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夜空のラムネ
〈罰の放課後〉
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空が暗くなると雨は本当に止み、濡れたアスファルトが夜の道をいつもより黒くさせている。
街灯の光が微妙に反射し、地面は黒いガラスのようだ。
きっと雨が止んだ事に嬉しさを隠しきれない渡辺さんが、プールに居るだろう。
そう思った。
しかし、いつも少女が一人分通れるだけ開いている正門は、しっかりと閉じていて、入ったら開けっ放しのプールの扉も、しっかりと鍵がしてある。
きっと遅れているだけだ。そう思い少し待ってもみたが、渡辺さんは現れなかった。
でも。思い通りに動かないのが渡辺さんだ。
それが渡辺さんだ。
残された現実からどうにか逃げようと、いろんな理由や言い訳で自分を騙そうとするが、そうすればするほど、真実だけが取り残されて行き、最終的には言い逃れのできない僕が待っていた。
今日。牛乳を取り出さなかったお前は、クラスの一員だ。
自分が嫌になった。
なぜか悔しかった。
何か行動したかった。
何か自分に罰がほしかった。
あいにく渡辺さんの居ないこの学校には、僕しかいない。
僕は僕に罰と、クラスの一員から抜け出す口実をつける為に、ある場所をめざした。
もしかしたら、今から僕がやろうと思っている事は、不良がする事なのかもしれない。もしそうならば、僕にはこの倉庫に入る権利があるだろう。
錆び付いた重々しい鉄の扉を開き中に入ると、そこにはまだ新しいお菓子の袋と、タバコの吸い殻が積まれていた。
不良と呼ばれる人達が、ここに集まっていたらしい。
僕は散らかる倉庫の中に幾つか転がるボールの中から、一番空気の入ったサッカーボールを手に取ると、タバコの香りなのか、夜がそうさせるのか、なんだか自分も悪になった気分だった。
その気持ちがなくならないうちに。自分が少し強くなっている隙に。僕はいつかの渡辺さんみたいに倉庫を飛び出して、職員室を目指した。
放送で呼び出された以外で来るのは初めてだった。
職員室の中は夜でも昼間の空気を残していて、今でも一人くらい先生が座っていてもおかしくなかった。
大丈夫。夜まで学校に残っているような熱血先生は、この学校にはいない。それは僕が一番知っている。
そう自分に言い聞かし、倉庫から持ち出したボールを窓ガラスの前に置いた。
ボールから十分な距離をとって心を準備する。
いくら僕が運動オンチで、体育の時にチームの足を引っ張っていようと、この距離から思い切り蹴れば、窓ガラスくらい当たるだろう。
そしたら後は簡単だ。
割れた窓ガラスから中に入り教室をめざす。そして渡辺さんの机から牛乳パックを取り出し、ゴミ箱に捨てるだけ。
大丈夫。失敗のしようがない。誰にだって成功できる。
臆病な自分を勇気付け、サッカー部の水上が体育で見せたシュートを思い出した。
周りが静かになり、徐々に僕の勇気が心臓のリズムに近づいていく。
やがて二つの音は重なり、僕の体を前に押し出した。
全身の力を右足に込めて。
「佐藤くん?」
「?」
突然、名前を呼ばれた。
そして違和感のある声だった。この時間、ここで僕の名前を呼ぶのは、渡辺さんしかいない。
でも渡辺さんの声ではなかった。
僕の体は一歩目を出した所で止まってしまった。
渡辺さんでないのならきっと見回りの警備員だろう。
この状況ではどんな嘘も無意味だ。
諦めて振り向くと、知らない女の子が、お化けのように立っていた。
「佐藤くん、だよね?」
「だれ、ですか?」
そう尋ねると、見た事のあるモジモジとするクセ。
「もしかして、た、なかさん?」
「うん」
驚いた。久々に見たからではなく、雰囲気がだいぶ変わっていたからだ。
ショートカットだった髪は肩まですらっと伸び、足を出した今時の格好。それと鼻の前でくるっと香る柑橘系のスッキリした匂い。
それはまるで、音楽の戸田先生のような感じだった。
「なんで田中さんがここにいるの?」
「見えたから」
「え? どこから?」
「……」
僕の質問に田中さんは俯いたまま答えてはくれなかった。
そして田中さんは、まるで閃いたかのように、僕の足元に転がるサッカーボールに視線を向けて言った。
「……練習?」
なんだか逃げたように見えたのは気のせいだろうか。
別に田中さんになら言っても大丈夫だろう。という僕の考えの中には、不登校だからという理由はなく、なんとなくそんな気がしたからだ。
「うん。狙うのはゴールじゃないけどね」
