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七つの厄災【悲哀編】:悲しみは積み重なるものらしいですよ
はじめて遭遇する七つの厄災らしいですよ2
しおりを挟む「無様だな。ライオス」
ドラゴンは空から語りかけた。
「オイディプス様。どうか私に慈悲を! 私をお助けください!」
死にかけとは思えない大声でライオスが叫ぶ。
「良かろう、受け取るが良い。これが――我の情けだ!」
空が焼けた。ドラゴンの開いた口の中が真っ赤に輝く。
「やべぇ!」
俺は無我夢中で走った。空に集まっていく威圧感が、俺の背中を叩くように急かしてくる。
「――そ、そんな! オイディプス様! なぜ?! 私は! 私はあなたのために!」
遠くでライオスの叫びが聞こえた。あたりが昼間のように明るくなり――遅れて巨大な爆発音が聞こえる。熱が俺の背中が容赦なく焼いていく。後ろからの爆風に押し出されて、前のめりに倒れこんだ。これが竜の息吹か。
光が収まりそっと振り返れば、ライオスがいたあたりを中心に野球場くらいの焼け焦げた空間ができあがっていた。
「ほう。我がブレスを受けてまだ息があるか」
体中痛くて寝ていたかったが、しかたなく俺は立ち上がって空を仰ぐ。これがドラゴン――とんでもない威圧感だ。
「あんたが今回の騒動の元凶か?」
「クックックッ――そうだ。我は【悲哀の厄災】オイディプス。パンドラに拐かされし蛮勇なる者よ」
なるほど、全てお見通しってわけか――さて、どうする? あんな上空にいたら手も出せない。枝槍を作ろうにもまわりの木はどこかへ吹き飛んじまってる。だいたいあのドラゴンに木の枝が刺さると思えねぇ。
「どうした。困ったときはパンドラを呼ぶのではないのか? 今までの奴の使いは皆、我を見てそうしてきたぞ」
嘘だな。パンドラをおびき出す為だろう。厄災の目的はあくまでパンドラだってことか。
「パンドラからそんな話は聞いてねぇよ。それに、俺はあいつを助けるために異世界に来たんだ」
「ほう、自らの意志で来たとほざくか」
オイディプスがゆっくりと降りてきた。いつの間にか太陽は沈み、真っ黒になった空に大きな満月が出ている。月光に照らされたドラゴンの鱗は美しく、そして悲しげな蒼色だ。
「――でかい」
思わずつぶやいた。地上に降りてもなお、仰ぎ見ることしかできない巨体は、五階建てのビルぐらいありそうだ。
「――してどうする。啖呵を切ったはいいが、その小さき拳で我を屠れるか。ほれ」
オイディプスが顔を突き出してきた。完全になめてやがる。頭にきた。効くかどうかは関係ない。こいつも一発本気で殴らないと気が済まない。
ペチン――手のひらで竜の顎先を叩く。
「どうした! それだけか?――ぐぅ、何という悍ましい顔だ」
ドラゴンが俺の顔をみた。俺は手のひらを顎に当てたまま腰を落とし深呼吸。吸いきった息とともに一気に――放つ。洞窟を崩した技だ。
「グッ!?ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
巨大な首がのけぞる。今まで頑丈な鱗に守られていたせいで痛みに耐性がなかったんだろう、派手に叫びをあげている。
「意外と効くだろ?」
この技は表面を抜けて内部に響く。竜の鱗がどんなに硬くてもその先は肉だ。
撃った直後に俺は駆だす。オイディプスの腰の下、二〇メートルくらいある距離を、一気に背後にまで抜けると、右足に手のひらを当てて、再度――放つ。
「――ガアアアアアアアアア!」
叫びながらオイディプスが後ろにひっくり返る。俺は下敷きにならないよう走る。ちょっとでも逃げ道を間違えれば、一発でのし烏賊だ。
「お、おのれ!」
ははっ! 尻もちをついたのははじめてか? 俺は倒れたオイディプスの手に飛び乗り――おっと、握りつぶされてたまるか――胸元に向かって行く。奴の心臓を狙うためだ。だが、それには一つ問題がある。あの技は真下に放つことができない。あれは両足が地面についた状態で、上か横方向に力が生じるものだ。普通に殴っても竜の鱗には効かない。俺は考えながらも走りつづける。くっそ、ドラゴンを相手に人の技がどこまで通じるってんだ! なんかねぇのか!? ――俺は胸の上まで到達したがいい案が思いつかない。
「この我に恥をかかせるとは!許さん!許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
くっそ起き上がってきた。とりあえず自棄になって蹴ったり殴ったりしても全く効いてる様子がない。 どうする? どうする? 考えろ!
「くっそうぉぉぉ!!!!」
駄目だ! 根本的に力が足りない! 何が古武術だ! 何が許さねぇだ! 何が助けるだ! 何が気に入らねぇだ! 何が――何が最後の希望だ!
「#ノゾム=トキサカ_マスター__#の絶望を確認しました。Program Elpisを起動します」
頭の中に声が響く。なんだ、俺テンパってどうにかなっちまったか? 戸惑う俺を無視して、大量の情報が脳内を流れていく。厄災……絶望……希望……神……力……。
「パンドラ! こういうことはちゃんと説明しやがれ! アトラスモード!」
厨ニ臭い台詞を叫ぶと、全身に力がみなぎっていくのがわかる。オイディプスが起き上がり、振り落とされながら、俺は思いっきりオイディプスの腹を殴りつけた。爆発のような音がして鋼鉄を超える強度の鱗が拳の形にへこむ。――いける!
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
思いっきり空気を踏む。バンッと弾ける音がして、空気中を――森を衝撃派が走り抜ける。音速を超え空気を踏みしめた俺の足が、反発でロケットのように俺を突き飛ばす。もう一度オイディプスの胸をぶん殴る。あの巨体が吹っ飛んで、森の木々を次々なぎ倒していく。
「くっはははははっ! こいつはすげぇぇぇぇぇぇ!!」
箱の所持者が心の底から絶望したとき、五分間だけ神の力を行使できる。それが俺の脳内に流れた大量の情報が教えてくれた、最後の希望の正体だった。
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