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第1話 転生したら幼女の悲鳴が聞こえたので!

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「やだっ! たすけてーっ!」

「馬車から飛び降りるなんて無茶しやがって!」

「お前は家族に売られたんだよ! 諦めろ!」

 鉄の首輪をつけられた銀髪の少女が、人相の悪い二人組に馬車へ押し込まれそうになってる!

「マキナ、あいつらは盗賊なのか!?」

 俺の呼びかけに応えて頭の中で、棒読みの声が響く。

『いいえ、奴隷商人です。商品である少女を馬車に無理やり乗せようとしています。』

「よし、絶対に助ける!」

 夢にまで見たシチュエーションだし、ここはひとつヒーローっぽく決めるぞ! 

「その子から汚い手を放せ、悪党どもッ!」

 街道沿いの大きな岩の上に乗って腕組み!
 もちろん逆光を背負うのは基本中の基本!

「なんだテメェ!?」

「もうすぐ冬だってのに寒そうな格好しやがって!」

 あれれ? 俺のビジネススーツがいつの間にかボロボロになってる?
 そっか、悲鳴を聞きつけて超高速移動で走ってきたから空気摩擦で燃えちゃったんだな。
 これといって熱さは感じなかったけどなぁ?
 服どうしよう……いや、今は女の子が先だ!

「……俺の中のマキナが叫んでいる。お前たちが人さらいの悪党であるとッ!」

 顔を半分くらい隠しながら決めゼリフっぽく叫んでみたけど、すぐにマキナからツッコミが入った。

『いいえ、タカシさん。私は叫んでいませんし、彼らは人さらいでもありません。奴隷商人です。』

「で、でも犯罪者ではあるんだろ!?」

『はい。間違いなく彼らは犯罪者です。』

 奴隷商人たちが困惑している。
 
「早口でベラベラ喋りやがって! わっかんねぇよ!」

「いや、聞き取れないほどの早口って。おい、こいつもしかして伝説の――」

【素早さ】を10から100に上がった弊害かな?
 今はステータスが常人の十倍になってるから、どうも俺の言葉が早口で聞こえるらしい。
 ちなみに【知力】200の拡張認識のおかげで連中の言葉はスローだけど聞き取れる。

 うーん、できるだけゆっくり喋ってみればいいのかな?

「あー。あー。どう? これで俺の言ってることわかる?」

「な、なんだよ。フツーに喋れるんじゃねえか」

「バゾンドだと思って焦ったぜ……」

 早口野郎バゾンド
 聞いたことない言葉だし、この異世界特有の悪口か何かかな。

 というか、あいつらの喋ってる言語は日本語じゃないぞ。
 それなのに理解っていうか、推測できるのが謎すぎる。
 しかも俺も喋れてるんだけど、どういうこと?
 これもステータスが十倍になってる恩恵かな?

「で、なんなんだ。俺らの商売を邪魔しようってんなら承知しねえぞ」

 奴隷商人のふたりがシャキンと剣を抜く。

「――剣を向けたってことは、やられる覚悟もあるんだな?」

 超高速移動を開始!
 時間停止したみたいに突っ立ったままの奴隷商人たちに、ゆっくりと近づく。

「悪党とはいえ人間相手に暴力をふるうのは気が引けるな」

 とりあえず彼らの上着を脱がしてから岩の上に戻った。

「うーん、ちょっと借りようかと思ったけど汚いし臭いからパスだわコレ……」

「ゲェーッ! それは俺たちの上着!」

「いつの間に!? 返しやがれ!」

 凄む奴隷商人たちにニッコリと笑い返した。

「服とその子を交換ってことでどうだ?」

「ざけんなこら!」

「ぶっ殺してやる!」

 超高速移動でしゅんしゅんしゅん。
 奴隷商人の服をさらに脱がしていく。

「どうなってんだ! オレの服が……!」

「ひいいっ!」

 奴隷商人たちが泣きながらしゃがみ込んだ。

「武士の情けと思って下着だけは残したけど、まだやる?」

「わ、分かった! この娘は渡すから服を返してくれー!」

こごえ死んじまうよぉー!」

 超高速移動で連中の服を放り捨ててから戻ってくる。

「あっちの森に捨ててきた。凍死したくないなら、がんばって走るんだね」

「ヒイィィィ!」

「やっぱバゾンドだったぁぁっ!」

 騙し討ちを警戒したけど、奴隷商人たちは森の中に逃げていった。

「さて、と。大丈夫?」

 馬車の中でこちらを茫然と見つめていた銀髪の少女に近づく。
 たぶん四、五歳くらいかな? ものすごく痩せてて、肌も白いっていうより青白い。
 目がくっきりとした赤色をしていて、銀髪赤眼とかラノベかよって思ってしまった。

「えっと……」

 怯えたように赤い瞳を揺らす少女を、ジッと見つめ返してしまう。
 俺とは似ても似つかない顔立ちなのに、何故か鏡を見ている気分になった。
 人生八方塞がりで逃げ道もなく、がむしゃらに働くしかなかった自分自身を。

 こちらが一歩近づくと、女の子がビクッと震えて目をそらした。

「俺は彼方高至カナタタカシ。君の名前は?」

 少女へ手を伸ばす。
 これ以上は怖がらせないよう精一杯の笑みを浮かべながら。

「……ルナ」

 一瞬だけ迷いを見せた少女は、おずおずと俺の手を取った。
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