11 / 39
うっかり渡っちゃった編
とある女の子の話
しおりを挟む
王宮にある小さな庭。
その女の子はふくれっ面になりながら侍女を連れ、花壇に咲いていた花を止めるのを聞かず、ブチブチと引っこ抜いていた。
「(ああもう、最悪だわ!)」
不機嫌の原因はジークフリート王子との面会を断られたからである。
王子より一つ上で名前はキャスリーナ=モエル、モエル侯爵家の末娘だ。兄2人とは年が離れており、念願の女の子という事もあって必要以上に可愛がられて育った結果、何でも思い通りになると思うようになってしまった。
そして王子様とお姫様の童話を読んで「わたし王子様と結婚してお姫様になる!」と5歳にして王子と結婚させろと無茶な願いを両親にすることとなる。
普通の親ならハイハイ可愛いお願いね、とスルーするか窘め、子供もそうなればいいなぁくらいの思いしか持たないだろう。
ところがどっこい、キャスリーナは思い通りになると思っているので窘めてもお菓子やオモチャで釣っても「やだ、結婚するの!」と根性を出し、屋敷の中だろうが店の中だろうが思い出した途端、寝転がりながら暴れた。
末娘に甘い両親はだったらと国王に釣り書を送るが、即日送り返され「王子のバースが確定するまで婚約者は決めない」と各上位爵家に「だからお前ら釣り書をよこすんじゃねーぞ」という含みのあるお達しが出る切っ掛けを作ってしまった。
国王のお達しが出てしまったのでキャスリーナに男女の他にα、β、Ωというバースがある事、王子がもしΩの場合αではないと結婚出来ない事を懇々と説明し、納得いかないまでも頷いたので両親は安心していた。
が、キャスリーナはそれしきで諦めてはいなかった。
釣り書がダメなら直接会いに行けばいいでしょ、と。可愛いわたしが会いに行けば王子様は自分の事を好きになるし、結婚したくなるはずだと。
自己肯定感を高め過ぎた思考は都合の良いことだけをはじき出すものである。
ここまでキャスリーナが王子との結婚を強く望むのは、童話を読んだだけではない。たまたま見たジークフリート王子の絵姿に一目惚れしたからだ。
そこで無理矢理父親にくっ付いて登城し、王子に面会を申し込んだが断られてからのお花ブチブチである。
「(会ってもらえなきゃわたしの可愛さが分からないじゃない!王子が他の子と仲良くなる前にわたしが仲良くならなくちゃ!)」
確かにキャスリーナは可愛らしい顔をしているが、上位貴族になるほど見目の良いαやΩが多い為、自分より可愛い子はゴロゴロいるという事を、まだ他家と交流する前のキャスリーナは知らない。
「お・・・お嬢様、お止めください」
何度目かの侍女の制止にキャスリーナはピタリと花を抜くのを止める。やっと聞いてもらえたと侍女は安堵しているが、ただ単に飽きただけである。
「あら?」
汚れた手を濡れたタオルで拭いてもらっていると、白っぽいものが廊下からゴロゴロと庭に転がってくる。
これは玉藻が王族のプライベートエリアから出た廊下が全て大理石で出来ていて、走って止まろうとしても滑ってしまい、転がってしまった結果である。
「あれは何かしら?」
「お嬢様!」
侍女の制止も聞かず白っぽいものに近づくと、くたりとした生き物だった。白だと思ったのは白銀の毛並みで、尻尾が九本あり、子供でも抱えられるほどの動物だった。
「何これ、見たこともない動物だわ」
触り心地が良さそうな尻尾を一本握るとギャン!と鳴いたソレをそのまま持ち上げる。
「お嬢様!尻尾を持ってはいけません!」
慌てて侍女が止めるも、そのままブラブラとさせたまま見ると、痛いのか両手足をバタバタさせている。
「ふうん、結構可愛いわね。この尻尾全部くっついてあるのかしら?」
そう言うともう片方の手で別な尻尾を握る。
「ギャン!」
「へえ、くっついているのね」
興味深そうにキャスリーナは尻尾を握ったり引っ張ったりし、その度にギャンと鳴くので侍女は聞いていられなくて耳を塞いで目を閉じている。
