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3章 3つ巴ベース編

61話 和歌山最強

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小橋君達の参戦によって戦況は大きく変わった。

「皆さん!奴はスキルを持ってないようです。おそらく主に接近戦を主とするみたいです。適切な距離を取りながら戦いましょう!」

小橋君が俺たちの後ろから指示を出す。
【探知Ⅲ】と【鑑定】と小橋君の持つ卓越した指揮力により俺たちの即席パーティーの連携を担う。

正直、小橋君がいなかったら俺たちそれぞれの力が噛み合わず、本来の力が出せず、むしろ戦略的には下がってた可能性もある。

「稲妻突きぃ!!五月雨突きぃ!!!」

加えてピアス君の高速移動による嵐のような攻撃。
小橋君の指示の意図を誰よりも的確に読み取り、一早く動く。
アホと思っていたが、小橋君が加わるとこうも強くなるとはな

だが、魔族サッカーニは強く、小橋君の指示とピアス君の怒涛の攻撃すら見切り避けていく。

「俺たちもいくぞ!!パール!」

俺とパールもピアス君の攻撃の隙間に斬り込んでいく。
俺のナイフが胴体を、パールの転がりが足元を同時に狙う。

だが、それでも足りない…

見切られ避けられる。
がサッカーニの爪が迫ってくる事はない
何故なら

「くっ!」

サッカーニの足が止まる。
サッカーニの足には白い糸のような物が巻きついている。

「組長として仲間の仇は取らしてもらうよ」

塚平組の組長"塚平 雪
サッカーニの攻撃が俺たちに向かないのは、この男のスキルのおかげだ。
まるで蜘蛛の糸のような強靭かつ伸縮自在、粘着性を持つ糸を操り、サッカーニの攻撃を阻害してくれている。

全くスパイ○ーマンような奴だ。

それにしても目の前の魔族サッカーニには未だこれと言ったダメージを与えられていない。

「なかなかしぶといな」

俺はナイフを構えたまま、こちらを睨み付けるサッカーニへと視線を向ける。
最初の頃の余裕は消え去り、身体中から濃い殺気を放っている。
正直、こいつらがいなければやられていたな。
さて、どうする?
ピアス君を気絶させて、あの戦闘マシーンモード的なのに入ってもらってもいいが、その場合、連携は一切取れなくなる。


うん?俺が考えを巡らせていると塚平がサッカーニの前へと歩み出た。

「はぁ……仕方がないね。」

何をする気だ……
塚平は紫のスラックスに手を入れたまま、面倒臭そうに歩いていく。

「…この後に及んで命乞いですか?」

「いいや違う。死を恐れず戦う若者達に心打たれてね。一番歳上の僕が頑張らないとと思ってね。だから君には死んでもらう。お遊びは終わりって事さ」

塚平の雰囲気が変化した。
先程まで本気じゃなかったのか…

「ほぅ…口だけではないようだな」

サッカーニが目を細めて塚平を見つめる。
どうやら塚平の変化を感じ取ったようだ。

「まぁね。では僕の本気をお見せしよう。」

そういうと塚平がその場から消えた!
いや、違う。糸の伸縮を利用した高速移動だ。

視覚に【集中】しなければ見失うほどの速度。
直線距離のみならば雷纏状態のピアス君より早い

更に糸で引っ張られる移動故に挙動が読みづらい

「まずは一撃!」

一瞬に懐に入った塚平はその勢いのままボディブローを放った。
拳には頑丈そうなメリケンサックをつけている。

「グフッ」

サッカーニの腹部の鎧が砕け散る。
初めてのダメージらしいダメージを与えた。

更に塚平は止まらず、糸を使用した立体的な軌道でサッカーニへ攻撃していく。
時には糸を使い、手足を拘束し攻撃阻害を行いつつ。
またサッカーニの攻撃も何重にも巻き重ねた糸の盾を塞ぐ。

まさに攻防自在。
ここまで強いとは

俺は俺が情けない……
と俺が自分の体たらくを責めていると

肩を誰かに叩かれた。
振り返るとそこには小橋君が立っていた。

「悔しそうですねシュウさん。ですが塚平さんと自身を比べるのは辞めた方がいい。何故なら塚平さんは和歌山最強なんですから。」

「和歌山最強だと?」

若干食い気味に聞き返してしまった。
俺は今は全然弱いが"最強"を目指し日々鍛錬している。
故に最強という言葉には敏感に反応してしまうみたいだ

「はい、そうです。塚平さんのスキルは"糸使い"。エキストラスキルです。」

糸使いって聴くと全然強そうには思わないが……

「確かエキストラスキルってかなり強力な部類のスキルって奴だったな」

「はい、そうです。夜明けの鐘でも幹部レベルの方々が持つています。」

「なるほど、強力なスキルか……それにしても使いこなしているな。で小橋君が言いたいのはこのまま塚平だけで勝てるということか?」

ピアス君にも特に指示を与えず、塚平の戦いを見守る小橋君
そして、魔族相手に互角以上の戦いを繰り広げる塚平
俺は戦力外なのか…

俺の問いかけに小橋君は、僅かに考える素振りを見せ首を横に振った。

「いいえ、おそらく勝てないでしょう」

は?小橋君の口から出たのは予想外の言葉だった。
俺が唖然としていると続けて小橋君が言葉を紡ぐ

「というのも、塚平さんは強いです。ですがあの魔族も相当強い…今は塚平さんが押してはいますが、その均衡も僅かに変わり始めている。あの魔族の地力、経験全てがズバ抜けて高いのです。ですので僕から提示する作戦が一つだけあります!」

「どんな作戦だ?」

「それは単純明快、シュウさん以外が攻撃し、魔族の意識を完全に僕らに向けます。その隙にシュウさんは奴を殺してください。チャンスは少なく、それも一瞬です……僕たちの命運を託してもいいでしょうか」

真っ直ぐな瞳です俺を見つめる小橋君。
危機を助けられて、ここまで場を用意されて
逃げ出すのは"男"じゃねぇよな

「あぁ、任せろ」
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