団員が珍しく慌て出した。
「悪い悪い、そうだよな、レットは良くしてくれてるのにさ」
顎髭の団員――通称ヤマさんが私に謝る。
「そうっすよ、ヤマさん酷いですって」
メガネの団員――通称リヒトがヤマさんを嗜めたが、にやにやしているから絶対に面白がっていると確信した。
「じゃ、説明すっか」
そう言って、私をヤマさんサトルさんの2人の団員が囲み、説明を始める。
「まず、男は溜まるものだ」
「…溜まる…?はい」
最初から意味が分からなかったけど、とりあえず頷いた。
「そして遠征、誰も知らない土地とくれば…わかるだろ?」
「…はぁ」
さっぱり分からなくて、もう頷けもしないでいると、
「つまり、男の性欲を満たす娼館へ行くってこったな」
「はっ?!しょっ…娼館っ?!」
と顎髭のヤマさんにに思ってもみない事を言われ、素っ頓狂な声が出てしまう。
「全くこれだから童貞は」
とおかっぱ頭の団員サトルさんはにやっと笑い、困ったヤツだと言わんばかりに私を憐れんでる。
「…お前らこの辺にしとけ…ミシェルの弟子だぞ、アイツに揶揄ってる事を知られたら…分かるな」
どう反応していいのか困っていると、ずっと成り行きを見守っていたイルゼ様が他の団員を嗜める。
すると、ミシェル様の名を出した途端に、ヤマさんとサトルさんは顔を青ざめてガタガタお震え出した。
「おまっ…お前っこっ、こ、こここのことはミシェル殿にはっ言うなよっ」
「そそそそ、そうだっ、絶対に言うなよっ」
ミシェル様に何を言ってはダメなのか、分からなくて首を傾げると、テント内に黄色とオレンジ色の光が現れた。
「ひぃっ!!」
小さな悲鳴を上げたサトルさんは、ヤマさんの後ろへと隠れた。
「…随分、可愛がってくれてるね?うちの弟子を」
にっこりと微笑む顔は優しそうなのに、目が笑っていない。
「ミシェル様」
彼のそばに寄ると、私を見て一度頷いた。
「…悪い、今日はもうレットを連れてく」
「別にいいが…どうした、問題か?」
「まぁ…そんなとこ…しばらくレットも転移出来ないから代わりに僕が来るよ」
ミシェル様はにっこり笑い、私が施した回復魔法で快方した3人を見ると、軽症だった3人は途端に固まった。
「ミシェル止めろ…回復魔法はいらん、大してケガしてないしな、念のため2日後に来てくれると助かる」
イルゼ様はため息を吐きながら、ミシェル様に提案すると彼は頷いた。
「…わかった、2日後なら大丈夫だろう…レット行くぞ」
「っ…はいっ!」
突然やって来て私を連れて帰るなんて初めてで、何か重大な事が起こったと感じた。ミシェル様のそばへと寄ると、円を描く光に包まれ辺りが真っ白になった。
***************
「…君は…あのね、あんなの適当にあしらってればいいのだよ」
転移先はミシェル様の大臣室で、彼は机に向かうと置かれた書類を取り出した。
「…あの、何か問題でも…?」
まさかそれを言うために私を迎えに来たのかと思っていると、
「…そんなわけないでしょ、転移魔法なんて高位な魔法はぽんぽん出来ないよ」
それならどうして、とミシェル様を見ると、
「日に日に軽症とはいえ、ケガにが出ている…間もなくミズナトス地方の目的地であるタールに到着する…ミズナトスは治安が良いが…その道中が不安だ…君を送った後周辺を調べたら盗賊が頻発する場所だと判明した…だから戻す」
「そんなっ!私まだちゃんと」
私が派遣されているのは負傷者を回復させる事だと思っていたのに、連れ戻されて納得がいかない。
「君は公爵令嬢なんだ、傷一つ付けたら僕の責任問題にもなるし、連れたイルゼの責任にもなる」
しかし、ミシェル様は私の言葉を強めに遮ると、私をじっと見つめた。
「…ミシェル様…と…イルゼ様の…」
「そうだ、この10日間、君はよく頑張ったよ」
傷なんて治せばいい、とはいかないみたいだった。
***************
程なくしてイルゼ様率いる騎士団が、ミズナトス地方のタール漁港に着いたと、知らせが到着した。
「しかしよー、早く着いて欲しいわー」
顎髭のイルゼ様よりひと回り小さな団員が話す。
「そうだよなーミズナトス地方にいるのが可愛い子だといいなぁ、そうですよね、団長」
メガネをしたシュッと細長い、軽薄な騎士団が話す。
「ん?…ああ」
最近上の空の団長に話しかけるのは、彼の部下達だ。
「…どうして可愛い子なんです?」
話の内容が見れなくて、聞いてみると、みんながびっくりした目で私を見た。
「…どうしてって…そりゃ、可愛い子の方が楽しいからだよ」
おかっぱ頭の私より少し背の高い団員――サトルが話す。
「楽…しい?」
最近他の団員とも話すようになったので、雑談をする事が増えてきたのだけど、今までしてきた会話の中にも"可愛い子"に関する情報がなかったので、返答を聞いてもさっぱりわからない。
「…まさか…お前」
――えっ?急に正体バレちゃった…?
