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第2章 跪いて足をお舐め

#9 腕試し⑦

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 揺れが収まると、今度は外でバサッ、バサッと羽ばたきのような音がした。

 鳥?

 ルビイは小首をかしげ、耳に神経を集中した。

 鳥にしては、かなり大きい。

 しかも、複数いるようだ。

「やべえっ! ハルピだ!」

 男のひとりが叫んだ。

「扉を閉めろ! 入られたら皆殺しにされるぞ!」

「くうっ」

 叩きつけるように、大男が引き戸を閉める。

 その乱暴な音に、奥で子どもたちが泣き始めた。

 それをなだめる母親の声も震えているようだ。

「俺が行く」

 右手に斧をぶら下げ、大男が扉の隙間から外を見た。

「やめろ、カイル。どうせハルピは群れをなしている。おまえひとりの力でどうにかなるもんじゃない」

「だから行くんだ。扉を破られたら俺たち全員死ぬんだぞ」

 カイルと呼ばれた男の言葉に、建物内の十数人の男たちが気まずそうに黙り込む。

 ハルピ?

 そうか。

 ルビイは思い出した。

 20年前の魔王戦役の時、何度も戦ったことのある相手である。

 ハルピュイア。

 人間の女の顔を持つ、猛禽類だ。

 成鳥は、翼長およそ3メートル。

 脚の鋭い鉤爪には猛毒がある。

「待って」

 ルビイはとっさにカイルの肩に手をかけた。

「私も行くわ。腕試しにちょうどいい」

 背中の鞘から抜いたレイピアを、右手に握ってバランスを確かめる。

「馬鹿な! 相手は魔物だぞ! 女なんかの出る幕じゃねえ!」

 眼を剥くカイルに、クールな声でルビイが言い返す。

「聞いてたわ。ハルピでしょ。ハルピュイアなら、おそらくあなたより、私のほうが戦った回数は多いはず」

 でも、と思う。

 さっきのあの地鳴りは何だろう?

 あれは断じてハルピの立てる音ではなかった。

 ということは…。

 ハルピ以外にも、何かいる…?
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