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第1章 深緋の衝撃
第6話
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時間を燃料にとりとめもない会話が進む。気が付けば昼休みも残り十五分ほど。教室は談笑する生徒たちの声で波打っていた。
賑やかな雰囲気が満潮を迎えようとしているこの時間。弁当を片付けた誠也は「頃合いだ」というように、わざとらしくトーンを落として語り出す。
「いっちゃんと慧はさ、「夜中に街を徘徊するゾンビたち」の噂、知ってる?」
「いいや」
「ううん」
揃って否定の反応。「つれないなー」と肩を落とす誠也だったが、とっておきのネタなのか、諦めずに続ける。
「部活で話題になっててさ。夜中、バイトの帰りに商店街を一人で歩いてたら、真っ黒なゾンビがぞろぞろと路地裏に向かって行くのを見たんだって」
「それ、酔っ払いの集団じゃないのか? 千鳥足のおっさんとか」
「そんなんじゃない。陸上部の後輩によると、歩き方が不気味で、腕とか脚とか欠けてたそうだ。首がないのもいたらしい」
「…………」
「大事なのが、ゾンビを見たのが後輩一人だけじゃないってこと。塾に通ってる友達によると、ここ一ヶ月くらいの間、家に帰る途中で幽霊とか落ち武者とかを見た他校の生徒が何人もいるって話だ。桐朋病院、葉田公園、市営市場……もう、いろんな場所で」
「ゾンビ、幽霊、落ち武者。結局正体はなんだよ。だいたい、葉田公園ならまだしも、夜の廃病院と市場に入ったのはどうしてさ?」
「そこが分かっちゃったら面白くないだろ。とにかく、わけのわからない不気味なヤツらが、夜な夜な街中をうろついてるってこと。それだけでゾクゾクするだろ……!」
「…………」
いまいち要領を得ない誠也の怪談話にツッコミを入れてやる慧。その横で、一瑠は下を向いたまま口を閉ざしていた。
「一瑠、どうした? 怪談苦手だったけ?」
「────っ、ゴメン。ぼうっとしてた。深夜徘徊する人形の話、だっけ?」
「種類が増えたぞ誠也。噂話に尾ひれがつくのはよくあることだけど、流石にここまであやふやだと信憑性がなさ過ぎるんじゃないか?」
「いや。目撃情報が多いぶん、たくさんの人が見てるってことだろ。むしろ信じられる」
「…………」
思わず黙ってしまった慧。彼が会話の中で誠也に負かされることは珍しい。悔しさを覚えつつ「それでは、目撃者たちのいう謎の集団とは一体なんなのだろう」と気になりだした。
「一瑠も見たのか? その、変なヤツら」
「ううん。わたしも他の子から聞いただけ。……それでせいくん、その目撃者の人たちは見ただけ? 襲われたとか、そんな話は聞いてない?」
「いいや。オレの知る限りじゃあ、見たってだけだな。なんだよいっちゃん、怖いこと言うなあ」
自分の始めた噂話で恐怖する誠也であった。
「確かに、見たってだけじゃ怪談としては弱いな。二学期が始まる頃にアップデートしておいてくれ。上手くできたら、納涼にちょうどいいかもな」
「覚悟しておけよ。慧も、夜道には気をつけるんだな」
「ああ。さっそく明日の夜から明かりのある道を歩くことにするよ」
「夜までかかる予定があるのか。バイトか?」
「いや、明日はシフトじゃないんだ。明日は弓道部の送別会」
「うん。二年生の子たちが開いてくれるんだって。お好み焼き食べて、その後カラオケ」
慧の答えに、一瑠が補足を加えた。
「いいなー。うちもやってくれないかな、送別会」
「陸上部には、まだ走ってる三年生がいるだろ」
「そうだね。全員が引退してからじゃないと」
「ハハ、確かに。でもそれじゃあ、いつまでたってもできないじゃん」
