上 下
450 / 471
第6章 ネオ・チャイナの野望

#44 前哨戦⑨

しおりを挟む
「なるほど、ネオ・ホンコンの政務官か」

 左手で相手の襟首をつかみ、右手に握った大剣を振りかざして、ルビイは白粉だらけの宦官の顔を睨みつけた。

「なら、すぐに伝令を飛ばして、ネオ・チャイナ軍とコウライ軍に兵を引き上げさせるんだな。おまえが、ここで死にたくなければ、だが」

「そういうおまえこそ誰なのです? いきなりこんな・・・無礼にもほどがある」

 宦官リン・シュウの顔からはすっかり血の気が引いてしまっている。

 唇に塗った紅が剥げて頬にはみ出し、不気味さに拍車をかけている。

「知りたければ教えてやろう。私はミネルヴァ特殊部隊隊長、ルビイ、スナフキン。あいにく、あんたたちが包囲しているゾハクは、私の旧友なんでね。放っておくわけにはいかないのさ」

 ルビイは宦官の髪をつかんで吊り上げると、喉笛に大剣の刃を押し当てた。

「なんと! 西の王都ミネルヴァが、面と向かってわれらネオ・チャイナに反旗を翻すというのですか? そんなことをしたら、それこそ戦争ですぞ? これはミネルヴァ王の意志と取ってよいのですか?」

「今言ったばかりだろう。王の意志でも執政官の命令でもない。私は旧友の命を助けに来た。ただそれだけのことだ」

「王都としての政治的判断ではなく、あくまでもおまえ個人の事情だと、そう信じろとでも?」

「その通り。さあ、ぐずぐずしていると、貴様のこの白粉臭い首が胴体から離れることになるが、それでもいいのかな? まあ、どの道、貴様の軍勢も、今頃は主転童子率いる鬼族の乱入で、ガタガタになってる頃だろうがな」

 ルビイが握った大剣の刃が滑り、喉仏の飛び出た宦官の首に血の筋をつけた。

「わっ! やめなさい! 痛い! 痛いったら!」

 喚き出す年増のオトコオンナ。

 自分可愛さ優先のその醜態は、とても見るに堪えぬほどだった。

「わかった! わかったから、乱暴はやめて! 出します! 味方軍に、即刻引き上げるよう、伝令を飛ばしますから、そんな痛いことはもうやめて!」


 その頃ー。

 上空では、カイトに乗ったアニムスが、地上のマグナと連絡を取り合っていた。

「ルビイ、うまくやったみたいだね。敵軍が引いていくよ。それこそ、潮が引くみたいにさ」

「ああ。鬼どもにも礼を言わねばな。さあ、轟天号を動かして綱を引くから、おまえたちもそろそろ下りてこい」

「だね。もう少し眺めてたいけど、ここ、けっこう寒くてさ。ちょうど催してきたところだよ」

「何の話をしてるんだ。ん? それより、あれはなんだ?」

 苦笑混じりのマグナの声が、途中からトーンを変えた。

 その時だった。

 風の音をつんざいて、妹のアニマの悲鳴が聞こえてきた。

「お兄ちゃん、見て! ヤバいよ! アレって…うわ、ぎゃああああああっ!」

 驚いて振り向いたアニムスは、見た。 

 アニマのカイトが、巨大な漆黒の影に呑み込まれてしまうのをー。

  
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完】君を呼ぶ声

BL / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:87

夫の浮気相手と一緒に暮らすなんて無理です!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,072pt お気に入り:2,710

【R18】あんなこと……イケメンとじゃなきゃヤれない!!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:59

お兄ちゃんと内緒の時間!

BL / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:59

進芸の巨人は逆境に勝ちます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:1

処理中です...