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1章 始まりの街

1話 生存者?

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俺の家は会社から徒歩圏内にある。
一人暮らし向けの平屋のアパート
小走りで30分ほどの距離だ。
そこそこの運動になるため、俺はちょうどいいと思っている距離だ。
運動不足が多い会社の同僚達にとっては遠い距離らしいが、感じ方は人それぞれということだろう。

ちなみに家への帰り道は、基本一本道だ。
道の両脇にはコンビニや家が点々とあり、正に田舎の道沿いだろう

……それにしても人がいない。

ここがキングオブ田舎の和歌山県だとしてもだ。

俺は片手には会社から持ってきた鉄鋼製のΦ40mm、1.5mの長さの中空棒を持っている。
正直信じられない状況だ。何があってもいいように備えておいて損はない。

俺は棒を片手に小走りで走る。
全身はまだ痛いが、我慢できなくはない。

それにしても辺りの建物は、大半が全壊している。
歴史上でこれほど大震災があったか?
いや、無いだろう。耐震技術が発展した日本の家屋を全壊させる地震なんて

壊れた家屋を見ながら歩いていると、ガラッと瓦礫が動く音がした。
もしかして生存者か?

俺は音がした方に向かう。
かなり大きな家だ。全壊までは行っていなく半壊程度で済んでいる。

"ガラガラ"

再び瓦礫が動く音
近付くにつれ聞こえてくる微かな振動と妙な音

半壊しているが、このドアを隔てた向こう側から聞こえる。
おそらく室内からだ。
俺は慎重に両開きドアを僅かに開き、覗き込む。

「うっ!!」

思わず声が漏れてしまった。
そこには家の住人と思しき男女
しかし、既に生き絶えている事は一目で分かった。
そして何より目を見張ったのは2体の醜悪な緑の小人だ。
子供くらいの大きさだが、顔は潰れた老人の様。二つの瞳は爬虫類のようだ。
1体は男の身体を喰い荒らし、もう1体は死した女に対して涎を垂れ流しながら腰を振っている。

まさに地獄、何よりこれは現実か?

まだ夢を見ているのか?

すると緑の小人が俺の方を向いた。
俺の漏れた声が聴こえたようだ。

頭が混乱し何も考えられないが、生存本能が俺の身体を動かした。
ドアを足で蹴り閉め、全力で走った。

何も考えず、全力で走り続けた。
途中、別の緑の小人を視界の端で何回か捉えた。
脚は俺の方が速いようで、逃げ切る事は出来たが、あの怪物はそこら中にいるらしい。
もしかしたら俺以外の人間はあの怪物に喰われて……いや、それは早計だ。
ネガティブな思考を打ち消す。

一回も休まず走り、なんとか自宅のアパートに辿り着いた。
周囲にあの緑の小人はいないようだ。

1階建て長屋タイプのアパートなため、地震の影響が少なかったのか半壊程度で住んでいる、
自分の部屋が無事な事を願いつ、1番奥の端の部屋に向かう。
幸運にも俺の部屋は壊れていなかった。しかし、ドアは歪みで全く動かない
そのため反対側に回り込み、ベランダ側に向かう

窓ガラスは全て割れ、容易に入ることができた。
しかし、このままではあの怪物がいつ入ってくるか分からないため、家中のタンス、ベットで塞ぐ。
応急措置だ。明日は他に安全な場所を探そう

よし、まずは整理だ。
あの地震は偶然ではなく、怪物の出現と関係している。
俺は1日、2日気絶していた。
その間に生きていた人は怪物達から逃げたためこの街にはいない。

俺は頭は正直良くない、だからこれ以上の推測はできないが、とりあえずやる事を決めよう。

まずは安全な住処の確保から始めよう。
それから探索を始め、生存者を探し、保護してもらう。
"最優先は己の生存"

これで決まりだ。
まだまだ恐怖は残っているが、落ち着いたらお腹がかなり減ってきた。

押し入れにストックしていた缶詰コレクションを食べることに。出来る限り音は出さずにその日は早めに眠りについた。
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