好きだから傍に居たい

麻沙綺

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ここでもか…遥

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 待ち合わせ場所は、実家が経営してるホテル。
 そこの正面玄関に車を止めた。

 俺は車から降り、助手席に回り込むとドアを開け、亜耶に降りるように促す。
 亜耶がゆっくりと降りてきて、上を仰ぎ見ている。
 ボーとしてる亜耶に。
「ほら、中に入るぞ。」
 背中に手を廻して軽く押す。
 亜耶は、戸惑いながら歩を進める。
 自動ドアを潜ると。
「お待ちしておりました、遥様。お連れ様が展望レストランでお待ちです。私がご案内いたします。」
 支配人の井川が声をかけてきた。
 俺は、車のキーを井川に預ける。
「あぁ、ありがとう。亜耶、行くよ」
 直もキョロキョロと辺りを見渡してる亜耶の背を押す。
 目をキラキラさせて、可愛い姿を晒す亜耶を見て、井川がクスリと笑ったのを俺は見逃さなかった。
 こいつ、亜耶の事笑いやがった。
 俺が、睨み付けていると背広の端を引っ張られ。
「何で、支配人さんが遥さんの事知ってるの?」
 と不思議そうな顔をして、聞いてくる亜耶。
 ふと、俺、自分の事何も話してないことに気付き。
「あっ、そういえば亜耶には言ってなかったっけ……。俺の実家はホテル経営してるんだよ。ここもその一つだよ。」
 俺が、そう告げると亜耶が驚いた顔をする。
「まぁ、俺が継ぐわけじゃないけどな。」
 俺がそう呟くと亜耶がキョトンとした顔を見せる。
 エレベーターホールに着くと井川がボタンを押す。
 エレベーターが来るのを待っていると。
「おや、遥くん。君も今日はここで打ち合わせか何かか?」
 背後で声がして、振り返れば多田専務が立っていた。
「私もこれから商談なんだよ。」
 そう言い、亜耶の方に不躾な目線を送りながら。
「隣に居るお嬢さんは、遥くんには不釣り合いな相手ではないかね。私の娘との縁談を受けてくれないか?」
 何て言ってくる。
 不釣り合いだと。
 どこ見て言ってるんだこいつは。怒りを押さえ込みながら。
「これは、お久し振りですね、多田専務。こちらは私の妻の亜耶です。以後お見知りおきを。」
 俺は、笑顔を張り付けて亜耶を紹介した。
 誰が、お前の娘と結婚するかよ。って言うか出来るわけ無いだろ。俺は、とうに結婚してるんだよ。
 何て思いながら、亜耶の背を軽く押すと一瞬だけこっちに目を向けて。
「高橋遥の妻の亜耶です。何時も主人がお世話になってます。」
 亜耶が丁寧に尚且つ堂々と言葉を放った。
 おおっ。
 俺は、感嘆な言葉が出そうになり慌てて飲み込んだ。
 だって亜耶の口から "妻" という言葉が聞けるとは、思いもよらなかった。しかも、俺の事を "主人" と言ってくれたぞ。
 俺が感動してるのに横槍が入る。
「遥くん。冗談が過ぎますよ。こんな女子高生と結婚だなんて。まだ、うちの娘の方が遥くんとの年齢も釣り合いがとれますよ。」
 何て、苦笑しながら言ってくる多田専務。
 何だって?
 亜耶の事バカにしてるのか?
 お前のとこの娘に会ったことあるが、ケバくてバカ丸出しの娘じゃんか。
 何て、口が避けても言えない。
 何せ、俺の容姿や肩書きだけで近付いてきただけのお嬢さんは、こっちから願い下げだ。
 年齢だって、そうだ。
 高校生だからってなんだ。亜耶は、ちゃんとやることはやってくれてる。それに何より、俺の一番の癒しの存在なんだよ。
 それを……。
 ヤバイ、営業スマイルが崩れそうだ。
 そう思った時だ。
 エレベーターの入り口が開いた。
 そこから降りてきたのは。
「遥、亜耶。遅い!」
 そう口にした雅斗だった。
 救世主ごとくの登場っぷりだ。
 両親、兄弟以外で俺の事を唯一呼び捨てにするヤツ。
「雅斗……。」
 雅斗の姿を見て、多田専務の顔色が変わった。
 そりゃあそうだ。
 次期鞠山財閥を背負う雅斗が、社交界デビューをして無い亜耶の事を名前で呼べば、驚くだろう。
 多田専務は、亜耶と雅斗を交互に見ている。
 井川も同様だ。
 思わず吹きそうになったが。
「悪いな。学校を出ようとしたら、生徒に捕まってさ。」
 俺がそう言うと。
「そうか。今日からだったか、教師の仕事。まぁ仕方ないか。亜耶との事で何かあったんだろう。気にするな。」
 雅斗が思い出したかのように言う。
「……で、さっきから顔を青くしてる後ろの方は?」
 雅斗が、睨み付けるように言う。
 ああ、雅斗に目をつけられるとはな。
 俺よりも雅斗の方が怖いんだよ。
 嘘じゃないぜ。
 特に亜耶の事となるとなぁ、頭の回転が速いから、毒舌になるし……。
 俺は、どっちかというと頭より体が動く方だからなぁ。
「あぁ、うちの系列で働いてる多田専務。」
 俺は、軽く紹介した。
「そう。お初にお目にかけます。鞠山雅斗と申します。以後お見知りおきを。」
 雅斗が軽く頭を下げて言うが、頭も下げたくないだろうな。
 こいつの事だ敵認定して亜耶に近付けないようにするだろうなぁ。
 後ろにブラックオーラが降臨してるし……。
「ここの系列の専務をしてます。多田泰彦と申します。こちらこそ宜しくお願いします。」
 雅斗にビビって、声が裏返ってるし……。
「亜耶。今日一日大変だったんじゃないか?」
 雅斗が微笑みながら亜耶に声をかける。
 その笑みは、なんだか怖いぞ。
 って言うか、こいつ態と見せつけるように亜耶に聞いてるな。
 しかも、多田専務を無視するつもりだな。
 シスコンの雅斗らしい。
 まぁ、俺もそれで良いと思うから、あえて口にしない。
「うん。遥さん、スゴくモテるんだもん。それに、お兄ちゃんが言っていたブラックな遥さん、初めて見たよ。」
 亜耶が、楽しそうに今日あったことを言う。

