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第二話

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鍛練と研鑽の日々に明け暮れていたある日。
久しぶりに朝から戻ってきた父は、朝食の時にこんなことを切り出した。

「そういえば、お前はもう十五歳になるんだったな」

「あ、はい。そうです父上。はは、あんまり自分の歳なんて考えてこなかったなぁ」

「うむ、それぐらいは気を回せるように、適度に休息は取るべきだが……まあ言いたいことはそうじゃないんだ。そろそらお前にも専属メイドをつける頃合いかなと思ってな」

「僕に専属メイドですか…………え、ええ!!」

「なんだ騒々しい。驚くことか」

「だ、だって、領主の専属メイドってその…………」

その意味は、すなわち、あまりこういう場所で言いたくない関係や行為を行うことで……うぅ。
頬が熱くなっていく。
勉学で知識はあるはずなのに。

領主が扱うデウスマキナ。
この兵器には使うために、魔力とは違う別の力が必要だった。
それのことをエーテルと呼び、その精製方法が、契約した異性との性行為だったのだ。
そのため、領主は多くの専属メイドと契約を交わし、定期的にその……セックスをしなくてはならない。

すると、ため息をつく父。

「むしろ男なら喜ぶと思ってくれたんだが……ふむ、大丈夫か? 実は男が好きなんだとか言わないよな?」

「それは違いますけど……でも、いいんですか?」

「いずれは経験することだ。早い内から慣れた方がいい」

という父の言葉に、メルティがクスクスと思いだし笑いをしていた。
父の専属メイドである彼女は、それはすなわち、父とあれなことをしているのであって……。
いやまあ、実際しているところを見たことがある。
普段は穏やかで、凛としている彼女がベッドの上であんなに激しく乱れていたのを、僕は目撃してしまった。

「候補はもうこちらで目星をつけた。そういうことに手慣れている人材だ」

「そ、そうなんですか?」
 
「……誰が情操教育をしてやったんだ。もう少し喜んでいいんだぞ」

そうなんですが……やっぱり恥ずかしいというか。
最初の授業の時から恥ずかしかったのに……実際にするなんてあったらどうしよう。
気持ちいいんだろう。
あれほど激しく交じり合っている二人をみる限り。
僕もしてみたい心はあった。
でも罪悪感というか、なんというか。

結局話はトントン拍子に進み、午後の勉学の代わりに初めての契約と相成ることになった。
儀式の間と呼ばれる祭壇がある部屋で、決まり通りの礼服姿で待っていると、父が僕の専属となるメイドをつれてきた。

い、いけない。
尻込みするな、僕は領主となるために沢山研鑽を積んできたんだ。
これもその一つと思えばいい。

熱い頬のまま、やってきたメイドをみる。
黒い短髪に凛としたたたずまい、琥珀色の瞳とやや若干小麦色の素肌が健康的で、魅惑な空気を纏うような顔立ちはまさしく美女と呼ぶにふさわしいものだった。
オルティア家の正式採用されているメイド服に身を包み、洗練された礼儀作法で頭を下げてくれる。

「待たせたな、彼女が今日からお前の専属メイドとなるアリシアだ。つい先日メイド養育学校から首席卒業した逸材だぞ」

「ご紹介にあがりましたアリシアでございます。初めましてカリム様。ご尊顔を拝見する名誉、誠に勿体無き栄誉でございます」

挨拶の言葉で我に返ると、僕は慌てて応えた。

「あ、えと、はい。よろしくお願いします」

「では契約を始める。神父!」

控えていた神父が呼ばれると、祭壇中央に僕とアリシアだけが残るように言われて、父は下がる。
な、なんだか結婚式みたいだ。
いやいや、そういうもんじゃないし。

「……どうかなさいましたか? カリム様?」

「え!? い、いやまあ、うん。大丈夫、です」

け、契約したらこの人は僕とその……定期的にあれをする関係になるわけで……こ、こんな美女と!?
む、胸も結構、というか凄い大きいし。

や、ヤバイかも。
甘く勃起して……。

「契約を始めさせていただきますぞ。カリム様、よろしいですかな?」

「う、うん! お、おねがいします!!」

なにも考えるななにも考えるな!
意識すればするほど、モヤモヤとムラムラが溜まってしまう!!
そもそも、いずれはそういうことをしなくちゃならないんだし。
父上はそれを早めてくれただけ!
べ、別に意識することなんて。

アリシアの目と合う。
吸い込まれてしまうほど、綺麗な琥珀色の瞳。
官能的な目元には泣きホクロがあって、とてもチャーミングだ。
柔らかな、甘い唇は思わずしゃぶりたくなる。

ああああああ!!
バカバカバカ!!
なにも考えるななにも考えるななにも考えるな!!

神父が契約の神言を続けている間、僕はひたすら我慢することと、なにも考えないようにした。
そのためか、思った以上に契約はスムーズに進み、契約の証として彼女に右手の人差し指に口付けさせる。
輝く紋章が彼女の右手に収束し、契約紋章が刻み込まれた。

「これで契約完了でございます。お疲れ様でした」

「は、はぁぁあ……」

思わずため息が出た。
色々とその、緊張が…………。
胸を撫で下ろしていると、父上が情けないと言わんばかりの表情でやってくる。

「全く、契約の間ずっとアリシアの顔を見ていなかっただろう。俯かせたまま、恥ずかしがりおって」

「ご、ごめんなさい、父上」

「ふん、まあ……仕方ないか。初めての契約の時は俺も色々と考えたからな。解らなくもないが」

ふと、父はアリシアを後ろ目で眺め、僕の肩を抱き寄せて耳打ちする。

「……お前が恥ずかしいと思うなら、相手も恥ずかしいと思っているのだ。それを隠して表面上はああして取り組んでいる彼女の誠意に裏切るな……」

「……父上……」

「……そう言うところを毅然とするのも、領主としての勤めだ。過剰に恥ずかしがるなよ……」

締めるように背中を叩いて、僕をアリシアの方へと歩かせる。
彼女は微笑んで、再び頭を下げた。

「初めてのご契約に私が選ばれたこと、大変光栄でございます。これよりはあなた様のメイドとして、身も心も捧げる所存でございます故、何卒よろしくお願いいたします。ご主人様」

「……うん。こちらこそよろしくお願いします。アリシア」
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