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第5章 屑肉と化した女戦士は魔王討伐の夢を見るか

#36 常世の虫③

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 力を失ったアニムスの性器が抜け、クロエがずるずると床にうずくまった。

「お気に召しましたか?」

 同時にサトはクロエの首から素早く革紐を外し、股間から鞭の柄を抜き取っている。

「ああ…堪能させてもらったよ。これが、サト、お主の選んだ肉の世界の快楽か…」

「お望みならば、いつでも馳せ参じます。あなたを逝かせるために。ですが、今は、まず約束を」

「わかっておる」

 どの仕草が合図だったのか。

 突然、壁際に坐り込んでいた淫魔たちが動き、正面の壁の祭壇に取りついた。

 ギギギギ…。

 押されるにつれ、祭壇が右に動き、その背後から木製の扉が現れた。

「ルビイとやらを連れて、わしに続くがいい。常世の虫は、この奥じゃ」


 クロエに従って階段を降りると、そこは金色の光に照らし出された幻想的な地下空洞だった。
 
 天然の洞窟をそのまま利用したものらしく、壁はぬるぬるした土に覆われ、あちこちで地下水を滲ませている。

「あれが、常世の虫じゃ」

 クロエが杖で指し示した先を目で追ったアニムスは、そこで危うく腰を抜かしかけた。

 正面の壁に、異様なものが埋まり込んでいる。

 先に吸盤の付いた、いぼいぼの無数の短い肢。

 柔らかそうな節くれだった腹部。

 その上には、黒水晶のようなふたつの眼と、牙のある口。

 それは、背中を壁に埋め込んで腹をこちらに向けた、巨大な芋虫だった。

 身体の縁は赤い斑紋に彩られ、むき出しの腹部は山羊の乳のように白い。

「これが…常世の虫、ですか? 初めて見ました」

 放心したような口調で、サトがつぶやいた。

「予想より、ずっと大きい…。人間の成人男性の背丈ほどもある」

「生きてるの?」

 化石のように動かない巨大な虫を見上げ、アニムスはたずねた。

 アニムスは、背中にルビイを入れた麻袋を乗せた背負子を背負っている。

 この気味の悪い芋虫に無抵抗のルビイの身体を委ねるのかと思うと、不安を覚えずにはいられない。

「もちろんじゃ。常世の虫に寿命はない。病魔にでも侵されぬ限り、この世の終わりまで生き続ける」

 アニムスの問いにいち早く答えたのは、クロエだった。

 短い間とはいえ、肌を交えたアニムスを、一人前の男と認めたからだろうか。

「試されたことは?」

 化け物のような生き物を見上げて、サトが訊く。

「ない。少なくとも、この村の者で、常世の虫を試した者など、ひとりもおらぬ。”これ”は、気づくと、いつのまにやら、ここにいたそうだ。恐ろしく昔の話じゃが。まるでわれらに守れといわんばかりに、この場所に埋まっていたらしい。そもそも、われら淫魔は不死など望みはしない。ただ、いざという時のために、これを護っておるだけじゃ」

「いざという時、とは?」

 サトが眉を吊り上げると、重々しくクロエがうなずいた。

「もしかすると、それが、今なのかもしれんな」
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