窓ガラスの前に置かれたボールを見て、田中さんは気づいたみたいだった。
「どうしてガラスを割るの?」
「今日、渡辺さんが机の中に牛乳を入れられたんだ」
「もしかして水上の仕業?」
そう。クラスでそんな事を平気でするのは水上だ。田中さんだっていろいろされている。だから別に当たっても驚かないし、僕でも多分水上の名前を上げるだろう。
「明日の朝、学校に早く行って捨てるのはダメなの?」
田中さんの言う通りだけど、これは僕が僕に与えた罰でもある。何かの代償を払わないと気がすまない。それと何より、今日が終わったらきっと僕は何もしない。
「今やる事に意味があるの。田中さんは危ないからさがっていて」
腹を決め、ボールに向かって再び一歩目を出した時だった。
「ストップ、止まれ、停止、佐藤。くん」
田中さん史上初めて聞く大きな声にびっくりして、田中さんの言う通り僕は止まった。いや止まってしまった。
「そんなのダメ。こっちに来て」
そう言うと田中さんは、僕をすぐ横にある職員玄関へと案内した。
そして扉の前で振り向いて、確かに田中さんは言った。
「開けてあげるから急いで」
次の瞬間。田中さんのポケットから、可愛い鈴のついた鍵が出てきたかと思うと、ガチャリと音を立て、職員玄関の扉が動いた。
「え? え、なんで田中さんが職員玄関の鍵を持っているの?」
「いいの。行くよ」
それから田中さんは黙って僕に背を向けた。秘密って事ね。
暗闇を進んで行く田中さんの後を付いて行くと、赤く光る消火器の光が冷たく不気味に校内を照らし、どこまでも続いていそうな廊下は、まるでお化け屋敷のようだった。
普段は使う事の無い職員室からの階段を上がって、三階へ向かう最中、僕は鍵の事を考えていた。
そういえば渡辺さんもプールの鍵を持っていた。渡辺さんも田中さんも物を盗むような事をする人じゃない。ならばどうして二人は鍵を持っていたのだろうか。
考えれば考えるほど、鍵の理由は校舎の暗闇に消えていき、気づけば田中さんとの間には沈黙が続いていた。
なんとか話題を考えたが、不登校で学校に来ていない子に、なんて声をかければいいのだろうか。僕がわからず黙っていると、先に田中さんが声をかけてくれた。
「あっ……。教室、閉まってた」
まるで授業中に締め出されたかのように、閉じた教室の前で立ちつくしている田中さんは、くるっと後ろを向き、困った顔で僕を見た。久々に見る田中さんの困り顔。それは僕の知っている田中さんで、いつもの田中さんだった。
「教室の鍵は持ってないの?」
薄暗い視界の中で田中さんは頷いた。
どこか入れる所を探すが、どこの扉もきっちりと閉まっていて、入れる隙間なんてどこにもなかった。
「ごめんね」
田中さんがポツリと暗闇から誤った。
しょうがない。その一言でしかなかった。
「……あっ!」
諦めた僕が突然声をあげた為に、田中さんは驚いて飛び跳ねた。でもそれだけ重要な事だ。
「確か後ろの扉って」
前に手塚と水上が、裏技と言い教室の鍵を外から開けていたのを思い出した。
僕は手塚達がやっていたように、扉を外すような感じで、すこしだけ手前に引きながら持ち上げ、そこから何度か小刻みに扉を揺らした。
「そんな事で鍵が開くの?」
田中さんの見守る中、手塚達のように一発では外れなかったが、扉から金属が外れる音がすると、扉はスルッと横にスライドし、数時間前見ていた教室が現れた。
「ほらね。開いたでしょ」
音の出ない拍手をしながら田中さんは喜んでくれた。
「なんで? なんで?」
「仕組みは分からないけど、手塚達がやっていたんだ」
まるでクラスに参加しているかのような自分の言い方に、違和感と腹立ちを感じた。
「そうなんだ」
田中さんも同じように、手塚という名前に気持ちが曇ったのが、暗闇でも感じとれた。やっぱり田中さんも手塚達の事が嫌いらしい。僕も嫌いだ。
教室に入るといつもの香りとは違う木のような、ホコリのような、誰もいない香りが開放感を増幅させていく。なんだか少しくらい悪い事をしてしまいたい気分だった。
「なんかテンション上がるね」
でも久しぶりの教室なのに田中さんは平然としていた。まるで毎日来ているかのような。夜の学校に慣れているような。なんとも言えない落ち着きをしている。
「佐藤くん。牛乳は?」
「あっそうだ」
教室を真っ二つに横断し、窓側のポツンと置かれている机。そこが渡辺さんの席だ。
なんだか寂しく見えるのは、先生に怒られない程度に、周りの机が渡辺さんから距離をとって置かれているからだ。
机の中に手を入れるとすぐに牛乳はあった。取り出すとまだ中身はほとんど入っていて、漏れた生暖かい牛乳が手に付着した。