快活という言葉がぴったりの笑顔で生涯現役宣言をした誠也。彼ならば卒業式も部活着で出席しそうだと、半ば確信してしまう慧と一瑠であった。
賑やかな雰囲気が満潮を迎えようとしているこの時間。弁当を片付けた誠也は「頃合いだ」というように、わざとらしくトーンを落として語り出す。
「いっちゃんと慧はさ、「夜中に街を徘徊するゾンビたち」の噂、知ってる?」
「いいや」
「ううん」
揃って否定の反応。「つれないなー」と肩を落とす誠也だったが、とっておきのネタなのか、諦めずに続ける。
「部活で話題になっててさ。夜中、バイトの帰りに商店街を一人で歩いてたら、真っ黒なゾンビがぞろぞろと路地裏に向かって行くのを見たんだって」
「それ、酔っ払いの集団じゃないのか? 千鳥足のおっさんとか」
「そんなんじゃない。陸上部の後輩によると、歩き方が不気味で、腕とか脚とか欠けてたそうだ。首がないのもいたらしい」
「…………」
「大事なのが、ゾンビを見たのが後輩一人だけじゃないってこと。塾に通ってる友達によると、ここ一ヶ月くらいの間、家に帰る途中で幽霊とか落ち武者とかを見た他校の生徒が何人もいるって話だ。桐朋病院、葉田公園、市営市場……もう、いろんな場所で」
「ゾンビ、幽霊、落ち武者。結局正体はなんだよ。だいたい、葉田公園ならまだしも、夜の廃病院と市場に入ったのはどうしてさ?」
「そこが分かっちゃったら面白くないだろ。とにかく、わけのわからない不気味なヤツらが、夜な夜な街中をうろついてるってこと。それだけでゾクゾクするだろ……!」
「…………」
いまいち要領を得ない誠也の怪談話にツッコミを入れてやる慧。その横で、一瑠は下を向いたまま口を閉ざしていた。
「一瑠、どうした? 怪談苦手だったけ?」
「────っ、ゴメン。ぼうっとしてた。深夜徘徊する人形の話、だっけ?」
「種類が増えたぞ誠也。噂話に尾ひれがつくのはよくあることだけど、流石にここまであやふやだと信憑性がなさ過ぎるんじゃないか?」
「いや。目撃情報が多いぶん、たくさんの人が見てるってことだろ。むしろ信じられる」
「…………」
思わず黙ってしまった慧。彼が会話の中で誠也に負かされることは珍しい。悔しさを覚えつつ「それでは、目撃者たちのいう謎の集団とは一体なんなのだろう」と気になりだした。
「一瑠も見たのか? その、変なヤツら」
「ううん。わたしも他の子から聞いただけ。……それでせいくん、その目撃者の人たちは見ただけ? 襲われたとか、そんな話は聞いてない?」
「いいや。オレの知る限りじゃあ、見たってだけだな。なんだよいっちゃん、怖いこと言うなあ」
自分の始めた噂話で恐怖する誠也であった。
「確かに、見たってだけじゃ怪談としては弱いな。二学期が始まる頃にアップデートしておいてくれ。上手くできたら、納涼にちょうどいいかもな」
「覚悟しておけよ。慧も、夜道には気をつけるんだな」
「ああ。さっそく明日の夜から明かりのある道を歩くことにするよ」
「夜までかかる予定があるのか。バイトか?」
「いや、明日はシフトじゃないんだ。明日は弓道部の送別会」
「うん。二年生の子たちが開いてくれるんだって。お好み焼き食べて、その後カラオケ」
慧の答えに、一瑠が補足を加えた。
「いいなー。うちもやってくれないかな、送別会」
「陸上部には、まだ走ってる三年生がいるだろ」
「そうだね。全員が引退してからじゃないと」
「ハハ、確かに。でもそれじゃあ、いつまでたってもできないじゃん」
快活という言葉がぴったりの笑顔で生涯現役宣言をした誠也。彼ならば卒業式も部活着で出席しそうだと、半ば確信してしまう慧と一瑠であった。
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