僕の忘れられない夏

碧島 唯

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 新たな決意――2

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 一休みして、店内を見渡す余裕が出来ると、アンティークの数々が美しい工芸品だけではなく、アクセサリーの類も飾りテーブルに置かれているのがわかった。
 マリアもこういったものが好きなのだろうかと横を見ると、きらきらした瞳でテーブルを眺めていた。
「マリア、こういうの好き?」
「ええ、とても綺麗ですもの。
 ほら、あのペンダントとブローチの細工、なんて綺麗なんでしょう」
 ひとつくらい、もらっていっても構わないんじゃないか、と僕は思ったけど、マリアはどうなんだろう。
 それは盗みです、神がお許しになりません、とか言うんだろうか。
 手に取ってもっとよく見てみたいという様子がありありとわかって、どうしようかと考えてしまう。
 入り口の方だけ見張っていれば大丈夫だろうか。
 店の奥の扉は全部開かないようにしたし、と立ち上がる。
「ちょっとだけなら、いいんじゃないかな。
 僕は店の外を見張ってるから、その間くらいは」
 マリアは嬉しそうにして立ち上がると、飾りテーブルにと近づいていく。
 ブローチを手に取ったり、ペンダントを自分の胸元に当ててみたり、やっぱり女の子だなぁ、なんて思わされる。
 白い指にアンティークの、赤い指輪が嵌められるのを見て、アリスもこういうの好きだったろうか、なんて思い出してしまう。
 アリスだったら何色の指輪だろうか、なんてマリアに重ねて想像して、やっぱり印象的な青い瞳に合わせた青い石の指輪だろうか、なんて考える。
 楽しげなマリアの様子を見ていると、指輪が一番気に入ったみたいで、何度も同じ指輪を外してはまた嵌めて、と繰り返していた。
「マリア、そろそろ……」
 名残惜しそうに指輪を外してテーブルに置こうとするのを見ると、やっぱり一個くらいはいいんじゃないかなと思えて言ってみる。
「どうせ閉店中だし、一つくらい、もらってもいいんじゃないかな?」
 ぱっと、僕を振り返り、期待に満ちた表情がいつになく、きらきらとしている。
「いいんでしょうか、本当に」
 そう遠慮がちに聞き返しながらも、指輪から手を離さないあたり、よっぽど気に入ったんだろう。
「でも……」
 指輪を手の中で弄りながら、迷っている様子にくす、と笑うと近づいて、テーブルに紙幣を数枚乗せる。
「じゃあ、それは僕からのプレゼントってことで」
 嬉しそうに頷いて、指に嵌めるマリア。
 嵌めてあげようか、なんて聞く暇もなかった。
「へぇ……綺麗だな」
 アンティークなんかまったく分からない僕が見ても、見事な細工で、真ん中の赤い石がとても綺麗だった。
「うれしい……シュウ。
 ありがとう」
 指輪を嵌めて嬉しそうに微笑むマリアにお礼を言われるが、実は紙幣も床に落ちていたもので……。
まぁ、それはマリアには言わないでおこう。
 外に出るともう陽が高く昇っていて、昼を少し回ったくらいだろうと思われる太陽の位置になっていた。
 眩しい太陽に手を翳したマリアの指輪が光って、本当は机に置いた金額より、すごく高価な物なのかも知れないと思わされた。
 ……だって、ガラスならこんなに綺麗に光ったりしないと思う。

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