バスケのセンスがあれば、ここから教室の端に置かれているゴミ箱にシュートしたい気分だ。
もちろん僕にそんなセンスは無い。あったとしても一応この牛乳は田中さんか渡辺さんが飲むはずだった物。それをゴミ箱に乱雑に入れるのは抵抗があった。
だからそっと。小さな生き物を逃がすように、僕は牛乳をゴミ箱の底に置いた。
「田中さん。ちょっと手を洗ってくるね」
振り向くと、教室に田中さんの姿はなかった。
辺りの音に耳を傾けたからだろう。突然時計の秒針が大きく聞こえて、まるでこちらに迫って来ているみたいだった。
急にいろんな物が恐ろしく見えてきて、額には暑さからとは違う、何か変な汗が点を作っていく。さっきまで気になっていた牛乳の香りはすでにどうでもよくなっていた。
再び教室を横断し廊下を確認するが、やっぱり田中さんはいなかった。さっきまで居たのは本当に田中さんだよな。おばけじゃないよね? 記憶を遡っていると廊下の奥から足音が現れた。
暗闇に目を凝らし、確認の為呼びかけてみる。
「田中さん? 田中さーん? 田中、さん?」
そう信じたかったから。
恐る恐る暗闇に神経を集中させると、ゆっくりと近づいて来たその足音は、徐々に影を表した。
「おわっわっわ」
死ぬほど怖くなり、教室の扉を閉めて鍵をかけようとすると、勢いよく扉に力がかり、隙間から細長い手が、捩じ込むように教室内へと入って来た。
「なんで閉めるの、怖いじゃん、バカ」
その声は田中さんにそっくりで、田中さんだと気づいた。
確認するように恐る恐る開けると、力強く教室に入って来た田中さんは、湿った何かを僕の顔にぶつけた。
「せっかく雑巾濡らしてきてあげたのに。なんなの?」
「いや、ごめん。お化けかと思ったから」
「バカじゃないの」
初めて田中さんが怒った所を見た。
いや。むしろ初めて田中さんと喋っているのかもしれない。
田中さんが濡らしてくれた、お手拭きのように綺麗な雑巾で手を吹き、渡辺さんの机を拭こうと手を入れると、机の中は空っぽだった。
「あれ? 渡辺さん、机の中に何も入ってないよ」
誰かが渡辺さんの教科書を隠したんだ。そう先急ぐ僕の考えを、田中さんが冷静に捕まえた。
「当たり前だよ。今は放課後だもん」
田中さんは不思議そうに僕を見ていた。
何を言われているのかわからなかったが、そうか。無いのが普通なのだ。僕も、僕以外のみんなも、机の中は置いてある教科書でいっぱいだ。どうやら渡辺さんはしっかりと教科書を持ち帰っているらしい。
やっぱり渡辺さんは変わっている。
僕が机の中を綺麗に拭き終わると、田中さんは言った。
「ありがとう」
どうして田中さんがお礼を言うのかわからなかったけど、僕は「うん」と答えていた。
それから渡辺さんの机を元の状態に戻し、田中さんと一緒に廊下へ出ると、僕は気づいた。
外から教室の鍵を閉める方法がない事に。
何とか教室を密室にする方法を考えていると、横から田中さんがつぶやいた。
「大丈夫じゃない?」
田中さんの言う通りだった。別に後ろの扉なんか空いていても、誰も気には止めないだろう。それにいくら考えても密室のトリックなんて思いつかなかった。もし思いついたら、また田中さんを驚かせると思ったのに。
廊下にある時計に目をやると、前に見回りが来た時刻をとっくに過ぎていた。
廊下の窓から外の様子を伺うと、以前止まっていた見回りの車はなく、僕が少しだけ開いた門は、そのまま人ひとり通れる隙間を開けて止まっていた。
今日の大雨で見回りは中止になったのか。それとも今日はこない日なのか。
どちらにしても急いで校舎を出る必要はなくなった。
「佐藤くんの絵はどれ?」
すこし遠くの方から田中さんの声は聞こえた。
その言葉と方向から、田中さんが、張り出された美術の絵を見ているのが予想できた。張り出された日によく廊下から聞こえていた言葉だ。
「僕のはないよ」
学年全員の絵が飾られている前で、ポツンと立つ田中さんの元へ行くと、田中さんは暗闇であまり見えない瞳を僕に移して訊いてきた。
「どうして?」
この理由は同じ質問をしてくれた、戸田先生しか知らない。
「こうやって飾るからだよ。誰がどんな絵を描いたかなんて、先生だけが知っていればいいのに」
そう。生徒が知る意味はない。だって結果見られるのは、ものすごく絵の上手い生徒か、まるで幼稚園児が描いたかのような下手くそな絵だけだから。
だから僕は下書きまでを完成させ、先生に提出した。しっかりと書き込んだけど色を塗っていない。未完成な絵を。
先生にとって大事なのは、作品の完成なんかではなく、しっかり授業に参加しているかどうかだと思ったから。
