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第二章 勇者降臨
第三十五話 完全回復魔法
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(…………これか)
詠唱していく最中、陽菜野はチュルムの身体を調べていた。
確かに、構成体を次々変えていく毒である。
魔法における解毒と、薬学における解毒は根本的な考えから違う。
後者が毒を以て毒へ働きかけて活つとすれば、前者の魔法はその毒を根本的から消し去ることによって活つ。
毒を構成する物質の消去が行われていくわけだが、今回チュルムの受けた毒はこの物質情報が即座に、ひっきりなしと変体しているのである。
まるで毒そのものが、生き物のように。
これでは回復魔法の効果がない。
闇雲に構成体を攻撃したら、身体の別のどこかに障害を残すことになる。
(なら、身体の再構築と同じようにしてやれば……!)
陽菜野はそうして解毒を試みた。
毒のある部分を一度、毒もろともに切り捨てて崩壊させ、無事な所から肉体情報をコピーして複製と再生に回す。
しかし毒はそれを察知したように、構成体を変化。
分離し、毒性を失う変わりに生存へと進む。
(しつこい。毒なんだから、ぱぱっと消えなよ)
それと平行して、新たな構成体に合わせた魔力を注入。
分離した毒達を根こそぎに潰していく。
されども、毒の生存根性は果てしない。
隙間を縫うように、逃げ道を見つけ出すとそくささと進んだ。
(だと思った)
だが、陽菜野にとってそれは想像の範疇だった。
二人が全力でやっても治しきれない厄介な毒。
ともすれば、それはあまりにも往生際が悪いのだろう。
陽菜野は仮で作った肉体情報の部屋に誘導し、入ったと同時に切り離した。
そして何の害がでない場所で、魔力による押し潰しで削除した。
(あとは肉体の再構成と、回復の促しを)
残りは損傷した肉体と、削りに削られた生命力の回復を魔力で促進するのみであった。
これらは解毒と比べれば楽なもので、すぐさまに処置された。
以上までの所要時間、およそ五秒。
魔法は消えて、横になっているチュルムの顔色が良くなっていった。
それをみて、リサが感動を抑えきれないで、陽菜野の手を握る。
「ヒナノっ! ありがとうっ、ありがとう!」
「あはははは、上手くいってよかった」
完全回復魔法の魔法士が照れ臭そうにそう言いながら、ポロポロと涙を溢す、リサを宥めた。
弓使いの冷静な彼女がこんな姿を見せるとは、意外だと陽菜野は思う。
「私達からも礼を言うよ。ありがとうヒナノ」
「見事な魔法さばき。感服な限りですな」
同じ魔法士からもそう言われると、少々図に乗りたくなるのもあるだろうか。
「ま、まあーそれほどかなー。みたいな。でも一番は間に合ってよかったってことだから。とりあえず仕事の途中でしょ? よかったら手伝うけど」
「いや、都市まであともう少しだし、適当な馬車に乗せてもらいな。仕事は私らでやるよ」
「そっか。じゃあお言葉に甘えて」
そうしてリティアは行商団のリーダーと話し合い、特になにか要求されることなく馬車に乗せてもらった。
来た時のあれは、残っている魔力では、途中までしかいけないのだ。
何かあったときにすぐ対処できることも想定し、眠るチュルムと一緒の馬車で楽な帰路に着く。
途中、アギト達と合流し、共に帰還する。
ギルドにすべての報告が行われたのは、夕暮れ時だった。
改めて感謝を受ける陽菜野だが、謝礼は決して受け取らない。
「今まで良くしてくれたから」
というわけで、これからも変わらず仲間としてやっていきたいと返して、目を覚ましたチュルムの元へと向かった。
ギルドの救急室のベッドで横になって起きていた槍使いの戦士は、陽菜野に気が付くと照れ臭そうに切り出す。
「話は聞いたよ。あんがと」
「どういたしまして。具合とかは?」
「おかげさまで良好そのものさ。なんにせよ、命拾いした。この恩は絶対に返すからな」
「そこまでのことは……」
「気にすんな。それよりもウチに毒をぶちこんだあの魔獣、今どうしてる? 相討ちで殺したはずだけど」
「リティア達が回収したって。合成魔獣、だったんだよね?」
問われて頷くチュルム。
「魔獣のくせにやけに頭が回りやがった。しかしなんであんなところに」
「…………合成魔獣か」
そう言えば、元勇者の三バカ娘の一人に、合成魔法に詳しかった魔法士がいた。
と、思い出してすぐさま頭を横に振る。
リーデシアが犯人である可能性は限りなく低い。
彼女は今収監されていて、勇者と同じく監獄で寂しい思いをしているだろう。
まあ、自分達には関係無いが。
嫌な相手を思い出して顔に出ていたのか、チュルムが陽菜野の耳元に息を吹き掛けた。
「うにゃあ!?」
「んだよ、そんな辛気臭い顔してよ」
「え、あ、まあ」
「深く気にしても仕方ない。解ることがあれば、頭の回る連中が教えてくれんだろ」
「…………そだね」
そうだ。
今はともかく、チュルムを助けられたのだから、難しく考えるのはあとにしよう。
丁度その時、リサがやってきたこともあり、陽菜野はそこを後にする。
扉を閉めると、弓使いの泣き声と謝罪、それを宥める槍使いの笑い声が聞こえた。
仲間同士の感動的な抱擁に、クラスメイトの仲間達を静かに思い出す。
(みんな……この世界に、いるよね?)
