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第1章 覚醒

#63 再起⑧

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「そうですか…。でも、そうですよね。ルビイさまのお気持ちも考えず、失礼いたしました」
 
 サトは殊勝に身を縮こまらせると、それ以来無口になり、ルビイに性的な遊戯を仕掛けてくることもなかった。

 乾いた布にくるまれ、サトの押す車椅子で2階に戻ると、煌々と明かりのついた部屋で作務衣姿の正一が待っていた。

「約束の義手と義足だ。すぐにはめるが、それでいいか?」

 サイドテーブルに置かれた4本の手足を顎で示して、不愛想な口調でそう言った。

「お願いするわ。もうこのだるま状態にはうんざりだから」

 サトがルビイを抱え上げ、ベッドに仰向けに横たえた。
 
 右腕のパーツを手に取り、正一が脇に立つ。

 ルビイの右肩の切り株の内側を指で押さえると、断面の中央から白い骨が飛び出してきた。

 義手の断面に開いた穴をその骨の先端に合わせると、ぴったり重ね合わせて軽くひねった。

 かすかな音がして、何かがつながった気配が伝わってきた。

 その調子で、左腕、右脚、左脚と、順にはめていく。

 四肢がそろうのに、10分とかからなかった。

「神経が完全に復元するのに数時間は必要だ。今晩はこのまま朝まで安静にしていることだな。明日になれば、文字通り、この手足は自分のものとして自由自在に動かせる」

 一歩下がって自分の作業の出来栄えを眺めながら、正一が言う。

「ありがとう。恩に着るわ」

 ルビイは首だけ動かして、改めて己の裸身に目をやった。

 美しくたくましい手足をそろえたその身体は、夢にまで見た美しさだった。

 測ってみないとわからないが、ルリの肉体は20年前のルビイのものより均整が取れ、背も高く、手足も長いようだ。

 が、それ以上にうれしいのは、この手足の存在感だった。

 幻肢ではなく、指先にまでじわじわと広がっていくこの生の感覚の心地よさといったら…。

「五体満足になったら、今度はルビイさまが、サトを調教する番ですね」

 うっとりとそんな思いに浸っていると、それまで黙って作業の様子を見ていたサトが、唐突に奇妙なことを言い出した。

「調教?」

 あっけに取られ、傍らのサトに目をやるルビイ。

「ご自分の味わった快感を、他人に与える方法を実践するのです。いつでもお相手しますから、その気になったらおっしゃってくださいな」

 言うだけ言ってサトが出ていくと、

「仕事熱心もいいが、俺は別にラブドールのパーツをつくってるわけじゃないんだぞ」

 苦虫を噛み潰したような仏頂面で、正一がつぶやいた。

「確かにそのくらいの作業はわけないが…この義手義足の本領は、むしろ最新鋭の兵器だというのに」

 
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