この理由に戸田先生は「そこに気付くなんて君は鋭いわね」と褒めてくれた。
「佐藤くんは鋭いね」
田中さんも同じ事を言ってくれた。
「渡辺さんの絵は?」
「そこの一番右下。ボロボロのやつだよ」
画用紙の角は折れ曲がり、削れたようにザラザラの表面。暗くて何色が使われているのかは分からないが、何色も色が重なっているのはなんとなくわかった。
「渡辺さんの絵は、いたずらされたの?」
「たぶん、違うと思うよ」
田中さんの言う通り、書いている姿を見ていない人から見ればそう見えるだろう。それほど渡辺さんの絵は、周りと比べてボロかった。
でも実際は、うまく描けなくて何度も消しゴムでこすった後だ。それに角がボロボロなのは、持ち帰り家でも書いていたからだろう。そして右下に貼られている理由は、あまり目立たないようにする為だ。
貼った先生は特に理由はないと言っていたが、そうは思えない。
もし僕が先生だったら、上手い上位の人だけ張り出すか、一人でも差がありすぎる生徒がいるなら、張り出したりはしない。だって、テストの答案用紙を貼られているのと同じだと思ったから。
「いたずらじゃないのなら、渡辺さんは凄く頑張って描いたんだね」
何も言っていないのに田中さんだけが、渡辺さんの頑張りを見抜いた。
クラスのみんなは、渡辺さんの管理がだらしないだけだと言っていたが、そう言う奴の絵は、下書きの線が見えるほど薄い仕上がりだ。
「佐藤くんの絵も見てみたかったな」
「そんな事言うなら、僕も田中さんの絵を見てみたかったよ」
確か田中さんは、すごく絵が上手だったはずだから。
「学校で描く絵は嫌い。それに私は渡辺さんみたいな絵が描きたい」
美術作品を見るように、田中さんの目は、渡辺さんの絵に吸い込まれていた。
その横顔はとても普通の女子だった。
誰も彼女が不登校の子だとは思わないだろう。
だから聞いてみたくなった。きっと田中さんなら普通に話してくれる気がしたから。
「どうして田中さんは学校に来ないの」
田中さんは絵を見たまま優しく答えてくれた。
「私みたいな子は何も学べないからだよ」
でも。すごく難しい返しだった。
それは僕が先読みしても全然わからなくて、止まってしまうほど。
「どうゆうこと?」
だから正直に訊く。
「手塚や水上。それと私みたいな奴は、学校では何も学べない」
意味はわからなかったけど。すごく切ない声だった。
「じゃぁ。渡辺さんは?」
僕が尋ねると、田中さんは嬉しそうに教えてくれた。
「渡辺さんは、渡辺さんだよ」
田中さんの言うことが正解かどうかは解らなかったけれど、僕は訊いてみたかった。
「じゃぁ……僕は?」
すると田中さんは、渡辺さんの時と全く同じ口調で教えてくれた。
「佐藤くんも、佐藤くんだよ。大丈夫」
何が大丈夫なのだろうか。現に僕も学校が嫌いで、不登校に憧れている存在だ。それでも学校に来てしまうのは、ただ勇気がないだけだ。あればとっくに学校なんか休んでいる。だから自分が大丈夫と言われるのは、なんだか違和感があった。
田中さんはポケットから出した鍵を見せて言った。
「そろそろ行こっか。佐藤くんは明日も学校で朝早いんだから。もう帰らないと」
まだまだ田中さんに聞きたい事があったけど、田中さんの言う通り。時計の針はすでに次の日を動かしていた。
来た時と同じく、田中さんの後ろをついていき、職員玄関から出ると、体についた学校の香りを洗い流すように、夜風が体を触っていく。
正門までの道のり、僕は田中さんになんと言って別れればいいのかわからなかった。
明日もおそらく田中さんは登校しないだろう。
また会う日まで。違う。
結局何も思いつかずに正門を出ると、お別れの言葉で一番短い言葉が勝手に口から溢れた。
「……じゃ」
すると田中さんは、ニコっと笑い「うん」と優しく頷いた。
そこで離れればよかったのだが、まだ僕は言葉を探していて、タイミングを失った。
僕が動かなかったからか、田中さんも僕を見ていて、今度は自然に口から出た。
「鍵。ありがとう。助かった」
「え、あ、全然いーよ」
それからほんの一瞬。沈黙が訪れた。
先に動いたのは田中さんだった。
田中さんは、僕に振ろうとあげた手を握りしめて「じゃぁね」と慣れない感じで言うから、なんだか僕も慣れない感じの「じゃぁね」が出た。
その後はお互い別々の道だ。もう一度田中さんの方を見た時には、ちょうど学校の角を曲がったところだった。
木の葉についた雨の雫が、風に流され僕の顔にこぼれ落ちてきた。
夜が深くなればなるほど、空を見てしまう気がする。
見上げると、空は隠れていた星達が丸見えになる程。透き通っていた。
