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第一部

◆その312 ミケラルド誕生秘話

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「ミック? あぁ、ミケラルドの愛称か。くだらんな」

 スパニッシュがすんと鼻息を吐き、頬に拳を当てる。

「いいから答えて」

 毅然きぜんとした態度でナタリーが言い返すと、スパニッシュはじっとナタリーを見返した。

「あの時、泣きながら震えていた者とは思えぬ態度だ。とはいえ、屈強な龍族に守られているのであれば気も大きくなろう」

 すると、リィたんが目を鋭くさせ言った。

見縊みくびるな。私がいなくともナタリーはそんな事はしない」

 固く口を結んだナタリーが再度言う。

「答えて。ミックは一体どうやって生まれたの?」

 スパニッシュは足を組み替え、少し考えた素振そぶりを見せた後、静かに話し始めた。

「……寄生転生とは、魔力と肉体を融合させ、そこへ魂を呼び寄せる秘術だ」
「では、肉体は吸血鬼のものか?」

 ジェイルが聞く。

「違う。肉体は別のモノだ。種族の割り当てにはその種の血を使う。奴の寄生転生には我が血を使っている。従って、ミケラルドはまごうことなき我が息子、という事になる」
「魂がミックのものなら、原因は魔力及び肉体にあるという事か……」
「原因?」

 リィたんの言葉に反応したスパニッシュの片眉が上がる。

「こちらの話だ」

 対してリィたんがその情報を明かす事はなかった。

「それで、魔力は何を使った?」

 再びジェイルが聞く。

「我が魔力……と言いたいところだが、それではいささか心もとない。他の種族を従えるために必要なのは、何より強大な魔力。当然、それだけの力を持った遺物レリックを使った」
遺物レリック?」

 リィたんが眉をひそめる。

「知らぬか? 魔族四天王には、その長たるあるじから、秘宝アーティファクトを賜っている事を」

 それを聞くや否や、ジェイルが目を見開く。

「【不死王リッチ】が持つと言われる【黄昏の霊玉】、【魔女ラティーファ】が持つ【地獄の水鏡】、【牙王がおうレオ】が持つ【冥府の鎌】、そして【吸血公爵スパニッシュ】が持つ――――」
「――――【闇の勾玉まがたま】」

 ジェイルに続けたスパニッシュの言葉は、ジェイルを沈黙へと追い込んだ。
 口を手で覆うジェイルにナタリーが聞く。

「ど、どういう事……?」

 ジェイルは答えない。顔を歪ませながら答える事が出来ない様子だ。
 ナタリーがリィたんに顔を向ける。

「……秘宝アーティファクトとは、人や魔族の手によって作られた強力な人工物の事。私の持っているハルバードやナタリーの首飾りも秘宝アーティファクトと言える。そして、その秘宝アーティファクトの製作者が死ぬと、それは遺物レリックとなる」
「何が変わるの……?」
秘宝アーティファクトとしての枠から外れる。能力が向上したり、内包する魔力が増大する。平たく言えば、秘宝アーティファクトの能力が一段階上がるという事だ。そして、その秘宝アーティファクトを作ったのは、【魔王、、】」
「え? え? 何で? 魔王は今、休眠期なんじゃ……?」

 ナタリーの疑問はもっともだった。
 すると、ジェイルがようやく口を開いた。

「魔王の言う休眠期とは転生の事。【勇者】の死と共に【魔王】は眠りにつく。だが、それは文字通り生まれ変わるという意味なのだ」
「つまり……魔王が一回死んだ事になるって事……?」

 ナタリーの疑問にスパニッシュが答える。

「左様。だから魔王陛下は休眠期に入る直前、我々にそれらを託した」
「狡猾さは正に魔王だな」

 リィたんがスパニッシュを睨みながら言った。

「あの方の深淵は誰も覗けはしない」
「じゃ、じゃあミックの寄生召喚に使われた魔力って……」

 ナタリーが自身の肩を抱く。

「【闇の勾玉】を使ったという事か。なるほど、吸血公爵スパニッシュ・ヴァンプ・ワラキエルならではの考えだな」

 リィたんの言葉を受け、スパニッシュが天井を見上げ言う。

「出来たのは確かに優秀な子供だった。生まれて一年も経たない内に、我と互角に戦える実力。そう、優秀過ぎるくらいだ」

 そんなスパニッシュの反応をよそに、ジェイルとナタリーが見合う。

(では、ミックの中にいたアレは魔王の残留思念?)
(馬鹿な、魔力に思念が宿る事などある訳がない)
(では一体?)

 ジェイルの視線の後、リィたんがスパニッシュに聞く。

「では肉体は? 魔王は休眠期に入る際、魔力の糸で紡がれたまゆに閉じ籠ると聞いた。その肉体を使う事は出来ないだろう」

 するとスパニッシュの視線がジェイルへと移る。

「【リザードマン】……今でこそ【牙王がおうレオ】の指揮下に入っているが、先の時代では我が陣営にいた種族だったな」
「それがどうした」

 ジェイルが身構えながら聞く。

「【勇者殺し、、、、】の異名を持つお前が、これだけ言ってまだわからぬか?」
「「っ!?」」

 直後、ジェイルとリィたんが気付く。
 遅れるナタリーが慌てて二人に聞く。

「ちょっと! どういう事!?」
「知っているかナタリー? 勇者レックスの墓はな、存在しないのだ」

 リィたんが、

「魔族として最大の戦果。当然、この私が魔界へ持ち帰った」

 ジェイルが言う。
 そして、スパニッシュがニヤリと笑う。

「リザードマンであるジェイルが倒した勇者レックスの遺体は、魔王陛下へ献上された。が、それを見、満足した魔王陛下がその遺体を下賜かしくださったのは当然、リザードマンを抱えていた我が陣営……ハーフエルフの小娘、わかるか? 奴の希少価値が。優秀な血統、最強の魔力……そして、神が与えた究極の肉体」

 ナタリーがゴクリと唾を呑み、掠れた声で言う。

「勇者……!」
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