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しおりを挟む夢を見た。誰にもどうすることも出来ない夢を見た。見たことないものばかり。触ろうとしても届かない。色とりどりの中、白いのは壁紙と自分のいたるところに貼られたガーゼだけ。
届かないから頑張って背伸びをする。回すことだけは知っていた。開けると違う世界に繋がる。怒られたらどうしよう。これは、勝手に触ると叩かれてしまう。出ても同じ。痛いことしかない世界はいつ訪れるだろう。
こわくて、不安だった。しゃがみこむ。たすけて。声にならない声。聞こえる足音。
そうして、自分の名前を呼ぶ声。ひとりでに開いた先。優しい笑顔で迎えてくれる。触っていないから? いや、違う。罰を与える人間が居なくなったからだ。
抱き上げられ、全く違う横顔。皺だらけの肌。愛してる。愛してるわよ。愛してる、あいしてる。
何度も何度も何度も繰り返し聞こえていた声が、どんどんと変わっていく。みるみるうちに変化する輪郭、鼻、目。持ち上げてくれていた腕。髪の色。
銀でなく、艶のある黒髪に頬がこそばゆくなる。知っている匂い。もはや姿かたちは最初の型を残していない。別人のものだ。
綺麗な肌。すんすんと匂いを嗅ぐと、どうしても堪え切れなくなった。柔く歯を立てる。でもこれじゃあ足りない。噛まないと。もっと自分のものにしたい。形を残したい。刻みたい。肩を食み、中心の首筋に向かって口を動かしていく。ぱくり、ぱくり。何度噛んでも怒られない。笑うばかりの顔。だから安心して噛む。
一際いい匂いがした。首の裏だ。堪えられなくなって、身を乗り出してその部分を噛む。割れる世界。散らばるかけら。落ちていく。でも彼は、俺を抱きしめたままだった。
「っ!!」
ひやりと通った空気。部屋の中は寒い。
異常なほどの汗に、まず自分自身が驚いた。滴るほどのそれに、自分でも意味が分からない。何の夢を見ていたのかは覚えていない。でも感覚は残っている。辛かった。なのに。
「はっ、はあ、はあ、」
「やっと起きた……うなされてたよ、大丈夫?」
冷める直前、そこはかとなく安心できた気がする。何がきっかけか、まではわからないけれど。
薄ぼんやりとしているが、確かな明るさを作るベッドライトに照らされたおかげで見えた顔。思わず大きな息を吐き出してしまった。動きづらさを演出していたのは、春名の両腕だった。俺を抱えるようにして伸ばされたそれ。大丈夫、と言わんばかりにリズムよくてのひらが俺の身体をぽん、ぽんと叩いている。
「え、わっ、」
何も考えず目の前にあった身体を抱きしめる。意味も分からぬ愛しさが湧いて仕方ない。
「っ、ごめん……いま、だけ」
この気持ちは何だろう。何を感じているんだろう。俺の頭は確かに錯覚しているのだ。感じる体温を、まるで一番大切な宝物のようだと。
朝起きたら、上半身裸だったせいで寒かったけれど同時に結構な清々しさも感じた。昨夜の全てが夢のようで、本当にあったのかとすら思えてしまう。
春名を見ると、まだ寝息を立てている。安らかな表情はいつもの子憎たらしさを感じさせず、可愛い顔をしていた。いつもこうだったらいいのに。興味本位で頬をつついてみる。すると、ん、と小さい声を出しながら寝返りを打って、壁際に向いてしまった。
起きよう。ベッドから降り、まずした事は昨日着ていた服を拾う事。うなされて起きた後脱ぎ捨てたシャツは微妙に重さを感じさせる。存分に汗を吸っていたらしい。
悪夢を見たのは久しぶりだった。いつから見ていなかったっけか。考える限り半年、といったところで、よくよく考えれば見なくなったきっかけ 思い当たる節がある。
まだまだ寝足りないんだろうが、そういう訳にはいかない部分というのもある。ベッドに腰を下ろすと、俺の重みでマットが沈む。するとほら、こいつの方が軽いから、保たれていた重心が崩れ、背中を向けていた春名が俺の方を向いてくる。見えた顔は未だ可愛いまま。
少し身体を倒し、そのまま俺は春名の耳元に口を寄せた。
「……ありがとな」
「なにが?」
「わあ!!」
流暢に出された言葉に、油断しきっていた身体が思い切り跳ねてしまう。
「おま! 起きてたのかよ!」
「頬押される前から起きてたよ」
「言えよ!」
あまりの恥ずかしさに慌てふためきながら怒ると、『逆ギレとかやめて』と冷静な声が返ってきた。
