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第5章 屑肉と化した女戦士は魔王討伐の夢を見るか
#16 禁断の地③
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会議室は、緊張した空気に包まれていた。
長大なテーブルの上座に座ったマリウスは、貴族たちの視線を痛いほど感じていた。
みな、マリウスの決定を待っているのだ。
「このまま放っておけば、ガウラの南方面部隊はじきに潰されてしまうでしょう。先にしかけたのが彼らのほうとはいえ、ガウラは曲がりなりにもわがミネルヴァの同盟国。このまま手をこまねいていて、よいものかどうか」
議会最長齢の老人が、重々しい口調で言った。
「いずれ戦わねばならぬのなら、ここでわれら連合軍の力を見せておくという手もありますぞ」
「しかし、東大陸側は、ネオ・チャイナを中心に、主だった国はほぼ同盟を結んでおるのだろう? それに比べてこちらはガウラをはじめとする北稜諸国数国が連合に加わっただけ。南の住人達は様子見のつもりなのか、いっこうに動こうとせぬ。このままでは、戦力に差がありすぎる」
近衛兵団を配下に置く、壮年の騎士団長が横から割って入った。
現場に身を置く者だけに、その意見は慎重である。
きのうの午後のことだった。
西と東を隔てる国境線に陣を敷いた東大陸側の戦線に、ガウラのソバク率いる遊撃隊が矢を射かけた。
それを発端にしてたちまち戦端が開かれてしまい、ソバク隊は東側同盟国軍に包囲されてしまったのである。
斥候がその情報をもたらすと、マリウスはすぐに賢人会議の開催を呼びかけた。
西の盟主たるミネルヴァがどう動くかで、この後の勢力図が変わってくる。
早急に決定を下さねばならなかった。
ガウラを救うか、あるいは、見捨てるか。
「魔王の影響はどうだ? ネオ・チャイナに何か動きは?」
「首都ネオ・シーアンに、悪魔の塔を建設中と聞きました。おそらく、火の山から、魔王をそこに迎え入れようとしているのではないかと、東側諸国ではもっぱらの噂だそうです」
騎士団長が、敬語に変えて、マリウスの問いに答えた。
「後手に回ったかもしれんな」
マリウスは苦々しげにつぶやいた。
先王が優柔不断だったからいけないのだ。
もっと早く、何らかの形で東側諸国をけん制しておけば・・・。
「よし、いいだろう。軍を出そう。ガウラを筆頭に、傘下にある国すべてに呼びかけろ。ミネルヴァに兵をよこせとな」
会場がどよめいた。
興奮冷めやらぬ貴族たちを冷ややかに眺めながら、マリウスはひどい脱力感を覚えていた。
席を立とうとした時である。
「執政官様」
執事のノックスが音もなくすり寄ってきて、耳元でささやいた。
「面会を希望する者が、廊下に」
「面会だと? 誰だ、こんな忙しい時に」
苛立たしげに訊き返すと、ノックスが更に声を細めて言った。
「サトと申す女です。ゆうべのことで話がある。そう伝えてくれればわかる、の一点張りで・・・」
「なに? サトが・・・?」
マリウスの顔から、音を立てて血の気が引いた。
そして、ノックスを押しのけると、わき目もふらず大股に出入口のほうへと歩き出した。
長大なテーブルの上座に座ったマリウスは、貴族たちの視線を痛いほど感じていた。
みな、マリウスの決定を待っているのだ。
「このまま放っておけば、ガウラの南方面部隊はじきに潰されてしまうでしょう。先にしかけたのが彼らのほうとはいえ、ガウラは曲がりなりにもわがミネルヴァの同盟国。このまま手をこまねいていて、よいものかどうか」
議会最長齢の老人が、重々しい口調で言った。
「いずれ戦わねばならぬのなら、ここでわれら連合軍の力を見せておくという手もありますぞ」
「しかし、東大陸側は、ネオ・チャイナを中心に、主だった国はほぼ同盟を結んでおるのだろう? それに比べてこちらはガウラをはじめとする北稜諸国数国が連合に加わっただけ。南の住人達は様子見のつもりなのか、いっこうに動こうとせぬ。このままでは、戦力に差がありすぎる」
近衛兵団を配下に置く、壮年の騎士団長が横から割って入った。
現場に身を置く者だけに、その意見は慎重である。
きのうの午後のことだった。
西と東を隔てる国境線に陣を敷いた東大陸側の戦線に、ガウラのソバク率いる遊撃隊が矢を射かけた。
それを発端にしてたちまち戦端が開かれてしまい、ソバク隊は東側同盟国軍に包囲されてしまったのである。
斥候がその情報をもたらすと、マリウスはすぐに賢人会議の開催を呼びかけた。
西の盟主たるミネルヴァがどう動くかで、この後の勢力図が変わってくる。
早急に決定を下さねばならなかった。
ガウラを救うか、あるいは、見捨てるか。
「魔王の影響はどうだ? ネオ・チャイナに何か動きは?」
「首都ネオ・シーアンに、悪魔の塔を建設中と聞きました。おそらく、火の山から、魔王をそこに迎え入れようとしているのではないかと、東側諸国ではもっぱらの噂だそうです」
騎士団長が、敬語に変えて、マリウスの問いに答えた。
「後手に回ったかもしれんな」
マリウスは苦々しげにつぶやいた。
先王が優柔不断だったからいけないのだ。
もっと早く、何らかの形で東側諸国をけん制しておけば・・・。
「よし、いいだろう。軍を出そう。ガウラを筆頭に、傘下にある国すべてに呼びかけろ。ミネルヴァに兵をよこせとな」
会場がどよめいた。
興奮冷めやらぬ貴族たちを冷ややかに眺めながら、マリウスはひどい脱力感を覚えていた。
席を立とうとした時である。
「執政官様」
執事のノックスが音もなくすり寄ってきて、耳元でささやいた。
「面会を希望する者が、廊下に」
「面会だと? 誰だ、こんな忙しい時に」
苛立たしげに訊き返すと、ノックスが更に声を細めて言った。
「サトと申す女です。ゆうべのことで話がある。そう伝えてくれればわかる、の一点張りで・・・」
「なに? サトが・・・?」
マリウスの顔から、音を立てて血の気が引いた。
そして、ノックスを押しのけると、わき目もふらず大股に出入口のほうへと歩き出した。
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