偽りの姿(仮)

麻沙綺

文字の大きさ
33 / 51

33話 秘密事項

しおりを挟む


  駅前にあるカフェに入った。
  ドアベルが可愛い音を鳴らして、来客を告げている。

  席に着く前に。
「ゴメン、成瀬くん。電話してきてもいいかな?」
  彼の返事も待たずに、店の外に出て電話した。


『幸矢、どうしたの?』
  お母さんの心配そうな声に。
「友達と少し話をしてするから、帰るの遅くなる。」
  明るい声でそう答えた。
『うん、わかったわ。夕飯前には帰ってくるのよ。』
  お母さんの優しい声が、耳に届く。
「はーい。」
  私は、そう返事をして電話を切った。


  店のドアを開けて "チリン" 可愛いドアベルを鳴らして中に入る。

  中は、冷房がほどよくきいていて、涼しい。
  その中で、成瀬くんは、窓側の人目につきにくい場所に座っていた。
  私は、彼の場所に行き向かい側に腰を下ろし。
「待たせてゴメンね。」
  そう彼に告げた。
「否、構わないよ。」
  彼は、ニッコリと笑みを浮かべている。目は、笑ってなかったけどね。
「…で、何で此処に居るんだ? そもそも、あの日以来、人が変わったようになってたんだ?」
  続けざまに聞いてくる彼。
「その前に、注文しちゃわない?」
  だって、さっきから定員さんが自分達を睨んでくるんだもん。怖いよ。
「あっ、ああ。そうだな。」
  成瀬くんは、罰が悪そうな顔をして定員さんを呼ぶ。
「俺、アイスコーヒー。」
「私は、アイスミルクティー。」
  それぞれ注文する。

  オーダーをとった定員さんは、直ぐ離れていった。


  暫の沈黙の後。
「…で、どういう事か説明して。」
  成瀬くんの怒気を含んだ声が聞こえた。
  改めて決意し。
「あの日…、水恐怖症って言ったのは、嘘。私は、男じゃないから……。水泳の時だけ、私は図書館での自習してたの。これは、学園長の許可も取ってあるから……。その時に冬哉兄さんに告白されて、でも、男のままでは応えようがないし、ましてや、成瀬くんの事も宙に浮かせたままなのに……。これでいいのかって、悩んだんだ。」
  彼の顔を見て言えなくて、視線を下にして告げる。
「その前に確認させてくれ。お前は、女なんだよな?」
  彼の唐突の言葉に顔をあげ。
「女だよ。戸籍上は、男になってるけど、産まれたときから女だよ。」
  そう口にしてた。
「それで、納得した。高津先輩が、お前の事を偉く気にかけていた理由が。」
  成瀬くんが、呟いた。

  ?