 あ~、やってしまった。
 俺、マジで最悪。
 亜耶の前では、そうならないように避けてたんだが……。
 今日、何度も亜耶との事を否定され続けたから……。
 亜耶の報告を聞いて、雅斗も苦笑しながら亜耶の頭をポンと撫でる。
「おにい……ちゃん?」
 ボソりと呟く声が聞こえてきた。
 その声は、雅斗にも聞こえたらしく。
「えぇ。亜耶は、私の実妹ですが、それがどうかしましたか?」
 雅斗が、眉間にシワを寄せて怪訝そうに聞き返す。
 今になって、亜耶を侮辱したこと後悔してるんだろうな。
 顔面蒼白になってるし……。
「……いえ、別に……」
 別にって顔してねえよ。
 しどろもどろになってきてるしな。
 ここは、雅斗に任せるか。
「あぁ。亜耶が遥の妻ってことに納得がいってないんですね。亜耶は、高校生ですからね。年齢で釣り合いがとれてないって思ったんですね。ですが、当人同士も好き合っていますし、何より、鞠山財閥の元会長が認めたとなれば、話しは別でしょう。それに、この二人は約九年間、婚約者フィアンセでしたからね。頃合いだと思いますが。」
 雅斗の口から畳み掛けるような言葉が、次々と出てくる。
 流石だと思った。
 多田専務が、わなわなしてるし、井川はオロオロしてる。
 まぁ仕方ないか。亜耶のバックを知らなかったんだし……。
「それより、二人とも、皆が待ってるから行くぞ。」
 雅斗が、エレベーターのボタンを押す。
 辛うじて止まっていたそれに乗り込んだ。

「多田専務は、乗らないんですか?」
 俺は、冷静にそう言葉をかけた。
「いえ、私は他の用を思い出しましたので、これで失礼します。」
 そう言うと、踵を返して逃げるようにその場を逃げ出した。
 クックク……。
 俺は、笑みを圧し殺した。
 雅斗が、よほど怖いとみえる。
 井川も萎縮してる。

 まぁ、鞠山家に楯突くバカは、そういないだろうけど……。














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