15 / 15
4-4
しおりを挟む春名が淡々と語る中、あまりの情報量に頭がパンクしそうだった。
稀にだが、そういうやつは確かに居る。『アルファ』を純血とうたい、街の角で頭の悪そうなパンフレットを配っている奴が。だからつまり『志野』、という男はそういう人間だったのだろう。頭が悪いのだ。
「それから俺、あいつが怖くなって避け始めた。性別を言わなかった俺も悪かったのかもしれないけど、でも、まさかそれが槍玉に上げられるだなんて思ってもいなかったから……、そうしたら、」
「うん、」
「俺、よくあいつにスケッチとか、作品見せてて……俺が昔に作ったけど応募してなかった作品をトレースして、作品展に出品し始めたんだ。それでいくつか賞貰って、俺驚いて……だってさ、おかしいだろ。『お前は下だよ』って俺に向かって言ってんのに、あいつは俺の作品をトレースしたんだよ。これはただのリスペクトじゃない、」
「……盗作、だ」
「その時、……意味分かんないくらい腹立って、どうしようもなくて、どうしても、直接言ってやりたくて、あいつの家に行ったら居て、大声で、『恥ずかしいやつだな』って、『お前は俺の案使って惨めじゃないのか』って、そうしたらあいつ急に笑って俺を無理やり家の中引き入れて、そのままおもいきり転ばされて、」
春名が興奮してきたのが分かる。俺の服を掴む手に力が篭り、見える首元が徐々に赤みを帯び始めたのだ。
「……『お前の作品を、優秀な俺が世に出してやってるんだ』って、笑いながらあいつ、あいつはそう言ったんだ、俺の目見ながら、堂々と、だから、『お前おかしいよ』って、言ったら、そのまま、腹蹴られて、うつ伏せにされて、く、首、』
「ッもういい、言わなくていい」
自分の腕が湿り始める。それと同時に、首を辿るようにして現れた手の甲。大切に、守るようにうなじを覆う手が愛しくてたまらない。春名は確かに泣いて、今も苦しんでいるのに俺は そんな姿を見て愛おしさを感じているだなんて。
以前、春名のうなじを噛んでしまった時、俺はなにを思って口を開いて、その場所にかぶりついたんだろう。目の前にある砦にキスがしたい。でも今ばかりはだめだ。怖がらせてしまう。
「どうしようもないな」
「……、なにが」
「俺が」
鼻をすすった春名、はは、と湿り気のある笑いを漏らした。
「……お前には元気でいてもらわないと、放っておけなくなる」
春名の身体を、ゆっくりと抱きしめる。
だめだ。
そうでなくても手放せない。
髪の隙間から見えた耳をあえて避け、髪束に口付けると、丸まった身体がぴくりと揺れた。それから、ゆっくりと俺の腕から上げられた顔。
「ほら、もうすぐ貴昭帰ってくるぞ」
徐々に見えてきた春名の泣き顔に、もう、どうしようもない。どうしようもないのだ。
そうして突然聞こえてきたのは、返事のように上がった『帰って来てるよー』というのんきな声。廊下で息を潜ませているにも関わらず、あえて空気を読んでいないかのように言い放った貴昭の一言に、俺と春名はふたりして驚いて、そして顔を見合わせながら笑わざるを得なくなってしまった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
偽物勇者は愛を乞う
きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。
六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。
偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
奇跡に祝福を
善奈美
BL
家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。
※不定期更新になります。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる