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#6 聚楽第跡
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聚楽第(じゅらくだい)は、京都御所の西、二条城の北に建てられた豊臣秀吉の政庁舎である。
南北は下長者通から一条通まで、東西は大宮通から智恵光院通までを範囲とする。
城という名こそついていないが、天守を備えた本丸を持つ、事実上の平城であった。
完成は天正15年。
翌16年には、後陽成天皇の行幸を迎え、秀吉はこれを饗応し、天下に己の支配力を知らしめた。
聚楽第周辺には大名屋敷を配し、建物にはすべて金箔瓦が用いられていたという。
嫡男鶴松の死去により、その聚楽第が秀吉から関白の位とともに甥の秀次に譲られたのは、今から4年前、天正19年のこと。その翌年、秀次はこの聚楽第において再度後陽成天皇の行幸を迎えている。
これぞ、実質的に第二の関白誕生した、その瞬間だった。
ところが今から2年前の文禄2年、側室の淀君が秀頼を生むと、秀吉の態度が激変した。
実子秀頼に関白の座を継がせるべく、秀次への冷遇が始まったのである。
そして今年。
謀反の疑いをかけられた秀次は、高野山に蟄居を命じられたあげく、部下たちとともに切腹に追い込まれた。
が、それでもなお、秀吉の怒りは収まらず、秀次の首を京に持ち帰らせ、三条が原に晒した後、その前で一族郎党を惨殺し、更には徹底的に聚楽第を破却したのであった。
廃墟と化し、瓦礫の山となった聚楽第。
月光に照らし出されたその不気味な残骸を前方に臨みながら、夜叉姫は破壊の難を逃れた大名屋敷の長塀の陰にじっと息をひそめていた。
その華奢な肩の後ろに佇むのは、蓑をまとい、笠をかぶった撫佐である。
時刻はすでに子の刻を過ぎている。
さすがにこの時間帯になると、このような呪われた場所に、人の姿はない。
「魔犬とな」
撫佐がぼそりとつぶやいた。
「まさか妖怪変化の類いではあるまいな」
「どうした? むさ。臆したか?」
瞳を月明かりに凝らし、夜叉姫はふんと鼻を鳴らした。
「仮にそうだとしても、依頼を引き受けた以上、仕留めるまで」
「それはそうだが…今夜は犬丸がいない」
カチンと来るひと言だった。
夜叉姫としても、仲間のうちで最も戦闘能力の高いのが犬丸だということは重々承知している。
だが、今回の件でもわかる通り、犬丸は面倒くさがり屋で、ひどく気まぐれだ。
それだけに、口に出して言われると余計腹が立つ。
「犬丸がなんじゃ。相手も犬コロなら、うちとおまえで十分じゃ」
「ただの野良犬ならよいが」
「ぐずぐず言ってないで、早く配置につけ。むさは屋根の上から敵を見張るのじゃ。地上はうちに任せろ」
「了解した。では参る」
羽音とともに、撫佐の気配が消えた。
大名屋敷の櫓の屋根にでも身を隠すつもりなのだろう。
そうして半刻ほど経った頃のことである。
聚楽第の残骸の陰から、ふいに青白いふたつの鬼火が現れた。
「来た」
夜叉姫はつぶいやいた。
「姉者、来たぞ。あれは眼じゃ」
南北は下長者通から一条通まで、東西は大宮通から智恵光院通までを範囲とする。
城という名こそついていないが、天守を備えた本丸を持つ、事実上の平城であった。
完成は天正15年。
翌16年には、後陽成天皇の行幸を迎え、秀吉はこれを饗応し、天下に己の支配力を知らしめた。
聚楽第周辺には大名屋敷を配し、建物にはすべて金箔瓦が用いられていたという。
嫡男鶴松の死去により、その聚楽第が秀吉から関白の位とともに甥の秀次に譲られたのは、今から4年前、天正19年のこと。その翌年、秀次はこの聚楽第において再度後陽成天皇の行幸を迎えている。
これぞ、実質的に第二の関白誕生した、その瞬間だった。
ところが今から2年前の文禄2年、側室の淀君が秀頼を生むと、秀吉の態度が激変した。
実子秀頼に関白の座を継がせるべく、秀次への冷遇が始まったのである。
そして今年。
謀反の疑いをかけられた秀次は、高野山に蟄居を命じられたあげく、部下たちとともに切腹に追い込まれた。
が、それでもなお、秀吉の怒りは収まらず、秀次の首を京に持ち帰らせ、三条が原に晒した後、その前で一族郎党を惨殺し、更には徹底的に聚楽第を破却したのであった。
廃墟と化し、瓦礫の山となった聚楽第。
月光に照らし出されたその不気味な残骸を前方に臨みながら、夜叉姫は破壊の難を逃れた大名屋敷の長塀の陰にじっと息をひそめていた。
その華奢な肩の後ろに佇むのは、蓑をまとい、笠をかぶった撫佐である。
時刻はすでに子の刻を過ぎている。
さすがにこの時間帯になると、このような呪われた場所に、人の姿はない。
「魔犬とな」
撫佐がぼそりとつぶやいた。
「まさか妖怪変化の類いではあるまいな」
「どうした? むさ。臆したか?」
瞳を月明かりに凝らし、夜叉姫はふんと鼻を鳴らした。
「仮にそうだとしても、依頼を引き受けた以上、仕留めるまで」
「それはそうだが…今夜は犬丸がいない」
カチンと来るひと言だった。
夜叉姫としても、仲間のうちで最も戦闘能力の高いのが犬丸だということは重々承知している。
だが、今回の件でもわかる通り、犬丸は面倒くさがり屋で、ひどく気まぐれだ。
それだけに、口に出して言われると余計腹が立つ。
「犬丸がなんじゃ。相手も犬コロなら、うちとおまえで十分じゃ」
「ただの野良犬ならよいが」
「ぐずぐず言ってないで、早く配置につけ。むさは屋根の上から敵を見張るのじゃ。地上はうちに任せろ」
「了解した。では参る」
羽音とともに、撫佐の気配が消えた。
大名屋敷の櫓の屋根にでも身を隠すつもりなのだろう。
そうして半刻ほど経った頃のことである。
聚楽第の残骸の陰から、ふいに青白いふたつの鬼火が現れた。
「来た」
夜叉姫はつぶいやいた。
「姉者、来たぞ。あれは眼じゃ」
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