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第3章「正義のシスター」

第36話「優しいんだね、アランは」

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 まてまて、魔法を封印された? だから、コップに水を入れなかったのか。出さないんじゃなくて、出せなかったのか。じゃあ、ジェナの家で魔物たちを従わせていたのは何だったんだ? あれは魔法じゃないのか?

「ライラ、魔法を封印されたってなんだ? ジェナの家で魔物たちを従わせていただろう。あれは魔法じゃないのか?」

「ううん、あれも魔法だよ。魔王が代々使える魔法。魔物たちを自分の歌や声で従わせられるの。勇者パーティーのやつが唯一封印できなかった、私の大事な魔法。まあ、それ以外は完全に封印されて、何も出来なくなっちゃってるんだけどね」

 そんなものがあるのか。なら、彼女の魔法を封印した奴、シスター野郎――おそらく、ナンシーを殺せばかなり強いはず。もし、その状態で最終的な目標であるアーサーを殺すのを協力してくれるのなら、かなり心強い。

 ……断る理由がないな。話を聞いている限り、僕とライラは似たような境遇だった。種族の違いはあれど、勇者パーティーにやられ、恨んでいる点は同じ。それに、さっき気付いたが、このまま彼女をこの国で野放しにするわけにはいかない。変に僕にまで足がついてしまうと、それこそ復讐の足枷になってしまう。これからすることを考えると、人手も欲しい。

 ……どうせ、復讐が終わったら生きているかなんて分かんないしな。

 少しの間伏せていた目をライラに戻すと、彼女は僕の様子を窺っているようだった。

「……分かった。僕の復讐を手伝ってくれ」

「私のお婿さんになってくれるの?」

「それ、ナンシーを殺して魔法を復活させてもならないとダメなのか?」

「ナンシーって誰?」

「勇者パーティーのシスター野郎だよ。勇者パーティーは勇者であるアーサーと、勇者教会のナンシー、今はこの二人だ」

「ふーん、あいつナンシーって言うんだ。……魔法が復活してもアランにはお婿さんになってもらうよ。魔族が少ないことには変わりないし、アランみたく強い奴じゃなきゃ、私もいやだ。それに、私の裸を見たし」

 何かと裸を見たことを持ち出してくるな。僕もわざと見たわけじゃないんだけど。婿にならないと自分の方が悪い気がしてくるから不思議だ。

 別に婿にならくてもいいとは思うけど――断っても折れそうにない。なにより、今は人手が欲しい。

「なるよ、なる。復讐が終わったらな」

「やった」

 ライラは本当に嬉しそうに笑った。なぜかリリーまで喜んでいる。僕を見ると、彼女はニヤッと笑った。あいつは何がしたいんだ。

「なあ、なんでそこまでするんだ?」

 僕の疑問に彼女は小首を傾げる。

「魔王様があんな所にいたってことは、もう魔族はボロボロなんだろ? 自分が生きることだけ気にしていればいいだろ。子供だって、別にお前じゃなくてもいいんじゃないか。俺のこと別に好きでもないだろうに」

「――優しいんだね、アランは」

「は? 何言ってんだ?」

「だって、そうじゃん。魔王だって聞いた上で私の心配をしてくれてるんでしょ? 無理してるんじゃないかって」

「いや……」

「アランはツンデレさんだからねー。ライラちゃんは覚えとくといいよ」

「うん、覚えておく」

 リリーとライラが妙な結束をする。僕は居心地が悪くなった。なんで、リリーはライラの味方ばかりするんだ。まったく。

「私のせいなの。魔族が勇者パーティーに負けたのは。私があいつらに勝てず、裏切られたせいで、みんな殺された……」

 ライラは目を伏せ悲しそうに言う。魔族のことはそんなに詳しいわけじゃない。ただ、僕の家族を殺したやつらくらいにしか思っていなかったから、調べることもしなかった。知っているのは、魔王がいて魔王軍がいたこと。そして、魔王は絶対的な力で決まっていること。魔族全員がひれ伏す力を持っているはずなのだ。ライラは。

 その彼女でも勇者パーティーには負けてしまった。結果、魔族は殺されたという。

「私には血を残して、魔族を存続させるくらいしか出来ないの。それは、シスター野郎を殺して、私自身の魔法が解放されても同じ。勇者パーティーがいようといないとも、私に出来ることは一つなの。私にとっては、しなくちゃいけないことなんだよ。お婿さんを作るのは」

 ライラにとって、お婿さんが大事なのはわかったが、なんで僕なんだ。他にも強いやつなんていくらでもいるだろうに。

「なあ、なんで僕なんだ。探せばいくらでもいるぞ、強い奴なんて」

「なに言ってるの、アラン。あの竜人に勝つんだから、かなり強いじゃん。それに、私をあそこから出してくれたのはアランだよ。魔族を存続させるためとはいえ、私だって誰でもいいわけじゃない。私を助けてくれて、強いし優しい。私にはアランしかいないんだよ?」

 ライラはブランケットから抜け出して、ベッドに手を付いて近付いて来る。紫色の瞳が僕を見つめる。ち、近い。それに、服がボロボロなせいで、目のやり場に困る。

 僕はどうしていいか分からず、彼女押し戻し、顔を横に向けた。

「ら、ライラ、近いって……」

「アラン、分かってくれた?」

「分かったって。だから、離れて」

 僕がそう言うと、彼女はようやく離れてくれたようだった。溜息をつき、ライラの方に顔を戻すと、リリーが小さく笑っていた。

「へえー、アラン、こういうのに弱いんだね。意外。いや、そうでもないかな?」

「リリー、本当に黙ってくれる?」

「はーい」

 なんで、こんなことに。協力してくれるのはいいけど、この先大丈夫だろうか。
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