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第2章 跪いて足をお舐め

#23 魔王の落とし子⑧

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 それには答えず、ルビイは走り出していた。

 じっとしているより、駆けているほうがバランスを取りやすい。

 ルビイの頑丈なライダーブーツの底が、揺れる大地を蹴った。

 背後でカイルがまた何か叫んだようだったが、もう振り向かない。

 仮に正体がバレたとしても、それがどうだというのだ。

 彼の言うように、私は死ぬかもしれない。

 カイルに再び会えるという保証など、どこにもないのだから。

 疾走するルビイを狙うように、四方八方から地割れが迫ってくる。

 それは5つの光る坑道から端を発し、崖自体を縦に割り、地面に亀裂をつくっている。

 ルビイが目指しているのは、中央の坑道から続く一番広い裂け目である。

 その奥に光の塊が見えたのだ。

 本体がひそんでいるのは、間違いなくその奥だろう。
 
 大気がうなり、突如として、1体のデスワームが横殴りに襲いかかってきた。

 地面すれすれに身をかがめ、攻撃をやり過ごす。

 後方から振り戻ってきた巨体を狙い、走りながらボウガンを撃った。

 鋼鉄の銛があっけなく跳ね返される。

 怪物の表皮は、おそろしく硬いようだった。

 これでは、レイピアの刃も通らないに違いない。

 銛をロープで手繰り寄せ、ボウガンにセットし直した。

 攻撃はあきらめて、とにかく走ることに専念する。

 1体、また1体と、ルビイの接近に気づいたデスワームたちが襲いかかってくる。

 それを右に左に跳躍して避けながら、亀裂めざして全力疾走した。

 もう少し、という所までたどり着いた時だった。
 
 だしぬけに足の裏が空を蹴り、身体が宙に浮いた。

 あっと思った時には、もう遅かった。

 ふいに開いた地面の穴に呑み込まれ、ルビイは石礫のように漆黒の闇の底へと落下し始めた。
 
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