次の日が楽しくなるくらい。でも、雨が降った次の日は嫌いだ。だって空が凄くニコニコして、元気に夏を頑張るから。
街灯の光が微妙に反射し、地面は黒いガラスのようだ。
きっと雨が止んだ事に嬉しさを隠しきれない渡辺さんが、プールに居るだろう。
そう思った。
しかし、いつも少女が一人分通れるだけ開いている正門は、しっかりと閉じていて、入ったら開けっ放しのプールの扉も、しっかりと鍵がしてある。
きっと遅れているだけだ。そう思い少し待ってもみたが、渡辺さんは現れなかった。
でも。思い通りに動かないのが渡辺さんだ。
それが渡辺さんだ。
残された現実からどうにか逃げようと、いろんな理由や言い訳で自分を騙そうとするが、そうすればするほど、真実だけが取り残されて行き、最終的には言い逃れのできない僕が待っていた。
今日。牛乳を取り出さなかったお前は、クラスの一員だ。
自分が嫌になった。
なぜか悔しかった。
何か行動したかった。
何か自分に罰がほしかった。
あいにく渡辺さんの居ないこの学校には、僕しかいない。
僕は僕に罰と、クラスの一員から抜け出す口実をつける為に、ある場所をめざした。
もしかしたら、今から僕がやろうと思っている事は、不良がする事なのかもしれない。もしそうならば、僕にはこの倉庫に入る権利があるだろう。
錆び付いた重々しい鉄の扉を開き中に入ると、そこにはまだ新しいお菓子の袋と、タバコの吸い殻が積まれていた。
不良と呼ばれる人達が、ここに集まっていたらしい。
僕は散らかる倉庫の中に幾つか転がるボールの中から、一番空気の入ったサッカーボールを手に取ると、タバコの香りなのか、夜がそうさせるのか、なんだか自分も悪になった気分だった。
その気持ちがなくならないうちに。自分が少し強くなっている隙に。僕はいつかの渡辺さんみたいに倉庫を飛び出して、職員室を目指した。
放送で呼び出された以外で来るのは初めてだった。
職員室の中は夜でも昼間の空気を残していて、今でも一人くらい先生が座っていてもおかしくなかった。
大丈夫。夜まで学校に残っているような熱血先生は、この学校にはいない。それは僕が一番知っている。
そう自分に言い聞かし、倉庫から持ち出したボールを窓ガラスの前に置いた。
ボールから十分な距離をとって心を準備する。
いくら僕が運動オンチで、体育の時にチームの足を引っ張っていようと、この距離から思い切り蹴れば、窓ガラスくらい当たるだろう。
そしたら後は簡単だ。
割れた窓ガラスから中に入り教室をめざす。そして渡辺さんの机から牛乳パックを取り出し、ゴミ箱に捨てるだけ。
大丈夫。失敗のしようがない。誰にだって成功できる。
臆病な自分を勇気付け、サッカー部の水上が体育で見せたシュートを思い出した。
周りが静かになり、徐々に僕の勇気が心臓のリズムに近づいていく。
やがて二つの音は重なり、僕の体を前に押し出した。
全身の力を右足に込めて。
「佐藤くん?」
「?」
突然、名前を呼ばれた。
そして違和感のある声だった。この時間、ここで僕の名前を呼ぶのは、渡辺さんしかいない。
でも渡辺さんの声ではなかった。
僕の体は一歩目を出した所で止まってしまった。
渡辺さんでないのならきっと見回りの警備員だろう。
この状況ではどんな嘘も無意味だ。
諦めて振り向くと、知らない女の子が、お化けのように立っていた。
「佐藤くん、だよね?」
「だれ、ですか?」
そう尋ねると、見た事のあるモジモジとするクセ。
「もしかして、た、なかさん?」
「うん」
驚いた。久々に見たからではなく、雰囲気がだいぶ変わっていたからだ。
ショートカットだった髪は肩まですらっと伸び、足を出した今時の格好。それと鼻の前でくるっと香る柑橘系のスッキリした匂い。
それはまるで、音楽の戸田先生のような感じだった。
「なんで田中さんがここにいるの?」
「見えたから」
「え? どこから?」
「……」
僕の質問に田中さんは俯いたまま答えてはくれなかった。
そして田中さんは、まるで閃いたかのように、僕の足元に転がるサッカーボールに視線を向けて言った。
「……練習?」
なんだか逃げたように見えたのは気のせいだろうか。
別に田中さんになら言っても大丈夫だろう。という僕の考えの中には、不登校だからという理由はなく、なんとなくそんな気がしたからだ。
「うん。狙うのはゴールじゃないけどね」
窓ガラスの前に置かれたボールを見て、田中さんは気づいたみたいだった。
「どうしてガラスを割るの?」
「今日、渡辺さんが机の中に牛乳を入れられたんだ」
「もしかして水上の仕業?」