  私には、訳がわからなかったが。
「話、戻しても?」
  そう彼に声をかける。
「あ、うん。」
  彼の言葉と同時に注文の品が届いて、一口それを口にし喉を潤すと。
「その日の内にお祖父様とお父様に相談をしに実家に戻ったら、私にそっくりな男の子が家に居てね。その翌日から、その子が私の代わりに学校に行くようになった。それと同時に私の居場所もなくなったの。彼が、私の名前を語る以上、同じ名前ではいられないしね。……で、私の心も壊れかけた。」
  淡々とあの日の事を口にする。
「壊れかけたって……。」
  心配そうな彼に。
「うん。自分が自分じゃないって言うのかな。綾小路幸矢は、一人しか要らない。だったら、私は、誰なんだろう? 自分の存在価値が、無くなったんだって思ったらね、心が死にかけてた。」
  私は、笑って話すが彼は憐れんだ目で私を見てくる。
  そんな目で見なくても、と私は、苦笑する。
「無理して笑うなよ。お前の存在価値は、俺が示してやるよ。どれだけオレが、お前を欲してるかでな。」
  彼が、真顔で言う。
「えっ……。」
  そんな風に言ってもらえるなんて思わなくて、自分でも驚いてる。
「俺、あの日以来。お前に近付かなくなってたよ。高津先輩も一度だけ教室に来て、直ぐにお前じゃないことに気付いて、それ以降クラスに来ることもなくなった。」
  そっか…。
  二人とも、私の事を見てたから、直ぐに気が付いたんだ。
「しかし、こうして会えてよかった。俺、告白したままもう会うことが出来ないんじゃないかって思ってたから……。」
  彼が、心底ホッとしてるのがわかる。
「ゴメンね。心配かけたよね。今は、こっちで穏やかに過ごせてるから、安心して。」
「幸矢。その喋り方が、本来の喋り方なのか?」
  彼の質問に。
「そうだよ。家に居る時は、常に自分の事を殺してきたから "女は捨てろ" って散々言われてきただから、本来の喋り方が出きる相手が、冬哉兄さんだけだったんだ。それ以外のところで喋れば、何処かでお弟子さんに見られてるかわからないから、出来なかった。って言うのが事実かな。」
  お弟子さんに見つかり、お祖父様に告げ口されたら、罰が与えられてたし。
「お前、何時気を抜くんだよ? そんなんじゃ、息が詰まるだろ?」
  俺なら無理だって顔をして言う彼に
「そうだね。幼少の時からこんな事してたからさ、慣れちゃってたんだよね。何処で、誰が見てるかわからない分、感覚が鋭くなっていくんだから、武道にはもってこいだったかな。」
  昔の事を思い出しながら苦笑をしながら告げる。
「なぁ、幸矢。お前、俺のものになら無いか?」
  唐突の言葉に驚愕する。

  どういう事?

  成瀬くんの顔を見る。
  彼は、真面目な顔をしていた。
「幸矢。お前は、柔道と剣道、どっちが得意なんだ?」
  何が言いたいのかわからないけど。
「どっちもいけるよ。ただ、大会とかに出るのは勘弁して欲しいかな。直ぐにばれて、連れ戻されるだけじゃすまないと思うから……。」
  私がそう言えば。
「それは、そうかもしれないが……。大会に出るんじゃなくて、家の道場で教えることって出きるか?」
  成瀬くんが、苦笑いをしながら言う。
  えっ、それって……。。
「家も、幸矢のところと同じでさ、道場を遣ってるわけ。で、師範代が足りてなくて、夏休みの間だけでもいいから、見てくれないか?」
  それは、とても嬉しいお誘いだけど。
「ゴメン。母と約束してるんだ。こっちに居る間(見つかるまで)は、武道の事を忘れるって。」
  約束は、守らないといけないよね。
「そっか。それじゃ無理には誘えないな。だけど、お前はこのまま逃げ隠れしたままでいいのか?」
  真顔で聞いてくる。
「う~ん。どうだろうね。母も病弱だし、かといって、簡単に戻れるとも思えないし……。表舞台に立っても、直ぐにばれちゃうだろうし……。」
  私が考え込んでいると。
「だったら、俺の婚約者としていればいい」
  とんでもない申し出に驚くことしかできなくて。
「何せ、俺はいまだにお前の事が好きなんだ。幸矢が、俺の前から突然居なくなって、焦った。でも、今、こうしてで会えたんだ。これも運命だと思うんだ。だから……。」
  真っ直ぐ私目を見て言ってくる彼に。
「成瀬くんの気持ちはありがたいけど、私はそれを受ける資格を持ち合わせていません。今の私は、庶民であり、ただの小娘です。貴方のような名家の人と婚姻を結ぶなんて、とんでもありません」
  私は、彼の申し出を断った。
「幸矢。返事は急がないよ。これ、俺の携帯番号。何時でも電話してくれればいいから。」
  切な気な目をして、メモを差し出してくる彼。
「じゃあ。」
  そう言って、伝票を持って行ってしまった。


  残された私は、どうしたらいいのか、考え込んでしまっていた。











しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

とある公爵の奥方になって、ざまぁする件

ぴぴみ
恋愛
転生してざまぁする。 後日談もあり。

処理中です...