上 下
410 / 471
第6章 ネオ・チャイナの野望

#4 奇襲④

しおりを挟む
 ズンッ。

 轟天号が振動し、鈍い音とともに、ひと抱えほどもある砲弾が、空高く打ち出されるのが見えた。

 エリスが魔法で細工したのだろう、砲弾は紅蓮の炎を上げ、真っ赤な火球と化している。

 ルビイとサトが見守るなか、火球は放物線を描いて降下すると、狙い違わず突き出た鬼の尻に命中した。

 四つん這いになって鍋料理の残りを貪り食っていた鬼が、砲弾の直撃を浴びて大きく吹っ飛んだ。

 仰向けに地面に叩きつけられ、派手にバウンドした後、大の字に手足を広げて伸びてしまう。

「いててててっ! ちょ、ちょっと、次郎丸、重い! 重いって!」

 鬼の下敷きになった少女が、はみ出た両足をバタバタさせてもがいている。

「行ってみましょう」

 サトにうなずくと、ルビイは軽やかな身のこなしでハーレーから下りた。

 ひっくり返った鍋の汁で薪の火が消え、もうもうたる白煙が上がっている。

 その数メートル向こうに、身長がルビイの倍ほどもある鬼が倒れている。

 マグナの怪力を借りるまでもなかった。

 鬼の右腕をつかむと、ルビイは軽々とその巨体を向こう側に転がした。

 その下から現れたのは、例の虎皮の短衣を着た娘である。

 歳の頃は13、4歳ほどだろうか。

 アニマより年上らしいのは、まろやかな身体のラインからわかる。

 パーマのかかった髪の毛の色は赤で、耳の上から1対の短い角が生えている。

「あなたは誰? どうしてウラの一族がここにいるの?」

 助け起こそうとルビイが手を伸ばすと、娘が脱兎のごとく飛び退った。

 今にも噛みつかんばかりに目を怒らせ、唇の両端から鋭い牙を剥いている。

「く、来るな! 魔王の眷属め! その穢れた手でこの混沌さまに触ったら、ただじゃおかないよ!」

「コントン?」

 後から来たサトが眉をひそめた。

「それがあなたの名前なの?」

「そうだよ! 童子の右腕、ウラの混沌とはあたいのことだ! 『魔王の波動が増幅されてる』って童子が言うから、次郎丸と一緒にわざわざこんな遠くまで偵察にきてやったんじゃないか! そしたらおまえたちが…」

 唾を飛ばして娘がわめく。

「魔王の波動?」

 サトが横目でちらりとルビイを見た。

 そういうことか、とルビイが思う。

 常世の虫とやらの作用で欠損した肉体の部位が再生された時、ルビイの体内で魔王の血も大量に複製されたに違いない。

 それをどんな方法でか、ウラの頭領、主転童子が感じ取ったというわけだ。

「確かに私は魔王の血を引いてるけど、魔王の眷属ではないわ。むしろその逆。私たちは、魔王軍に一矢を報いるために結成された特殊部隊。あなたがウラの民なら、ちょうどいい。実は、鬼族に頼みたいことがあるの。よければあなたの故郷まで案内してくれないかしら」

 敵意がないことを示すために腰の短剣を足元に置くと、努めて優しい口調でルビイは言った。

 その瞬間だった。

「魔王の血を引く者が頼みごと? ばーか、誰がそんな戯言に引っかかるもんか!」

 そう叫ぶなり、娘がいきなり跳躍し、牙を剥き出して、ましらのことき勢いでルビイに飛びかかってきた。

 




 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:201,502pt お気に入り:12,093

貴方の『好きな人』の代わりをするのはもうやめます!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,722pt お気に入り:1,777

妹が子供を産んで消えました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:525pt お気に入り:1,125

旦那の愛人(♂)にストーカーされています

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:952

悪役令嬢だそうですが、攻略対象その5以外は興味ありません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:6,737

【R18】沈黙の竜と生贄の星屑姫

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:145

改稿版 婚約破棄の代償

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,860pt お気に入り:856

乙女ゲーム関連 短編集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,796pt お気に入り:155

処理中です...