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1章
日が伸びて
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なんで日本には四季があるのか。
答えの出ない質問を心の中で唱える。
真上からガンガンと照りつける太陽に睨みをきかせる。
ダメだ、少し視線をあげるだけでも暑すぎる、眩しすぎる。
雪乃はふっと視線を下げる。
日本全体をドーム型の何かでおおってエアコンをつけてくれたらいいのに、そんなありえもしない話に脳を回転させていた。
本当ならもっと、別の今ぶち当たっている問題に思考を巡らせるべきなのは雪乃自身もわかっていた。だが、それよりも雪乃にとっては今の暑さの方が耐え難い問題だったのだ。
財布を開けば所持金は残り6800円。
普通ならばここで喫茶店に入れるくらいは残っている。
否、今雪乃は普通ではない状況なのだ。
母親のありえないまでの独裁教育に嫌気がさし家を飛び出して約1日、頼れる人もいないのに知らない土地に来てしまった。
夜通しバスの中で眠り続けて。
雪乃には今晩ネットカフェに泊まるという重要な目標があった。そのためには何としてでもこの6800円は使わずに置いておきたいのが雪乃の本音だった。
もう少しで電源がなくなりそうなスマートフォンを開く。
東京のど真ん中にGPSが光る。
はぁ……と息を吐きながら雪乃は出会い系アプリをいじる。
もうここまで来たらやれることは全てやる。
カラダだって売ってやる。
それくらい雪乃は切羽詰まっていた。
しばらく液晶とにらめっこしながらとぼとぼと歩いていると暑すぎて誰もいない公園へと辿り着いた。
少しはマシだろう、と大木の陰になっているベンチへと座る。
ピコン。
通知が来た。
今から会えませんか?
その一文に今、どこですか。
と愛想もなく返信する。
あ、やばい、電源切れそう。
そう思った時にフリーズし、画面が真っ暗になってしまった。
あ、切れた。
……どうしよう。
今からネカフェに行こうか。
そうすれば充電できる。それに暑さも限界だ。
雪乃は重すぎる腰をベンチからあげるとまたとぼとぼと来た道をもどる。
次第に先程の繁華街へと戻ってくる。
とりあえず目に付いたネカフェに入れば人工的に作り出された涼しい風に幸せを感じる。
はぁ……さよなら、私の全財産。
とりあえず6000円で居座れるところまで居座ってやろう、そのうち出会い系で男を引っ掛ければ今夜の宿にはなるだろう。
なんてったって私は女なんだから。
それくらいの気持ちで会員登録を済ませれば個室へと足を進める。
家から持ってきたボストンバッグから充電器を取り出してコンセントにさす。
携帯をセットして……と、うん。完璧。
雪乃は電源がつくまでしばらく横になることにした。
重いボストンバッグを抱えていた腕はもうパンパン、歩き回って疲れも少し感じていた。
心地よい涼しさに目を閉じる。
雪乃は急に不安になってきた。
これからどうなるんだろう……
じわりと閉じた瞳に涙が滲む。
誰も頼れる人なんていないのだ。
いっそ家へ戻ろうか。
いや、それではやっとの思いで出てきた意味が無い。
不安をかき消すように自分自身を元気づける。
その繰り返しのうち、雪乃はほんとうに眠りについてしまっていた。
ぱち、と目をあける。
今、何時だ。
所持金の兼ね合いもある。雪乃はたいそう焦りながら上体を起こした。
携帯の充電は満タン。
時計を見れば入室から4時間がたとうとしていた。
やばい……
急いでコンセントから充電器を抜き荷物を持って出る。
ネカフェの3時間パックを優に超え、3200円もかかってしまった。
これでいよいよ夜はネカフェには来れない状況になってしまった。
あーあ、やっぱり出会い系……しかないのかな。
そんな考えが頭をよぎる。
だが雪乃にも一応きちんとした貞操観念と危機感はある。
たまたまイケメンのそれこそ、やまぴーみたいな人に出会えてなおかつその人が聖人君子ならばいいが、世の中そんなに上手くはできていない。
誘拐されて殺される可能性も秘めている。
あまりにリスキーすぎる……いっそ夏だし、野宿の方がかえって安全なんではないか。
などというよく分からない議論を頭の中で繰り広げていた。
会計を終えて外に出れば再びモワッとした独特の暑さに全身が包まれる。
もう、あたりは薄暗くなっていた。
ふと、雪乃は涙を流しそうになる。
あまりに情けない自分に、どうすることも出来ない子供な自分に。
はぁ……雪乃は再び深いため息をはいた。
しばらく歩いてはみたものの、雪乃には帰る家も、戻る場所もない。
道端に座り込む。
ちょこん、と座れば昼間よりは涼しくなった風が雪乃の頬をかすめた。
ここには無慈悲な人間ばかりだ。
こんなにいたいけな少女が1人で座り込んでるのに誰一人声なんてかけてきやしない。
そう思って俯いていると雪乃の目の前に1足の靴が現れた。否、誰かが足を止めたのだ。
神様……!?なわけないか、と顔を上げるとそこにはいかにも俺かっこいいです、みたいな空気を纏った男性がこちらを見下していた。
見つめていたのではない、見下していたのだ。
「……なんですか。」
雪乃は不機嫌そうに問いかける。
「暑くないん?」
あ、意外といい声。
「涼しそうに見えますか。」
「……見えん。」
何がしたいんだこの人、と雪乃は心の中で唱える。
いかにも俺かっこいいですオーラとか出しちゃってさ、しかもなんかイントネーションおかしいし。
「……そんなとこおらんと、ついておいで」
雪乃は数秒固まったのち、ひとつの答えにたどり着いた。
……あ、もしかして、私、ナンパされてる?
