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第一章 黒い髪のメイド
メイドの日常(3')
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「ふぅ……」
カリンは自身の寝室で、その姿には似合わないため息をついていた。
(戻ってくるとなにか疲れるな、いや彼女のせいか……)
カリンはナーシャのことを考えていた。
彼女に初めて出会ったのは、五年前になる。
父につれられてきた新しいメイドは少し落ち着きがない感じで、きょろきょろとあたりを見渡していた。
(五年前、初めて出会ったときも、その美しい黒髪に今と変わらぬスタイルで、皆に紹介されていたな)
(その明るくやわらかな雰囲気に当時の私は、女のもつ母性というのはこのようなことをいうのだなと思ったものだ)
カリンは当初はナーシャのその朗らかな笑顔と、仕事に対して真摯なでひたむきな性格に好感をもっていた。
その好感が猜疑に変わったきっかけとなった出来事があった。
ナーシャがメイドとして屋敷に来て一年の時が過ぎようとしていた。
当時カリンは将来、騎士となるか魔術師となるかの選択を迫られていた時期だった。
カリンは剣士としても、その恵まれた体格と先祖から受け継がれてきたセンスによって、非常に高い能力を有していた。
父へ相談するもかけられた言葉は、好きなようにすればよい、とただの一言。余計に頭を悩ませられるだけだった。
そんなある夜、父の留守にマルカムを狙って屋敷に忍び込んできた者がいた。
その侵入者はかなりの手練で屋敷にいた誰もが気づくことができなかった、ただ一人のメイドを除いて。
屋敷の窓辺を眺めていたナーシャは突然悲鳴を上げて、屋敷の皆を驚かせた。
屋敷にいた多くの者はそのナーシャの悲鳴にあわてるばかりであったのだが、カリンと数名の警護のものは、一瞬にして侵入者に感づき、マルカムの部屋に駆け出した。
侵入者はすんでのところで、カリンと警護の剣士達に取り押さえられ御用となったのではあるが、カリンはそのとき見たのだ。
ほぼ同時にマルカムの部屋にたどり着いていたナーシャの体内に秘めたマナが、毅然たる輝きを放っていたのを。
(あの輝きだったな、魔術の道を決心したのは……、本当に美しかった)
その日以降なんどもカリンは、ナーシャにあの時のことを問いただしたものだった。だがナーシャは、あの時は窓辺にいたため、たまたまマルカム様の部屋に向かう魔術の波長を感じたと、それからはただただ必死で何も覚えていないと、繰り返すばかりであった。
(A級魔術師に届こうかといういまでも、私持つマナはいまだあのときの輝きには遠く及ばない)
(彼女はいったい何者なのだ……)
カリンの眠れぬ日々は、まだまだ続くのであった。
カリンは自身の寝室で、その姿には似合わないため息をついていた。
(戻ってくるとなにか疲れるな、いや彼女のせいか……)
カリンはナーシャのことを考えていた。
彼女に初めて出会ったのは、五年前になる。
父につれられてきた新しいメイドは少し落ち着きがない感じで、きょろきょろとあたりを見渡していた。
(五年前、初めて出会ったときも、その美しい黒髪に今と変わらぬスタイルで、皆に紹介されていたな)
(その明るくやわらかな雰囲気に当時の私は、女のもつ母性というのはこのようなことをいうのだなと思ったものだ)
カリンは当初はナーシャのその朗らかな笑顔と、仕事に対して真摯なでひたむきな性格に好感をもっていた。
その好感が猜疑に変わったきっかけとなった出来事があった。
ナーシャがメイドとして屋敷に来て一年の時が過ぎようとしていた。
当時カリンは将来、騎士となるか魔術師となるかの選択を迫られていた時期だった。
カリンは剣士としても、その恵まれた体格と先祖から受け継がれてきたセンスによって、非常に高い能力を有していた。
父へ相談するもかけられた言葉は、好きなようにすればよい、とただの一言。余計に頭を悩ませられるだけだった。
そんなある夜、父の留守にマルカムを狙って屋敷に忍び込んできた者がいた。
その侵入者はかなりの手練で屋敷にいた誰もが気づくことができなかった、ただ一人のメイドを除いて。
屋敷の窓辺を眺めていたナーシャは突然悲鳴を上げて、屋敷の皆を驚かせた。
屋敷にいた多くの者はそのナーシャの悲鳴にあわてるばかりであったのだが、カリンと数名の警護のものは、一瞬にして侵入者に感づき、マルカムの部屋に駆け出した。
侵入者はすんでのところで、カリンと警護の剣士達に取り押さえられ御用となったのではあるが、カリンはそのとき見たのだ。
ほぼ同時にマルカムの部屋にたどり着いていたナーシャの体内に秘めたマナが、毅然たる輝きを放っていたのを。
(あの輝きだったな、魔術の道を決心したのは……、本当に美しかった)
その日以降なんどもカリンは、ナーシャにあの時のことを問いただしたものだった。だがナーシャは、あの時は窓辺にいたため、たまたまマルカム様の部屋に向かう魔術の波長を感じたと、それからはただただ必死で何も覚えていないと、繰り返すばかりであった。
(A級魔術師に届こうかといういまでも、私持つマナはいまだあのときの輝きには遠く及ばない)
(彼女はいったい何者なのだ……)
カリンの眠れぬ日々は、まだまだ続くのであった。
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