そう。クラスでそんな事を平気でするのは水上だ。田中さんだっていろいろされている。だから別に当たっても驚かないし、僕でも多分水上の名前を上げるだろう。
「明日の朝、学校に早く行って捨てるのはダメなの?」
田中さんの言う通りだけど、これは僕が僕に与えた罰でもある。何かの代償を払わないと気がすまない。それと何より、今日が終わったらきっと僕は何もしない。
「今やる事に意味があるの。田中さんは危ないからさがっていて」
腹を決め、ボールに向かって再び一歩目を出した時だった。
「ストップ、止まれ、停止、佐藤。くん」
田中さん史上初めて聞く大きな声にびっくりして、田中さんの言う通り僕は止まった。いや止まってしまった。
「そんなのダメ。こっちに来て」
そう言うと田中さんは、僕をすぐ横にある職員玄関へと案内した。
そして扉の前で振り向いて、確かに田中さんは言った。
「開けてあげるから急いで」
次の瞬間。田中さんのポケットから、可愛い鈴のついた鍵が出てきたかと思うと、ガチャリと音を立て、職員玄関の扉が動いた。
「え? え、なんで田中さんが職員玄関の鍵を持っているの?」
「いいの。行くよ」
それから田中さんは黙って僕に背を向けた。秘密って事ね。
暗闇を進んで行く田中さんの後を付いて行くと、赤く光る消火器の光が冷たく不気味に校内を照らし、どこまでも続いていそうな廊下は、まるでお化け屋敷のようだった。
普段は使う事の無い職員室からの階段を上がって、三階へ向かう最中、僕は鍵の事を考えていた。
そういえば渡辺さんもプールの鍵を持っていた。渡辺さんも田中さんも物を盗むような事をする人じゃない。ならばどうして二人は鍵を持っていたのだろうか。
考えれば考えるほど、鍵の理由は校舎の暗闇に消えていき、気づけば田中さんとの間には沈黙が続いていた。
なんとか話題を考えたが、不登校で学校に来ていない子に、なんて声をかければいいのだろうか。僕がわからず黙っていると、先に田中さんが声をかけてくれた。
「あっ……。教室、閉まってた」
まるで授業中に締め出されたかのように、閉じた教室の前で立ちつくしている田中さんは、くるっと後ろを向き、困った顔で僕を見た。久々に見る田中さんの困り顔。それは僕の知っている田中さんで、いつもの田中さんだった。
「教室の鍵は持ってないの?」
薄暗い視界の中で田中さんは頷いた。
どこか入れる所を探すが、どこの扉もきっちりと閉まっていて、入れる隙間なんてどこにもなかった。
「ごめんね」
田中さんがポツリと暗闇から誤った。
しょうがない。その一言でしかなかった。
「……あっ!」
諦めた僕が突然声をあげた為に、田中さんは驚いて飛び跳ねた。でもそれだけ重要な事だ。
「確か後ろの扉って」
前に手塚と水上が、裏技と言い教室の鍵を外から開けていたのを思い出した。
僕は手塚達がやっていたように、扉を外すような感じで、すこしだけ手前に引きながら持ち上げ、そこから何度か小刻みに扉を揺らした。
「そんな事で鍵が開くの?」
田中さんの見守る中、手塚達のように一発では外れなかったが、扉から金属が外れる音がすると、扉はスルッと横にスライドし、数時間前見ていた教室が現れた。
「ほらね。開いたでしょ」
音の出ない拍手をしながら田中さんは喜んでくれた。
「なんで? なんで?」
「仕組みは分からないけど、手塚達がやっていたんだ」
まるでクラスに参加しているかのような自分の言い方に、違和感と腹立ちを感じた。
「そうなんだ」
田中さんも同じように、手塚という名前に気持ちが曇ったのが、暗闇でも感じとれた。やっぱり田中さんも手塚達の事が嫌いらしい。僕も嫌いだ。
教室に入るといつもの香りとは違う木のような、ホコリのような、誰もいない香りが開放感を増幅させていく。なんだか少しくらい悪い事をしてしまいたい気分だった。
「なんかテンション上がるね」
でも久しぶりの教室なのに田中さんは平然としていた。まるで毎日来ているかのような。夜の学校に慣れているような。なんとも言えない落ち着きをしている。
「佐藤くん。牛乳は?」
「あっそうだ」
教室を真っ二つに横断し、窓側のポツンと置かれている机。そこが渡辺さんの席だ。
なんだか寂しく見えるのは、先生に怒られない程度に、周りの机が渡辺さんから距離をとって置かれているからだ。
机の中に手を入れるとすぐに牛乳はあった。取り出すとまだ中身はほとんど入っていて、漏れた生暖かい牛乳が手に付着した。
バスケのセンスがあれば、ここから教室の端に置かれているゴミ箱にシュートしたい気分だ。
もちろん僕にそんなセンスは無い。あったとしても一応この牛乳は田中さんか渡辺さんが飲むはずだった物。それをゴミ箱に乱雑に入れるのは抵抗があった。