キャスリーナが満足し地面に降ろした頃にはぐったりして動かなくなっていた。
「決めた、家に持って帰るわよ」
「だっ、駄目ですよ!王宮のものは持ち出し禁止です!」
「はあ?わたしが持って帰りたいんだからいいの!それに持ち主なんて見当たらないじゃない。そのバスケットに入れるわよ」
「本当駄目なんですってば~」
「うるさい!クビにするわよ!」
止めるも全く聞かないキャスリーナは侍女を急かしバスケットを開けさせる。
「あら?首輪をしてるわね」
「ほら、やっぱり持ち主がいるんですよ!」
「こんなセンスのない首輪をさせる貴族なんて貧乏貴族よ。うちはなんたって侯爵家よ。お金で黙らせられるわ」
そう言うと首輪を外し、髪に着けていたリボンを蝶々結びで着ける。
「グゥ・・・・・・」
「ほら、こっちの方が可愛い」
加減を知らないキャスリーナが結んだので苦しそうな鳴き声が聞こえ、居た堪れなくなった侍女がこっそりと結び直す。
バスケットにしまうと丁度父親が迎えに来たので、上機嫌で馬車に乗り王宮を後にする。
その動物を侯爵邸へ持ち帰った事が王宮で騒動となり、侯爵家がどうなるのかキャスリーナはまだ知らない。
その女の子はふくれっ面になりながら侍女を連れ、花壇に咲いていた花を止めるのを聞かず、ブチブチと引っこ抜いていた。
「(ああもう、最悪だわ!)」
不機嫌の原因はジークフリート王子との面会を断られたからである。
王子より一つ上で名前はキャスリーナ=モエル、モエル侯爵家の末娘だ。兄2人とは年が離れており、念願の女の子という事もあって必要以上に可愛がられて育った結果、何でも思い通りになると思うようになってしまった。
そして王子様とお姫様の童話を読んで「わたし王子様と結婚してお姫様になる!」と5歳にして王子と結婚させろと無茶な願いを両親にすることとなる。
普通の親ならハイハイ可愛いお願いね、とスルーするか窘め、子供もそうなればいいなぁくらいの思いしか持たないだろう。
ところがどっこい、キャスリーナは思い通りになると思っているので窘めてもお菓子やオモチャで釣っても「やだ、結婚するの!」と根性を出し、屋敷の中だろうが店の中だろうが思い出した途端、寝転がりながら暴れた。
末娘に甘い両親はだったらと国王に釣り書を送るが、即日送り返され「王子のバースが確定するまで婚約者は決めない」と各上位爵家に「だからお前ら釣り書をよこすんじゃねーぞ」という含みのあるお達しが出る切っ掛けを作ってしまった。
国王のお達しが出てしまったのでキャスリーナに男女の他にα、β、Ωというバースがある事、王子がもしΩの場合αではないと結婚出来ない事を懇々と説明し、納得いかないまでも頷いたので両親は安心していた。
が、キャスリーナはそれしきで諦めてはいなかった。
釣り書がダメなら直接会いに行けばいいでしょ、と。可愛いわたしが会いに行けば王子様は自分の事を好きになるし、結婚したくなるはずだと。
自己肯定感を高め過ぎた思考は都合の良いことだけをはじき出すものである。
ここまでキャスリーナが王子との結婚を強く望むのは、童話を読んだだけではない。たまたま見たジークフリート王子の絵姿に一目惚れしたからだ。
そこで無理矢理父親にくっ付いて登城し、王子に面会を申し込んだが断られてからのお花ブチブチである。
「(会ってもらえなきゃわたしの可愛さが分からないじゃない!王子が他の子と仲良くなる前にわたしが仲良くならなくちゃ!)」
確かにキャスリーナは可愛らしい顔をしているが、上位貴族になるほど見目の良いαやΩが多い為、自分より可愛い子はゴロゴロいるという事を、まだ他家と交流する前のキャスリーナは知らない。
「お・・・お嬢様、お止めください」
何度目かの侍女の制止にキャスリーナはピタリと花を抜くのを止める。やっと聞いてもらえたと侍女は安堵しているが、ただ単に飽きただけである。
