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第2章 跪いて足をお舐め

#30 魔王の落とし子⑮

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 最初の燭光が山の稜線を照らし始めると、一夜のうちに起こった惨状が徐々に明らかになっていった。

 ジグザグにひび割れた大地。

 崩れた崖。

 最も奇妙なのは、その壁面に開いた5つの坑道の入口から、何か大量の液体が流れ出したかのような染みが地面まで続いていることだ。

 デスワームの成れの果てだった。
 
 ルビイに本体を殺されると、デスワームはすぐに動かなくなり、崖から垂れ下がったまま、どろどろに溶け崩れてしまったのである。

「鉱山を再開するのは至難の業だろうが…魔物さえいなくなれば、あとは俺たちだけでなんとかなる。本当に助かったよ」

 避難所の裏から引き出したハーレーを点検していると、建物の中から姿を現したカイルがそう声をかけてきた。

 ひどくまぶしそうな眼をしている。

「思ったよりずっとあっけなかった」

 長い髪を肩の上で揺すってルビイは言った。

「まるでこの魔物騒ぎ自体、私をここにおびき寄せるための罠みたいに…」

「おまえが、本物のいくさ乙女ルビイなら、それもあり得るかもな」

 カイルがつぶやくように言う。

「しかし、どう見ても歳が合わない気がするが…」

「好きなように解釈して」

 ハーレーにまたがると、試しにアクセルを吹かして、ルビイは言った。

「私はこれから軍を立ち上げる、魔王討伐の軍をね。落ち着いたら、あなたにもぜひ参加してほしい。その時は、歓迎するわ」

「軍か…。ああ、わかった」

 カイルがうなずいた時、身支度を整えたサトが姿を現した。

「おまたせしました」

 ルビイの背に頬をつけ、腰を抱いた瞬間、そのサトが小声でささやいた。

「ルビイさま、臭います」

「え?」

 スターターに乗せた足を止め、ルビイはサトを振り返った。

「これはまるで…情交のあとの女の匂いです」
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