だからそっと。小さな生き物を逃がすように、僕は牛乳をゴミ箱の底に置いた。
「田中さん。ちょっと手を洗ってくるね」
振り向くと、教室に田中さんの姿はなかった。
辺りの音に耳を傾けたからだろう。突然時計の秒針が大きく聞こえて、まるでこちらに迫って来ているみたいだった。
急にいろんな物が恐ろしく見えてきて、額には暑さからとは違う、何か変な汗が点を作っていく。さっきまで気になっていた牛乳の香りはすでにどうでもよくなっていた。
再び教室を横断し廊下を確認するが、やっぱり田中さんはいなかった。さっきまで居たのは本当に田中さんだよな。おばけじゃないよね? 記憶を遡っていると廊下の奥から足音が現れた。
暗闇に目を凝らし、確認の為呼びかけてみる。
「田中さん? 田中さーん? 田中、さん?」
そう信じたかったから。
恐る恐る暗闇に神経を集中させると、ゆっくりと近づいて来たその足音は、徐々に影を表した。
「おわっわっわ」
死ぬほど怖くなり、教室の扉を閉めて鍵をかけようとすると、勢いよく扉に力がかり、隙間から細長い手が、捩じ込むように教室内へと入って来た。
「なんで閉めるの、怖いじゃん、バカ」
その声は田中さんにそっくりで、田中さんだと気づいた。
確認するように恐る恐る開けると、力強く教室に入って来た田中さんは、湿った何かを僕の顔にぶつけた。
「せっかく雑巾濡らしてきてあげたのに。なんなの?」
「いや、ごめん。お化けかと思ったから」
「バカじゃないの」
初めて田中さんが怒った所を見た。
いや。むしろ初めて田中さんと喋っているのかもしれない。
田中さんが濡らしてくれた、お手拭きのように綺麗な雑巾で手を吹き、渡辺さんの机を拭こうと手を入れると、机の中は空っぽだった。
「あれ? 渡辺さん、机の中に何も入ってないよ」
誰かが渡辺さんの教科書を隠したんだ。そう先急ぐ僕の考えを、田中さんが冷静に捕まえた。
「当たり前だよ。今は放課後だもん」
田中さんは不思議そうに僕を見ていた。
何を言われているのかわからなかったが、そうか。無いのが普通なのだ。僕も、僕以外のみんなも、机の中は置いてある教科書でいっぱいだ。どうやら渡辺さんはしっかりと教科書を持ち帰っているらしい。
やっぱり渡辺さんは変わっている。
僕が机の中を綺麗に拭き終わると、田中さんは言った。
「ありがとう」
どうして田中さんがお礼を言うのかわからなかったけど、僕は「うん」と答えていた。
それから渡辺さんの机を元の状態に戻し、田中さんと一緒に廊下へ出ると、僕は気づいた。
外から教室の鍵を閉める方法がない事に。
何とか教室を密室にする方法を考えていると、横から田中さんがつぶやいた。
「大丈夫じゃない?」
田中さんの言う通りだった。別に後ろの扉なんか空いていても、誰も気には止めないだろう。それにいくら考えても密室のトリックなんて思いつかなかった。もし思いついたら、また田中さんを驚かせると思ったのに。
廊下にある時計に目をやると、前に見回りが来た時刻をとっくに過ぎていた。
廊下の窓から外の様子を伺うと、以前止まっていた見回りの車はなく、僕が少しだけ開いた門は、そのまま人ひとり通れる隙間を開けて止まっていた。
今日の大雨で見回りは中止になったのか。それとも今日はこない日なのか。
どちらにしても急いで校舎を出る必要はなくなった。
「佐藤くんの絵はどれ?」
すこし遠くの方から田中さんの声は聞こえた。
その言葉と方向から、田中さんが、張り出された美術の絵を見ているのが予想できた。張り出された日によく廊下から聞こえていた言葉だ。
「僕のはないよ」
学年全員の絵が飾られている前で、ポツンと立つ田中さんの元へ行くと、田中さんは暗闇であまり見えない瞳を僕に移して訊いてきた。
「どうして?」
この理由は同じ質問をしてくれた、戸田先生しか知らない。
「こうやって飾るからだよ。誰がどんな絵を描いたかなんて、先生だけが知っていればいいのに」
そう。生徒が知る意味はない。だって結果見られるのは、ものすごく絵の上手い生徒か、まるで幼稚園児が描いたかのような下手くそな絵だけだから。
だから僕は下書きまでを完成させ、先生に提出した。しっかりと書き込んだけど色を塗っていない。未完成な絵を。
先生にとって大事なのは、作品の完成なんかではなく、しっかり授業に参加しているかどうかだと思ったから。
この理由に戸田先生は「そこに気付くなんて君は鋭いわね」と褒めてくれた。
「佐藤くんは鋭いね」
田中さんも同じ事を言ってくれた。
「渡辺さんの絵は?」
「そこの一番右下。ボロボロのやつだよ」