いないで欲しいが。
そうとも思う相反する感情に揺さぶられ、彼女の足取りはふらりふらりと進んだ。
詠唱していく最中、陽菜野はチュルムの身体を調べていた。
確かに、構成体を次々変えていく毒である。
魔法における解毒と、薬学における解毒は根本的な考えから違う。
後者が毒を以て毒へ働きかけて活つとすれば、前者の魔法はその毒を根本的から消し去ることによって活つ。
毒を構成する物質の消去が行われていくわけだが、今回チュルムの受けた毒はこの物質情報が即座に、ひっきりなしと変体しているのである。
まるで毒そのものが、生き物のように。
これでは回復魔法の効果がない。
闇雲に構成体を攻撃したら、身体の別のどこかに障害を残すことになる。
(なら、身体の再構築と同じようにしてやれば……!)
陽菜野はそうして解毒を試みた。
毒のある部分を一度、毒もろともに切り捨てて崩壊させ、無事な所から肉体情報をコピーして複製と再生に回す。
しかし毒はそれを察知したように、構成体を変化。
分離し、毒性を失う変わりに生存へと進む。
(しつこい。毒なんだから、ぱぱっと消えなよ)
それと平行して、新たな構成体に合わせた魔力を注入。
分離した毒達を根こそぎに潰していく。
されども、毒の生存根性は果てしない。
隙間を縫うように、逃げ道を見つけ出すとそくささと進んだ。
(だと思った)
だが、陽菜野にとってそれは想像の範疇だった。
二人が全力でやっても治しきれない厄介な毒。
ともすれば、それはあまりにも往生際が悪いのだろう。
陽菜野は仮で作った肉体情報の部屋に誘導し、入ったと同時に切り離した。
そして何の害がでない場所で、魔力による押し潰しで削除した。
(あとは肉体の再構成と、回復の促しを)
残りは損傷した肉体と、削りに削られた生命力の回復を魔力で促進するのみであった。
これらは解毒と比べれば楽なもので、すぐさまに処置された。
以上までの所要時間、およそ五秒。
魔法は消えて、横になっているチュルムの顔色が良くなっていった。
それをみて、リサが感動を抑えきれないで、陽菜野の手を握る。
「ヒナノっ! ありがとうっ、ありがとう!」
「あはははは、上手くいってよかった」
完全回復魔法の魔法士が照れ臭そうにそう言いながら、ポロポロと涙を溢す、リサを宥めた。
弓使いの冷静な彼女がこんな姿を見せるとは、意外だと陽菜野は思う。
「私達からも礼を言うよ。ありがとうヒナノ」
「見事な魔法さばき。感服な限りですな」
同じ魔法士からもそう言われると、少々図に乗りたくなるのもあるだろうか。
「ま、まあーそれほどかなー。みたいな。でも一番は間に合ってよかったってことだから。とりあえず仕事の途中でしょ? よかったら手伝うけど」
「いや、都市まであともう少しだし、適当な馬車に乗せてもらいな。仕事は私らでやるよ」
「そっか。じゃあお言葉に甘えて」
そうしてリティアは行商団のリーダーと話し合い、特になにか要求されることなく馬車に乗せてもらった。
来た時のあれは、残っている魔力では、途中までしかいけないのだ。
何かあったときにすぐ対処できることも想定し、眠るチュルムと一緒の馬車で楽な帰路に着く。
途中、アギト達と合流し、共に帰還する。
ギルドにすべての報告が行われたのは、夕暮れ時だった。
改めて感謝を受ける陽菜野だが、謝礼は決して受け取らない。
「今まで良くしてくれたから」
というわけで、これからも変わらず仲間としてやっていきたいと返して、目を覚ましたチュルムの元へと向かった。
ギルドの救急室のベッドで横になって起きていた槍使いの戦士は、陽菜野に気が付くと照れ臭そうに切り出す。
「話は聞いたよ。あんがと」
「どういたしまして。具合とかは?」
「おかげさまで良好そのものさ。なんにせよ、命拾いした。この恩は絶対に返すからな」
「そこまでのことは……」
「気にすんな。それよりもウチに毒をぶちこんだあの魔獣、今どうしてる? 相討ちで殺したはずだけど」
「リティア達が回収したって。合成魔獣、だったんだよね?」
問われて頷くチュルム。
「魔獣のくせにやけに頭が回りやがった。しかしなんであんなところに」
「…………合成魔獣か」
そう言えば、元勇者の三バカ娘の一人に、合成魔法に詳しかった魔法士がいた。
と、思い出してすぐさま頭を横に振る。
リーデシアが犯人である可能性は限りなく低い。
彼女は今収監されていて、勇者と同じく監獄で寂しい思いをしているだろう。
まあ、自分達には関係無いが。
嫌な相手を思い出して顔に出ていたのか、チュルムが陽菜野の耳元に息を吹き掛けた。
「うにゃあ!?」
「んだよ、そんな辛気臭い顔してよ」
「え、あ、まあ」
「深く気にしても仕方ない。解ることがあれば、頭の回る連中が教えてくれんだろ」
「…………そだね」
そうだ。
今はともかく、チュルムを助けられたのだから、難しく考えるのはあとにしよう。
丁度その時、リサがやってきたこともあり、陽菜野はそこを後にする。
扉を閉めると、弓使いの泣き声と謝罪、それを宥める槍使いの笑い声が聞こえた。
仲間同士の感動的な抱擁に、クラスメイトの仲間達を静かに思い出す。
(みんな……この世界に、いるよね?)
いないで欲しいが。
そうとも思う相反する感情に揺さぶられ、彼女の足取りはふらりふらりと進んだ。
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