エンドロールは戻らない

ymdork

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 血まみれの浴槽は今も鮮明に覚えている。水に馴染みきった血液は絵の具のようだった。
 例えばいつも使っていた筆洗いに絵の具にまみれた筆を入れると、じわ、と馴染みながら透明の中に滲む。絵の具の赤色より濃く、粉がまうように、血液も水に落ちると綺麗に舞うことを、俺は知っている。
「もともと俺の母親、めちゃくちゃ気い狂っててさ」
 その血を受け継いでいるのかもしれない自分は人に理解されなくて当たり前だ。だから好きなように動くし好きなように、好きなことだけをやって生きていきたい。
 死にたいと思ったことは一度も無かった。だから母親の気持ちは全くもって分からない。生きるのは楽しい。
 でも、死にたいと思わないだけでこわいことはある。沢山ある。世の中に溢れている。
 まだ愛されていただろうあの頃は、自分がアルファなのだと疑いもせず生きていた。
「久也はアルファなのよ、アルファだからねってさ、」
 母が信じていた。それはそれは盲目だった。だから期待されればされるほど応えてしまったし、器用なタイプだったらしい。頭の回転も早く、記憶力もすごぶる良かった。
 『該当性別無し』の診断が下った時。
 家に帰るなり俺の頬を叩いて、泣き叫んだのだ。内容は覚えていない。最近になり親戚から聞いたのは、母親は『これじゃあお姉ちゃんからあの人を奪えない』、と半狂乱になりながら言っていた、ということだ。
「あの人、親父のこと好きすぎてさ。俺がアルファだったなら、奪えると思ったんだよ。実の姉ちゃんから、実の姉ちゃんの旦那をさ」
 もともと家  アルファ同士の見合い結婚だった。だから余計に強い思いになったのかもしれない。姉でなく、自分がアルファだったなら  そんな、馬鹿な話。
 姉はアルファ、妹はオメガ。
 漫画で見るような典型的な姉妹図。なんでも出来る姉は甲斐甲斐しく妹の面倒を見て、妹は素直に受け入れていた頃もあったという話を聞いたのは親戚からだった。
 だが。ひとりの男が現れた瞬間。
 その甲斐甲斐しい絆はあたかも最初から幻だったかのように、脆く崩れ去る事となる。
「……ヒート使って姉ちゃんの旦那誘って手エ出すとかマジでウケる。結局自殺しちゃったし。なにがしたかったんだろ」
 初めて話を理解した時は大声で笑ってしまった。もちろん笑ったのは俺ひとりだけ。
 そういうところで差を感じる。改めてゾッとしてしまうのだ。同じなのかもしれない。俺も気が狂うのかもしれない。母親と同じ考え方をしようとしても到底出来ない俺なのに、確かにあの人から生まれたという事実。重くのし掛かる血。濃さ。一生付きまとってくる。
 だから選びかねる。
 このまま何も選択しない方が、自分のためになるんじゃないかと。
人の為に、なるんじゃないかと。

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