画用紙の角は折れ曲がり、削れたようにザラザラの表面。暗くて何色が使われているのかは分からないが、何色も色が重なっているのはなんとなくわかった。
「渡辺さんの絵は、いたずらされたの?」
「たぶん、違うと思うよ」
田中さんの言う通り、書いている姿を見ていない人から見ればそう見えるだろう。それほど渡辺さんの絵は、周りと比べてボロかった。
でも実際は、うまく描けなくて何度も消しゴムでこすった後だ。それに角がボロボロなのは、持ち帰り家でも書いていたからだろう。そして右下に貼られている理由は、あまり目立たないようにする為だ。
貼った先生は特に理由はないと言っていたが、そうは思えない。
もし僕が先生だったら、上手い上位の人だけ張り出すか、一人でも差がありすぎる生徒がいるなら、張り出したりはしない。だって、テストの答案用紙を貼られているのと同じだと思ったから。
「いたずらじゃないのなら、渡辺さんは凄く頑張って描いたんだね」
何も言っていないのに田中さんだけが、渡辺さんの頑張りを見抜いた。
クラスのみんなは、渡辺さんの管理がだらしないだけだと言っていたが、そう言う奴の絵は、下書きの線が見えるほど薄い仕上がりだ。
「佐藤くんの絵も見てみたかったな」
「そんな事言うなら、僕も田中さんの絵を見てみたかったよ」
確か田中さんは、すごく絵が上手だったはずだから。
「学校で描く絵は嫌い。それに私は渡辺さんみたいな絵が描きたい」
美術作品を見るように、田中さんの目は、渡辺さんの絵に吸い込まれていた。
その横顔はとても普通の女子だった。
誰も彼女が不登校の子だとは思わないだろう。
だから聞いてみたくなった。きっと田中さんなら普通に話してくれる気がしたから。
「どうして田中さんは学校に来ないの」
田中さんは絵を見たまま優しく答えてくれた。
「私みたいな子は何も学べないからだよ」
でも。すごく難しい返しだった。
それは僕が先読みしても全然わからなくて、止まってしまうほど。
「どうゆうこと?」
だから正直に訊く。
「手塚や水上。それと私みたいな奴は、学校では何も学べない」
意味はわからなかったけど。すごく切ない声だった。
「じゃぁ。渡辺さんは?」
僕が尋ねると、田中さんは嬉しそうに教えてくれた。
「渡辺さんは、渡辺さんだよ」
田中さんの言うことが正解かどうかは解らなかったけれど、僕は訊いてみたかった。
「じゃぁ……僕は?」
すると田中さんは、渡辺さんの時と全く同じ口調で教えてくれた。
「佐藤くんも、佐藤くんだよ。大丈夫」
何が大丈夫なのだろうか。現に僕も学校が嫌いで、不登校に憧れている存在だ。それでも学校に来てしまうのは、ただ勇気がないだけだ。あればとっくに学校なんか休んでいる。だから自分が大丈夫と言われるのは、なんだか違和感があった。
田中さんはポケットから出した鍵を見せて言った。
「そろそろ行こっか。佐藤くんは明日も学校で朝早いんだから。もう帰らないと」
まだまだ田中さんに聞きたい事があったけど、田中さんの言う通り。時計の針はすでに次の日を動かしていた。
来た時と同じく、田中さんの後ろをついていき、職員玄関から出ると、体についた学校の香りを洗い流すように、夜風が体を触っていく。
正門までの道のり、僕は田中さんになんと言って別れればいいのかわからなかった。
明日もおそらく田中さんは登校しないだろう。
また会う日まで。違う。
結局何も思いつかずに正門を出ると、お別れの言葉で一番短い言葉が勝手に口から溢れた。
「……じゃ」
すると田中さんは、ニコっと笑い「うん」と優しく頷いた。
そこで離れればよかったのだが、まだ僕は言葉を探していて、タイミングを失った。
僕が動かなかったからか、田中さんも僕を見ていて、今度は自然に口から出た。
「鍵。ありがとう。助かった」
「え、あ、全然いーよ」
それからほんの一瞬。沈黙が訪れた。
先に動いたのは田中さんだった。
田中さんは、僕に振ろうとあげた手を握りしめて「じゃぁね」と慣れない感じで言うから、なんだか僕も慣れない感じの「じゃぁね」が出た。
その後はお互い別々の道だ。もう一度田中さんの方を見た時には、ちょうど学校の角を曲がったところだった。
木の葉についた雨の雫が、風に流され僕の顔にこぼれ落ちてきた。
夜が深くなればなるほど、空を見てしまう気がする。
見上げると、空は隠れていた星達が丸見えになる程。透き通っていた。
次の日が楽しくなるくらい。でも、雨が降った次の日は嫌いだ。だって空が凄くニコニコして、元気に夏を頑張るから。
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