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#18 聖アユタヤ学園④

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「慣れればそんなもの、要らないんだけどね。まず、目をつぶって、その卵を利き手で握るの。そして、それをパソコンのマウスだとイメージする。そうすると、頭の中にゲームのメニュー画面が浮かんでくるから、あとはそのマウスでカーソルを動かして、『ジャックアウト』を選択するだけ」
「ジャックアウト? ログアウトじゃなくて?」
「うん。このゲーム、意識ごとゲーム世界に入っちゃうでしょ? だからただのログイン/ログアウトじゃなくって、ジャックイン/ジャックアウトと呼ぶのが正しいんだよ。まあ、ギブスンの古典SF、『ニューロマンサー』からのパクリだと思うけど」
「そうなんだ」
 俺はゆで卵を右手に握り、眼を閉じようとした。
 と、ラビが俺の手の上に、自分の手のひらを重ねて訊いてきた。
「本当に帰っちゃうの?」
「う、うん。そろそろ晩飯、いえ、夕食の時間から」
「あたしなんか、もう半年以上リアルには戻ってないんだよ。こっちにお部屋も借りちゃったし。だってリアルって色々面倒じゃん」
「ラビは引きこもりの女子中学生なの。精神安定剤のオーバードースでただいま入院中なんだって」
「そういう游奈も、ニートの三十路レディで、こっちにお部屋、もってるじゃん。去年、会社の人間関係に疲れてリスカして自殺しかけたんだよね」
「まあね。私も向こうにはできるだけ帰りたくないってのがほんとのところ。でも、食べないと本体が死んじゃうから、1日に1度は戻るようにしてるけど」
 まずい。
 なんか、話が重くなってきたぞ。
 ふたりとも、リアルでも女性らしいが、そろって病んでるというのはまた厄介な。
「杏里はどうなの? あなたのリアルはやっぱりかわいい女の子なのかな?」
 ラビがつぶらな瞳をきらきら輝かせた。
「案外男だったりして。だってさ、杏里の外見って、いかにもアニオタの男の子が好みそうなお顔に躰じゃない」
 游奈が鋭いところを突いてきた。
「ご想像にお任せします」
 俺はしなをつくって、意味ありげに微笑んでやった。
「リアルがアニオタだろうとおっさんだろうと、あたしは別に気にしないよ」
 ラビは妙に太っ腹である。
「だって、この世界では、杏里は女子力50の萌えギャル以外の何者でもないんだもん。きっと、人気出ると思うよ。だから、誰かにとられる前に、早く裸にしてハグしたいな」
「は?」
 俺の眼が点になる。
「別に驚くことないと思うわ」
 助け舟を出すように、横から優菜が言った。
「ここはJKしかいない世界。すなわち、全員、レズビアンなんだから」


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