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1.峠に入る
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「あ~、峠を越える時は、女人を連れて行かないほうがええだよ~」
とある山麓の村で、一行は老夫婦に警告された。
「ひどい目に遭うっちゅう話だ」
「んだんだ」
その老夫婦だけではない。道すがら、他の村人や旅人にも似た警告を受けていたため、峠に向かう前に一行の1人が皆に提案した。
「俺たちは依頼の品さえ採取できりゃいいんだし、全員で行く必要もないよな。念のため、峠に入るのは男3人だけにしとこうぜ」
黒髪の青年の言葉に仲間は賛成し、すんなり男女わかれて別行動となった。
男性グループは峠に生える希少植物の採取に、女性グループは別の材料となる魔物の討伐に赴く事になった。
村の宿で落ち合う約束をして、男3人は明るいうちに峠への道に入った。
峠の中間地点には、谷川へと下る道がある。谷川に沿って広がる森は、昼でも薄暗く【闇月の森】と呼ばれ、珍しい植物が生える場所だった。
依頼された植物、【闇月の星蘭】もそこにある。
木漏れ日の道が続く。
黒髪の青年が先頭に立ち、先へと進んでいく。
長めの黒髪を無造作に束ね、革製の衣服を重ね着しただけの軽装で、腰にはシンプルな剣を下げていた。
よくよくみれば整った顔立ちをしていた。だが落ち着きのない言動が、年齢よりもただ幼いという印象を与えた。
「見ろよ! あの木、岩を貫通して生えてる! すげえ」
「……お前、ちゃんと前方警戒しろ」
「してるだろ」
「注意散漫の塊だろ」
次を歩くのが銀髪の青年。
切れ長の瞳に長い耳を持つエルフ族だった。銀髪は乱れなく束ねられ、森色の長い外套を纏っていた。細身だが、足運びはしなやかで無駄がない。背中には長い弓を背負っていた。
先頭の男に先ほどから苛々して厳しい視線を向けている。
「まあまあ。今のところ何にも遭遇しとらへんし、例の植物も探さんとあかんやろ?」
最後尾を歩くのが、空色の髪の青年だった。東の辺境の訛りを話し、紺色の道着を着こんでいた。物腰は柔らく、穏やかに他の2人に語りかけていた。
「そうそう、この辺にも生えてるかもしれないし、ちゃんと見ていかねーとな」
「……お前、何も考えてなかっただろ」
「俺だってちゃんと探してたし。……あー、ええと、どんな花だっけ?」
エルフの青年は頭に手をやり、溜め息をつく。
「……『星屑みたいに密集した黄色の花』」
「あ、それ! 組合の人が言ってたな」
けろっとした顔で言う青年に、エルフは呆れて肩を竦めた。
「……それらしき花は見当たらないな」
「予定通り、峠を進まんとアカンみたいやな」
峠に入ってしばらくは、平和な時が流れていった。
とある山麓の村で、一行は老夫婦に警告された。
「ひどい目に遭うっちゅう話だ」
「んだんだ」
その老夫婦だけではない。道すがら、他の村人や旅人にも似た警告を受けていたため、峠に向かう前に一行の1人が皆に提案した。
「俺たちは依頼の品さえ採取できりゃいいんだし、全員で行く必要もないよな。念のため、峠に入るのは男3人だけにしとこうぜ」
黒髪の青年の言葉に仲間は賛成し、すんなり男女わかれて別行動となった。
男性グループは峠に生える希少植物の採取に、女性グループは別の材料となる魔物の討伐に赴く事になった。
村の宿で落ち合う約束をして、男3人は明るいうちに峠への道に入った。
峠の中間地点には、谷川へと下る道がある。谷川に沿って広がる森は、昼でも薄暗く【闇月の森】と呼ばれ、珍しい植物が生える場所だった。
依頼された植物、【闇月の星蘭】もそこにある。
木漏れ日の道が続く。
黒髪の青年が先頭に立ち、先へと進んでいく。
長めの黒髪を無造作に束ね、革製の衣服を重ね着しただけの軽装で、腰にはシンプルな剣を下げていた。
よくよくみれば整った顔立ちをしていた。だが落ち着きのない言動が、年齢よりもただ幼いという印象を与えた。
「見ろよ! あの木、岩を貫通して生えてる! すげえ」
「……お前、ちゃんと前方警戒しろ」
「してるだろ」
「注意散漫の塊だろ」
次を歩くのが銀髪の青年。
切れ長の瞳に長い耳を持つエルフ族だった。銀髪は乱れなく束ねられ、森色の長い外套を纏っていた。細身だが、足運びはしなやかで無駄がない。背中には長い弓を背負っていた。
先頭の男に先ほどから苛々して厳しい視線を向けている。
「まあまあ。今のところ何にも遭遇しとらへんし、例の植物も探さんとあかんやろ?」
最後尾を歩くのが、空色の髪の青年だった。東の辺境の訛りを話し、紺色の道着を着こんでいた。物腰は柔らく、穏やかに他の2人に語りかけていた。
「そうそう、この辺にも生えてるかもしれないし、ちゃんと見ていかねーとな」
「……お前、何も考えてなかっただろ」
「俺だってちゃんと探してたし。……あー、ええと、どんな花だっけ?」
エルフの青年は頭に手をやり、溜め息をつく。
「……『星屑みたいに密集した黄色の花』」
「あ、それ! 組合の人が言ってたな」
けろっとした顔で言う青年に、エルフは呆れて肩を竦めた。
「……それらしき花は見当たらないな」
「予定通り、峠を進まんとアカンみたいやな」
峠に入ってしばらくは、平和な時が流れていった。
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