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第6章 ネオ・チャイナの野望

#43 前哨戦⑧

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 周囲に飛び交うのは撥音が耳障りな東邦系の言葉ばかり。
 
 むろん、ルビイには、何を言っているのかわからない。

 が、その中でもかろうじて聞き取れたのは、イン、ヤンという二語だった。

 叫んでいるのは、帳の中から転がり出た宦官たちである。

 のっぺりした顔に白粉を塗りたくった気色の悪い去勢男どもだ。

「ここのリーダーは誰? 皆殺しにされたくなかったら、大人しく出てきなさい」

 ルビイが両手で大剣を構え、腰を低く落とした時だった。
 
 ふいに両サイドから風が起こり、ルビイに向かって突進してきた。

 ブーツで大地を蹴り、余裕で第一撃を避けた。

 すぐに体勢を立て直し、顏を上げると、相手はふたり居た。

 右足だけで立つ背の高い少年の人形と、左足一本で立つ、同じく白塗りの少年の人形だ。

 ルビイは目を細めた。

 インとヤン。

 陰と陽。

 それはつまり、このふたりの名前だったのだ。

 右半身だけの少年と、左半身だけの少年。

 それぞれ隻腕で半月刀を振りかざし、ルビイの隙を狙っている。

 自動人形の暗殺者?

 ふ、面白い。

 ルビイが薄く笑った瞬間だった。

 人形たちが動いた。

 高速で回転しながら、左右から迫ってくる。

 回転する二本の半月刀で、ルビイを千切りにするつもりなのだろう。

 が、そうはいかなかった。

 一歩たりとも動くことをせず、ルビイは両手に握った大剣を突き出した。

 まず右に。

 そして、手ごたえを感じると、返す刀ですぐさま左に。

 金属の軋む音とともに、無数のぜんまいや歯車が飛び散った。

 人形の首が地面を転がり、逃げる芸妓たちを追いかけていく。

 派手な音がして、断ち割られた腹からからくり仕掛けの臓物を吐き出した人形の胴が倒れ込んだ。

 その上を、ショートパンツから露出したしなやかな脚を伸ばして、ルビイが飛び抜ける。

 陣地の端で宦官たちに追いつくと、何人もの人垣に守られた初老の男を捕まえた。

 ハイキックと回し蹴りで取り巻きを一瞬でなぎ倒し、目当ての男を襟首をつかんで吊り下げた。

「高官なら、私の言葉もわかるだろう」

 おどおどとこちらを見下ろす化粧の剥げた顔を見上げて、ルビイはたずねた。

「おまえは誰だ。名を名乗れ」

 男が血走った眼で二、三度まばたきした。

 蒼ざめた顔に、今にも恐怖にちびりそうな表情を浮かべている。

 やがて、蚊の鳴くような声でぽつりと言った。

「な、なんて、乱暴な。あ、あなたこそ、誰なんですか。ひどいこと、しないでください。わ、私は、リン・シュウ。ネオ・ホンコンの、せ、政務官です」
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