と焦ったが、
「だははっまさか童貞だったとはなっ!…まあ、魔法省の奴らなんだそこら辺の女とは出来んだろ」
1人が笑いだすと、他の団員も笑い出し、流石にバカにされていると感じ取る。
「酷いですね」
ムッとすると、団員が珍しく慌て出した。
「悪い悪い、そうだよな、レットは良くしてくれてるのにさ」
顎髭の団員――通称ヤマさんが私に謝る。
「そうっすよ、ヤマさん酷いですって」
メガネの団員――通称リヒトがヤマさんを嗜めたが、にやにやしているから絶対に面白がっていると確信した。
「じゃ、説明すっか」
そう言って、私をヤマさんサトルさんの2人の団員が囲み、説明を始める。
「まず、男は溜まるものだ」
「…溜まる…?はい」
最初から意味が分からなかったけど、とりあえず頷いた。
「そして遠征、誰も知らない土地とくれば…わかるだろ?」
「…はぁ」
さっぱり分からなくて、もう頷けもしないでいると、
「つまり、男の性欲を満たす娼館へ行くってこったな」
「はっ?!しょっ…娼館っ?!」
と顎髭のヤマさんにに思ってもみない事を言われ、素っ頓狂な声が出てしまう。
「全くこれだから童貞は」
とおかっぱ頭の団員サトルさんはにやっと笑い、困ったヤツだと言わんばかりに私を憐れんでる。
「…お前らこの辺にしとけ…ミシェルの弟子だぞ、アイツに揶揄ってる事を知られたら…分かるな」
どう反応していいのか困っていると、ずっと成り行きを見守っていたイルゼ様が他の団員を嗜める。
すると、ミシェル様の名を出した途端に、ヤマさんとサトルさんは顔を青ざめてガタガタお震え出した。
「おまっ…お前っこっ、こ、こここのことはミシェル殿にはっ言うなよっ」
「そそそそ、そうだっ、絶対に言うなよっ」
ミシェル様に何を言ってはダメなのか、分からなくて首を傾げると、テント内に黄色とオレンジ色の光が現れた。
「ひぃっ!!」
小さな悲鳴を上げたサトルさんは、ヤマさんの後ろへと隠れた。
「…随分、可愛がってくれてるね?うちの弟子を」
にっこりと微笑む顔は優しそうなのに、目が笑っていない。
「ミシェル様」
彼のそばに寄ると、私を見て一度頷いた。
「…悪い、今日はもうレットを連れてく」
「別にいいが…どうした、問題か?」
「まぁ…そんなとこ…しばらくレットも転移出来ないから代わりに僕が来るよ」
ミシェル様はにっこり笑い、私が施した回復魔法で快方した3人を見ると、軽症だった3人は途端に固まった。
「ミシェル止めろ…回復魔法はいらん、大してケガしてないしな、念のため2日後に来てくれると助かる」
イルゼ様はため息を吐きながら、ミシェル様に提案すると彼は頷いた。
「…わかった、2日後なら大丈夫だろう…レット行くぞ」
「っ…はいっ!」
突然やって来て私を連れて帰るなんて初めてで、何か重大な事が起こったと感じた。ミシェル様のそばへと寄ると、円を描く光に包まれ辺りが真っ白になった。
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「…君は…あのね、あんなの適当にあしらってればいいのだよ」
転移先はミシェル様の大臣室で、彼は机に向かうと置かれた書類を取り出した。
「…あの、何か問題でも…?」
まさかそれを言うために私を迎えに来たのかと思っていると、
「…そんなわけないでしょ、転移魔法なんて高位な魔法はぽんぽん出来ないよ」
それならどうして、とミシェル様を見ると、
「日に日に軽症とはいえ、ケガにが出ている…間もなくミズナトス地方の目的地であるタールに到着する…ミズナトスは治安が良いが…その道中が不安だ…君を送った後周辺を調べたら盗賊が頻発する場所だと判明した…だから戻す」
「そんなっ!私まだちゃんと」
私が派遣されているのは負傷者を回復させる事だと思っていたのに、連れ戻されて納得がいかない。
「君は公爵令嬢なんだ、傷一つ付けたら僕の責任問題にもなるし、連れたイルゼの責任にもなる」
しかし、ミシェル様は私の言葉を強めに遮ると、私をじっと見つめた。
「…ミシェル様…と…イルゼ様の…」
「そうだ、この10日間、君はよく頑張ったよ」
傷なんて治せばいい、とはいかないみたいだった。
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程なくしてイルゼ様率いる騎士団が、ミズナトス地方のタール漁港に着いたと、知らせが到着した。
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