「あら?」
汚れた手を濡れたタオルで拭いてもらっていると、白っぽいものが廊下からゴロゴロと庭に転がってくる。
これは玉藻が王族のプライベートエリアから出た廊下が全て大理石で出来ていて、走って止まろうとしても滑ってしまい、転がってしまった結果である。
「あれは何かしら?」
「お嬢様!」
侍女の制止も聞かず白っぽいものに近づくと、くたりとした生き物だった。白だと思ったのは白銀の毛並みで、尻尾が九本あり、子供でも抱えられるほどの動物だった。
「何これ、見たこともない動物だわ」
触り心地が良さそうな尻尾を一本握るとギャン!と鳴いたソレをそのまま持ち上げる。
「お嬢様!尻尾を持ってはいけません!」
慌てて侍女が止めるも、そのままブラブラとさせたまま見ると、痛いのか両手足をバタバタさせている。
「ふうん、結構可愛いわね。この尻尾全部くっついてあるのかしら?」
そう言うともう片方の手で別な尻尾を握る。
「ギャン!」
「へえ、くっついているのね」
興味深そうにキャスリーナは尻尾を握ったり引っ張ったりし、その度にギャンと鳴くので侍女は聞いていられなくて耳を塞いで目を閉じている。
キャスリーナが満足し地面に降ろした頃にはぐったりして動かなくなっていた。
「決めた、家に持って帰るわよ」
「だっ、駄目ですよ!王宮のものは持ち出し禁止です!」
「はあ?わたしが持って帰りたいんだからいいの!それに持ち主なんて見当たらないじゃない。そのバスケットに入れるわよ」
「本当駄目なんですってば~」
「うるさい!クビにするわよ!」
止めるも全く聞かないキャスリーナは侍女を急かしバスケットを開けさせる。
「あら?首輪をしてるわね」
「ほら、やっぱり持ち主がいるんですよ!」
「こんなセンスのない首輪をさせる貴族なんて貧乏貴族よ。うちはなんたって侯爵家よ。お金で黙らせられるわ」
そう言うと首輪を外し、髪に着けていたリボンを蝶々結びで着ける。
「グゥ・・・・・・」
「ほら、こっちの方が可愛い」
加減を知らないキャスリーナが結んだので苦しそうな鳴き声が聞こえ、居た堪れなくなった侍女がこっそりと結び直す。
バスケットにしまうと丁度父親が迎えに来たので、上機嫌で馬車に乗り王宮を後にする。
その動物を侯爵邸へ持ち帰った事が王宮で騒動となり、侯爵家がどうなるのかキャスリーナはまだ知らない。
31
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
平凡な俺は魔法学校で、冷徹第二王子と秘密の恋をする
ゆなな
BL
旧題:平凡な俺が魔法学校で冷たい王子様と秘密の恋を始めました
5月13日に書籍化されます。応援してくださり、ありがとうございました!
貧しい村から魔法学校に奨学生として入学した平民出身の魔法使いであるユノは成績優秀であったので生徒会に入ることになった。しかし、生徒会のメンバーは貴族や王族の者ばかりでみなユノに冷たかった。
とりわけ生徒会長も務める美しい王族のエリートであるキリヤ・シュトレインに冷たくされたことにひどく傷付いたユノ。
だが冷たくされたその夜、学園の仮面舞踏会で危険な目にあったユノを助けてくれて甘いひと時を過ごした身分が高そうな男はどことなくキリヤ・シュトレインに似ていた。
あの冷たい男がユノにこんなに甘く優しく口づけるなんてありえない。
そしてその翌日学園で顔を合わせたキリヤは昨夜の優しい男とはやはり似ても似つかないほど冷たかった。
仮面舞踏会で出会った優しくも謎に包まれた男は冷たい王子であるキリヤだったのか、それとも別の男なのか。
全寮制の魔法学園で平民出身の平凡に見えるが努力家で健気なユノが、貧しい故郷のために努力しながらも身分違いの恋に身を焦がすお話。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる