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第6章 ネオ・チャイナの野望

#49 少女に迫る危機①

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 香の匂いの立ち込める小部屋。

 帳簿をめくる手をふと止めて、小太りの女が格子戸のすき間から外を見た。

 派手な着物が近づいてくる。

 白地に赤と青の縞。

 チャイナ服の中では、凡人が着たらひどくちぐはぐに見える色合いだ。

「おいでかい?」

 入ってきたのは、長身の女だった。

 細面の顔は、大半、マスクで隠れている。

 黒い髪は長く、マスクの上からのぞく目は、切れ長で妖しげだ。
 
 異国風の色彩のチャイナ服を見事に着こなしたその女は、ひどく大柄で、どこか人間離れしていた。

 どこがどうとはいえないが、身にまとう雰囲気が、獣のそれに近いのだ。

「王蘭じゃないか。最近見なかったが、また旅かえ?」

 煙管の灰を灰皿に落とし、アネモネは気のない素振りで訊き返す。

 こうまで暑くては、客の入りは期待できそうにない。

 この異国の売人の相手をするのも、暇つぶしぐらいにはなるだろう。

「砂漠でちょっとしたいくさがあってさ、見物にさ、行ってたのさ」

「相変わらず、好きだねえ、血を見るのが」

「それでね、いいもん、拾っちゃったんだけどさ」

「いいもん?」

 アネモネの象のように細い眼が光る。

 なんだ、商売の話か。

 そうこなくっちゃ。

「娘だよ。処女だし、顔立ちも悪くない」

「歳は? 15以上ならいらないよ。需要がなくって、余ってる」

 この店の常連客は、ハードプレイを好む変態ばかりである。

 性別は男女問わないが、フリークスか未成年以外には興味を示さない。

 が、このネオ・ホンコンでは、権力者ほど変態性欲の持ち主ときているのだ。

「まだ子どもだね。12、3くらいさ。あと2年は使えるよ」

 王蘭と呼ばれた女が答えた。

「敵の部隊に居た娘だから、達磨女でも脱子宮女でもお望み通り」

 達磨女。

 人気のフリークスである。

 脱子宮女も最近の流行だ。

 ただ問題は、どちらも施術が酷すぎて、女たちがすぐに死んでしまうことだった。

「15歳未満のフリークスは、引く手あまたなんだろ? ねえ、買っておくれよ。安くしておくから」

「いいよ」

 アネモネは煙管を置いた。

「善は急げだ。近くにいるなら、すぐに連れてきておくれ」

 王蘭が笑った。

「善は急げだって? それを言うなら、悪は急げ、じゃあないのかい?」

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