答えの出ない質問を心の中で唱える。
真上からガンガンと照りつける太陽に睨みをきかせる。
ダメだ、少し視線をあげるだけでも暑すぎる、眩しすぎる。
雪乃はふっと視線を下げる。
日本全体をドーム型の何かでおおってエアコンをつけてくれたらいいのに、そんなありえもしない話に脳を回転させていた。
本当ならもっと、別の今ぶち当たっている問題に思考を巡らせるべきなのは雪乃自身もわかっていた。だが、それよりも雪乃にとっては今の暑さの方が耐え難い問題だったのだ。
財布を開けば所持金は残り6800円。
普通ならばここで喫茶店に入れるくらいは残っている。
否、今雪乃は普通ではない状況なのだ。
母親のありえないまでの独裁教育に嫌気がさし家を飛び出して約1日、頼れる人もいないのに知らない土地に来てしまった。
夜通しバスの中で眠り続けて。
雪乃には今晩ネットカフェに泊まるという重要な目標があった。そのためには何としてでもこの6800円は使わずに置いておきたいのが雪乃の本音だった。
もう少しで電源がなくなりそうなスマートフォンを開く。
東京のど真ん中にGPSが光る。
はぁ……と息を吐きながら雪乃は出会い系アプリをいじる。
もうここまで来たらやれることは全てやる。
カラダだって売ってやる。
それくらい雪乃は切羽詰まっていた。
しばらく液晶とにらめっこしながらとぼとぼと歩いていると暑すぎて誰もいない公園へと辿り着いた。
少しはマシだろう、と大木の陰になっているベンチへと座る。
ピコン。
通知が来た。
今から会えませんか?
その一文に今、どこですか。
と愛想もなく返信する。
あ、やばい、電源切れそう。
そう思った時にフリーズし、画面が真っ暗になってしまった。
あ、切れた。
……どうしよう。
今からネカフェに行こうか。
そうすれば充電できる。それに暑さも限界だ。
雪乃は重すぎる腰をベンチからあげるとまたとぼとぼと来た道をもどる。
次第に先程の繁華街へと戻ってくる。
とりあえず目に付いたネカフェに入れば人工的に作り出された涼しい風に幸せを感じる。
はぁ……さよなら、私の全財産。
とりあえず6000円で居座れるところまで居座ってやろう、そのうち出会い系で男を引っ掛ければ今夜の宿にはなるだろう。
なんてったって私は女なんだから。
それくらいの気持ちで会員登録を済ませれば個室へと足を進める。
家から持ってきたボストンバッグから充電器を取り出してコンセントにさす。
携帯をセットして……と、うん。完璧。
雪乃は電源がつくまでしばらく横になることにした。
重いボストンバッグを抱えていた腕はもうパンパン、歩き回って疲れも少し感じていた。
心地よい涼しさに目を閉じる。
雪乃は急に不安になってきた。
これからどうなるんだろう……
じわりと閉じた瞳に涙が滲む。
誰も頼れる人なんていないのだ。
いっそ家へ戻ろうか。
いや、それではやっとの思いで出てきた意味が無い。
不安をかき消すように自分自身を元気づける。
その繰り返しのうち、雪乃はほんとうに眠りについてしまっていた。
ぱち、と目をあける。
今、何時だ。
所持金の兼ね合いもある。雪乃はたいそう焦りながら上体を起こした。
携帯の充電は満タン。
時計を見れば入室から4時間がたとうとしていた。
やばい……
急いでコンセントから充電器を抜き荷物を持って出る。
ネカフェの3時間パックを優に超え、3200円もかかってしまった。
これでいよいよ夜はネカフェには来れない状況になってしまった。
あーあ、やっぱり出会い系……しかないのかな。
そんな考えが頭をよぎる。
だが雪乃にも一応きちんとした貞操観念と危機感はある。
たまたまイケメンのそれこそ、やまぴーみたいな人に出会えてなおかつその人が聖人君子ならばいいが、世の中そんなに上手くはできていない。
誘拐されて殺される可能性も秘めている。
あまりにリスキーすぎる……いっそ夏だし、野宿の方がかえって安全なんではないか。
などというよく分からない議論を頭の中で繰り広げていた。
会計を終えて外に出れば再びモワッとした独特の暑さに全身が包まれる。
もう、あたりは薄暗くなっていた。
ふと、雪乃は涙を流しそうになる。
あまりに情けない自分に、どうすることも出来ない子供な自分に。
はぁ……雪乃は再び深いため息をはいた。
しばらく歩いてはみたものの、雪乃には帰る家も、戻る場所もない。
道端に座り込む。
ちょこん、と座れば昼間よりは涼しくなった風が雪乃の頬をかすめた。
ここには無慈悲な人間ばかりだ。
こんなにいたいけな少女が1人で座り込んでるのに誰一人声なんてかけてきやしない。
そう思って俯いていると雪乃の目の前に1足の靴が現れた。否、誰かが足を止めたのだ。
神様……!?なわけないか、と顔を上げるとそこにはいかにも俺かっこいいです、みたいな空気を纏った男性がこちらを見下していた。
見つめていたのではない、見下していたのだ。
「……なんですか。」
雪乃は不機嫌そうに問いかける。
「暑くないん?」
あ、意外といい声。
「涼しそうに見えますか。」
「……見えん。」
何がしたいんだこの人、と雪乃は心の中で唱える。
いかにも俺かっこいいですオーラとか出しちゃってさ、しかもなんかイントネーションおかしいし。
「……そんなとこおらんと、ついておいで」
雪乃は数秒固まったのち、ひとつの答えにたどり着いた。
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