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序章:箱の中身は最後の希望らしいですよ

箱が異世界で厄災が怪物らしいですよ

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「今からその箱はおにーちゃんの物になりました! パチパチパチー」

 パンドラは手を叩きながら、口でもパチパチ言っている。
 譲渡って言葉から薄々気付いていたが、どうやら俺は箱を譲り受けたらしい。
 厄災が詰まっていたあの悪名高いパンドラの箱を。

 突拍子もない話だか、何かにが腹にストンと落ちる。
 俺にもこの箱がどんなものか、感覚として理解できてしまったのだ。

 事の大きさに軽くため息がでる。
 とりあえず落ち着こうと、俺はあたりを見渡した。
 比較的新しそうな赤っぽい木でできた壁と床、そして天井。
 今、座っているベッドも、同じ赤っぽい木でできてる。
 ベッドの左側にはパンドラがニコニコしながらパチパチとまだ拍手している。
 右側の壁には窓があって、鮮やかな青空と遠くまで延々と続く緑の草原が見えた。その更に奥には深緑の森が広がっている。

 ここ――どこだ?

「あ、ここがどこかわからなくて不安? 安心して異世界よ! 私がつれてきたの! 大変だったんだからー」

 全く見覚えのない景色を見て狼狽えている俺の心を読んだように、パンドラが説明してくれた。

 まったく安心できない回答と異世界というキーワード。
 これはあれか?
 唐突に一人の同級生のふにゃふにゃした顔を思い出す。
 そいつが読んでたラノベってのでよくある、異世界転移ってやつか?

 ちなみにパンドラの神話もあいつに聞いた知識だ。
 異世界という言葉に引きつった俺の顔を見てパンドラが心配そうに言う。

「そんなに考え込んじゃ体に毒だよ? とりあえずこの世界のことを説明するね」
 
 そう言って始まったパンドラの説明は、ワーとかキャーとかやけに擬音が多かった。
 なんとか理解してまとめてみる。

 まず、この世界の名前は【パンドラノン】
 そして、パンドラはこの世界の創造主。
 最初は会話の中にパンドラがたくさん出てきたり、パンドラとパンドラが会話するようなこともあってわけのわからない説明だった。

 一人のパンドラについて、このパンドラは〇〇と聞いたとき、やっと区別がついた。
 なんと、パンドラは一人じゃない。
 たくさんいるそうだ。

 自らの行いを悔み続ける【後悔のパンドラ】は、あのあとゼウスに迫られ、逃げるためにこの世界を作ったそうだ。
 だけど、ザウスは箱の厄災にパンドラを追いかけさせた。
 ゼウスの力のせいか、この世界で厄災は怪物の姿になっている。そして、【慈愛のパンドラ】の子供である人間を苦しめているらしい。

 【思慮のパンドラ】は【好奇心のパンドラ】に、厄災の怪物を滅ぼせそうな者をつれてくるよう頼み、【神秘のパンドラ】の厳正な抽選の結果選ばれたのが俺ってことらしい。

「って、抽選かよ!」

「そうだよ~。どうせ誰もたいしてかわらないからね! だけど……」

 パンドラがニッコリ笑うと口元に真っ赤な小さい三日月が生まれた。
 夢の中で見たあの赤い三日月だ。

「箱に残ってた最後の希望を受けとったのは希望のぞむの意志でしょ? 結構大事なんだよ。そういうのが」

 くっそ、なるほどな。
 痛いところをつかれた。
 そうだよ。
 確かにあの泣いていたパンドラーーたぶん【後悔のパンドラ】の涙をみて、なんとかしてあげたいと、他でもないこの俺が思ったんだ。
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