「……どういたしまして、って言ったほうがいい?」
「言わなくていい!!」
何に対しての『返答』なのかというのは聞かなくとも分かる。なに、俺めっちゃ恥ずかしい奴じゃん。格好つけたわけではないけれどこれは死ぬほど恥ずかしい。
顔が熱いめちゃくちゃ熱い。寒さで起きたはずなのに、身体が熱くて仕方ない。思わず両手で顔を覆うと、背中から思い切り春名に体重を掛けられた。無理やり手首を掴まれ、『照れてんの?』と耳に吹き込まれる囁き声。ウィスパーボイスやめろ耳が痒くなるから。
「……なんだよ、まだこんな時間じゃん」
どうやら時計を見たらしい。途端に興味を失ったのか、重みがいとも簡単に離れていく。
「悪かったなあ起こしてよお、うわっ」
と思ったら腰に衝撃を受けた。力づくで引きずられ後ろに倒れこむ。春名は胴体のマウントを取ったままぐるりと前方へ回り込むと、今度は力いっぱい俺の身体を押し始めた。お前は新鋭レスラーかリングネームはなんだ。
「ねーせんせい」
とうとうベッドに背中をつけてしまった。完全に負けた。
「起きがけの運動、したくない?」
こういう時の嫌な予感は百発百中当たる。春名は楽しそうに俺を見下して、俺は動けずにいて。何十回も味わい、一度も勝つことができなかった甘い誘惑は確かに、常に俺の隣にあるのだ。
そして始まったならば早い。
春名の身体を壁に押し付け、自分の身体で挟みベッドの弾みを利用しながら奥を突き上げる。何度も細っこい腿を持ち直し、その度胸を張り出してくるものだから喰って欲しいのかと思った。目の前にある、乳首を食む。それから乳輪ごと舐め上げると、唇を噛み締めた春名から小さな堪え声が出た。
「貴昭ッ寝てんだ、から、黙ってろ、」
「んっんっン、んんぅ」
さっきまでは春名自身の手がきちんと口を覆っていたのに、それさえも辛くなったのか俺の腕に縋るばかりで役に立たない。のに、嬌声は突き上げを重ねるごとに抑えられなくなっているのが分かる。誰が言い出しっぺだと思ったんだお前だぞ。
仕方なく一度抜き自分の足から春名をベッドに投げる。ふと視線を下ろすと、春名のモノはまるで泣いているかのようにとめどなく透明を溢れさせていた。いつ見てもどえろい。
そうして向きを変えさせ、壁に手を付くよう誘導する。ぱっくりと開いた穴はひくつきが治らないのか早く咥えたいと言わんばかりに俺を誘っている。どんだけ欲しがりなんだよこの身体。
「声出すなよ、」
言ってから春名の顔、下半分に自分の左手を置く。そして右手で自分のモノをもち、一気に 息継ぎの上手な穴へと亀頭を向け貫いた。
「んんんんっ!!」
壁につけられていた手が、声と連動してぎゅっと握られる。鼻から漏れる音に、舌打ちをしてしまいそうになった。抽送を始めると更に加減ができなくなったらしい喘ぎに、腰を動かしながら『これ以上うるさくするとやめるぞ、』と脅しにも似た言葉を春名の耳元で言う。すると、いや、とでも言わんばかりに首を横に振る。口を塞いでいる手を、更に春名の鼻まで覆い、そうして更に楔を打ち付けていくと、湧き上がってきた吐精感に身体が粟立ったのが分かった。汗で首筋に張り付く春名の黒に鼻を埋めた瞬間意味も分からぬ衝動に駆られる。艶かしい首筋。塩気のあるうなじ。
「んーっ!!」
我に返ったのは、既に思い切りうなじへ噛み付いたあとだった。
春名の息に嬌声が混ざる。閉まる穴に、全てを持っていかれるかのように極まる。きっとこいつの口を塞いでいなかったなら、けたたましい声が漏れていただろう。
全て出し終えた後、勢いよく自分のモノを抜き取った。支えを失った春名の身体がふらつき俺に倒れこんでくるのを受け止めると、春名の前はびしょびしょ。
「っ、マーキング?」
「……かもな」
「俺がオメガなら、今ので完全に妊娠してたわ」
気持ちよすぎて最後潮吹いちゃった、と悪びれる様子もなく言い放った春名のそれがいわゆる『それ』なのだと分かった瞬間、こっちが恥ずかしくなってしまった。確かにいつもと様子が違う。水っぽさが混ざったそれに、よくよく見ればシーツ全体が濡れているではないか。洗ったらさすがにバレるかな。いや、考えても一緒か。もう貴昭には、さすがにバレているだろうから。
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