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序章:箱の中身は最後の希望らしいですよ
箱の主が俺になったらしいですよ
しおりを挟む目が覚めると見たことのない天井だった。
「あ、起きた? おにーちゃん」
可愛らしいが、やけにキンキンした声が響く。主に頭に。
ぼーっとしたまま、声のする方を見ると、さきほどの少女が楽しそうに笑ってた俺を見てた。
「アタシ、おにーちゃんが自然に目を覚ますまで、無理に起こさないよう我慢して待ってたんだから! 偉いでしよー?」
先程の夢の中とはあまりにも違う、妙に軽い雰囲気で話す少女に戸惑いながら、なんとかベッドから上半身だけ起こす。
すると手に何か硬い感触。
見ればあの小さな箱を握っていた。
「ねぇ?! ちゃんと聞いてるの? おにーちゃん?」
ん? おにーちゃん? 俺に妹なんていたか?
駄目だ、まだ頭がぼーっとする。
思考がうまくまとまらない。
とにかく頭を働かせないと。
自分の名前くらいなら思い出せるはず。
くらくらしながら必死に思い出す。
俺の名前は、時逆 希望であってるはず。
年齢は十七歳、高校三年。
たしか空手部の部長をやってたはず。
最後の記憶は夏休みの前日。終業式に行くために玄関のドアを開けたところ。
両親は――健在。
キレると怖い姉と乱暴物の弟はいるが――妹はいない。よし!
「俺に妹はいない。おまえは誰だ?」
はっきりしてきた頭をふって問い返す。
「私はパンドラ! なんだ聞こえてるじゃないの。良かった良かった。譲渡失敗したのかと思ったよ」
「譲渡失敗? なんのことだ?」
キンキン喚きまくるうるさい少女はパンドラと名乗った。
夢の中とは違って色の派手さこそないが、露出多めの服と飛び出た大きな胸は夢にでてきたあの子と、おそらく同じ人物だろう。
胸から目を逸らせず直視したままだったが、嫌な予感がするフレーズを俺は聞きの逃さずにすんだ。
「譲渡? 一体何のことだ?」
「その箱の譲渡だよ! そこにあるでしょ? うまくいったんだから安心してよね!」
俺の視線に気づいたパンドラが、胸を隠し、いやーんと身をくねらせながら答えてくれた。
ちょっとまて。
名前がパンドラで持っていたのが箱ってまさか!?
これ、パンドラの箱か?
たしか、ゼウスって神がこの世の全ての厄災がつまった箱をパンドラにもたせて地上に派遣。
地上についた彼女は箱を開けてしまう。
そうして地上世界は厄災であふれかえってしまったって話のはずだ。
そんな、神話の物があるわけない。
「その箱って元は壺だった?」
「お! さすがオタクのおにーちゃん。よく知ってるね。慌てて閉めたら箱になったの!」
「オタクじゃねぇよ。厄災娘!」
「ひっどーいwww」
念の為のしつもんだったんだが――確定だ。
パンドラの箱は、古い文献では箱じゃなくて壺だったそうだ。
この少女ーーいや、見た目は少女のようだが、中身は俺よりずーっと年上だ。
なにせ、地上最初の女だ。
そして、厄災の詰まったーー壺? 箱? 面倒くさいから箱で統一しようーーを開けた張本人だ。
厄災娘と言われたパンドラは、ひどーいと言いながらも、全くこたえた様子もなくケラケラと笑っている。
「予想ついてるだろうけど一応言っとくね。今、この時から、その箱はおにーちゃんの物になりました! パチパチパチパチィー」
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